36話 優しい出会い
シリウス王子達と勝負をして数日後。
私はあの日から色々面倒な目にあっている。
あの日に私が水と土と風の3属性と光魔法が使えることを多くの生徒達に知られ、全ての魔法を無詠唱で放っていたのを担任であり、魔法科の担当教師でもあるレイヤ先生や学園長にしっかり見られた。
見られても本来は困らないはずだ。
だが私はあまり見られたくなかった。「無詠唱」ができるのが私達兄妹だけっぽいから。しかも私は全属性使えるのを隠している。出来るだけ目立ちたくない。
まあ無理なんだが。
面倒の1つがこの、私の魔法を見られたこと。
魔法科の授業の時、私に模範やらせるんだよ。レイヤ先生。危うく火魔法まで披露するところだったよ。
多分レイヤ先生は私を疑ってる。悪い意味じゃなくて「隠しているだけで他も使えたりするのでは?」ってことだ。
あの日私は明確に4属性だけとは言ってない上にシリウス達に「秘密」だと言っている。他も使えると疑う要素はあるんだ。
本当は疑われてないかもしれない。でも私の直感が気をつけろと言ってる気がするんだ。
という訳で内心で少し気をつけながら授業を受けている。
次に冒険者科。
こっちは剣と魔法両方だ。魔力刃のやり方とか聞かれたけど、説明が難しいんだよ。感覚の問題だから、イメージを伝えるのも、魔力調整とかもどう説明しろと?って感じだ。
そこに魔法と剣を両方いなしているのをどうやるんだとか、あの時はどこを見てたんだ。とか色々聞かれた。その時々で状況は変化するから私のはあくまでも一例でしかない。と言ったらようやく質問攻めを止めてくれた。
あれはしんどかった。
だが、この冒険者科は困ったことばかりじゃない。
癒しがいたんだ。この世界に来て初めてみた獣人。異人ともいわれる人達。その獣人は狼さんでした。
名前はアイリス・ステリア。灰色の髪で青紫色の目の女の子です。
そしてこれから、冒険者科の授業です。
運動場に出ると既に生徒は集まりだしていた。
「アイリス!」
「あ。マリン。」
「いい?」
「ふふっ。どうぞ。」
「やったぁ!‥‥ああ~アイリスふかふかぁ。」
ちなみに私はアイリスの尻尾を触ってるだけです。
ー最初に会った時ー
お、狼さんがいる!女の子だよね?わ~獣人さんだぁ~。
と心の声を抑えて話し掛けてみた。
「あの。獣人さんですよね?狼さんの。」
「え?は、はい!そうです。」
「あ。えっと自己紹介の前に、敬語を使わない方が喋りやすいですか?」
「はい‥‥できれば。」
「じゃあ敬語無しでいきますね。私はSクラスのマリン・フォン・クローバー。マリンって呼んでね。」
「う、うん。私はAクラスのアイリス・ステリアっていうの。良ければ呼び捨てで呼んで。」
「うん!アイリス、Aクラスなんだ!隣のクラスだね。あの、突然だけど、私と友達になってくれないかな?」
「え?えっと‥‥私でいいの?」
「え?いいの?って何で?」
「だって私、獣人だよ?マリンは私達獣人が差別の対象だって知らないの?」
「ん?差別?ああ~何か本で読んだことあるかも。でも特に差別意識はないな。その本を読み終わっても差別する意味が分からなかったっていうのが感想かな。だから私はアイリスが獣人でも気にしないよ?むしろ初めて獣人に会って嬉しかったよ?」
「え?マリンにとってはその程度なの?‥‥ん?嬉しかった?」
「うん。嬉しかった。」
「え?何で嬉しいの?」
「じゃあ嬉しい理由を表現するからアイリスの尻尾、触っていい?」
「え?尻尾?‥‥‥い、いいよ。」
「何か今の間が気になるけど、とりあえずお言葉に甘えて。
‥‥ふわぁ~アイリスの尻尾ふかふかだぁ~癒される~。」
「えっと‥‥‥マリン?」
「ん?何?」
「いや、何じゃなくて。」
「触られるの嫌だった?」
「いや。嫌じゃないし、マリンならまあいいかなとは思うけど。」
「けど?」
「私達獣人に会えて嬉しかったって尻尾を触る為?」
アイリスさん呆れていらっしゃる様です。
「ん?う~ん。そうだねぇ。それもあるけど‥‥。」
私はちゃんと真っ直ぐアイリスの目を見て言った。
