3話 家族、そして魔法
食堂へ着くと既に私達以外全員揃っていた。
食堂へ向かう途中母様が教えてくれたのだが、なんでもいつ私の目が覚めるか分からなかったので、毎朝母様が私の様子を見てからここに来ることにしていたそうだ。
そして母様の後から入ってきた私を見た家族が全員一斉に驚き、立ち上がった。
「「「「「「マリン!?」」」」」」
うわっ!びっくりした!
ビクッとなった私に気付いて母様が呆れたように
「皆揃って立つからマリンが驚いてるじゃない‥‥。」
「いや、そうだが‥‥仕方ないだろう‥‥」
この人がお父様かな。
格好いい人だな‥‥30代ぐらいかな?記憶喪失も正直に言わないとだよね‥‥
とか私が考えてると母様が代わりに言ってくれた。
「実はね、目が覚めたのはいいけど、自分のことも含めて記憶が無いそうなのよ。シャーリーに自分と私達の名前とかは聞いたらしいんだけど。」
「何だって!?‥‥じゃあマリン。今ここにいる皆の名前だけは知ってる。ということか?」
「はい。そんなかんじです。とうさま‥‥ですよね?」
「ああ。私がマリンの父だ。正直、記憶喪失に関しては衝撃ではあるが納得する所はあるな‥‥熱が出る前と雰囲気が違う。」
だから前の私どんなだったんだ!皆揃って同じ事を言ってるからめっちゃ気になってきたよ。
その後皆それぞれ自己紹介してくれた。全員に以前どう呼んでいたか聞くと、兄弟は名前の後に兄様・2人の母も名前の後に母様と付けて呼んでいたそうだ。姉様は一人しかいないので姉様だけ。当然父親も1人なので単純に父様と呼んでいた。
ちなみに全員の見た目は、
父様→藍色の髪・翠の瞳
セレス母様→水色の髪・瞳
ヒスイ兄様とフレイ兄様→藍色の髪に水色のメッシュ・翠の瞳
クリス姉様→水色の髪・ 水色の瞳
ディアナ母様→青い髪・琥珀の瞳
アクア兄様→青い髪・翠の瞳
とこんな感じだ。
兄弟それぞれ両親どちらかの髪や瞳の色を受け継いでいる。うちは代々翠の瞳を受け継いでいるらしく、特に男の子にはその傾向があるとのこと。
確かに3人の兄様全員翠の瞳だ。
それに家族全員青系統の髪色だからグラデーションみたいだ‥‥しかも見事に美形揃い‥‥何この美形家族。この世界は皆こんな美形が当たり前なのかな?
そして全員が口を揃えて言った私のこと。「熱が出る前と後で雰囲気が違う」と。
ここには朝食を食べに集まってるのを皆が思い出し、ちょうど自己紹介も終わったタイミングだったこともあり、その後の話は朝食を食べながらすることになった。
改めて全員が席に着いて食べ始めたところで、
「えっと、ねつがでるまえのわたしってどんなかんじだったのですか?‥‥まえのままがよかったですか?」
「いや。今の方がいい。前のマリンは良く言うと天真爛漫、悪く言うとわんぱくだな。屋敷の中を走り回って落ち着きというものが無かった。」と、父様。
「「「「「「確かに。」」」」」」
父様と私以外の声がハモった‥‥そんなにやんちゃだったのか‥‥
そして食後。
私にとっては体の異常もなければ動けるので平気だと思うのだが、とはいっても「一週間も寝たままだったんだから念のためまだ安静にしているべきだ。」と父様を始め家族全員に言われ、自分の部屋に戻されほぼ監禁状態になった私。
私が部屋から出ないようにシャーリーも監視として一緒にいる。
監禁だよね。これ。
部屋にいても特に何もすることもないし、さっき聞けてなかったことをシャーリーに聞いていこうかな‥‥。
「ねぇ。シャーリー。きいていい?」
「はい。なんでしょう?」
「わたしってよみかきとか、このくにのこととかべんきょうしたりしてた?」
「はい。マリン様の専属メイド兼教育係のようなお役目をいただいてますので、私がマリン様に読み書きやこの国の一般常識等お教えし始めたばかりぐらいですね。」
「はじめたばかりだったんだ。じゃあそれはすぐとりもどせるよね?」
「そうですね。問題ないかと。」
「じゃあ、このままあんせいにしてろっていわれてもひまでしかないからさ、さっそくまたおしえてくれる?」
「‥‥そうですね。まあ動き回らなければいいですかね。分かりました。教材をお持ちしますので少々お待ちください。部屋から出ないでくださいね!」
「は~い!」
笑顔で返事した私を見て安心したのか、シャーリーは教材を取りに部屋から出ていった。
戻ってきたシャーリーが勉強を始める前に色々教えてくれた。
まず、1年は365日で12ヶ月。1日は24時間で、四季のようなものも移り変わりは緩やかだがあるらしい。で、今は夏のような季節(7月ぐらい)で、私の兄弟で唯一王都の学園に通っている長男のヒスイ兄様は夏休みでこちらに帰ってきてるだけだそうだ。
元日本人としては時計の見方まで同じでありがたい!
