39話 誘拐事件ー救出ー
さて、リリ様達のところへ行くか。
と地下に向かおうとすると、地下から歩く音と何やら話し声がした。
声の主は2人いて、2人共上がってきた。
「兄貴~まだっすか‥‥って君、誰?」
「‥‥って、兄貴達捕まってんじゃん!」
「本当だ‥‥うおっ!」
「え?っぐぁ!」
向こうから話しながら来てくれたので待って、話し掛けられたけど、無視して麻痺させてあげた。
「はじめまして。マリンと申します。皆さんの標的の1人になっていたアクアの妹です。」
「「!?」」
麻痺してるので声は出せないようだが驚いてるっぽい。
えっと地下は‥‥っと。今の2人で最後だったみたいだな。
じゃあ水牢獄はここに置いといてリリ様達のところに行きますか。
そして階段を降りて地下に着いたらそのままリリ様が閉じ込められている牢屋の前に行った。
「リリ様。お待たせしました。」
「マリンちゃん!?‥‥本当に制圧しちゃったの?」
「はい。今出して差し上げますね。」
そして身体強化を使ってから牢屋の格子を掴み真横に広げ人が一人通れるスペースを開けた。
「リリ様。どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
「では他の方々も出しますね。」
「‥‥先輩。何で名前と話しやすさ以外、そんなに残念な人なんですか?」
「ひどくない!?さすがアクアの妹だな。」
「そういえば先輩、アクア兄様を呼び捨てなんですから私のこともやっぱりさん付けじゃなくて呼び捨てでいいですよ。」
「おう。ここで言うことじゃないけど、分かった。‥‥で、マリン。俺は出してくれねぇの?」
「そうですね。出しますよ‥‥っと!‥‥はい、どうぞ。」
「おう。ありがとな!」
「いえ。‥‥それと先輩。どうやら先輩はアクア兄様の代わりに誘拐されたみたいです。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
「ん?そうなのか?‥‥そういえばさっき、俺を連れてきた奴らがそんな事言ってたな。でもまあこうして助けてもらったし、いいよ。」
「ありがとうございます。」
「アイリス。」
「あ‥‥マリン?」
「うん。遅くなってごめんね。今出してあげるね。っと!
‥‥アイリス?」
動く気配がなかったので私が中に入ってアイリスに近づくと、私の姿が幻じゃないとようやく分かった。という風に私に抱きついてきた。
「マリン‥‥怖かった‥‥いきなり襲われて気がついたらここに入れられてて‥‥後から何人も連れて来られたみたいだし‥‥私‥‥もう‥‥か、帰れない‥かもっで!」
途中からは泣いていた。
「うん。でももう大丈夫だよ。‥‥帰ろ?アイリス。」
アイリスは私の腕の中で少しの間、静かに泣き続けた。
「‥‥‥ありがとう。マリン。落ち着いた。」
「ううん。‥‥アイリス、もう平気?」
「うん。もう大丈夫。」
「分かった。じゃあ出よう?」
「うん。」
それから他にも何人か捕まっていた人達を全員救出した。
そして全員で1階に上がると、まずみんなの目に入ったであろうものは私が使った水牢獄だろう。
うん。やっぱり全員固まったね。そりゃあんな怖そうな人達が全員一つの水の中に入ってたらねぇ‥‥
まあ正確にはそう見えるだけだけどね。中は脛まであるかないか位の水量しか入ってない。それで、足を動かせない様にしてるだけ。
でも全部水だからパッと見ると水の塊なんだよね。
‥‥‥ん?この集団、何だろ?悪意は‥‥感じない?
ってことは騎士団かな?ならちょうどいいタイミングだね。
出迎えに行かないと、土壁で入れないからね。
「リリ様。多分騎士団の方々だと思いますが、近くまでいらっしゃったみたいなのでちょっと行ってきますね。」
「え?‥‥うん。分かった。」
「では、ここで動かず待っててくださいね。‥‥先輩?その水の塊に触らないで下さいね?」
「お、おう。‥‥分かってるぞ。」
「はぁ。ほんとに残念な人ですね。」
「だから大丈夫だって。触らねぇよ!」
「はい。行ってきます。」
そして今度はちゃんと玄関から出て、正面の土壁を人が並んで3人通れるぐらいの穴を開けた。
そこから出るとちょうど騎士団の方々が建物前に到着したところだった。
土壁の中から出てきた私に騎士団の方々は剣を向けるが、1人の女性騎士が出てきて止めてくれた。
「剣を下げろ。この子はみなも名前は聞いたことはあるだろうが、マリン嬢だ。」
『え!?』
と驚きつつ、私に向けていた剣を納めてくれた。
そして私のことを言ってくれた騎士は以前王城で騎士団の詰所に連れていってくれた人だった。
「お久しぶりです。‥‥良かった。私をご存知の方がいて。」
「お久しぶりです。マリン嬢。‥‥それで、何故あなたがここに?」
「詳しくは後程ちゃんとお話ししますが、リリアーナ王女殿下や他にも誘拐された方々が何人かいました。そして全員救出できてます。あと、犯人一味も全員拘束してますので、ここからの指示をお願いします。」
