41話 夏休みに
誘拐事件から3日後の夏休み前日。
学園を出た私達は馬車へと乗り込もうとすると、メリアさんがきた。
あの誘拐事件の時にメリアさんは私に自己紹介をしていなかったことを思い出し、教えてくれたのだが何とメリアさんは1部隊を任される部隊長なのだそうだ。
そしてお互いにさん付けで呼びあう様になっていた。
「あれ?メリアさん?」
「マリンさん。陛下がお待ちです。王城へお越し頂けますか?勿論クリスさん、アクアさんも。」
「え?3人共ですか?」
「はい。リリアーナ様とマリア様も含め、お話があるそうです。」
「‥‥分かりました。」
兄様、姉様と3人で頭に?を浮かべつつ馬車に乗り、屋敷ではなく王城へ向かった。
王城へ到着すると、リリ様とマリア様の2人と合流して3日前と同じ客室に通された。
そこには既に陛下、宰相様に父様も一緒に待っていた。
「失礼します。お待たせしました。陛下。」
「いや。呼び出したのはこっちだからな。みんな、座るといい。」
『失礼します。』
そして全員座ると
「まず、3日前の誘拐事件だ。伯爵はどうやら若い人材を集めてリリを手土産に何処かへ行こうとしていたようだ。」
「え?何処かってどこでしょうか?」
「それがその事だけは全く話さんかったのだ。自白剤でも言わんかった。‥‥いや。言わないというより言えないというのが正しいか。」
「それはその事を話そうとすると声が出なくなったりとかですか?」
「そうだ!その通りなのだ。恐らく呪いか何かの類いだろうと。ちなみにマリンはこれを解いたりできるのか?」
「何故、私に聞くのですか‥‥?えっと‥‥多分無理だと思います。呪いだとするなら恐らく術者じゃないと解除できないんじゃないかと。可能性としたら浄化とかだと思いますがどういう呪いか分からないと結局浄化しようがないかと。魔法で解除できるとも限りませんし、浄化魔法があるかも知りませんし。」
「だよなぁ‥‥。もしかしたら伯爵の行き先もその術者の可能性もあるが‥‥。まあとりあえず、結果を伝えるな。伯爵と実行犯達全員死刑とすることが決まった。」
「え?伯爵もですか?」
「ああ。ただ伯爵はどうにか行き先を吐かせたいからな、しばらく執行猶予が付く。どうしても駄目なら執行すると決まった。ちなみに実行犯達は後から伯爵が雇ったらしくてな、誘拐した後何処に連れて行くつもりだったかは知らされていなかった。」
「そうですか‥‥。」
「すまんな。納得いかんだろうが。」
「それは陛下もでしょう?お任せしたんです。不満はありません。」
「ああ。ありがとう。‥‥さて、辛気くさい話はここまでにしてもう一つ話しがあるんだ。」
「何でしょうか?」
「マリン達は明日から領地に戻るだろう?」
「はい。その予定ですね。」
「その時にリリとマリアも付いていくから。ラルクには既に了承を得ておる。」
「え?リリ様とマリア様とご一緒は嬉しいですが‥‥まさか王子達も?」
「いや。シリウス達は何を思ったのか‥‥いや、マリンに負けたのが悔しいのか。‥‥とりあえず騎士団と魔法師団の訓練に参加するそうだ。」
「‥‥‥‥天変地異が起こったりしませんよね?」
「気持ちは分かるが物騒なことをさらっと言わんでくれ‥‥あとな、辺境伯領には用事のついででもあるのだ。」
「用事ですか?」
「ああ。辺境伯領の先に帝国があるだろ?」
「はい。行ったことはありませんが、存在は存じております。」
「そこに行ってもらうのだ。マリンもな。」
「‥‥‥あれ?今私の名前が入りました?」
「ああ。言ったぞ。リリとマリアとマリンに帝国に行ってもらう。心配せんでもラルクも行くぞ。3人は親善の催しに招待されている。」
「え?何で私なんですか!?姉様は?兄様は?」
「皇帝がな、辺境伯家の子供達を見ておきたいと言ってきててな。ヒスイからアクアまで全員去年までに会ってるんだ。だからあとはマリンという訳だ。」
「確かに毎年兄弟の誰かと父様がいない日がありましたね‥‥。父様‥‥なんで皇帝陛下はうちにそんな興味を持ってるんですか‥‥‥?」
