49話 襲撃の目的
そして昼食後。
「さて、マリン。また俺が忘れない内に黒竜を見せてくれるか?」
「はい。何処で出したらよろしいでしょうか?」
「さっき襲撃者の亡骸を出したところでいいぞ。」
「分かりました。‥‥‥このまま向かいますか?」
「ああ。‥‥‥皆もくるか?」
「ええ。マリンが倒した直後に一度見ましたが、竜種なんてそうそう見れるものでもないですから。」
「まあ、確かにな。」
私はいつか青龍に会うけどね‥‥。
四神だし、雪や玄武と同じで話せるはずだから実は楽しみなんだよね。だって龍だからね。竜と龍。確か前世での考え方では元は同じ存在なんだったかな?
まあ考えてもしょうがないか。
歩きながら考えてると、声を掛けられた。
「なあ、マリン。さっきのカボチョさ、他にも食べ方思い付くのあるか?」
「カボチョですか?そうですね‥‥スープは試してましたよね?」
「ああ。あと、マリンが言ってた味噌汁に入れるってのも料理長に今度試してもらおうと思ってる。」
「それ以外だと‥‥デザートとかどうでしょう?」
「デザートか‥‥例えば?」
「カボチョをスープ状にして蒸したのを冷やしたものとかですかね。」
カボチャプリンだ。プリンの存在があるかはまだ分からないのでふわっとしたいい回しにした。
多分できるとは思うけど‥‥実際に作ったことはないんだよな‥‥。
「へ~。デザートって考えは浮かばなかったな。」
「今のところはそれぐらいですね。」
本当は天ぷらも言いたかったけど、やめておく。
まずは自分が試したい。上手くいくか分からないし。
私だけならまだしも他の人に油はねしたら申し訳ないからね。
「いや。今までスープしか浮かばなかったんだ。それを他に使い道として3種類も上げてくれたんだ。十分だよ。」
「陛下。伺いたいのですが、カボチョも醤油も味噌も何故あまり使い道が確立されてないのですか?」
「それはな、生産者がショウユとミソがそれぞれ1人しかいないのと、数年前に視察でとある村に行ったときに俺が見つけるまで知られてなかったからだ。生産者も2代目で使い道をあまり知らなくてな、完全に地産地消だったんだ。」
「じゃあ陛下が見つけるまでは生産者さんはどうやって生活していたんでしょう?」
「う~ん。聞いてなかったな。」
「でも生産者さんが一人ずつしかいらっしゃらないなんて勿体ないですし、後継ぎがいないとなくなってしまいますね‥‥。」
「そうなんだよな‥‥。」
「勿体ないですよ‥‥醤油や味噌だけでも調味料として加わるだけで料理の種類が増えるのに‥‥。」
「だよな!やっぱり生産者を増やすところからだな。」
「陛下、マリン様。お話中に申し訳ありませんが、到着致しましたよ。」
「「あ。」」
「すみません!‥‥えっと、この辺りに出せばよろしいでしょうか?」
「はい。お願い致します。」
そしていつの間にかついて来ていた宰相さんから指示された場所にストレージから黒竜を出した。
『‥‥‥‥』
その場に居合わせた兵士さん含めて絶句していた。
それもそのはず。尻尾を含めて全長5mぐらいはありそうな竜が首をちょんぱされただけの亡骸で目の前にいるのだから。
「‥‥なあ、マリン。これ‥‥本当にマリンがやったのか?」
