290話 年末年始
大変お待たせしました!
年末年始の時より間が開いてしまいました‥‥。
定期試験前。
私はふと思い立ち、リジア達友人を巻き込みとある計画と行動を開始した。
そして年末前の定期試験終了後。
あとは年末年始の休暇を待つばかりという時。
この日、私や友人達は朝から学園の掲示板の前に集合していた。
「ふっ‥‥やってやったぜ‥‥」
「マリン。口調。」
「‥‥‥」
「でも、マリンの壁は厚いな~。」
「「そうだな~。」」
「ふふん!!何度も言ってるけど、そう簡単に私を超えられると思わないことね!」
「「「「‥‥‥」」」」
そうして話していると。
「「マリン姉様!!」」
「あ。‥‥リオト!ルビア!」
そして2人が側に来てくれて、挨拶したところで。
「どうだった?」
「順位で言えば現状維持です!」
「私もですわ!」
「ふふっ。さすがだね、2人共。」
そこにベネトさんも来たので、同じく挨拶したあと。
「ベネトさんは?」
「もちろん、変わらず首席だ。」
「ふふっ。ベネトさんもさすがだね。」
「マリン達は?」
「もちろん、全員そのまま現状維持!」
「「「‥‥‥」」」
「さすがマリン姉様‥‥」
「兄様達に気を使うことなく‥‥」
「ぶっちぎりだな。」
「当然!私の学園生活に首席以下はないわ!!」
『おお‥‥』
先程からマリンがどこの悪役令嬢だ?と言いたくなる発言をしている要因はもちろん、定期試験の結果である。
この定期試験も座学だけではなく、剣や魔法の習得状況も見るため、総合判断で成績が逆転することもあり得るのだ。
座学でずば抜けていても魔法か剣の腕が他に負けていれば、あるいは剣か魔法がずば抜けていても、座学がボロボロだと翌年度のクラスが一つ落ちたりすることもある。
そういう意味でSクラスの者達は各学年のトップ集団なのである。
マリン、ベネト、リオトはそのトップ集団の中の頂点。つまり首席に居座り続けているのである。
というか、ベネトにとっては最後の試験だった。
今回もその話だ。
そして各々の教室に向かうべく歩き出した一同。
「ベネトさんは卒業を待つだけだね。‥‥卒業したら1年なにするの?」
「ん?そうだな~‥‥殿下が学園に行ってる間が暇だから、しばらくは王都を見て回るだろうな。飽きたら周辺の領地とか。‥‥殿下の護衛はマリンがいれば大丈夫だろ?」
「まあね。でも、さすがに寝てる間に屋敷を襲撃されてその場で‥‥とかだと守れないよ?」
「‥‥物騒なこと言わないでくれるか‥‥?」
「私が言うと本当に起こりそう?」
「ああ。」
「ひどっ!‥‥さすがに犯罪の予言はしたことありませんけど~?」
「ん?‥‥そういえばそうか。」
「まあ、でも、その可能性もあるんだよね~。シリウスやリオトも城とはいえ油断しきってたら駄目でしょ?」
「まあ、そうだな。‥‥ルシアがあっさり入ってきた例もあるしな。」
「ですね。」
「ん~‥‥じゃあ、卒業までに何か考えてあげるよ。」
『え?』
「付与はできるんだから、ちゃんとした魔道具として作る必要はないから、私の閃き一つかなって。」
『!!!』
友人一同が私に期待する目を向ける中、一番に言ってきたのは意外にもベネトさんだった。
「マリン!是非、頼む!」
「え?わ、分かった。」
「できれば陛下がどこ行ったか分かる様なやつも!」
「‥‥確認だけど、皇帝陛下のことよね?」
「当然!」
「‥‥元帥様や宰相様、国の重鎮達のためか‥‥」
「正解だ。」
「‥‥まあ、暇な時があったら考えてみるよ‥‥」
「ああ。頼む。」
そんな話をしつつ、それぞれの教室に向かった。
そして、年末年始の休み前の最後の日。
生徒会業務もベネトさん達5年生にとっては最後の日だ。
生徒会長職を継ぐ予定の私は少しずつ色々引き継ぎを受けていたが、それも今日で終わり。
「‥‥マリンって腹立つぐらいあっという間になんでも吸収するよな‥‥」
『‥‥‥』
「それは褒めてるの?貶してるの?」
「両方。」
「‥‥そうですか‥‥」
「ふふっ。‥‥マリン。」
「うん。」
「ん?リジア、マリン。なんだ?」
ベネトさんが私達の様子を見て首を傾げたが、一旦無視して他の生徒会の面々に声を掛けた。
「みんな、集まって。」
『はい。』
『え?』
5年生全員がきょとんとする中。
「生徒会長ベネト様、書記のクルト様、そして先輩方。これまでお疲れ様でした。来年からは私達で引き続き頑張らせて頂きます。‥‥我々は先輩方から多くのことを学ばせて頂きました。‥‥ありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