「私が読んだ本にね。「残念ながらまだ差別意識が残っている」って記述もあったからさ、読んでて悲しくなったんだ。だからね、獣人の人に会ったらできるだけ、私は味方だよって、差別する気はないよってせめて伝えるぐらいはって決めてたの。で、アイリスは友達になってくれそうかなって思ったから。」
「マリン‥‥‥ありがとう!」
涙を浮かべながらだけど笑ってくれた。
「それで?友達になってくれる?」
「うん!私で良ければ喜んで!あ。マリンなら尻尾、触っていいよ。」
「いいの!?」
「うん。」
「やったぁ!」
「こほん!そろそろ授業始めていいかな?」
「あ。すみませんでした‥‥どうぞ。」
2人で話してる内に授業開始時刻になっていた。
ー時は戻りー
私がアイリスのふかふかを堪能しているとチャイムが鳴り、冒険者科の先生以外にも数人入ってきた。
あれ?もしかしてあの人達‥‥。
「今日は冒険者ギルドから講師の方々がいらっしゃいました。」
「皆さん。はじめまして。Bランクのミラです。」
「同じくBランクのリサです。」
「ミラの姉でAランクのサラです。」
「はじめまして。同じくAランクのビオラです。」
「今日は高ランク冒険者の方々がいらして下さったので、ここからは自由時間とします。個別に質問したり実戦などを教わる時間にしてください。」
『はい!』
「ごめん。アイリス。知り合いがいたからまず挨拶してくる。」
「うん。分かった。」
そして目的の2人に近付いて。
「ミラ先生、リサ先生。お久しぶりです。」
「「マリン!?」」
「はい!」
「久しぶりだね。4・5年ぶり?」
「それぐらいです。」
「マリン、元気そうね。安心したわ。」
「はい!」
「あれ?ミラ、その子知り合い?」
「お姉ちゃん。4・5年前ぐらいに私達が家庭教師してたの覚えてる?」
「うん。あ、じゃあこの子がその時の子?」
「うん。そうだよ。」
「はじめまして。マリン・フォン・クローバーと申します。」
「そういえば家庭教師に行ったのは貴族家だったね。呼び捨てでいいかな?」
「はい。勿論です。」
「じゃあマリン。ミラとリサの2人に教わってたなら剣と魔法両方出来るってことだよね?」
「はい。一応。」
「一応ってマリン。家庭教師してる時で既に当時の私達より強かったじゃない。」
「へ~!それは将来有望だね。」
「ちょっと3人共!何サボって話し込んでるのよ!」
「あ。ごめんビオラ。ミラ達が数年前に家庭教師をやってた子がいたからさ。」
「ミラ達の?」
「はじめまして。マリン・フォン・クローバーと申します。良ければマリンと呼んでください。」
「へ~。マリンちゃんっていうのね。よろしくね。」
「はい!えっと私がこのままミラ先生達を占領したら悪いので一旦離れますね。」
「うん。あ。後で昔みたいに私とリサで相手してみようか?」
「え?いいんですか!?」
「「うん。」」
「じゃあお願いします!」
「分かった。じゃあ後でね。」
「はい!」
◇◇◇◇
「それじゃ、いくわよ。マリン!」
「はい!」
先生達が私の相手をしてくれるということで、私は今ミラ先生とリサ先生と向かい合っている。
私達がやってるところを折角だからみんなで見ようという事になり、私達以外は離れて座っている。
「それでは!‥‥‥始め!」
審判をしてくれるサラ先生から開始の合図と共にミラ先生が迫ってきた。一応刃を潰してある訓練用の剣を使っている。
うわっ!先生速くなってる!
「お!さすがマリン!私も昔より速くなった自信はあったんだけど‥っね!‥‥初見で対応‥‥するとは‥‥ね!」
「私‥‥だって!‥‥努力は‥‥続けてます‥‥からね!」
私達は話ながら剣での攻防を続けていた。
「そう‥みたい‥‥だね!」
「っ!‥‥ってうわっ!リサ先生!相変わらず容赦ないですね!」
何とアイススピアが飛んできた。最小限のシールドを手の甲の辺りだけに張って弾いたけど。
それでもミラ先生との攻防、会話は途切れない。
「マリンだって!いつの間にそんなシールドの使い方するようになったのよ!マリンだけズルいじゃない!」
「いや‥‥ズルい‥‥って‥‥言われ‥‥ましても!」
「むぅ~!こうなったらマリンに新しい魔法見せてあげるわ!」
「え!?‥‥本当‥‥ですか!?」
「ええ。ミラ!そういうことだから気をつけてね!」
「え!?‥‥あれ‥‥やるの?‥‥分かったわ!」
何やるんだろ~!