「はい。‥‥一応。」
「‥‥‥一撃ですね。」
「はい。私もまさか攻撃が通って、しかも一撃で首をスパッといくとは思いませんでした‥‥。」
「これだけ綺麗な亡骸なら素材が沢山確保できますね。それで、マリン様。黒竜はできれば帝国で全て買い取らせて頂きたいのですが‥‥何か確保しておきたい素材などございますか?」
「えっと‥‥買い取りはして頂くということでいいのですが‥‥何が欲しいかと言われると分からないですね‥‥。」
「これだけ大きいんだ。一通り、皮とか爪とか一部を確保しておくってことにしたらどうだ?」
「あと、マリンは折角薬術科をとってるんだし心臓とか内臓とか血も貰っといたら?」
「う~ん。そうですね‥‥‥宰相様、よろしいでしょうか?」
「ええ。構いませんよ。マリン様が討伐したのですから決定権はマリン様にあります。他を頂けるだけでもこちらとしては有り難いですから。マリン様、竜肉も分けますか?」
「あ。じゃあお願いします。」
「畏まりました。‥‥‥というわけですから皆さん。素材を無駄にしないよう、速めに解体をお願いしますよ。」
『はい!』
おぉ‥‥周りの兵士さんは解体担当の方々だったんだ。
‥‥‥‥ん?あ。やっぱりか。
「皆さん。ちょっと動かないでくださいね!」
『え?』
「【シールド】。‥‥‥はぁ。やっぱりか。‥‥皆さん、シールド内なら動いていいですよ。私はちょっと行ってきます。」
『え!?』
えっと‥‥矢が飛んできたってことは‥‥あ。いたいた。
私が動き出したのを見て逃げ始めたけど遅い。
しかも2人。身体強化を掛けて、すぐに追い付いて麻痺して頂いた。
身体強化を掛けたまま、2人を担いで戻りながら考えていた。
朝の襲撃者達の仲間‥‥じゃなくてリーダー格かな?
今朝のもただ襲撃しただけみたいだったし、何が目的なんだろ?
まあ聞けばいいか。答えてくれるかは分からないけど。
‥‥‥‥よし。もう他にはいないみたいだな。
「ふぅ‥‥。ただいま戻りました。」
『‥‥‥』
「えっと‥‥どうかしましたか?」
「いや‥‥‥何故分かったのかなと。」
「ああ。今朝の襲撃がやけにあっさり終わったのと、あの場に統率者がいなかったみたいなのでまた襲撃されるかなって思って一応警戒してたんです。多分この2人のどちらかがそうなんじゃないかと。」
「そうか。助かった。ありがとな。」
「いいえ。‥‥‥事情聴取は後にしますか?」
「う~ん。‥‥いや、今やろう。マリン、安全確保できるか?」
「はい。できますよ。」
「頼む。」
「分かりました。【水牢獄】‥‥【状態異常回復】‥‥えっと襲撃者さん、話せますか?」
まず安全確保の為に牢獄に入って頂き、手を突っ込んで麻痺から回復させた。水って便利。
勿論手を突っ込むとかは使用者の私しかできない。
「「‥‥‥‥。」」
「陛下。黙秘したいみたいですよ?」
「子供の前で拷問とかはしたくないからな。やっぱりちゃんと牢屋に入れてから尋問するか‥‥‥。」
「‥‥黒竜。」
「「え?」」
「‥‥‥陛下に黒竜を倒したやつを聞き出そうとしただけだ。最初から陛下を殺すつもりはなかった。」
『‥‥‥‥』
‥‥‥‥それって最終的には狙われたの‥‥私ってこと?
