45話 食文化の違い
皇帝陛下と模擬戦が決まった。
が、そこに横から待ったが掛かった。
「あなた~?何考えてるのかしら?」
「何って?」
「辺境伯様達は一週間程の道程を経て先程到着したばかりですよ?」
「だから?」
「「だから?」じゃないわよ!毎回言ってるでしょう!?休ませてあげなさいと!模擬戦はせめて明日にしなさい。明日に!しかもマリンさんはまだ11歳の女の子なのよ!?」
「お‥‥おう。すまん‥‥。」
おぉ~多分皇后様だと思うけど、めっちゃ怒ってる?
「‥‥‥‥こほん。失礼致しました。隣の皇帝が一人で話すものだから‥‥。改めまして、私は皇后のカレン・アスタ・ルベライトと申しますわ。」
「宰相を仰せつかっております、カミオ・フォン・フェレスと申します。」
おぉ。やっぱり皇后様だった。
皇后様はピンクの髪と目で宰相さんは赤茶色の髪と目だ。
「マリンさんは初めましてですね。私達にも娘と息子がおりますので、後程夕食の際に紹介致しますね。」
「はい。畏まりました。皇后様。」
「では、両陛下。我々はお言葉に甘え、失礼致します。」
「ああ。後でな!マリン!」
「はい。陛下。」
えっと‥‥何故私だけ名指し?‥‥分からん。
面白い人だとは思うけど、謎だ。
多分戦闘狂の類いだろうけど、それなら皆微妙な反応じゃなくて戦闘狂だってハッキリ言うよね?
他にも何かあるのかな?この皇帝。
と考えながら父様達に続いて謁見の間を後にした。
「あの、父様。やっぱり皇帝陛下は‥‥」
「ああ。戦闘狂だ。毎回今みたいに強そうなやつを見ると、勝負したくなるそうだ。軍は特にだが実力主義でな、貴族・平民関係無しだ。」
「はぁ。そうなのですね‥‥‥。」
「マリン。あの皇帝結構強いぞ。剣も魔法もな。俺達誰一人傷すらつけられなかったからな。」
「だからマリン。俺達の分も明日皇帝を叩きのめしてくれ!」
「ヒスイ兄様、アクア兄様‥‥。まあ頑張ります。」
かといって本気出したらまずいよな‥‥。
何とかして気絶させないとな。
そして各々部屋で一旦休息を挟み、夕食の準備が出来たとのことで呼びに来てくれたメイドさんと食堂へと向かった。
到着すると既に皇帝一家は席に着いていた。
私達も向かいに全員座る。
「マリンさん。改めて私達の子供達を紹介しますね。‥‥フローラからね。」
「はい。‥‥マリン様。初めまして。第一皇女のフローラ・アスタ・ルベライトと申しますわ。気軽にフローラとお呼びくださいね。ちなみにお姉さんであるクリスとリリアーナ様、マリア様と同じ歳ですわ。」
「次は私ですね。帝国の皇太子のレグルス・アスタ・ルベライトと申します。」
「初めまして。マリン・フォン・クローバーと申します。皇后様、フローラ様、皇太子殿下。よろしければマリンと呼び捨てでお呼びください。」
「あら。いいの?」
「はい。フローラ様は姉様も呼び捨てのようですし、是非。」
「分かったわ。ありがとうマリン。」
「自己紹介は終わったな?じゃあ、食事にするか。」
と皇帝の一声で食事が運ばれて来たのだが、私は運ばれて来た食事に衝撃を受けた。
いわゆるフルコースではない。
前菜とかメインとかいうもの達が一度にきた。いわゆる定食だ。お盆には乗ってないが。
私が何より衝撃を受けたのが、何とご飯があったことだ。だが、同時に残念でもあった。
目の前にはお皿に盛られたご飯と何かのステーキとお浸しっぽい野菜。‥‥‥以上だ。
残念要素は‥‥お味噌汁がないことだ。
ふと、視線を感じ父様達の方を見るとなんと定食は私だけだった。理由はすぐに陛下が話してくれた。
「マリン。ラルク達はな、この飯が合わないらしくてな。普通のフルコースがいいと言われたんだ。」
見ると、皇帝一家もメニューは違うがご飯食だった。
「だが、みんなに一度は食べてもらっている。マリンも食べてみてくれ。」
そりゃ言われなくても喜んで食べますとも!
箸は勿論無いのでナイフとフォークで食べ始める。
「はい。‥‥」
はぁ~!久しぶりのご飯だぁ~。父様達はこれの良さが分からないなんて勿体ない!
‥‥‥‥お浸しもステーキもおいしいけど、ご飯にはやっぱりお味噌汁が欲しいな‥‥。
ご飯も白米で食べるだけなのかな?チャーハンとか作るのかな?