「え?リリアーナ様が?‥‥聞きたいことが色々ありますが、まずは中に入ってからですね。」
と、数名乗ってきた荷馬車のところに残して他は全員で建物の中に入った。
『‥‥‥。』
騎士団の方々も水牢獄を見て固まりました。
が、先程話した女性騎士さんがリリ様を視界に納めたのか、いち速く復活してリリ様のところへ向かった。
「っ!リリアーナ様!」
『!』
「メリア!」
何とさっきの女性騎士さん、メリアさんというらしい。
「リリアーナ様。よくぞご無事で!」
「ええ。マリンちゃんのおかげよ。」
「他の方々も後程捜索願いと照合しますので一度王城へ一緒に来て頂けますか?」
『はい。』
全員が頷いたのを確認するとメリアさんが振り返った。
「マリン嬢。この水の中にいるのが犯人一味ですか?」
「はい。あ。でも中身まで水じゃないので全員生きてるはずですよ。」
「そうなのですか!?‥‥一気に解除するとまずいでしょうか?」
「はい。中の人達は麻痺させただけなので。しかもそろそろ回復している人もいるかもしれません。‥‥念のためもう一度麻痺掛けますか?そうしたら一気に解除しても大丈夫だと思いますが‥‥」
「う~ん。そうですね‥‥麻痺はどれぐらいで解けるんですか?」
「測ったことはないですが、多分1時間ぐらいじゃないかと。」
「だったら大丈夫でしょう。もう一度麻痺掛けて頂けますか?」
「はい。分かりました。‥‥【麻痺】。」
水牢獄に触れてパラライズを発動させた。多分‥‥
うん。全員またぴくぴくし出したから効いてるな。
「このままこの水の魔法解いたらいいでしょうか?」
「はい。」
「分かりました。」
解除すると、一斉に落ちた。麻痺してるので受け身なんぞ取れないので全員背中やら頭やら色んなところを打っていた。
「あ。高さ見てなかった。皆さんごめんなさい。」
『‥‥‥。』
全員恨みがましい目で私を見た。
「マリン嬢。謝る必要はありません。いい気味です。‥‥では私達はこの者達を連行します。」
「あ、あの。一緒にいるコルド伯爵?がこの誘拐の依頼人みたいです。」
「な、なに!?‥‥コルド伯爵!?‥‥後でちゃんと話して頂きますよ。‥‥全員連行しろ!」
『はっ!』
そして犯人一味を全員、移動式の牢屋に入れて騎士団が乗ってきた荷馬車に誘拐された人達を乗せ終る。
「リリアーナ様。他の方々と一緒に荷馬車に乗って頂くことになり、申し訳ありません。」
「気にしなくていいわ。メリアが悪いんじゃないんだし。」
「はっ!ありがとうございます。‥‥‥マリン嬢。あなたにも一緒にお越し頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「えっと‥‥姉がリリアーナ様を心配して屋敷で待っているはずなので一旦屋敷に戻りたいです。いいでしょうか?」
「はい。後程王城にいらして頂ければ。」
「はい。参ります。」
「それならば戻って頂いて構いません。では、貴族街まででよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします。」
正直、フライで飛ぶか身体強化と風魔法使った方が速いが、折角のご好意なので乗せてもらうことにした。
荷馬車に私とメリアさんも乗ったこともあり、道中私が何故あの場にいたのかの経緯をざっと話した。
そしてちょうど区切りのいいところで屋敷近くまで来ていたので私だけ降りて荷馬車は再び王城へ向かった。
そして屋敷に帰ると、何故か玄関に家族全員いた。
え?まさか、ずっとここで待ってたの!?
「マリン!お帰り。リリは!?」
「姉様。大丈夫ですよ。無事です。今騎士団の方々が王城へ送ってくれてますよ。」
「はぁ~‥‥。良かったぁ~。ありがとうマリン。」
姉様は安心したのか、へなへなと座り込んでしまった。
「マリン、カイトは!?」
「先輩も一緒にいました。無事ですよ。」
「はぁ~。良かったぁ~。‥‥マリン、ありがとな。」
兄様も安心した様だが、姉様みたいに座り込むことはなかった。
「いいえ。」
カイト。あの軽い、残念な先輩である。
「姉様に知らせる為に戻って来ましたが、やっぱり兄様もいましたね。」
「やっぱり?」
「はい。制圧途中に犯人と依頼者が話してるのを聞いたんですが、どうやら当初の狙いは先輩ではなく、兄様だったみたいなんです。何故か先輩が代わりに拐われたらしくて。それで、それを知った依頼者が今度は兄様を誘拐できないなら代わりに私を誘拐しろって言ってました。それで、その会話を聞いたのと、兄様が先輩含めて一緒に出かけるって言ってたのを思い出して姉様と同じく屋敷に帰って来てるかなと。」
「そうなのか!?‥‥カイトに悪いことしたな。」
「マリン?今なんて?「制圧」って聞こえた気がしたんだけど?」
「え?」
普段より一段低い声が聞こえたのでそちらを恐る恐る見ると、母様が「私は怒っています」という雰囲気を存分に出していた。
えっと‥‥私、頑張ったのに怒られる感じですか‥‥?