300話 話し合い
大変お待たせしました!
そして、活動報告にも書いてますが、作者の名前を『満月』→『霜月満月』に変更しております。
まだまだ話は続き━
「とりあえず、単語として分からなかったのはこれぐらいかな?」
「そうだな。」
「‥‥コンタクトは分かるけど、サングラスもかつらもないなら変装どうしようかな‥‥」
「魔法は?」
「う~ん‥‥ルシアが使ってた幻影がちょうどいいかなとは思うけど‥‥」
「マリンは闇魔法使えないことになってるしな‥‥」
「うん。でも、確実に髪と瞳の色を隠さないとまずいだろうし‥‥」
「? 何故だ?」
「‥‥え?」
「俺、そこも疑問だったんだよ。そもそも何故変装するんだろう?って。」
「嘘でしょ‥‥?へ、陛下は分かりますよね?」
「ん?‥もちろんだ。」
「え?」
「えじゃないわよ、シリウス。なんでわからないのよ?」
「え?えっと‥‥ちなみにリオトも分かるのか?」
「え?‥‥すみません、マリン姉様。教えてください。」
「まさかの!?‥‥はぁ‥‥そこからなのかぁ~‥‥」
「なんか、すまん。」「すみません、マリン姉様。」
頼む前に調べるとかしないのか。
そう言い掛けたが、調べたら調べたでその行動から視察を嗅ぎ付けられたら意味がないかと思って止めた。
そして、項垂れていた頭を上げ、まさかの私の隣に並んで座っている兄弟に向き直った。
「よし。シリウス、リオト。2人のスラムに関する知識を言ってみて。」
「「え?」」
「生活難の人達が集まるところ?」
「衛生環境がよくないところ‥‥とかですか?」
「そう。それが分かれば十分じゃない。」
「「え?」」
「「「‥‥‥」」」
私はゆっくり対面に座る国王夫妻に視線を移した。
「陛下?どういうことでしょう?」
「え?‥‥ああ‥‥危機感がないからだな‥‥」
「そうねぇ‥‥」
「‥‥‥私のせいでしょうか?」
「「‥‥‥」」
「マリンだけのせいでもないと思うわよ?」
「もしかしたら、シリウスは陛下から私の護衛が絶対条件だと言われた理由も分かってないのでは‥‥?」
そう言うと、隣からきょとんとしたままの声が聞こえた。
「ああ。多分、正確には理解してないと思う。」
「じゃあ、そもそもシリウスはなんで私に護衛頼んだのよ?いざというときの戦力?」
「と知識を借りたいなってだけだった。」
私は頭を抱えて項垂れた。
すると、頭上から申し訳なさそうな陛下方の声が聞こえた。
「すまん。マリン。」
「シリウスもマリン達のお陰で頭はよくなったはずなのにね
‥‥学園の成績だけみたいで、ごめんなさいね。」
「‥‥元々周りから守られ続け、危険を回避してもらってきたはずですから、仕方ないといえば仕方ないです。‥‥そう思うことにします。」
「「「「‥‥‥」」」」
私は一度深~いため息を吐いてから頭を上げ、シリウス達に再び向き直った。
「シリウス。ついでにリオト。しょうがないから説明してあげるわ。」
「お、おう。」「は、はい。」
「まず、何故変装が必要か。」
2人が頷いたのを見て続ける。
「想像‥‥は難しいだろうけど、してみて。‥自分達は今、今日の夕食どころか明日生きてられるか分からないほどの空腹を抱えてるとする。そんな時に王太子と令嬢が歩いてきたらどうする?」
「「え?」」
「そもそもスラムの人達は俺が王太子って見ただけで分かるのか?」
ちょっとイラッときたけど抑えて返した。
「それもあとで説明してあげるから、とりあえず考えて。」
「お、おう。」
「‥‥マリン姉様。」
「ん?」
「状況的に衣食住が満足に整ってない認識で考えろってことですよね?」
「うん。そう。」
考え込む2人。
「‥‥陛下。そんなに難しいこと言いました?私。」
「いや、私はすぐにマリンが最終的に何を言いたいかまで分かった。」
「私もよ。」
「では、何故この2人は分からないんでしょうね?」
「偏に経験が足らないからだ。」
「‥‥ちなみに陛下は行ったことあるんですか?」
「シリウスぐらいの時に一回な。‥‥私の時はラルクに付き合わせたが。」
「親子揃ってうちを護衛一家扱いしないでもらえますか?」
「いや、まさかシリウスまでスラムに視察に行くとか言い出すとは」
「こんなに見た目陛下そっくりなのにですか?」
「‥‥マリン。今はシリウス達のことだ。」