『!!!』
私が頭を下げると、4年生以下全員も一斉に頭を下げた。
「え!?ちょ、ちょっと、マリン嬢達はともかく、王太子殿下や皇太子殿下まで!!」
「そうですよ!我々に頭を下げるなど!」
と焦った様子を見せるクルト先輩達だが、ベネトさんだけは冷静に口を開いた。
「‥‥マリン。みんなも、ありがとな。‥‥全員、話せないから頭上げてくれ。」
その言葉に全員が頭を上げた。
すると、ベネトさんの顔は穏やかにも照れてる様にも感じられた。
「ちょっと驚いたが‥‥俺達が何か残せたなら良かったよ。
‥‥それにな、むしろ俺の方がマリン達に教わることもあったぐらいなんだ。」
「え?そう?」
と思わず反応すると、ベネトさんはちょっと楽しそうに続けた。
「ああ。‥‥当初は殿下の護衛も兼ねて転校してきただけだったが‥‥俺にとってはもう、この学園が母校だ。‥‥マリン。」
「! はい。」
ベネトさんの顔が最後、真剣なものに変わった。
「俺は前に言った通り、マリンを次期生徒会長に推薦するつもりだからな。‥‥頼むぞ、生徒会を。」
「!!‥‥はい。」
「よし。」
私がしっかり頷いたのを見て、再びベネトさんが笑って場が和むが‥‥
「ふふっ。ベネトさん。まだ終わりじゃないよ?」
『え?』
私はストレージからあるものを取り出し、5年生全員に配った。
「マリン、これは?」
「寄せ書き。」
『寄せ書き?』
「私達在校生一同から感謝や尊敬とか色々込めたものだよ。各学年のSクラスに行って生徒会全員に書いてもらったの。」
この世界に色紙はなかったので、紙だけ買って私が色紙風に加工したものだ。創作で一気に。
『え!?』
「マジか!!」
「マジです。」
「すげぇ‥‥!ありがとな、マリン。みんなも。」
作戦成功。
と私達は笑顔を交わしあった。
「さて、先輩方。最後によろしいでしょうか?」
『え?』
「まだあるのか?」
「ふふっ。これが本当に最後。言いたいことがあるだけ。」
『?』
首を傾げる5年生達に向けて、姿勢を正して告げる。
「来年になるとすぐに先輩方は修学旅行です。‥‥存分に楽しんできてくださいね。‥‥卒業式でまたお会いしましょうね。」
『!!』
「‥‥そういうことか‥‥確かに修学旅行から帰ってきても残すは卒業式のみ。俺達は学園にくる用事がなかなかないもんな。生徒会に来ることもないし。‥‥だから今の内に寄せ書きをくれたってことか‥‥」
「正解だよ!ベネトさん!」
私の返しに全員が笑う。
「‥‥マリン。」
「ん?」
「マリンと出会ってから毎日が楽しくて仕方ない。‥‥今、生徒会長になって良かったって一番思うよ。俺の学園生活に一辺の悔いもない。‥‥そう思えるのはマリンや殿下、シリウス達のお陰だ。」
「ふふっ。ベネトさんもちゃんと学園生活楽しめたんだね。良かったよ。」
「ああ。俺は出会いに恵まれたらしい。これで殿下が即位して治世をある程度見れたら満足だ。いつ死んでも悔いがないぐらいな。」
「ふふっ。ベネトさんらしいね。‥‥じゃあ、レグルスのためにもう少し頑張らないとだね。」
「ああ。‥‥これで殿下が即位した時、殿下の隣にマリンがいてくれたら言うことないんだがな~?」
「「「「な!?」」」」
「べ、ベネトさん!?」
「落ち着け。俺の希望を言っただけだ。リオトと同じだ。マリンの意思を無視する気はない。」
「そ、そっか‥‥良かった‥‥」
「‥‥‥‥‥殿下、本気で頑張れよ?」
「うっ‥‥。ああ‥‥」
ベネトはそんな自分が仕える主の様子を見てちょっと呆れるものの、ふと寄せ書きに目を向けると‥‥軽く笑みが出た。
「? ベネトさん。何か面白いことでも書いてあったの?」
「お前だ、マリン。」
「へ?」
「お前に言われたくないっての。」
「! ふふっ。やっぱり。‥‥ベネトさん。ゆっくり、何度でも読み返せるよ。だから何年か経ってからまた読み返してみてね。」
「え?」
「懐かしいってなりそうでしょ?」
「!‥‥ああ。そうだな。」
『なりそう』ではなく、『なる』んだな。
それはマリンに前世の記憶があると知っている面々全員が感じたこと。
だが、ここはまだ生徒会室。敢えてそう言ったマリンの言葉の意味をベネト達は正確に理解した。
「さて。みんな遅くなるから、そろそろ帰るぞ。」
『はい。』
こうして、生徒会室での簡易的な引退式が終わった。
そして、年末年始の休暇が始まる。
私はここぞとばかりに大公家に毎日ではないが通った。
すると。
