297話 新しい命の名前は‥‥
大変お待たせしました!
そして、屋敷に帰ってきた私は書庫へと向かった。
今までは魔法関連ばかり読んでいたが、もちろん他の本もある。何故か図鑑系まで。
なので、庭園整備の時もチラッと植物図鑑を読んだりもしていた。
「‥‥マリン様?」
「ん~?なに~?シャーリー。」
「また学園の庭園の花探しですか?」
「ん~‥‥いや、えっと‥‥」
「他にも理由が?」
「‥‥シャーリー。そんなに私が魔法関連以外を読むのって珍しい?」
「えっと‥‥まあ、はい。」
「正直だよね‥‥ほんと。‥‥まあ、庭園の花ももちろんなんだけど、ちょっと別の意味でもね。」
「?‥‥まあ、深くは伺いませんが‥‥私が側にいると気が散りますよね?」
「ん~‥‥シャーリーならいてくれても大丈夫だけど‥‥‥でも私、多分夕食の時間見逃すから、知らせてくれる?」
「ふふっ。はい。畏まりました。」
そう言ってシャーリーは書庫から出ていったかと思ったら、すぐに戻ってきて紅茶を用意してくれた。
「ふふっ。ありがとう、シャーリー。」
「いえいえ。‥‥それでは、夕食のお時間になりましたら、お呼びしますね。ごゆっくり。」
「うん。」
そうして、シャーリーは再び書庫を出ていった。
その後、私はずっと図鑑とにらめっこしていた。
‥‥‥懸念通り私は時間を全く見ておらず、シャーリーが知らせてくれて初めて時計を見たのだった。
翌日。
この日は休みだったため、朝食後にまた書庫に来た私。
今度は魔物関係だ。
「‥‥今度は魔物系とは‥‥マリン様。何があったのですか?」
「え?何もないけど?」
「昨日は植物図鑑で、今日は魔物系のもの。一貫性がありませんので‥‥」
「ああ、まあ‥‥確かにね‥‥」
「何か考え事でも?」
「うん。‥‥一貫性がないのは別々の事だからだよ。」
「考え事は一つではないと?」
「うん。そう。‥‥でも、魔物の方は確認だけだからもう終わった。」
「え?あ、そうなのですか?」
「うん。‥‥さて、ちょっとした工作でもするかな。」
「え?‥‥え?工作?何か作られるのですか?」
「ふふん!成功したらかなり便利な物だよ~!」
「‥‥マリン様。一応、奥様にご相談なさってから行動した方がよろしいかと。あと、領地のお館様にも。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥後で見せるつもりだったんだけど、先の方がいいかな‥‥?」
「私は先に申告することをお薦め致します。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥分かった。」
私は確かに世間に出してはならない物しか作ってない。
姉様の麻痺付与のペンダント然り。
剣術・魔法大会の時に皇族に貸し出した雲隠付与のペンダント然り。
どちらも犯罪者の手に渡ったら‥‥‥最悪以外の何物でもない。
ということで、まずはディアナ母様の部屋へと向かった。
そして、「こういうのを作ろうと思ってるけど、いい?」という旨を粗方の構想と共に伝えて聞いてみると‥‥
「‥‥まあ‥‥それが実現できるなら素晴らしいことだけれど‥‥」
「駄目‥‥でしょうか‥‥?」
ちょっと不安になり問いかけると、ディアナ母様はくすりと笑って答えた。
「先に相談してくれたってことは、あまり世間に出すべき物じゃないと理解した上なのよね?」
「はい。元々マリア姉様のためにと考えたことでしたし、上手くいけばベネトさんに依頼されてる物にも応用できるかと。」
「ん?なに依頼されたの?」
「レグルスの危険察知と、皇帝陛下がふらっといなくなった時に探し出せる様にと。」
「‥‥‥ものすごく納得する要望だったわ‥‥」
その言葉に私は苦笑いを浮かべたが、本題に戻した。
「それで、母様。作ってもいいでしょうか?」
「えっと‥‥一応、ラルクにも話してからにしてくれる?」
「はい。もちろんです。‥‥元々家族には話すつもりでしたが、シャーリーにまずは2人に申告してからの方がいいと言われまして‥‥」
「うん。さすがシャーリーだわ。‥‥じゃあ、昼食後に一緒に行きましょうか?」
「はい。」
そして、昼食後。
私はゲートを使い、母様と2人で領地の屋敷へと向かった。
いつも通り私の部屋に出て、真っ直ぐ父様の執務室へと向かった。
扉をノックして名乗ると、驚いた様に父様が扉を開けてくれた。