とか考えつつ黙々と食べ進めているとふと、全員の視線が集まっていることに気付いた。
「‥‥‥えっと‥‥何でしょうか‥‥?」
「いや‥‥マリンは嫌じゃないのか?」
「はい。むしろ何故父様達が嫌がるのか分からないぐらいです。」
『!?』
「‥‥皆さん。そんなに驚くことでしょうか?」
「‥‥‥いや、俺は嬉しいぞ。マリン。王国から初めての理解者だ!‥‥では何故そんな微妙だと言いたげな表情なんだ?」
「陛下‥‥私にとってはご飯は確かにおいしいです。‥‥ただ。ただ、もう一つ足らないのです!」
「な、なんだ?」
「陛下。お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ。なんだ?」
「城下を通っている時から感じていたのですが、お米はあるのに味噌や醤油はないのですか!?」
そう。私が帝都を馬車の窓に張り付いて見ていたのは「米」の文字を見たからだ。勿論この世界の言語で表示されていたが、お米なのだ。だが味噌、醤油が見当たらなかったんだ。
「ミソやショウユの存在を知っているのか!?」
「あるのですか!?」
「ある。だが作り手が少なくてな、高級品扱いなのだ。」
「では、さほど使ってないのですか?」
「ああ。」
「ちなみに何に使いました?」
「料理長が研究してくれてるが、これといった成果は出てない。」
「作り手の方は?」
「創業者がレシピを残してなかったらしくてな。同じく暇な時に考えてくれているらしいが‥‥今では伝統を守る為だけに作っているそうだ。」
「勿体ない!勿体なさ過ぎます!陛下!」
「マリンは使い方を知っているのか?」
「はい。何品かは。」
「よし!じゃあ調理室に行くぞ、マリン!」
「はい!陛下!」
話している間にしれっと完食していた2人はそのまま食堂を出ていった。
***
2人が出ていった後の食堂では。
『‥‥‥‥』
全員呆気にとられて沈黙していた。
「まさか、あの皇帝と意気投合するとはな‥‥‥。」
そして、ラルクのこの言葉に全員が頷いていた。
***
一方調理室に突入した皇帝とマリンは扉を開けるなり
「料理長!希望がいたぞ!」
「へ、陛下!?一体‥‥‥え?希望ですか?」
「ああ!‥‥マリン。」
「はい。えっとまずは料理長、初めまして。私はマリン・フォン・クローバーと申します。是非、マリンと名前でお呼びください。」
「マリンは客人で来ている王国の辺境伯の次女だ。」
「辺境伯様の!?‥‥そんな方が何故ここに?」
「今言っただろ!俺達の希望だ。」
「マリン様がですか?」
「ああ、そうだ!」
「あの。味噌と醤油とあと、一通りの食材を見せて頂けますか?」
「え?は、はい!少々お待ちください。」
と、食材を次々と出していってくれて最後に味噌と醤油が出てきた。
「王国にはない食材もありますね。味見用のスプーンと食器を拭く布を貸して頂けますか?」
「はい‥‥‥どうぞ。」
「ありがとうございます。‥‥あ。わざわざ味見用に切り分けて下さったんですね。お気遣いありがとうございます。では‥‥‥」
私は食材に唾液と水が付かないよう一回一回スプーンを洗って拭いてから試食することを繰り返した。
うん。やっぱり私の知ってる味噌と醤油だ。お。砂糖もある。
‥‥‥あ。カボチャだ。ちゃんと柔らかくしてくれてる。名前違うみたいだけど。
やった‥‥!カボチャの煮物が作れる!
「この‥‥カボチョ?でしたっけ?これは普段どうやって召し上がってますか?」
「スープの材料だけですね。」
「え!?他には?」
「他に食べ方があるのですか?」
何だと!?なんて勿体ない使い方をしてるんだ!
スープを否定したい訳じゃないが、勿体ない!
「あります‥‥。ただ今日はお腹いっぱいです。作ったのに食べられないのは食に対する冒涜なので他の日に試させて頂いてよろしいでしょうか?」
「はい。是非!お待ちしております。」
「はい!何品か王国に帰る迄にお伝えします!」
「いいのか?マリン。俺達に教えて。」
「構いません。王国はご飯を食べません。なのでまずは生産国の帝国から広めるべきです。」
「そうか。それもそうだな‥‥。」
「なので陛下、私は帝国にいる間はご飯食がいいです!」
「分かった。‥‥そういう事だ。料理長頼むぞ。」
「はい!お任せください!」
「今日は突然押し掛けてしまってすみません。」
「いえいえ!とんでもございません!陛下や私の希望ですから!いつでもいらしてください。マリン様なら歓迎しますよ。」
「ありがとうございます!では今日はこれで失礼しますね。」
「え?戻るのか?マリンが言った足りない一品って何だったんだ?」
「戻りますよ!邪魔でしょう、私達は。‥‥‥足りないのは味噌を使ったスープです。」
「ミソでスープ?」
「はい。先程見せて頂いた食材で作れます。」
「そうか!‥‥マリン。明日の昼の食事の時に作ってみてくれないか?晩は親善パーティーだから無理だしな。」
「えっと‥‥そういえば父様の許可なくこちらに来てしまったので、大丈夫だと思いますが作っていいか一応聞いてみます。お返事はそのあとでよろしいですか?」
「ああ。勿論だ!」
こうして私のやることが増えた。料理は自ら増やしたわけだが。
明日は忙しくなりそうだ。皇帝との模擬戦、味噌汁作り、最後に親善パーティー‥‥‥か。




