311話 初めて見る一面。そして─
お待たせして申し訳ありません!
なんと今度は3ヶ月ぶりらしく‥‥ほぼ毎日、しかも1日に数話投稿していた最初の頃が懐かしいですねぇ‥‥
━謁見が終わったあと。
私は今年も同じ部屋のリジアとルビアと共に客室へと戻ってきた。
「‥‥ねぇ、マリン。」
「ん?なに?リジア。」
「皇帝陛下、報酬の件で『別でほしいものは?』とか仰らなかったわね?」
「そういえばそうだね。─あとでか‥明日とかかもよ?」
「先程は到着したばかりだからと簡潔に済ませてくださっただけ。ということですの?」
「そうそう。」
「あ‥なるほど‥‥」
「初めて来た時はその日の内に模擬戦させられそうになったぐらい、気を使うって言葉を無視した方だったけどね。後で周りの方々からの非難が凄かったのかもね~。」
「「‥‥‥」」
「あの時はその場で皇后様が止めなかったら、謁見直後にすぐ模擬戦になってたんだろうな~。」
「「‥‥‥」」
マリンの当時の話に引く2人。
「‥‥ま、マリン?もしかして、その、仮にそのまま模擬戦になっても‥‥」
「? もちろん、あの時すぐにって言われても問題なく叩きのめして差し上げられたけど?」
「でしょうね‥‥」「だと思いましたわ‥‥」
今度は苦笑いを浮かべた2人。
そうして雑談をしていた3人はその後、呼びに来たメイドの案内で食堂へと向かった。
到着した食堂には既に全員が集まっていて━
「あら?私達が最後でしたか‥‥─お待たせしてしまいましたか?」
「いや、全員が集まるまでそれぞれそんなに時間差はなかったから気にするな。」
「それならよかったです。」
私と陛下がそんな会話をしている間にリジアとルビアも含めて全員が席についた。
そうして夕食を食べ進めていると━
「マリン。このあと─食後な。話したいことがあるんだが、時間もらえるか?」
「? はい。大丈夫ですが‥‥?」
「んじゃ、サロンに行くぞ。」
「分かりました。‥‥ちなみに、もしや2人きりですか?」
「いや?レグルスやシリウス。ラルクも誘ってる。」
「‥‥‥なんとも不思議な面子ですね‥‥」
「そうか?─国の代表と王国の絶対的守護者一族の天才。
─真面目な話をするなら必要な人選だろ?」
「え?‥と、父様。空耳でしょうか?陛下から真面目な話をと聞こえたのですが‥‥」
「マリン~?」「残念ながら空耳ではない。」
私の失礼極まりない発言に当然陛下は非難する眼で私の名前を呼び、父様は至極真面目に『空耳ではない。』と。
父様の表情を見る限り、私の反応は理解できるらしい。
「お前らほんと親子な。─ラルクと似たような反応しやがって‥‥」
「え?」
なんと、父様も理解できるどころか似たような反応を返したらしい。
陛下は呆れたといわんばかりの表情に変わっていた。
なので、私は改めて陛下に問い返した。
「陛下、真面目な話とは‥‥?」
「まあ、色々な。」
そう言って止まっていた食事の手を再び動かした陛下。
私達もそれに倣って食事を再開した。
食後。
リジアやルビア、陛下に呼ばれてない一同には先に部屋に戻ってもらい、私達は陛下の案内で城内にあるサロンに通された。
人数分の紅茶を用意したメイド達も事前に指示されていたのか、すぐにサロンから出ていき、サロンの中は私達だけになった。
全員がローテーブルを囲む様に配置されたソファーに座ったのを確認した陛下は、対面に座る私と父様を見据え━
「ラルク、マリン。ここに到着する前にあったことはレグルスに聞いた。」
白竜さんのことだろう。
「マリン。明日、すぐにでもセツナ様のところに?」
「はい。そのつもりですが‥‥?」
やっぱり、白竜さんのことらしい。
「なら、明日の俺との模擬戦前に向かってくれ。そっちが優先だ。」
「え?─は、はい。分かりました。」
「あと、そのときに青龍殿に頼んでほしいことがある。」
「へ?‥─な、なんでしょう?」
「その前に、この世界の竜が帝国と王国にいるので全てだと思うか?」
まさかの質問返し。
だが、陛下の問いは『そういえば、確かに聞いたことなかったな‥』と感じるものだった。
