30話 選択授業と制裁
公爵様との会議?の翌日。
前日説明があったように、レイヤ先生から生徒会の話が出た。ただ、強制はしないし希望者を募る。という風な説明だった。人数も決めてないそうで、希望者が多ければ選抜するらしい。なので最終的には「まあ考えといてよ」ぐらいの軽い感じだった。
この学園では入学試験の時に筆記は全員必須で、あともう1つ。魔法か剣術かどちらかを選ぶ様になっていたことだが、それはこの世界の人達の魔力量や使える魔法に関係する。この世界の人達は全員少しは魔力がある。そう「少しは」だ。魔法は適性もあるが魔法神の加護に影響する。なので魔力はあっても魔法を使えない、使うほど魔力がないという人達もいて、最低限魔道具を使える程度だったりする。
その点、剣術はある程度なら武神の加護がなくても使えなくはない。あとは魔法でも身体強化しか使えない人達は剣術試験を受けたりする。
なので、魔法を使える人は魔法試験。魔法が使えない人は剣術試験。私みたいに両方可能な人は好きな方、得意な方で選ぶ。
と、長々と話したのは選択授業があるからだ。
基本的に国語、数学、歴史等全員必修科目があるが、これに加えて魔法試験を受けた人は魔法科、剣術試験を受けた人は剣術科の授業を受ける。だが先程も言った様に、私みたいに両方できる人も少なからずいる。そういう人とかあとそれぞれ極めるという人達もいるのでこの基本科目以外にも選択科目の中にある。
で、その選択科目だが意外と種類がある。
まず、魔法科、武術科。他には冒険者科、貴族科、商業科、薬術科、魔道具科、家庭科があり、この中から平均3・4種類選ぶ。
これはこの学園が将来、選ぶ職業の幅を広げる目的があるためだ。例えば貴族の子息が勉強の為に貴族科を取って学んだが、家を継げないので冒険者を目指すとして冒険者科を取る。ということができるようにだ。
という学科ごとに説明を数日掛けて受けた私は選択科目を考えていた。
「う~ん。どうしようかな。まず、一応貴族令嬢だから貴族科は取った方がいいんだろうね。」
「一応って‥‥確かに私達は貴族科は取った方がいいかな。あとは?マリンはどうする?」
「う~ん。あとは‥‥冒険者科と薬術科、魔法は基本科目であるからいいとして、武術科とか家庭科とか面白そうだしな‥‥。」
「ん?何でその並びなの?マリン、冒険者になるの?」
「え?言ってなかったっけ?」
「うん。聞いてない。」
「あれ?ごめん言ったつもりだった。えっとね‥‥」
リジアに私が何故冒険者を目指したかなどを伝えた。
「なるほどね。確かにマリンなら大丈夫だろうね。シリウス王子達を助けた実力があるしね。それで薬術とか家庭科?」
「うん。薬術は知識としてあった方がいいかなって。家庭科は旅の途中、自分で料理できた方が楽しいかなって。でも武術もな~私、剣以外使ったことがないから興味がね‥‥。」
「剣を使えるだけでも十分だと思うけど?」
「う~ん。そうだね‥‥。うん。よし!決めた。貴族科と冒険者科と薬術科と家庭科にする。リジアは?」
「そうね~。私は貴族科と家庭科とあとは魔法科にしようかなって。」
「へ~。家庭科は興味があるから?」
「うん。家ではやらせてもらえないからね。」
「ああ~確かにね。じゃあ貴族科と家庭科は一緒だね。」
「うん。」
ただ、この数日私は別の事にも悩まされていた。
じ~~~。
またか‥‥。いい加減鬱陶しいな‥‥。
私に視線を向ける相手など2人しか浮かばない。
そう。王子とリゲルである。
あの日から声も掛けられることも、近付くことも、待ち伏せもなくなった。だが見られてるのだ。今も廊下の曲がり角からこっそり見ている。
「(ねぇ。マリン。今日もいるね。)」
「(うん。いるね‥‥懲りない人達だな‥‥。)」
ということが数日繰り返しあった。
だが、今日は少し違った。嫌な意味で。
選択科目を決め終え、用紙を提出して帰ろうと教室を出たのだが、廊下に出たところで怒鳴り声が聞こえた。
「なんだろ?」
「さあ?」
『‥‥俺にそんな口聞いていいと思っているのか!!』
げっ!あれ王子じゃん。ていうか今怒鳴ったのも王子っぽいな。相手は‥‥誰?あの人。
「ねぇリジア。あの王子に怒鳴られた人、誰か知ってる?」
「ん?‥‥う~ん。分かんないな‥‥。」
「そっか。ほっといたらまずいかな?」
「さあ?どうだ」
『マリンを見ていただろう!』
食いぎみでとんでもない発言が聞こえたな‥‥。
折角許可を得てるんだし、はっ倒すか。
「リジア。はっ倒してくる。」
「あはは‥‥。行ってらっしゃい。」
そして王子達に近付き、
「シリウス王子?一体何をされているのでしょうか?」
「っ!‥‥マリン嬢。これはだな‥‥。」
「何ですか?シリウス王子。私の名前が聞こえて来たのですが?‥‥失礼しました。私はSクラスのマリン・フォン・クローバーと申します。貴方は?」
