310話 学生最後の‥‥
━さて。五年に進学してからの数ヶ月も色々あったが、過ぎていき。
毎年恒例の期間に。
そう、夏休みである。
例の如く王城に呼ばれたマリン達はいつもの一室に通されていた。
お互いに挨拶を交わし全員が座ると、アトラスが若干疲れた様子で告げた。
「全員分かっているだろうが、帝国行きの件だ。今年は去年と違ってヒスイ達やフレイ達は招待されてない。─これもリリとマリアの妊娠が判明した時に話していたから分かっていることと思う。」
『はい。』
マリン達は頷いて答えたが、マリンだけ口を開いた。
「陛下、すみません。もしかしてちょっとお疲れですか?」
「ん?─ああ、ちょっとな。」
「後で体力回復掛けますか?」
「ああ~‥‥帰り際、頼めるか?」
「いいですよ。」
「助かる。─続けるな。」
「はい。」
「シリウスは今年から公務としての側面ももつことになる。いわば外交だ。─分かってるな?シリウス。」
「はい。もちろんです。」
「とはいえ、毎年行ってるからな。相手もベアルだからそこまで身構えずとも問題ないだろう。後々皇帝を継ぐ皇太子が友人だしな。」
「まあ‥はい。─ですが、それに甘んじてばかりではレグルスに絶縁されかねませんから、努力はさせて頂きますよ。」
「ああ。それでいい。─マリンは今年が最後か?」
「ん~‥どうでしょう‥‥?ふらっと帝国に行ったりはするでしょうけど、夏休み時期に毎年っていうのは最後かもですね。‥‥卒業したら気まぐれで動くでしょうから、分かりません。」
「そうか。」
私が曖昧なまま素直に答えると、軽く笑ってそう答えた陛下は、息を吐いて続けた。
「ああ、招待されている面々を言ってなかったな。─とはいえ去年とほぼ同じなんだがな。ヒスイやリリ、フレイやマリア以外は全員同じだ。」
「ということはリジアも招待されてますよね?」
「ああ。」
「良かった‥‥」
『‥‥‥』
マリンのほっとした様子に若干呆れ混じりの一同。
「助け合い精神は健在か‥‥」
「もちろんです!」
「そうか。─とりあえず、話は以上‥‥なんだが‥‥」
「陛下にとっては今が休憩時間な感じですか?」
「正直、そうだな。─皇太子やベネトがいる前で本来は良くないんだがな。」
「我々のことはお気になさらず。父上もたまにそうなってましたから、どこも一緒なんだなと感じていたぐらいなので。」
「同じくです。」
「そうか。‥‥さすがにベアルでも疲れるか‥‥」
そう言って苦笑いを浮かべた陛下に聞いてみる。
「陛下、今から掛けますか?体力回復。」
「‥‥そうだな、頼む。」
僅かに迷った様だが、頼まれたのは変わらないので、早速と体力回復を掛けた。
「いかがでしょう‥‥?」
「全快とまではいかんが、良くなった。─もう一頑張りできそうだ。ありがとな、マリン。」
「いえ。─陛下、去年まではそこまでお疲れではなかったですよね?今年は何かありました?」
「突き詰めるとそなたのことだ、マリン。」
「え?」
「魔族の国以外の周辺国全ての支持を得ているだろう?」
「‥‥そう‥なります‥‥か?」
「ああ。ルシアが闇ギルドのギルドマスターだった頃に行っていた誘拐や人身売買等の件。あれが防げなかったのは悔しく、仕方ないところもある。当時の被害者達も全員は追いきれんしな。それ以外での国際問題になり兼ねなかったことをいくつも回避してくれただろ?」
「‥‥救国のとか付いてくる様になったきっかけの話ですよね?」
「ああ。犯人一味である、ルシアと闇ギルド時代の部下達。─全員ではないだろうが、捕らえただけでなく、被害者達を救い出し、浄化で闇魔法の影響を取り除いてから帰国させただろ?」
「ですね。」
「そのお陰でルシアという大罪人を出した国といえど、そこまでの非難は来なかった。むしろ、悩みの種を無くしたことで感謝すらしているんだよ、マリンに対してな。─マリン。そなたのギルドランク昇格に際して各国と調整した時、そういう話も出てきたんだ。ここで話したあと、議会に掛けたりしている間にやはりディクロアイト王国やセレナイト連邦国からも昇格に賛成だという旨の文書が届いたんだ。」
『え!?』
「マリン。そなたが思っているより世界各国からの評価は高いぞ。─最近までそういったやり取りを各国としていてな。毎年の忙しさは慣れているから問題なかったが、そこに加えてベアルだけではなく、教国、ディクロアイト王国、セレナイト連邦国。それぞれと文書のやり取りしていたからな。