「ミラ!離れて!【水沼】!」
「うわっ!っと。え?水?って‥‥と、その前に【シールド】‥‥‥え?‥‥え?この水どこまで?‥‥リサ先生!」
辺り一面水びたしで、足元が沈みそうだったのでちょっと飛んで水の上にシールドを張ってその上に着地した。
「なに?」
「これ、どこまで水広がるんですか?このままだと運動場が全部水びたしで、暫く使えなくなっちゃいますよ?リサ先生の足元までもうすぐですし。」
「あ!」
あ!って‥‥。
「‥‥‥とりあえず解除したけど‥‥使いどころ間違えたなぁ‥‥ってそういえばマリン!なにあっさり対応してるのよ!?」
「え?でも靴はびしょびしょですよ?多分ですがこの魔法、水で地面を濡らして最終的に沼みたいに足を取られて動き辛くする行動阻害系のやつですよね?」
「はぁ‥‥。やっぱり見抜くのね。もうマリンも出来るんでしょうね。」
「やった!正解だったんですね。なら多分出来ると思います。」
「でしょうね。自分でやっといてなんだけどこれじゃ続きはできないわね。」
ミラ先生は既にリサ先生の所まで下がってたので、ちょうどいいと、私はリサ先生達に近付いていった。
「(リサ先生。ミラ先生。言ってなかったんですが、お2人と家族以外、私が全属性使えることを言ってません。今のところ、私は水と土と風と光の4属性だけ見せてます。)」
コクンと頷いてくれたので続ける。
「(で、本来はこの水びたしを火魔法で蒸発させたらいいとは思いますが、私がやると必然的に5つ目の属性を見せる事になってしまいます。そうなるともう全属性をかなりの人が疑うと思いますので避けたいんです。)」
「(マリンの言いたいことは分かるけど、いつかバレるんじゃない?)」
「(はい。多分。でもそれは「いつか」であって「今」は嫌ですね。)」
「(分かったわ。言わないから安心して。‥‥となると水びたしはどうする?)」
「(それは大丈夫ですよ。リサ先生この水、混じりっけのない本来は人が飲んでも無害な水ですよね?)」
「(え?うん。そうだよ。)」
「(なら大丈夫です。)‥‥先生!全く関係ない質問いいですか?」
「え?はい。いいですよ。何でしょう?」
「確かこの運動場の壁の向こうって花壇がありましたよね?」
「え?ああ‥‥そうですね。あります。花壇というか庭園ですが。」
「今って人が集まらない時間だから誰も居ませんよね?」
「恐らくいないと思いますよ。」
「分かりました!ありがとうございます。」
「マリン‥‥あなたまさか‥‥。」
「あ。リサ先生、気づきました?多分リサ先生の予想通りですよ。」
と言いながら作業開始!
水びたしになった運動場の地面に魔力を集中して水だけを浮かせるイメージで‥‥と。うん、できた。
あとは‥‥このままは面倒だな。球体でいいや。
纏めて‥‥さてお隣にいきますか。
って、でも扉無いんだよな‥‥。
「先生!庭園に行くだけなので、身体強化魔法使っていいですか?」
「え?う~ん。まあいいでしょう。」
「ありがとうございます。ちょっと行ってきます。」
そして身体強化を使い、壁を越えて庭園に着くと、
「うわっ!すご~い!初めて来たけど綺麗‥‥。」
庭園の名に相応しく色とりどりの花が綺麗に咲いていた。
それよりこの水撒いて戻らないと。
私が思いついてリサ先生に色々聞いた理由がこれ。
蒸発させられないなら折角だし花達にあげればいいじゃないかと。だからといって花達に影響を及ぼしたりさせたくないのでリサ先生に一応水質を確認した。
庭園の中心には水場がある。なので、そこを避けて水球を分割して花達の上に配置。あとは水球の水を雨みたいにぽつぽつと落とすだけ。
なんだが、長い。花壇の数にあわせて5分割したのに。
雨みたいにぽつぽつだからしょうがないけどさ。
だってどばっと落としたら折角綺麗に咲いてるのに折れちゃったりするかもだしさ。
そのまま少し待つと、ようやく終わった。
さて、戻るか。と思ったら声を掛けられた。
「そこのお嬢さん。今のはあなたが?」
振り返ると白髪の優しそうなおじいさんがいた。
「はい。そうです。えっと庭師さんでしょうか?」
「ええ。そうですよ。」
「では、お邪魔してしまいましたか?」
「いいえ。大丈夫ですよ。むしろ綺麗なものを見せて頂きました。優しい雨で花達が輝いてましたからね。」
「すみません。突然来た上に勝手に水をあげたりしてしまって。」
「ちょうど水やりをしようとしていたので問題ありませんよ。あの水も無害なものなんでしょう?」
「はい。隣の運動場で水魔法を使いまして。その水なので、無害で人が飲んでも影響がないものです。」
「そうですか。隣の運動場ということは授業中ですか?」
「はい。ちゃんとここに向かうことは先生に伝えてます。でもそろそろ授業時間が終わると思いますので私は戻りますね。またここに来てもいいでしょうか?」
「ええ。お嬢さんなら歓迎しますよ。」
「ありがとうございます。では失礼しますね。」
そして来た時と同じく、身体強化で壁の上に登って振り返ってみると庭師さんは驚いていたけど、ペコッと頭だけで一礼して笑ってくれたので私も同じように返して運動場に戻った。