289話 長続きしない2人の喧嘩
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今年も不定期ではありますが、完結までしっかり投稿を続けて参りますので、お付き合い頂ければと思います。
「さて、ベネトさんの疑問を解消してあげないとね。」
「できれば最初から言ってほしかったけどな。」
「私としては言わなくても気付いてほしかったけどね。」
「うぐっ‥‥」
「実際、分からないのはベネトさんだけみたいだし?」
「‥‥‥」
「ふふっ。‥‥さて、どう言ったら正確に伝わるかな~?自分よりレグルスばっかり優先する分からず屋だからな~。」
「ああ、確かにそうだな。」
「シリウスで例えるとリゲルの立ち位置かな。ベネトさんは。いとこってことでは。」
「そうなるな。‥‥リゲルとベネトさんでえらい違いだよな。」
「ふふっ。少なくともシリウスの護衛だって意識はないよね?」
「もちろんない。」
「ふふっ。断言したよ。」
「実際、頼まれてないしな。その実力も昔はなかったし。」
「ああ~そうだね~。護衛にするにはへっぽこだったよね~。」
「‥‥へっぽこまで言うか‥‥」
とシリウス、レグルス、リゲルと話していると、リジアがさすがにと口を開いた。
「ふふっ。マリン。そろそろ答えてあげないと。」
「そうだね。‥‥ベネトさん。」
「ん?」
「まず、確認だけど、ベネトさんは皇帝の地位に興味はないんだよね?」
「! 当然だ。考えたこともない。」
「え?考えたこともないの?継承権、持ってるでしょ?」
「ああ。持ってるけど、俺は殿下の方が適任だと思ってるから皇帝の地位につきたいとは思わないな。」
「じゃあ、元帥?」
「ああ。父上が継がせてくれて、尚且つ殿下が望んでくれるならな。」
「私は当然、そうするつもりだよ。」
「そうか。‥‥それがどうかしたか?マリン。」
「ふふっ。やっぱりね。‥‥それなら尚更、修学旅行に行ってほしい。」
「え?」
やっぱりベネトさんだけがきょとんとしている。
「ベネトさんは次期皇帝の護衛としてだけじゃなく、側近としての勉強のために王国行きが決められたんじゃないかなって。」
「え?‥‥ますます意味が分からん。」
「皇帝陛下は社交性の塊。ベネトさんも。そして反対に元帥様とレグルスは落ち着いた人達。レグルスはむしろ人見知り。」
「うっ‥‥」
「皇帝陛下と元帥様はそれぞれの長所を生かして支え合ってる。兄弟だから尚更かな。‥‥ベネトさんとレグルスもそうなれる様にってことで、王国の人達との人脈作りも含めて2人を留学させたかなと思ったの。」
「!!」
「レグルスが私を追いかけたいとかは陛下には想定外だったかもしれないけど、そうじゃなくてもどこかで2人を留学させるつもりだったと思うよ。‥‥そして、ベネトさんはその社交性を生かして私達以外の友人もできたでしょ?皇帝陛下が父様やレウス伯父様の様な親しい友人関係を築いた様にね。国王陛下とは先輩後輩としては友好的な感じだし。」
「!‥‥そうだな。」
「ベネトさん。レグルスの友人が私達だけになるならベネトさんがちゃんと人脈を繋いでおかないと。‥‥まあ、レグルスの友人が次期国王と次期公爵の時点で十分な気はするけど。‥‥でも折角できた友人だよ?私達も学園を卒業したらベネトさんもレグルスと一緒に帝国に帰るんでしょ?」
「ああ。もちろんだ。」
「その後、全くとは言わないけど、友人達となかなか会えなくなるんだよ?私達でさえそうだよ?‥‥ベネトさん。思い出はいくつあっても邪魔にはならないでしょ?今の学生だからこそ許されることや楽しめることがあるでしょ?」
「!!‥‥そういうことか‥‥」
「ふふっ。分かった?」
「ああ。‥‥言われてみれば確かにそうだな~って色々府に落ちた。」
「例えば?」
「陛下が殿下の留学をあっさり認めたことだな。俺は「一緒に行ってくれるよな?」って決定事項の様に陛下に言われてな。元々離れる気はなかったから構わなかったが‥‥」