「Bクラスのジーノ・クレストです。名前でお分かりかと思いますが、平民です。」
「ジーノさんですね。事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。事情と言ってもシリウス殿下と同じくマリン嬢を影から見ていただけです。そこに殿下がいらして「お前はマリンに相応しくない。諦めろ」と。‥‥それぐらい、自分で分かってます。だから見てるだけでいいと思っていたと申し上げましたら先程のように‥‥。」
「そうですか。話して頂き、ありがとうございます。ですが、シリウス王子?貴方に私の相手に相応しいかどうか選んで頂く筋合いはありません。それに大声で怒鳴るとは周りの迷惑を考えられないのですか?数日前にも申し上げましたよね?」
ジーノさんから王子に視線を移し、睨みながら言うとたじろいでいた。
「うぐっ。」
「ああ。そういえば、また呼び捨てで名前を、しかも今度は叫んでましたよね?私としても大変迷惑なので止めて頂けますか?」
「えっ!いや‥‥つい叫んでしまったというか‥‥。」
「「つい」?‥‥。そうですか。「つい」で呼び捨てですか。分かりました。では王子は制裁をご所望ということですね?」
「え!?何故そうなる!?」
「今申し上げたではないですか。「私としても迷惑」と。幸い私は学園内でも常時シリウス王子とリゲル様への魔法使用許可を得てますので、今後、周りの迷惑を考えない行動、言動を発見しましたらその都度徹底的に制裁を加えて差し上げますわ。」
「っ!」
「と、いうわけで、ジーノさんへの暴言。王族としてあるまじきことです。国民あっての国であり、王族ですのに。その事をまだ理解していらっしゃらないのに、この場でシリウス王子に謝って頂いても意味がないでしょうね。それと、この数日私はシリウス王子の視線にうんざりしてましたのでちょうどいいですわ。」
「えっ!」
「問答無用ですわ。【麻痺】。‥‥全く。ジーノさん。これで少しはスッキリしました?」
「‥‥‥は、はい!ありがとうございます。自分はこれで失礼します!」
私達のやり取りに驚いて固まってたのを何とか復活させてすぐに去って行った。
「はぁ‥‥。シリウス王子。聞こえてますよね?恐らく1時間ぐらいは動けないと思いますのでゆっくり反省してください。私も失礼します。」
そうしてリジアのところに戻ろうと思い、振り返ると野次馬が集まっていたが、その中から
「あれ?姉様?いらっしゃってたんですか?」
「うん。今着いたとこ。王子が怒鳴ってるって報告がきてすぐ向かったんだけど、さすがマリンね。」
「姉様。もしかして、各学年から生徒会に入るのって」
「そう。こういう時に自分のいる学年の問題に迅速に対応する為よ。」
「なるほど。」
「ところでマリン。シリウス王子はまだ動けないのよね?何があったか事情は知ってる?」
「はい。シリウス王子に怒鳴られた方から伺ってます。先程までいたのですが、姉様と入れ違いになってしまいました。」
「そう。じゃあマリン。代わりに一緒に生徒会室に来てくれる?」
「はい。私は構いませんが‥‥シリウス王子はどうします?」
「う~ん。見ていていい気味だとは思うけど、ほっとく訳にもいかないか。‥‥マリン。生徒会長権限で許可するから回復してあげて。」
「え!?‥‥姉様、凄い権限お持ちですね‥‥。分かりました。【状態異常回復】。」
「っ!あれ‥‥体が動く。」
しょうがないので治してあげると、シリウス王子はすぐに立ち上がった。
「さあ。シリウス王子も一緒に生徒会室に来て頂きますよ。」
「えっ?‥‥ああ。」
そして姉様と一緒に来ていた生徒会の皆さんと私とシリウス王子は生徒会室に向かうことになったので‥‥
「リジア、ごめん。そういうことだから先に帰ってて。」
「ふふっ。分かった。また明日ね。」
「うん。また明日!」
こうして生徒会室でシリウス王子と私は事情説明をした。その際、シリウス王子はリリ様にこっぴどく怒られていた。
まあ自業自得だね。
ちなみに私達が去った後の現場では
「今の王子に楯突いた子、生徒会長の妹なのか‥‥。凄いな。一発で王子を行動不能にした上に回復魔法まで‥‥。」
「なあ、あの子じゃなかったか?王族と公爵家の姉弟を助けたの。」
「ああ。確かそうだ。ついでに言うとお披露目会での王子の被害者もあの子だったらしいぞ。」
「そうなのか!?‥‥って被害者?」
「ああ。‥‥そうか。お披露目会の出席者は貴族だけだしな。」
「まあ出席してる中でも実際の目撃者はあんまりいないけどな。大半が気絶した後に気付いたからな。」
「気絶!?何をやらかしたんだ?王子は?」
「それはな‥‥」
マリン‥‥意図せず噂が周り出しちゃったわよ。
まあ「王子の被害者」として拡がってるから味方になる人の方が多いだろうけどね。これは王子は益々肩身が狭くなるわね‥‥。自業自得だけど。
と翌日、リジアが教えてくれた。