「‥‥すみません。空に確認したことなかったです。」
「そうか。─俺の予想では、他の国にもそれぞれ縄張りの様にいるんじゃないかと思っている。あと、知らないだけで無人島とかあれば、そういうところとかな?」
「ああ~‥‥確かにあり得ますね‥‥」
「だろ?」
「はい。‥‥ということは、陛下の空への頼みは帝国と王国に限らず、全ての竜族をまとめてくれ。とかですか?」
「正しく。ざっくり言うとそんな感じだな。」
「分かりました。頼んでみます。」
「悪いがよろしくな。─帝国領内の竜がやっぱり落ち着きがなくなってきてるらしくてな。たまに報告が上がってきてたんだ。だから、マリンと白竜の会話は納得したよ、そういうことか。とな。」
「え!?報告が上がってたんですか!?」
「ああ。多分、王国もじゃないか?シリウス。」
とシリウスに視線を移しながら問い掛けた陛下に、シリウスは苦笑いで答えた。
「ええ。出発前に父上から少し話は伺いました。─王国は青龍殿がいらっしゃった場所ですから、竜達の混乱も王国が一番早かっただろうな。と。」
「え!?シリウス、言ってくれたらよかったのに。─陛下もだけど。私の誕生日より、こっちの方がよっぽど重要じゃない!」
「悪い。俺も話を聞いたのは本当に出発前なんだ。父上もまさか竜の大戦争勃発危機とは分からなかっただろうし‥‥」
「あ。‥‥なるほどね‥‥」
私が苦笑いで答えると、陛下の視線は私に戻ってきた。
「で、いいか?マリン。」
「はい。もちろんです。」
「助かる。─で、話はこれだけじゃないんだ。」
『え?』
陛下以外の4人全員の声が被る中、陛下は私とシリウスの顔を見たあと、私に向かって頭を下げた。
「え!?あ、あの、」
「マリン。さっきも謁見で言ったが、交流会の時と国際的な誘拐事件の件だ。─改めて帝国の民を救ってくれたこと、心から感謝する。ありがとう。」
『!!!』
4人が驚く中、陛下は顔を上げたと思ったら苦笑いを浮かべた。
「俺も一応、皇帝だからな。国の代表として、皆がいる前で頭を下げる訳にはいかないからな。」
(ああ、そういうことか) 全員が心の中で納得した。
「だが、マリンには度々世話になってるからな。一度くらいはちゃんと頭を下げて感謝とか伝えるべきだと思ってな。
─時間もらえてよかった。」
「ふふっ。そういうことでしたか。─この限られた人選なのもそういう意図ですか?」
「ああ。もちろん。─王太子に恩人の令嬢。息子だけなのはさすがにな、と思ってラルクにも参加してもらった。─シリウスにも感謝してるし、伝えるつもりだった。レグルスは俺の後継ぎなんだから、しっかり見とけってことな。」
「ふふっ。なるほどです。」
すると、ここまでほぼ無言だった父様が陛下に問い掛けた。
「なら、この場は私的な集まりってことだよな?ベアル。」
「ん?─ああ。」
その返事を聞いた父様はじとんとした眼を陛下に向けた。
「ベアル。感謝はマリンと殿下だけか?」
「ん?‥‥ああ。」
ちょっと考えたが、結局頷いた陛下。
すると、父様は機嫌が悪くなったとはっきり分かる程眉間に皺を寄せつつ、不機嫌全開で━
「ほ~う?」
「ら、ラルク?」
「あ?なんだ?」
「え?な、なんで怒ってんだ?」
「あ?わかんねぇのか?」
と、父様の口調が崩れた!?
と驚きが先にきた私は隣の父様の表情を改めて見上げた。
絶対零度の様な視線を陛下に向けてました。
初めて見ました。
こ、怖いです。
綺麗な緑の瞳が‥‥普段は穏やかな色合いのその瞳が‥‥今や冷気しか感じません!
そんな私に気付くことなく、父様は更に続けた。
「じゃあ、もうお前の我が儘は無視していいんだよな?ベネトの卒業式前みたいに皇帝の地位を振りかざそうと無視でいいな?」
『!!!』
父様の言葉に唖然とする私達。(陛下も含めて。)
「それを持ち出すのか!?」
「当然だ。─マリン。」
「!! は、はい。」
「? どうした?」
突然私の方を向いた父様は私の反応にきょとんとした。
うん。私には優しい父様のままだった。
あの絶対零度の視線どこいった?