‥‥マリン。」
「は、はい‥‥?」
なんか途中から褒められてるのか、愚痴られてるのか、分からないなとか思っていたので、曖昧に返事すると、陛下はなんとも言えない表情で聞いてきた。
「もう、いいだろ‥‥?功績は。」
『‥‥‥』
「ええっと‥‥私、功績がほしくて頑張った訳ではありませんよ‥‥?」
「ああ。それも分かっとる。意図せず巻き込まれて、功績に変わるのもな。‥‥マリンが男だったら爵位を渡して、功績を上げる度に昇爵させれば良かったんだがな‥‥─マリン。国に貢献してくれるのはありがたいが、次からは報酬は何がいいか考えておいてくれ。ラルクと相談してくれと丸投げされたらされたで迷うのだぞ?」
「うっ‥‥。─そ、その、陛下。褒めたいのか、愚痴りたいのか、文句を仰りたいのかは分かりませんが、どれかに絞って頂けませんか?」
「‥‥どれもがマリンに言ってやりたいことだったのだ。人は疲れると自棄になることがあるだろう。」
「‥‥‥そう‥ですね。」
「まあ、でもある程度言ったから程々の満足感を得ることができた。」
「では、休憩になりました?」
「ああ。─他の者達もだ。付き合わせてすまなかったな。」
『いいえ。』
「では、明日出発ですし私達はお暇させて頂きますね。」
「ああ。」
その後ようやく解散となり、私達はそれぞれ帰路についた。
翌日。
出発の準備が整い、帝国に向かう一同も集合したため、出発した。
今年は姉様だけではなく、ヒスイ兄様とリリ姉様も一緒には来ない。
フレイ兄様とマリア姉様も領地でお留守番組。
フェリシアちゃんとアイド君が生まれたばかりなので、馬車に乗せて移動させる訳にはいかないからだ。
なので、私達兄妹の中で帝国まで向かうのは、私とアクア兄様だけなのだ。
そしてやっぱり今年も私とリジアはシリウスやレグルス達と同じ馬車だった。
なので王都の検問を通って街道に出た頃、早速話し始めた。
「そういえば、レグルス、ベネトさん。」
「「ん?」」
「私、帝国に行ったら陛下に報酬は何がいいかとかもう聞かれないよね?」
「ああ~‥‥」
「どうだろうな‥‥伯父上─陛下ならまた別でなんか言えとか言いそうな気もするけど‥‥」
「そうだな。私もそんな気がする。」
「‥‥‥」
それにマリンは一瞬『面倒くさい』と言わんばかりの表情を浮かべたが、ふと気付いた。
「あ。─帝国ならお米とかもらえばいいんじゃん。」
『あ。』
馬車内の一同が納得した表情を浮かべた。
「陛下が本当に別で何か言えってことならそうするし、そうでなくとも買い取りしたいな‥お米に醤油に味噌に鰹節。」
『‥‥‥』
マリンの前世を教えてもらっている一同はこの発言に対しても『だろうね』としか感じなくなっていた。
その後はマリン以外の面々もサーチを訓練を兼ねて始めた。
そのまま何事もなく領地の辺境伯邸に到着した。
留守番組だったフレイやマリアとお互いに挨拶を交わしたあと、やはりマリアの腕の中のアイドに注目が集まった。
「アイド君、私の誕生日以来だ~!─可愛い‥‥」
「だな。─そういえば姉上、アイドの瞳の色は?」
「あら?‥‥あ、リゲルやルビアがいる時、ずっと寝てたから見てなかったわね。」
「「はい。」」
「ふふっ。フレイ様譲りの綺麗な緑よ。」
「あ。では、私の予想通りだったんですね。」
「ええ。─って、マリンちゃんも見てなかったかしら?」
「はい。」
「あらら。‥ふふっ。とても綺麗な色なのよ?宝石に例えるならエメラルドみたいに。」
「マリア、褒めすぎだから。─なんか俺の瞳の色までそう言われてる気分になる。」
『え?』
「フレイ兄様の瞳の色も綺麗ですよ?」
「え?」
「私は父様譲りの兄様達の瞳の色、綺麗だな~ってずっと思ってましたよ?」
「「「え?」」」
父様、フレイ兄様、アクア兄様がきょとんとした。
すると、母2人がお互いに話し始めた。
「ふふっ。私もヒスイやフレイが見事に父親譲りの緑で綺麗だと思ったものだわ。」
「私もよ。アクアまで綺麗な緑だったから、辺境伯家の血筋はすごいものだと思ったわ。」
「その代わりの様にクリスは私と全く同じ色合いで、嬉しかったのよね~。」