ちなみに食堂に時計はあった。っていうか各部屋にあるらしい。私の思った通り、まだ時計が読めないはずの私の部屋にあっても意味ないだろう。ということで置いてないと。
でもこの世界の時計。どうやって時間合わせたとか、どういう構造で秒針が動いてるとか謎だし分からない。
‥‥分からないままでいい気がする‥‥
と、話していると外が騒がしくなってきたので部屋のベランダから覗くと、そのヒスイ兄様が訓練場で魔法の練習をしていた。
魔法だ!こんなすぐ見れるなんて!実際に魔法を見ると異世界にいるんだな~と実感するな~
とか思ってるのを必死で隠し、知らないふりしてあえてシャーリーに聞いてみる。
「いま、ヒスイにいさまはなにしたの?ヒスイにいさまのまえにあったやつ、いちぶこわしちゃったけど。」
「あれは魔法ですね。本人の資質と神様に頂く加護によって力量は異なりますが。ちなみに今ヒスイ様は風系統の魔法の練習をしてらっしゃるようですね。正面にあるものを的にして精度と命中の確認だと思われます。」
「へ~!わたしもできる?」
「まずは5歳になったら受ける洗礼で神様に加護を頂かないと分かりませんね。なので後2年待って頂いて、教会で洗礼を受けた後、加護がもらえたかどうかによります。マリン様が魔法を使えるかどうかは神様次第ですね。」
「そっかぁ‥‥まだつかえないんだ‥‥ん?5さい?アクアにいさまはせんれい、うけたの?」
「はい。ちょうどマリン様の熱が下がった頃に。」
「じゃあアクアにいさまもまほう、つかえるの?」
「私はまだアクア様に魔法を見せて頂いてませんので‥‥どうでしょうね?」
シャーリーと話していると兄弟全員訓練場にきて次々と魔法の練習を始めていた。
「あっ!ヒスイにいさまだけじゃなくて、ねえさまとにいさまたちもみんないる!‥‥‥みんなつかえるんだ‥‥いいな~。わたしもはやくにいさまたちみたいにまほうつかえるようになりたいな‥‥。」
「マリン様は魔法を使える様になったら何がしたいですか?」
「え?う~ん。いまのところ、まほうはにいさまたちがれんしゅうしてるのをみただけだからな‥‥シャーリーがいったようにししつによってできることがちがうなら、いまはなにがしたいっていうのはないかな。」
あぶな!危うく治癒系って言いそうになったよ!まだ治癒とか回復の魔法があるか分からないし、言い方とかも治癒や回復じゃないかもしれないし。
「確かにそうですね。すみません。このままベランダにいると皆さんに後で怒られてしまうかもしれませんし、部屋に戻ってお勉強しませんか?」
「うん。そうだね。もどろ。」
そして一緒に部屋に戻った後、まずは読み書きから教わった。
さすが魂以外は3歳児。スポンジが水を吸うようにスラスラ覚えられる。数ヶ月であっという間に読み書きをマスターした。
それにシャーリーが大喜びしていた。
兄達でも1年はかかったのに!と。
あまりの喜び様にちょっと引いたのは誰にも言えない‥‥実際シャーリーの教え方は分かりやすかったと思っていたのでそれは本人にも伝えたが。
そしてこの数ヶ月の間でさすがに敷地内に限るが屋敷の外に出る許可が降りた。つまり訓練場にも出ていいということである。既に夏休みが終わり兄弟の中でヒスイ兄様だけ王都に行ってしまったが、他の兄弟達はいる。
そしてさすが辺境伯家だけあり、家の独自戦力たる兵士さんもいる。兵士さんには女性もいる。つまり女の子が剣を教えて欲しいといっても駄目だと言われないすばらしい環境なのである。
魔法が通じない相手には剣だからね。備えておくに越したことはない。護身術にもなるだろうし。と言って訓練に参加させてもらい始めた。3歳児なので軽くだが。
さて、剣を教えてもらいつつ時間を分けて勉強を続け、読み書きをマスターした私が次にやることといえば本を読むことだ。もちろん魔法の本を。と思って屋敷の図書室に行ったのだが。
‥‥高い。本棚が高くて目的の本に手が届かない‥‥3歳児ってやっぱりちっさい‥‥。
現実を見た私は自分で取りに行く事を早々に諦め、私の歴史の勉強の為に本を取りに行くシャーリーに頼んだ。
「今魔法の本を読んでも魔法は使えませんよ?」
「うん。でもちしきとしてしりたいから。」
と言って魔法に関する本をどんどん読んでいった。
もちろん読むだけではない。
シャーリーのいない1人の時に部屋で実験する危険を早々に思い知らされた私は、まずは魔力循環の練習だけすることにした。
本の最初の記述にあったのだが、魔力循環の練習は魔法を使う上での基礎で練習を続けることで魔力量が上がったり、魔法を発動させる時にスムーズになるらしい。
ある程度感覚を掴んでまた魔法の練習をしようと思ったが、さすがに部屋ではできないので魔法を使うのはこっそり訓練場とかで試した。
多分全属性使えるんじゃないか‥‥?
兄様達は皆1・2属性だけじゃなかったか‥‥?
大丈夫なんだろうか‥‥。
少しの不安を抱きつつ剣とこっそりの魔法の訓練を頑張っていると、あっという間に2年が経った。
いよいよ洗礼の年だ。
※2021,9,2 改稿しました。