─もちろん、ない方がいいけども。
そんなことを感じつつ答える。
「い、いえ、ちょっと見たことがなかった父様に戸惑っただけです。─それで、なんでしょうか?」
「前世のことわざ。前に少し教えてくれたろ?─こいつにも教えてやってくれ。こいつにこそ言うべきものがあっただろ?」
「ああ、そういうことでしたか。─確かにありますね。」
私は父様が陛下を『こいつ』呼ばわりするのをスルーすることにした。
「ではでは。陛下?」
「お、おう。」
「ふふっ。陛下に贈る前世のことわざをお伝えしますね?」
『‥‥‥』
ものすごく気まずそうなシリウスとレグルスも気にせず続けた。
「『親しき仲にも礼儀あり』です。─これのことですよね?父様。」
「ああ。─ベアル。お前にこそ、この言葉を心に刻めと言いたいのだが、どうだ?」
「‥‥‥」
無言でスーっと視線を明後日の方向に逸らす陛下。
だが、視線の先にはレグルス。
なんとも言えない表情で少しの間レグルスをガン見したあと項垂れた陛下。
‥‥‥と沈黙すること多分数秒。
「‥‥色々すまん。そして、数えたら色々浮かぶが‥‥総合して改めて言わせてくれ。─ラルク。度々我が儘に付き合わせてすまん。そして、助かったことや救われたことも沢山ある。ありがとう、ラルク。」
「‥‥‥」
と数秒陛下を観察した父様はため息を一つ吐いたあと、仕方ないなといわんばかりの表情で返した。
「まあ、及第点だな。─皇帝の立場を考えたらそれが限界でもあるか‥‥」
「だと思います、父様。」
「ああ。‥‥しかし、我が儘の自覚があるのも考えものだよな‥‥」
「ですね‥‥」
辺境伯親子の容赦ない言葉に『うぐっ‥』と追加ダメージを負ったベアル。
「まあ、とりあえずいいか。─で?ベアル。話は他にもあったりするのか?」
「お、おう。─マリン。」
「? はい?」
「報酬、ギルドランクの昇格だけだと功績に見合ってないと思うんだ。だから、報酬何がいいか聞きたい。」
そう言った陛下に答えたのは、私ではなくレグルスだった。
『予想はできてるだろうけど』と前置きをした上で私に物欲がないため、国王陛下も毎回報酬に困っているということを話した。
それを聞いた陛下はため息を吐いて呟いたものの、続く言葉は確認する様に私を見ていて━
「やっぱりかよ‥‥─でも、帝国ならマリンが欲しがるものはあるし、その予想もできる。ミソとかショウユとかが欲しいんじゃないかと思ったんだが‥‥」
「ふふっ。正解です、陛下。」
「そっちもやっぱりか‥‥─本当にそれでいいのか?」
「はい。お米と鰹節つきでお願いします。」
『‥‥‥』
私に呆れ顔を向ける一同。
そして呟く陛下。
「‥‥欲が無さすぎだろ‥‥民達の命の恩人に対するお礼が食べ物とか‥‥いつも買取りしたりしてるのが無料になるだけじゃねぇか‥‥」
「ですね。─でも、それ以外でと申されましても出てこないのが本音でもありますから‥‥」
「だろうな。─まあ、マリン本人がそれでいいってことならいいか。」
「ふふっ。─本人が望んだなら、他人に文句を言われる筋合いはありませんから。後々苦言がくる様ならそう仰ってください。」
「ああ。そうさせてもらうよ。」
これで陛下の話は終わりだったらしく、『時間くれてありがとな』との言葉をもらって解散となった。
部屋に戻ったあと、リジアとルビアに『やっぱり別で報酬をと言われた』と話し、休んだ。
◇◇
━翌朝。
ちなみに朝食後。
《雪奈姉~》
《‥‥ん?鈴?》
《うん。朝からごめんね。急だけど、今から行っていい?》
《? いいよ?》
《ありがとう!》
ということで、私はまだ食堂にいたので集まっている一同にも『行ってくる』と告げてゲートで雪奈姉と柚蘭が暮らす家に向かった。
やっぱり外にいた四神達に挨拶したあと、雪奈姉達の家の扉を開けて中に入った。
「お。久しぶりだね、鈴。」
「あ、本当に来た鈴。─突然どうしたの?」
中で待ち構えていたのか、雪奈姉と柚蘭がいたので、まずは挨拶したあと━
「久しぶり。─今回は空に用事があってね。2人にも聞いててもらいたかったから、お邪魔したの。」
「「え?」」
「空って、青龍だよね?」
「うん。そうだよ、柚蘭。これから空に用事の内容を話すから、2人共一緒に来てくれる?」
2人共頭に?を浮かべているだろうけど、頷いてくれたのでまた外に出て、四神達のところに戻った。
「空。」
〔あら?セツナ様方にご用事ではなかったのですか?〕
雪に問われたので、答える。
「うん。─空に相談があって来たの。」
「「相談?」」〔〔〔〔相談ですか?〕〕〕〕
「うん。」
そうして、白竜との話を伝えると‥‥
「「‥‥‥」」〔〔〔〔‥‥‥〕〕〕〕