そして、私の後ろにいた母様にも気付いて‥‥
「どうした?マリン。‥‥ディアナも。」
「ふふっ。マリンがとある物を作りたいって今朝相談してきたの。だから、あなたにも相談してからの方がいいかなと思ったのよ。」
「‥‥‥なにを思い付いた?マリン。」
「完成したら、門外不出になりそう‥‥というか、王家が欲しがりそうな物です。」
「え?」
「ふふっ。確かに欲しがりそうね~。」
「‥‥‥‥とりあえず、聞こう。」
ということで、中に入って全員ソファーに座ってから父様にも同じ説明をした。
「‥‥‥‥‥‥‥確かに欲しがりそうだな‥‥」
「‥‥駄目‥‥でしょうか‥‥?」
「‥‥確認だが、マリン。まずそれを作ろうと思ったのは家族のことを考えてのことだよな?」
「もちろんです。」
「‥‥まずはマリアのためだな?」
「はい。」
「重要性も理解していると思っていいんだな?」
「はい。試作段階なので、王都にいる人達に知らせるとしてもヒスイ兄様とリリ姉様、姉様までです。」
「公爵家には?」
「言ったら王家にもすぐ情報が入ってしまいます。‥‥マリア姉様はアリア様にも来て頂きたいでしょうけど‥‥」
「ああ。分かってるならいい。‥‥確かに公爵夫人には来て頂きたかっただろうが‥‥仕方ないさ。」
「マリン。じゃあ、友人一同にも言わないの?」
「はい。王太子と公爵家の嫡男がいますしね。」
「まあ、そうよね。」
そして、ここまで真剣な表情で話していた父様だが、苦笑いを浮かべた。
「さて‥‥マリン。」
「はい。」
「正直、マリンが言った物はあると助かる。」
「! では」
「ああ。作っていいぞ。」
「やった!」
「ただし、ここで今すぐだ。」
「はい。分かりました!」
そう言って私がストレージから取り出した物。
それは‥‥
「「‥‥‥」」
「マリン?それって‥‥」
「はい!黒竜の爪です!」
「だよな‥‥」「そうよね‥‥」
「あとは‥‥」
と続けて出したのは角。
「「‥‥‥」」
「‥‥ディアナ。俺、やっぱり止めるべきだったか‥‥?」
「ええっと‥‥だ、大丈夫じゃないかしら‥‥?」
両親がそんな話しをしていることも構わず、許可された喜びのままに創作で加工し始めた私。
そうして作っているものは、連絡道具である。
形としてのイメージは前世のスマホ。
画面に文字を入力して送信する。
これは角を加工して、2つ作る。
そして、スマホ本体の様な物が2つ出来たところで、次は爪の加工だ。
これには役割を3つ程担ってもらう。
だが、加工する前に。
「‥‥父様、母様。」
「「!!」」
「な、なんだ?」「な、なに?」
「? どうかしました?」
「い、いや?何もないぞ?‥‥それよりどうした?」
父様達が何に動揺したかは分からなかったが、とりあえず聞くことにした。
「‥‥えっと、宝飾品として身に付ける時、日常生活で一番邪魔にならないのってやっぱり指輪とかペンダントとかでしょうか?」
「ん?‥‥まあ、そうだな。俺が身に付けると仮定したら、宝石を着けない前提なら指輪がいいかな。」
「私も。」
「宝石とか飾りが着くなら、ペンダントですか?」
「ああ。」「ええ。」
「やっぱりそうですよね‥‥」
「「?」」
「よし。なら指輪の形にします。」
ということで、黒竜の爪を指輪に加工していく。
それをとりあえず、3つ作った。
残った角と爪をストレージに戻し、今度は皮を取り出した。
皮は所謂、スマホカバーにしようとしている。
そうして全て作り終えたところで、付与である。
まずは指輪3つ。
【プログラム】を発動し、入力していく。
・「この指輪を文字送信端末(仮の名称)を操作するための鍵とする」ということ。
・「端末(仮)への送受信を知らせる光を放つ」(もちろん、微弱なものだが。)ということ。
・この指輪の装着者の危険を端末(仮)を通して知らせる。
最後のは他人に無理矢理外されるか、装着者が破壊するかのどちらでも発動する様にした。更に、その場所も送信される。
ちなみに、奪われそうになった場合は麻痺が発動する様に仕掛けを施してある。
「「‥‥‥」」
「なんか、とんでもないものだな‥‥」
「ええ。‥‥説明を聞いたのと、実際に見るのとでは違ったわね‥‥」
一連の様子を見ていたラルクとディアナがボソッと呟く様に話していたのだが、当然マリンの耳には入っておらず、そのまま文字送信端末(仮)の付与に移った。
こちらは至ってシンプルだ。
まずはやっぱり文字の送受信。