「で、黒竜を倒したやつを知ってどうするつもりだったんだ?」
「誘拐して仲間に引き入れるつもりだった。」
『‥‥‥‥‥‥』
「黒竜を倒す程の実力者をどうやって引き入れるつもりだったんだ?」
「我々の中には闇魔法を使えるやつがいた。だから洗脳で仲間にしようとしていた。」
「なかなか無謀なこと考えましたね。」
「そうなのか?」
「はい。使われた経験はないですが、確か光属性持ちに闇魔法は効き目が薄くなると記憶してます。」
「あ~。何か聞いたことあるな。‥‥‥て、ことで残念だったな。誘拐できたとしても洗脳できずに返り討ちだ。」
「「なっ‥‥!」」
「ところで皆さんは何をされていた方々だったのですか?」
「義賊だ。我ら「漆黒」弱き者の味方だ。だから戦力強化をしたいと思っていた。そこに現れた黒竜を倒せる程の逸材。仲間に引き入れたいに決まってるだろう。」
「「漆黒」‥‥‥名前、そのままですね。」
「だな。」
そう。全員服、真っ黒なの。今朝の襲撃者達も真っ黒だったね‥‥‥。朝の日差しの下に真っ黒‥‥目立つよね~。しかも夏なのに長袖長ズボンに頭巾や口あてまでした、まるで忍者。暑そう‥‥。
「義賊って確か悪い貴族からお金とか盗んだものを生活難の方に配る方々のことでしたよね?」
「ああ。そうだ。だから善良な貴族達からは盗んでない。」
「今更ですが、結構あっさりお答えくださいましたね。」
「そりゃそうだ。殺すつもりがなくても皇帝を襲撃したんだ。命はないだろうからな。だから最後に俺達のようなやつがいたことや目的ぐらいは話して悪い記録でも名を残してやろうと思ってな。‥‥‥最後だ。せめて教えてくれないか?誰があの黒竜を倒した?」
「私ですよ。」
「お嬢ちゃんが!?‥‥‥陛下、本当ですか?」
「ああ。‥‥といっても俺は現場にいた訳じゃないが、実力的に見たら本当だろうな。」
「「‥‥‥‥」」
「詳しいことはあとで聞く。‥‥‥マリン。またこのまま牢屋に運んでもらっていいか?」
「はい。構いませんよ。」
「‥‥‥そこの!案内頼む。」
「は!畏まりました。‥‥こちらへお願いします。」
「はい。では行ってきますね。」
そしてマリンが兵士と共に去っていくのを見届けると。
「「義賊」か‥‥。まだまだ頑張らないといけないみたいだなカミオ。」
「ええ。そういう存在がなくてもいい国にしないといけませんね。」
「ああ。それに今回、マリンがいて助かったことが多い。黒竜討伐に襲撃者の撃退の手助け。俺達の治療に襲撃者の移送。今もまた守ってくれた。他国の、しかもまだ11歳の女の子がだ。‥‥‥頑張らねぇとな。」
「はい。」
皇帝と宰相はしみじみと話していた。
そして私が戻ったときには解体が終わっていた。話し合いの結果通りに貰って、ストレージにいれた。そして残りは帝国で買い取ってもらうことになった。
「マリン。この黒竜を買い取ったお金だが、マリンに渡したらいいか?」
「はい。でもそのお金でお米とカボチョと醤油と味噌を買いたいのですが、いいでしょうか?」
「ん?ショウユとミソはこの城にあるだけだぞ?
‥‥‥いや。料理長と交渉してみよう。その差額を渡したらいいか?」
「はい!それでお願いします。」
「マリン‥‥。まさか自分で食べる為か?」
「勿論です!父様。色々試したいんです!レシピを書きためて来年料理長に渡すんです!そして醤油と味噌をもっと広めるんです!このままだと宝の持ち腐れです!だから陛下。もっと品質は落とさずに生産者を増やしてください。難しいのは分かってますが、少なくとも皇帝一家が好んで食べるならと民衆にもいずれ広がるはずです。そうすれば雇用も増えます。‥‥頑張ってください!私もまだ食べたりないので!」
「おう!勿論だ!俺も同じだからな。‥‥‥あ。そうだ、マリン。この黒竜の肉、夕方の親善パーティーで出そうと思うんだが、いいか?」
「それはもう帝国に買い取って頂く分なのでお好きなようになさって下さい。」
「確かにそうだな。‥‥‥なあマリン。竜の肉って焼く以外食べ方あると思うか?」
「陛下‥‥。私、今回初めて竜を見たんですよ?食べたことがないので分からないです。」
「だよなぁ~。まあ今日全部食べる訳じゃないしな。料理長に色々試してもらうさ。」
「そうですね。」
マリンはこの時、親善パーティーは竜肉を食べながらやり過ごせばいいやと思っていた。
やり過ごすどころか中心人物になるとも知らずに。