「話反らしましたね?‥‥ちなみに父様と行った時はいかがだったんですか?」
「‥‥‥変装のために髪専用塗料で髪の色を変えたものだから、しばらくそのままの色で過ごす羽目になるし、結局瞳の色で気付かれて追い回されてな。ラルクのお陰で命拾いしたが、満足に視察はできなかった。」
「だから諦めて今に至ると?」
「ああ。‥‥スラムのことは私もずっと頭を悩ませてきたことだ。シリウスの代で改善できるならやってもらいたい。それにはまずは現状把握だ。」
「市井の方や巡回する騎士などからの報告とかは?」
「あるにはあるが、市井の者からのは正確か否かが判断できんし、騎士達のは表面上だけだ。全てを把握できているとは言えん。大々的に調査に入れば住民の反発は必至だしな。」
「‥‥なるほど。‥‥ではやはり、実際に見て現状を把握した上で、どうすればスラムの人達が抵抗なく改善提案を受け入れてくれるかをシリウスは考えるべき。‥私はそういう認識でいたらいいのですね?」
「ああ。」
「分かりました。」
ひたすら陛下と話していたが‥‥
そう思ってシリウス達に視線を戻すと、呆気にとられた様な表情を浮かべていた。
「‥‥2人共‥‥?ちゃんと考えたの?」
「「!!」」
「あ、ああ。まず空腹なら働くことさえできてないだろうから、お金もない状況ってことだよな?」
「うん。」
「なら‥‥令嬢は躊躇うだろうが、王太子の身ぐるみ剥いで売ったりだな。」
「もしくは誘拐して身代金要求でしょうか?」
「うん。2人共正解。他に上げるなら奴隷商に売り付けたりとかね。‥‥それと、シリウスを王太子って分かるのかってことだけど。」
「ああ。今父上が言った様に瞳の色だな?」
「うん。だから、シリウスは瞳の色を隠すのは絶対ね。私の場合は髪の色。」
「ああ。救国の天使は青髪の美少女だって有名だからな。‥でも、マリンも気付かれるのか?」
「その可能性が全くないとは言い切れないの。」
「「え?」」
そこで再び首を傾げる2人。
「シリウス、リオト。‥‥元犯罪者よ。」
「「!!」」
「罪を償う間もその後も、この数年の間なら私の容姿の特徴の話題を聞くことはあると思うの。特に出所後に王都の街を歩いたなら尚更ね。そして、その情報は王太子であるシリウスもだよ。」
「元犯罪者がなんだってスラムに‥‥?」
「‥‥元犯罪者に対する風当たりは強いものでしょ?」
「「!!!」」
「‥‥まさか‥‥家族も友人にも忌避され、スラムに逃げるしかなかった‥‥?」
「そう。‥‥そして、そういう人の方が厄介なの。」
「‥‥元犯罪者なら、それこそ捕らえて奴隷として売るとか考えられるからか。」
「うん。‥‥言い方は悪いけど、スラムに生まれ育った人は知識が少ないから、行動が読みやすい。でも、元犯罪者は何をやらかしたかによるけど、基本的にスラムの人より知識があると思っていいかなって。‥‥罪を犯した時に無知でも、刑期を終えるまでに自分の罪を自覚させるってことで、とりあえず自分がなんの犯罪を犯したかは知ることになる。元々生活が苦しかった人ならわざと犯罪を犯して牢に入る人もいるだろうしね。」
「え?‥‥ああ、牢に入れば一応衣食住揃うからだな。環境はどうあれ。」
「そういうこと。‥‥話が反れたけど、変装の必要性は理解できた?」
「ああ。」「はい。」
「ん。それなら、変装の次に書いておいた服装の件も理解できるよね?」
「ああ。見るからに上質な素材で作られた服はスラムの人達にしたらお金にしか映らないよな。」
「そういうこと。」
説明長かったなぁ‥‥と思いつつ締める。
「じゃあ、シリウス。改めて聞くよ。‥私が変装して恋人のふりをするのが無難だと言った理由は?」
「俺達2人共容姿を知られてると思って行動するべきで、自然に映るのは恋人のふり。何事もなくスラムの状況を少しでも見たいなら、余計なことは言わない、しない。‥‥ってところか?」
「ん。‥まあ、そんなところかな。‥‥さて、変装どうするかな‥‥」
やっぱりこの問題に戻ると。
「髪は染料で染めたらいいだろ?」
「‥‥陛下。私には馴染みがなかったので伺いますが、その染料、洗浄でも取れないのでは?」
「ああ。だから私もその染料の色が抜けるまで放置することになってエドワードやルミナス、アリアにラルクやベアル。みんなに憐れみの眼差しを向けられていた。」