「マリン。年越しは辺境伯家の屋敷に泊まるから連れていってくれるか?クリスも来るから一緒に。」
ヒスイ兄様にそう言われた私は日本でいう大晦日の日に大公家に向かい、王都の辺境伯家の屋敷を経由して、領地の屋敷へと移動した。
辺境伯家の家族全員集合だ。
そんな年越しのあと、ヒスイ兄様夫妻と姉様を送ってまた王都の屋敷に戻り、残りの休みを満喫した。
年末年始の休暇が開けて数日後の生徒会室。
「‥‥‥なんかさ~姉様やアクア兄様の時も思ったことなんだけど‥‥」
「ん?なにを?」
「ベネトさんやクルト先輩達がいないの、不思議な気分だなって。」
「ああ~‥‥確かにそうね~‥‥」
「私が生徒会長の椅子に座ってるのも、不思議な感じ。」
「生徒会長になる予定なのにか?」
「あくまでも予定じゃん。‥‥この時期から座ってるってなんかこう‥‥不思議な感覚なんだよ。」
「そういうものか?」
「うん。」
マリンは天井を見上げたり下を向いたりしながら、リジア、シリウス、リゲルと話していた。
すると、話を変える様にレグルスが話し掛ける。
「でも、ある意味意外だったよな。ベネトさんの修学旅行の行き先。」
「ああ~そうだね~。‥‥教国だもんね~。」
「ああ。向こうもよくあっさり受け入れてくれたよな。」
「ああ、それはな、修学旅行の発起人がマリンだと知ったら教皇陛下があっさり承諾してくれたんだよ。」
『は!?』
シリウスの言葉に一同が驚く中。
「国を移動するなら相手先に交渉するのは当然。マリン達も父上や宰相がなんとかするだろうとか思ってただろ?」
「うん。」『まあ‥‥』
一人だけハッキリ答えたのはもちろんマリン。
実際、国家間のやり取りは国のトップがしてくれるさと丸投げでいた。
「教国とこの国の代表で話し合いの場が持たれたんだが、その時にマリンの発案だと話したらしい。それで、それを知った教皇陛下から「天使殿の発案ならば我々に否やはない。」と返事が返ってきたそうだ。」
『‥‥‥』
「まだ引っ張るか‥‥天使。」
「ああ。「我が国が誇る救国の天使殿はまだ学生の身でありながら、学園生活を最後まで楽しめる様に考えてくれている。素晴らしい方でしょう?教国の皆様も天使殿の意思に賛同してくれませんか?」‥‥と我が国の代表が最後に言ったらしい。」
「な!?‥‥なんでそんな恥ずかしいこと言うかな‥‥」
「やっぱり、そういう反応するよな‥‥」
「当然だよ!‥‥ベネトさん、「先に教国がどんなところか見てきてやるよ。」って言ってくれたけど‥‥」
「ああ。盛大に歓迎されてるかもな‥‥」
「だよね~‥‥」
となんとも微妙な空気が漂ったが‥‥
「あ。そういえば、マリン。最近、姉上に会ったか?」
「ん?リリ姉様?休暇の間、ちょくちょく大公家に行ったし、年越しも一緒だったけど?」
「どうだった?」
「体調?」
「ああ。」
「大分良くなってたよ。」
「そうか‥‥良かった。‥‥母上がな、気にしてたんだよ。なかなか会いに行けないからって。」
「ああ~なるほど‥‥」
そんな会話をしつつ、業務が終わった一同は生徒会室をあとにした。
そして、馬車へ向かうべく廊下を歩いていると。
「(マリン。)」「(マリン姉様。)」
「ん?なに?リゲル、ルビア。」
「(姉上は?)」
「ああ。(もちろん、マリア姉様も年越し一緒だったからちゃんと様子も見てきた。‥‥マリア姉様も大分落ち着いてきてる。順調だよ。)」
「「(良かった‥‥)」」
「(ありがとな、マリン。)」
「(ありがとうございます、マリン姉様。)」
「(うん。どういたしまして。)」
その会話のあと、それぞれの馬車に乗って帰路についた。
そうして日常が少しずつ変わる。
来年度はマリン達が学園最後の年。
こうして学園で会う友人達ともあと一年。
その前に一つ年上の友人、ベネトは修学旅行から帰ってきたら先に学園を卒業する。
すると、学園で会うことはなくなる。
それは兄弟の時と同じ。いつかいないことに慣れる。
でも自分が卒業したあとは?
‥‥一人旅‥‥ではないか、雪奈と柚蘭が一緒に来ると言っていた。
だから寂しく感じることはないだろう。ただ、違う意味の寂しさは感じるだろうが。
それでも日々は過ぎていく━━
3作品目なんぞの前にこっちだろうというのは作者も感じているところではありますし、亀の歩みでも完結まで書かないのは作者が自分を許せないので、ゆっくりでも書き進めて参ります。
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