「それは俺も知りたい。」
「親善の催し‥‥私、行きたく‥‥」
「拒否は無理だぞ。リリとマリアとマリンは皇帝のご指名だからな。」
「陛下ぁ~。」
「そんな声出さんでも皇帝はいいやつ‥‥‥だから大丈夫だ。」
「今の間は何ですか!?」
「基本は気さくで話しやすくいいやつだ。な?ラルク。」
「ええ。そうですね‥‥‥マリン。行けば分かる。」
「え!?‥‥凄い怖いんですが。」
「大丈夫だ。何か不満があればどんどん言えばいい。文句つけても問題ない。堂々としてればいい。」
「え?そんな、文句や不満を言ってもよろしいのですか?」
「言えればな。」
「もう不安しかないのですが!?」
「大丈夫よマリン。今陛下と父様が言った様に「基本は」いい人だから。」
「そうだな。「基本は」いい人だ。」
「姉様、兄様‥‥。」
「なあマリン。折角だから兄弟全員で行くか?」
「いいんですか!?父様。」
「ああ。特に招待されているマリン達だけじゃないと駄目ということではないからな。俺も行く訳だしな。」
それを聞いて姉様と兄様の方に視線を向けると。
「私はいいわよ。一緒に行くわ。」
「俺もいいよ。」
「ありがとうございます。兄様、姉様。いざとなったら2人の後ろに隠れます。」
「じゃあマリンもそれで構わないのだな?」
「はい。陛下。」
こうして私達の帝国行きが決まった。
「マリンは皇帝をどんな人だと思ってるのかしら?」
「さあ?」
クリスとアクアはこっそりそう呟いていた。
帝国行きが決まった翌日、夏休み初日。
今日から領地まで馬車で向かうので、朝から一緒に領地に行くリリ様とマリア様がうちに来た。
「おはようございます。リリ様、マリア様。」
「リリ、マリア。おはよう。」
「おはよう。クリス、マリンちゃん。」
「おはよう。今日からよろしくね。」
そして、準備が整い出発する。
今回は私達家族だけの移動ではないので割りと大所帯だ。
私達だけでも父様、母様、姉様、兄様、私の5人いる。そこにリリ様、マリア様が一緒ということで馬車を2台に分けて行くことになった。
そして、リリ様達が行くということで護衛の騎士達も数人帯同するが、うちの護衛の兵士も加わる。
最初は1台目に父様、母様、兄様、私。2台目に姉様、リリ様、マリア様が乗っている。
「あの、父様。報告を忘れていたのですが、先日の誘拐事件の時にマリア様にゲートを見せました。あと、リリ様は直接は見てないはずですが、恐らく感づいているかと思います。」
「‥‥‥そうか。クリスが見せても大丈夫だと、信用していたからだろ?しかも緊急事態だ。しょうがないさ。」
「はい。ありがとうございます。‥‥それにマリア様は陛下にでも絶対言わないと約束して下さいました。なのでリリ様にもちゃんと見せて差し上げようと思いますが、いいでしょうか?」
「ああ。いいぞ。1人だけ仲間外れはな‥‥リリアーナ様なら大丈夫だろ。」
「分かりました。あとですね、私も生徒会に入った時の恒例だということで、魔法を披露したんです。勿論全属性見せた訳ではありません。ですが、兄様と同じ属性をとりあえず見せることになり、水と土と風属性に回復魔法も学園で使ってるのを見られてるので4属性見せてるのです。これだけで少しの間煩わしい思いをしました。」
「もうそんなに見せたのか‥‥。4属性も使えたら普通は天才の域だからな。」
「そうすると、残る属性魔法は火と闇です。私の場合火とか特に「つい」で使っちゃう気がしませんか?」
「「するな‥‥。」」
「ここまでくると全属性使えると先に言っておいた方がいいような気がするのですが、どう思われますか?」
「そうだな‥‥帝国に行くのも領地の屋敷で数日休んでからだからな‥‥。その間、お前達兄弟全員でまた魔法の練習するだろうし、そこにリリアーナ様達も入ってくるなら‥‥ということを聞いてるんだよな?」
「はい。そうです。」
「う~ん。ゲートも黙ってくれている様だし信用してもいいとは思うが‥‥アクアはどう思う?」