使用できるのは製作者のマリンと鍵となる指輪を嵌めた人のみ。
指輪を破壊、もしくは奪われそうになっても文字で知らせるというもの。
━━━ということで、完成である。
「できました!」
「お、おう‥‥」
「えっと‥‥マリン?指輪が3つあるのは?」
「え?もちろん、父様、母様、フレイ兄様に着けてもらうためですが?」
「「え?」」
「え?むしろ、他の選択肢がありますか?」
「マリンじゃないの?」
「えっと‥‥学園に行ってる間は着けてられないかと‥‥」
「そういえばそうだったわね。‥‥元々王都と領地の連絡手段として考えたから、私とラルク達なのね?」
「そうです。領地からは父様でもフレイ兄様でもできる様にと。」
「だが、俺はディアナやマリン達程魔力はないぞ?」
「それも問題ないですよ。そんなに頻繁に使うことはないでしょうし、魔力が必要になったらフレイ兄様に補充してもらったら大丈夫です。私がいる時なら私が補充しますし。」
「消費魔力は多くないのか?」
「そのはずですよ。‥‥フレイ兄様に説明がてら試してみましょうか。」
「そうだな。このあと、フレイも交えて動作確認もするつもりだったんだろ?」
「はい。もちろんです。」
「なら行くか。」
そして、再び場所移動して、フレイ兄様の執務室。
同じく扉をノックしたら開けてくれたフレイ兄様がきょとんとした。
「あれ?父様はともかく、マリンとディアナ母様はどうされました?」
「ふふっ。マリンがね、すごい物を作ってくれたのよ。」
「え?‥‥マリン。父様やディアナ母様と一緒ということは2人の許可を得てから作ったんだよな?」
「はい。」
「‥‥分かった。」
そして、フレイ兄様の執務室の中に入れてもらい、ソファーに座ろうとした時にふと気付いた。
「父様、母様。折角ですし、セレス母様とマリア姉様、アクア兄様にも説明に加わってもらいますか?」
「ん?ああ、そうだな。」
「では、呼んできます。」
3人を連れて戻ったところで、フレイ兄様達4人にも同じように説明した。
「「「「‥‥‥」」」」
4人は呆気にとられたあと、その表情は苦笑いに変わり、フレイ兄様は父様に視線を向けた。
「父様。」
「なんだ?」
「よく許しましたね。」
「‥‥まあ、あって困るどころか便利な物だからな。」
「確かに、それはそうですが‥‥」
「ふふっ。フレイ兄様。これですぐに知らせることができるので、姉様とリリ姉様を連れてこれますよ。」
「「!!」」
「なるほど。マリアのためか。」
「はい。一番最初に思ったのはそこでした。アリア様もお連れした方がマリア姉様も嬉しいとは思いますが‥‥」
「ええ。そうね‥‥でも、公爵家に伝えたら王家にも伝わるわ。間違いなくね。‥‥陛下や王家がマリンちゃんに無理を頼むことはしないだろうけど、こういうのはすぐに献上するべきではないわ。最悪の場合、マリンちゃんは今以上に大勢の人に狙われるもの。‥‥その才能を利用しようと画策する様な人達にね。」
「で、ですよね‥‥」
「ふふっ。まあ、マリンちゃんを悪いことに利用しようとしても、マリンちゃん自身に返り討ちにあって無理でしょうけどね。」
「はい。もちろん、完膚なきまでに叩きのめしてやりますとも!」
「ふふっ。‥‥ありがとう、マリンちゃん。私はリリとクリスが来てくれるだけで十分よ。」
「はい。‥‥ということで、父様。王都に戻ったら、姉様やヒスイ兄様、リリ姉様にはお伝えしてもいいでしょうか?」
「ああ。知らせてやってくれ。3人共、まずは呆れるだろうが、喜んでくれるはずだ。」
「はい。‥‥え?呆れられるんですか?」
すると、父様は軽く笑ったあと
「ああ。「また、とんでもないものを‥‥」とか考えそうだろ?」
「‥‥‥否定できませんね‥‥」
そう呟いたあと、気を取り直して動作確認だ。
まずはディアナ母様とフレイ兄様に指輪を嵌めてもらい、それぞれ端末(仮)を操作してもらった。
指輪はもちろん、結婚指輪がある左薬指以外に嵌めている。
そして、入力する時はパソコンのキーボードの様な形で、「送信」も同様に押せばいい様にキーボード内にある。
『‥‥‥』
一連の流れを見ていた一同が唖然としていた。
「成功みたいですね!」
私以外。
「「「そうね‥‥」」」「「「みたいだな‥‥」」」
「さて、完成したことですし、早速大公家に行ってきていいでしょうか?」
『え?』
「え?駄目ですか?‥‥姪っ子の名前もお伝えしようかと思ったのですが‥‥」