「「「‥‥‥」」」
「確かにあれはなかったわね。全然似合ってませんでしたから。」
「ちなみに何色に‥‥?」
「緑だ。」
「っ!」「「え!?」」
私は吹き出し、シリウスとリオトは驚きを現した。
「へ、陛下。緑って!」
「‥‥最初に見たラルク達と同じ反応をするか‥‥」
「仕方ないわ。先輩の娘だもの。」
「くっ‥‥」
あんまり笑うとさすがに悪いとは思う。というか、笑うこと自体が本来は不敬なのだが、陛下が見逃してくれるので、ほどよく笑ったあと。
「シリウスが髪を緑にしたらみんなも爆笑するだろうね。」
「‥‥‥だろうな。リゲルとマリンは容赦なく爆笑するだろうな。」
「うん。だから、シリウス。染料で染めるとかしないでね?折角綺麗な銀髪なんだから。」
「「「「え?」」」」
「ん?」
「俺の銀髪、綺麗だと思ってたのか?」
「え?うん。綺麗だと思うよ?‥‥リオトは金髪で『これぞ王子』って感じだよね。」
「そうですか?」
「ふふっ。日本の創作物では金髪も銀髪も王子様の典型的な色だったんだよ?」
「「「「え!?」」」」
何故か驚かれたが、スルーすることにした。
「話を戻すけど、シリウス。爆笑されたくなかったら染めないでね?変装方法は最終手段にするから。」
「「「「え?」」」」
「最終手段って?」
「仕方ないから幻影を何かに付与して、それを貸してあげるってことにするの。他の護衛には詮索不要ってことで。」
「「「「‥‥‥」」」」
一同無言になる中、陛下が呟いた。
「当時それがあればなぁ‥‥」
「「「「‥‥‥」」」」
今度は私も無言になった。が。
「陛下。たらればの話は意味のないことですよ。」
「ああ。もちろん分かってるさ。」
「でも、確かにそれがあれば爆笑の後に憐れみの眼差しは受けずに済んだでしょうね。」
「‥‥‥」
陛下が苦笑いになってしまったので、話を再び戻す。
「さて、他に質問は?」
「いや。準備はもちろんこちらでする。その中で疑問があればまた聞くし、当日調整してくれ。」
「分かった。」
ようやく週末のことについての話が終わった。
「あ。そういえば、陛下。話は変わりますが、意見箱の件です。早速箱を作るために材料の発注を先生経由でさせて頂きました。」
「ん?予め作られた物を置くのではないのか?」
「はい。もしかしたら私のイメージ通りの物で来ないんじゃないかなと思いまして。」
「なるほどな。‥分かった。任せる。」
「ありがとうございます。」
すると、ここで今まであまり口出ししてなかった王妃様が私に問いかけてきた。
「ねぇ、マリン。聞いていいかしら?」
「? はい。どうぞ?」
「意見箱も今回のスラムの視察の件も、いつ考えてるの?‥特にスラムの視察の件。シリウスが辺境伯家にお邪魔して話した翌日に書類くれたでしょ?」
「ああ、それはですね。」
と私が答えるのと同時に、シリウスやリオトも疑問だったのか、私の方を見てきた。
「意見箱は前から考えていたことでしたし、スラムの視察の件も例の皇帝陛下との視察のあとから少しずつ書いてたんです。いつか、こうしてシリウスが実際に言ってくるかなと思って。それも雪奈姉の日記の翻訳の合間に休憩がてらってことで、書いてただけですけどね。」
「休憩がてら?」
「はい。‥‥雪奈姉達の歴史をもう一度辿る様なものなので気分転換しないと‥‥って感じです。」
「「「「‥‥‥」」」」
4人は一度沈黙したあと、陛下が代表する様に━
「確かにそうなるな。‥‥マリン。すまないが、それは最後まで頼むな。」
「はい。大丈夫ですよ。‥‥ということで、シリウスからの要請後一晩であれを書き上げた訳ではありませんよ。」
「そう。‥‥シリウスの我が儘でマリンに無理させた訳ではないなら良かったわ。」
「ふふっ。大丈夫ですよ。」
そして、最後に。
「シリウス、リオト。疑問は晴れたか?」
「「はい。」」
「よし。‥‥私も疑問の答えをもらったし、マリンの考えも把握できた。━マリン。呼び出すことになって悪かったな。」
「いえ。ではもうお暇させて頂いてもいいでしょうか?」
「ああ。ありがとう。」
「ふふっ。はい。」
私はそこでようやく立ち上がり、扉の前で立ち止まってから振り返り、「では、失礼します。」と挨拶してから部屋をあとにして帰るのだった。