「う~ん。そうですね‥‥リリアーナ様もマリア様もマリンを気に入ってくれてますし、お2人共姉様の友人です。姉様の大好きなマリンに不利益になるようなことはしないんじゃないかと。」
「そうか‥‥。なら大丈夫か‥‥?まあその前にお前達兄弟の魔法の練習に驚くだろうがな。兄弟で様子を見て、言って大丈夫だと判断したなら言うといい。」
「「分かりました。」」
「領地に着いたら兄弟全員に周知するんだぞ。」
「「はい!」」
そして馬車に揺られ野営を挟みつつ数日が経ち、1年振りのアルス子爵の領地に着いた。
そしてアルス子爵邸に2日間お世話になった。
その間、街で私を含め女性陣が買い物等を楽しんだりしたあとゆっくり休ませて頂いた。
そして、アルス子爵領を出て2日後。
ようやく辺境伯領に到着した。そのまま屋敷に向かい、玄関に入るとヒスイ兄様達が出迎えてくれていた。
「ヒスイ兄様、フレイ兄様。ただいま戻りました!」
「「おかえり。」」
「父様、ディアナ母様、クリスもお帰りなさい。‥‥リリアーナ様、マリア様お久しぶりにございます。」
「ええ。お久しぶりですわ。」
「今日からお世話になります。よろしくお願い致します。」
「あれ?セレス母様は?」
「‥‥いるわよ。お帰りなさいみんな。そして、リリアーナ王女殿下、マリア様。ようこそおいでくださいました。」
「「お世話になります。」」
「さて、立ち話も何だし皆荷物を置いてきなさい。」
「「「はーい!」」」
「リリアーナ様とマリア様もお部屋にご案内致しますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「ヒスイ兄様、フレイ兄様。ちょっと話したいことがあるので、私の部屋に来て頂けますか?」
「ん?」
「ああ。いいぞ?」
そして2人を連れて私の部屋に入り、少し待つとアクア兄様と姉様も来た。
そして、馬車の中で父様、アクア兄様と話していたことを上の3人にも話す。
「えっと‥‥俺としては聞きたいことが色々ある内容だが、とりあえずリリアーナ様とマリア様にゲートをちゃんと見せるのは確定なんだな?」
「はい。」
「で、マリンが全属性使えることを話すかどうかは様子を見て判断すると。」
「はい。」
「そうか‥‥。分かった。俺達は2人とほぼ接点がないからな。正直判断はし辛い。クリス、アクア、2人の方が接点があるんだから判断は任せていいか?」
「でもヒスイ兄様。私は2人の友人でもあります。判断の前に信じたいという気持ちが勝つと思いますが。」
「それもそうか。じゃあアクア、よろしくな。」
「結局俺ですか。そうなるだろうとは思いましたが。」
「マリンはその間、気をつけろよ?火とか使うなよ?」
「はい‥‥。気をつけます。」
とりあえず私の魔法の相談は終わったので。
「で、リリアーナ様とマリア様が来たのは帝国に招待されたからだったか。」
「はい。私も一緒に指名されたそうです。」
「ついにマリンもか‥‥。」
「えっと‥‥陛下も父様も姉様もアクア兄様も同じような反応ですが、いい人なんですよね?」
「ああ。基本的にはいい人だな。」
「確かに基本的には‥‥いい人だな。」
「全員「基本的には」って‥‥何で皆さん揃ってそんな反応なんですか!?」
「あ~会ったことないマリンからしたらこの反応は怖いか。」
「はい!」
「う~ん。フレイ、俺達も行くか?」
「そうですね。俺はいいですよ。」
「本当ですか!?」
「「ああ。いいぞ。」」
「やったぁ!これで兄弟全員で行けます!怖いもの無しです!」
「お。クリスとアクアもさすがに同じ事を考えたか。」
「「はい‥‥。」」
「私達周りが散々脅したみたいになってしまったので、さすがに可哀想で‥‥。」
「ですね‥‥。」
ラルクや兄弟達、王族も皇帝に対してついていけないと思う所がありマリンに対して言葉を濁していた。
だが、この末っ子がその皇帝と意気投合することになるということを、この時はまだ誰も予想できなかった。