「私もマリンが全く同じ色合いで嬉しかったわ。」
「まあ、私達の髪色なら息子達にもあったけどね。」
「ふふっ。そうね。アクアも髪色だけは私と全く同じだものね。」
母2人が盛り上がっているが、今いるのは玄関扉を通った先だ。一応屋敷内だが、応接室とかですらない。
なので━
「全員、いい加減動こうな?話したいことがあるのは分かるが、話は後でいくらでもできるだろ?」
と父様の静かなる怒りの言葉が落ちた。
━全員、さっさと各自の部屋に荷物を置きに向かった。
さて。
毎年やっていた兄妹対決。
今年はクリスだけではなく、ヒスイもいないため、やるとしたらフレイとアクアで2対1。
なので、兄妹対決はせずに友人対決のみした。
リジアは入らなかったけど。
それをキラキラの瞳で見ていたリオトとルビア。
その後は去年の剣術・魔法大会でマリンが見せた魔法を教える時間に変わった。
ただ、フレイ、ベネト、リジアは風や水の属性魔法を使えないため、見学になってしまったが。
そうして、概ね例年通りに過ごした一行はフレイやマリア、アイドだけお留守番も‥‥ということでセレスもお留守番組となり、それ以外の面々で帝国に向けて再び出発した。
そして、順調に旅路は進んでいたが、例の黒と白の竜が別々の年に迫って来ていた街━━レグルスによると『ジュラメント』という名前らしい街に近づいてきたところで、私達は馬車を止めた。
何故かというと━
「えっと‥‥何してるんだろうね‥‥?」
『さ、さあ‥‥?』
私達一同の視線の先にいるのはジュラメントという街の近くにちょこんと座っている白竜さん。
多分、一昨年に私が怪我の治療をしてあげた古竜さんではなかろうかと思われる。
ただ、本当に何をするでもなくちょこんと座っているだけなのだ。‥‥まあ、『ちょこん』という表現が合っているかは微妙なのだが‥‥
「ん~‥‥」と声を溢しつつ白竜さんを少しの間見ていたのだが、当然状況は変わらないので‥‥
━━ちなみに街の人達はというと、多分街の中にいるままだと思われる。兵士さん達が城門辺りから白竜さんの様子を窺っているだけっぽい。━━
「じゃあ、ここはやっぱり私かな。」
『え?』
「あの白竜さん、多分一昨年怪我の治療してあげた竜だろうから、空の眷属なの。」
『え!?』
「念話できるだろうから、話してくる。」
『‥‥‥』
頷く友人達。
そんな中、父様はいつも通りだった。
「マリン。気をつけてな。」
「はい。─兵士さん達が見てますし、程々のところまで姿消して飛んで行きますね。」
「ああ。分かった。」
そして、雲隠を掛け、フライで飛んで行き、街の城門辺りにいる兵士さん達の死角に降り立ち、雲隠も解除した。
「さて。久しぶり‥で合ってるよね?」
そう声を掛けると、白竜さんは念話で返してきた。
《は、はい。お久しぶりにございます、御使い様。》
「早速だけど、どうかしたの?─怪我‥はしてないよね?」
《はい。今回は御使い様をお待ちしておりました。》
「え?私を待ってたの?」
《はい。近づいていらっしゃる気配を感じましたので。御使い様はすぐに分かりますよ。》
「ああ、空の気配と私自身の魔力が高いからか。」
《その通りにございます。─早速ですが、お話よろしいでしょうか?》
「あ、うん。いいよ。」
《昨年、青龍様が姿を消してしまわれましたよね?》
「うん。役目が終わったからね。今は他の四神達と一緒に別のところにいるよ。」
《そうでしたか‥‥では青龍様はご存命ではいらっしゃるのですね?》
「? うん。」
《その‥‥大変申し上げにくいのですが‥‥》
「うん?」
《青龍様が竜達を束ねてらしたので、その‥今、竜達の間で新たなる王を‥と争いが勃発しそうに‥‥》
「は!?」
《その‥御使い様は青龍様が守ってらした地をご存知ですよね?》
「もちろん。」
《その、大陸の東の竜達と、ここ帝国の竜達の間でも覇権争いの様なことが‥‥》
「は!?‥‥え?竜の大戦争的なこと?」
《簡単に申し上げますと、そうです。》
「はあ!?‥‥え?青龍の気配が一年も感じられないから、やっぱり亡くなったのでは‥‥?と竜達は考え、ならば次の竜達を統べる者を!─ってこと?」
《その通りにございます。》
「ついでに東西の実力を探るべく対決して、勝った方の陣営から次代の青龍的役割を決めようと?」