「「「決まったの!?」」」「「「決まったのか!?」」」
「え?は、はい。‥‥ヒスイ兄様とリリ姉様が気に入るかは分かりませんが‥‥」
「それなら、俺達も聞きたいから一緒に連れて行ってくれ。これの説明にも同行しようと思ってたしな。」
「あら、駄目よ?あなたは仕事があるでしょ?私達で行ってくるわ。」
「セレス‥‥」
悔しそうだが、仕事なら仕方ないので父様は置いていく。
「では、直接大公家の屋敷に行きましょうか。‥‥父様。これは父様が持っててください。王都の屋敷の分はディアナ母様に持っててもらうので。」
「ああ。分かった。」
端末(仮)の1つを父様に渡し、私含めた6人で大公家へと向かった。
そして、医師の方がいないのをいいことにリリ姉様がいる部屋に向かった。
扉をノックして名乗ると、姉様が扉を開けた。
「あれ?母様2人共揃ってる?‥‥フレイ兄様やアクアも、マリアまで‥‥どういうこと?マリン。」
「ちゃんとご説明しますよ、姉様。今、入っても大丈夫ですか?」
「え?ええ。大丈夫よ。」
大公家に着いた時、サーチで姉様が来てることは分かっていた。
「ヒスイ兄様は‥‥執務室みたいですね。」
「ええ。」
「私、呼んできます。」
そう言って踵を返してヒスイ兄様を連れて戻った。
「えっと‥‥マリンちゃん?どうしたの?勢揃いで。」
「ふふっ。ヒスイ兄様や姉様、リリ姉様が喜ぶことをお伝えに参りました。」
「「「喜ぶこと?」」」
「はい。まずは‥‥」
連絡道具を作ったので、マリア姉様の出産にも立ち会えるよと細かく説明した。
「「「‥‥‥」」」
本当に呆れ顔を向けられた‥‥
だが、それも僅かな間のことで、すぐに3人共笑顔に変わった。
「ふふっ。さすがマリンね。」
「ああ。そうだな。」
「ありがとう、マリンちゃん。」
「いえいえ。リリ姉様だけご要望にお応えしたら、マリア姉様に不公平ですから。私も立ち会いたいですし。」
「ふふっ。そうね。」
「あと、ヒスイ兄様、リリ姉様。」
「「ん?」」
「私の姪っ子の名前。お伝えしてもいいでしょうか?」
「「「!!」」」
「「決まったの!?」」「決まったのか!?」
「はい。2人が気に入ってくれると嬉しいのですが‥‥」
「なんだ?」「なになに?」
「姪っ子ちゃんの名前は‥‥」
『‥‥‥』
ゴクリ
と静まりかえった室内に誰かの喉が鳴った音が聞こえた気がする。
「フェリシアです。」
『‥‥‥』
ほんの2、3秒位間が空いたあと‥‥
「フェリシアか‥‥」
「可愛いわね。」
「ああ。‥‥マリン。由来はあるのか?」
「はい。ブルーデイジーという春に咲く青い花の別の呼び方です。」
「花の?‥‥ということは花言葉を意識してくれたの?」
「はい。色々あるんですが、主に幸福、幸運、恵まれている、かわいいあなた。とかですね。‥‥この子に幸福や幸運が訪れます様に‥‥と、そう思って選んでみました。」
「なるほどな‥‥」
とリリ姉様に抱えられた赤ちゃんを見て呟いたヒスイ兄様。
「ヒスイ様。私はフェリシアという名前、可愛くて気に入りましたわ。ヒスイ様はいかがですか?」
「正直、聞いた瞬間から俺も気に入ってる。‥‥マリン。しっかり考えてくれてありがとな。‥‥フェリシア、採用させてもらうよ。」
「!! 良かった‥‥」
私がホッとして息をつくと、姉様が問いかけてきた。
「ねぇねぇ、マリン。そのブルーデイジー?‥‥ってどんな花なの?」
「ふふっ。可愛い花ですよ。花びらは青や青紫があるんですが、中心は黄色なんです。」
「へ~!青い花びらってことは髪の色とかも意識したの?」
「はい。まだ、フェリシアちゃんの眼の色は見てないですけど、髪がヒスイ兄様譲りの藍色なので、青系統ので探してみました。」
「なるほどね~!‥‥うん。フェリシア、私も可愛いと思うよ。」
すると、他の家族も賛同してくれたところで。
「早速、明日陛下にも伝えておくよ。学園に行ったら友人達にも伝えてやってくれ。」
「はい。」
そして、そのあとは少しだけ雑談をしたあと、私達は領地と王都。それぞれの屋敷へと帰った。
私の悩みの内、2つがこの日に解決したのだった。
ちなみに、ラルクとディアナが動揺した理由は、マリンがあっさり角の加工を始めたかと思ったら、あっという間に終わったからで、直後にいきなりマリンに話し掛けられた2人は予想してなかったため、動揺してしまっただけ。‥‥というだけです。