空は気まずそうにしており、他は呆れ混じりに━━四神達の反応は多分が付くが━━空を見ていた。
「えっと‥‥空?ちなみにセレスティン王国と帝国以外にも竜達の住処はあったりするの?」
〔‥‥ございます。〕
「ど、どこかな?」
〔‥‥各国一ヵ所ずつ‥‥と‥〕
『と?』
〔‥‥魔族の国の更に北の地とディクロアイトの更に南の地にもございます。〕
「お、おお‥‥な、なかなかにいるんだね‥‥」
〔はい。‥‥一ヵ所に固まると面倒なことが多発したので、地方に追いやってたらそんなことに‥‥〕
『‥‥‥』
私達と他の四神達が無言になったが━
「えっと‥何かしらの問題を起こしたやつをバラバラに追いやってたらその地に根付いていった‥と?」
〔‥その通りにございます。─竜にとっては悪戯程度でも、人間にしてみればたまったものではないことはございますでしょう?〕
「うん。」
〔そうして看過できないことをしでかした者達がバラバラに去って行き、その者達が各地にそれぞれ根付いた結果が現状でして‥各地で根付いたあとも一応警戒はしておりましたが、追いやられた経験があるからか、各地ではそんなことはなく‥‥〕
「一回で学んでくれたなら良かったじゃん。」
〔ええ。‥‥ただ、私は神獣だからせめて地上にいる間ぐらいは竜達を纏めないと。という思いでやっていただけだったのですが‥まさか王の様に思われていたとは‥‥〕
「いや、竜族達を束ねてる時点で王の様なものじゃん‥」
「だねぇ‥‥」
「私もそう思う。」
〔ゆ、ユラ様やセツナ様まで‥‥〕
「それで、統治してくれてた存在がいきなり消えたから竜達が混乱してるんだろうってことね。」
〔はい。そうだと思います。〕
「‥‥あのさ、一応聞くけど‥雪や朧や焔はそういうことないよね?」
〔え?─はい。ございませんよ、マリン様。例え暴れようとも、竜達と違って人間でも対処可能ですから。私は束ねる必要はありませんでした。‥でも、協力を仰げば聞いてくれますよ。〕
〔私も雪と同じくです、主。‥‥鳥ですし‥‥〕
〔私も同じくですよ、主君。‥海の生き物とかでしたし‥〕
「な、なるほど‥‥そ、それで、空。任せていいかな?」
〔はい。もちろんです。‥むしろ、考えが至らず申し訳ありません‥〕
「ふふっ。いいよ。今のところは被害ないし。─でも、被害が出る前にお願いね?」
〔はい。〕
そうして話に一段落つくと、柚蘭が━
「ねぇ、青‥じゃなかった。空。」
「柚蘭。呼びやすい、というか慣れてる方でいいと思うよ。─ね?空。」
〔はい。セツナ様やユラ様からは青龍と、主様からは空という名前を頂いてからそれぞれで呼ばれ慣れております。なので、問題ございませんので、お好きな方でお呼びください。〕
「分かった。じゃあ、青龍。」
〔はい。なんでしょう?〕
「一つ聞きたいんだけど、その前に帝国であった大規模討伐のことは知ってる?」
「「!!」」〔〔〔〔!!〕〕〕〕
柚蘭以外の全員が驚く中、空がいち早く反応を返した。
〔‥もちろんにございます。〕
「なら聞くね?─鈴から聞いたけど、その大規模討伐の部隊のところに竜達が来たらしいの。その竜達は青龍の眷属だったりした?」
全員の視線が空に集中した。
すると、僅かな間のあとで空が答えた。
「‥はい。竜族ですから、私の眷属にございます。」
「「「!!!」」」
「じゃあ、この世界に転生した父さんを‥」
〔!!! それは違います!!〕
「「「!!!」」」
珍しく空が慌てた様に柚蘭の言葉を遮った。
私達はいつにない空の様子と否定の言葉に驚いたものの━
「‥‥最初に鈴の話を聞いた時から青龍に確認したかったけど、できなかった。」
柚蘭の言葉に私や雪奈姉も頷いた。
もし、空が肯定したら。
私達は3人共、空が直接の関係がなかったとしても、きっと許せない気持ちを持ってしまうかもしれないから。
でも、それは嫌だった。
空だって長年柚蘭の封印を守る一端を担い続けてくれていたし、あの遺跡の暗い中にいながら竜達を統治してくれていたのだ。
だからこそ━
「‥けど、やっぱり聞いときたい。─青龍。違うならそっちの方がいい。ちゃんと聞かせて。」
「私からもお願い、空。」
「私からも。」
〔もちろんですよ、ユラ様、主様、セツナ様も。〕
そう答えてくれた空は数秒後、改めて話し始めてくれた。
時間を見つけてちまちま書いてはいるのですが‥‥
違う作品を思い付いてそっちにシフトしてしまったりで全然進まない‥‥
ということで、当初の内容の進め方を忘れてこの作品を読み返して思い出しつつ書くことになってずるずると‥
ここ最近はそんな感じで1話書くだけでこんなに間が空いてしまう。
それでも読み続けてくださる方々を作者は本当に尊敬します。そしてありがとうございます。