《またしてもその通りにございます。》
「いや、人間からしたらいい迷惑だよ。帝国も王国も滅ぼすつもり?」
《だと思いましたので、相談させて頂きたく‥‥》
「‥‥‥一番いいのは青龍が帰ってくることかな?」
《ですね‥‥しかし‥‥》
「うん。私としても、もう休ませてあげたいかな。」
《ですよね‥‥》
「ん~‥‥一旦青龍に戻ってきてもらって、次代を決めてもらう?」
《そうして頂けるとありがたいのですが‥‥》
「ん。じゃあ、帝都に着いたら相談しに行ってくるよ。」
《よろしいのですか?》
「だって、そうしないと私達で竜を抑えないといけなくなるんでしょ?ちょっと青龍に協力してもらったら解決するなら、その方がいいでしょ?」
《もちろんそうです。》
「だから、行ってくるよ。─あなたは住みかに戻ってて。街の人達怖がってるみたいだから。」
《あ。─も、申し訳ありません。》
「いいよ。でも‥‥私はあなたみたいな竜に次代になってほしいな‥‥」
《え?》
「ふふっ。なんでもない。─じゃあね。」
《はい。》
そうして、私達はまた飛んで別々の場所に戻った。
そのまま父様達と合流し、白竜との会話を共有すると━
全員がまずは苦笑いを浮かべた。
そして、父様とレグルスが代表する様に口を開いた。
「まあ、とりあえずこれからだな。─マリン、ありがとう。それから、その後の青龍殿とのやり取りもすまないが頼むな。」
「はい。もちろんですよ、父様。空がいるのは雪奈姉のところですからね。私しかいけませんし。」
「悪いな、マリン。帝国としてもそうしてもらえると助かるよ。─マリンやあの白竜が話してなかったら竜の大戦争とか‥‥未然に防げるなら、それが一番だからな。」
「うん。」
そんなことがあったあとは平和な道のりで。
無事帝都に到着した私達は相変わらず真っ直ぐ城に向かい━
「セレスティン王国からの客人達、ようこそ。」
という皇帝陛下の一言に礼を返したあと。
「さて。まずはこれからだな。─マリン。」
「はい。」
「偶然とはいえ我が国の民を救ってくれたこと、感謝する。─ああ、あと教国も含めた合同交流会の時もだな、我が国の生徒会一同を迎えに来てくれた時も、事前に盗賊を全員捕縛してくれたんだろ?無傷で帝国に帰国できたのもマリンや護衛一同のお陰でもある。─感謝が尽きないが、それらの功績を加味して冒険者としてのランクを昇格させるよう、王同士でやり取りしたが、無事昇格したんだよな?」
「はい。無事昇格させて頂いております。」
一応、謁見の間にいて他にも護衛だろうけど、兵士さんとかが左右に分かれて並んでいるので令嬢モードで。
「あとで話を聞かせてもらうな。」
「はい。」
「それと、話は変わるが、これは毎年のことだから予想できてるよな?─明日、模擬戦の相手してもらうぞ?」
私は小さく、尚且つこっそりため息を吐いたあとで答えた。
「畏まりました。お相手させて頂きます。」
「よし。」
陛下は満足気に頷いたあと、明らかにからかう気満々の表情で続けた。
「ところで、マリン。」
「‥‥はい?」
陛下の表情に思わずじとんとした目を向けてしまったが、そんなことを陛下が気にするはずもなく━
「今年は口調が丁寧だな?」
『やっぱりそれを言うか』と若干イラッとしつつ返した。
「‥‥先日成人を迎えたばかりですので。─去年までの私は陛下にお返事するには不敬にあたるはずの気安さを出してしまっておりましたから。今更ながら口調を改めてみた次第です。」
「ほう。‥‥確かに今更だな。違和感しかねぇから去年までと同じでいい。」
「‥‥分かりました。」
その後は最初からずっと私と陛下だけで話していたのもあって、他の一緒に来ていた一同と挨拶や軽く話したあと、謁見は終わった。
こうして、学生最後の帝国滞在が始まった。
早いもので、この作品を投稿し始めて明日で3年です。
‥‥作者の当初の予定では『完結まで年単位はかからないでしょ』と軽く思っていたのですが、まさかの3年。
色々追加しまくったからだとは理解しております。
加えて、細かく書きすぎなのでは‥‥?と。
最後のは性分なので、今後も変わらないと思います。
とりあえず、時間を見つけて書いていくので、不定期投稿は変わりませんが、完結を目指して書いていきます。引き続きお付き合い頂ければと思います。