「ん?」
「ほんと、マリンは周りをよく見てるよな。」
「そう?」
「ああ。‥‥人脈作りか‥‥確かに父上は苦手だな。話せないことはないんだが‥‥社交界に出たがらないし。それを補う様に他のことで貢献してたな。それを俺と殿下は反対になる訳だ。俺が社交界で殿下の地盤固め。‥‥なるほど。適材適所か。」
「そうとも言うね。」
「それに今の学生の身分だからこそ許されることや楽しんでいいこと‥‥か。剣術・魔法大会が正しくそれだな。」
「うん。王太子や皇太子を堂々と倒しても怪我させないなら怒られない。だって学園行事だもん。‥‥ってね。」
「だな。‥‥修学旅行は学ぶために行く。これも行事だからな。それに生徒会長である俺が行かないのは示しがつかないよな?」
「ふふっ。そうですよ~?」
「幸い、屋敷のお隣さんには殿下の友人であり想い人でもある救国の天使様がいる。1ヶ月ぐらい離れたところでどうということはないか。」
「うん。‥‥って、あれ?「救国の」ってなに?」
「くくっ。‥‥知らなかったか?マリンの天使様呼びにな、「救国の」がつくようになったんだよ。」
「え!?いつの間にそんなの引っ付いたの!?」
「私とリゲルが誘拐された辺りよ。」
何故か姉様が答えてくれた。
「え!?‥‥何故救国‥‥?」
「それはもちろん、犯人共を全員捕らえ、教国と帝国との国交に影響を与え兼ねなかった事態を防いだからだな。」
今度は陛下が答えてくれた。
「‥‥交流会を行った上で教国と帝国の生徒会の皆様が無事に帰ることができたからと?」
「その通りだ。」
「‥‥ま、まあ、私の呼び方なんかはどうでもいいんです。今は。‥‥それより、さっきベネトさんに話したのは世間体を見るならの話。私個人としても別に理由はあるんだよ。」
「え?」
「分かる?」
「‥‥一言で言うと、「自由」‥‥か?」
「ふふっ。うん。分かってくれてるっぽいね。」
「ああ。帝国に帰ったらそうそう王国を回ったりとか、ほいほい出歩いたりできないぞ?ってことだな。友人に会いに行くとかでも関係なくな。」
「そういうこと。‥‥私は冒険者でもあるから、むしろ卒業してからの方が自由になる。でもベネトさん、レグルス、シリウス、リゲルはそうはいかないでしょ?」
「そうだな。友人同士での思い出作りなんて学生が最後だよな。卒業してからだとどうしても立場がつきまとうし、政治的な目で見られる。」
「そうだね。‥‥それにね、いつかまた会った時に「ここ行ったね~」とか「こんなことあったね~」って思い出話ができて楽しいんだよ?」
「ああ。そうだろうな。‥‥マリン。改めて、さっきはごめん。俺、修学旅行に行くよ。むしろ行きたい。‥‥殿下、一時的に護衛を離れることになるが、いいか?」
「もちろんだ。‥‥むしろずっと側にいてくれたことに感謝していたが、いつか私に縛られず自分の思った通りに動いてほしい。我が儘も言ってほしいって思ってたんだ。‥‥ベネトさんは苦言は容赦なく言ってくれるのに私に「こうしたい」って意思を示してくれなかったからな。」
「!‥‥そういえばそうだな‥‥」
「確かに聞いたことないね。‥‥欲無さすぎじゃない?ベネトさん。」
「うぐっ‥‥いいんだよ!今までほんとに何も殿下に要求したいことなんてなかったんだからな。」
「‥‥できた人だね~ベネトさん。」
「ははは!全くだな。‥‥ベネト。納得できたか?」
「はい。‥‥陛下。そのまま部屋を借りて話すことになり、お時間を取らせてしまいました。‥‥申し訳ありません。」
「構わないよ。‥‥それにしても、マリンは色んなことを考えてるな。」
「ふふっ。私だけ楽しんでもつまらないですから。折角なら友人達にも笑ってほしいですし、楽しんでほしい。学生の間の思い出はこれからの人生の糧になります。いくらあっても邪魔にならないどころか、宝物に成り代わったりするんです。」
「前世がそうだったか?」
「そうとは言い辛いです。辛い思い出もありますから。前世の私は弱かったですしね。‥‥でも当時の楽しい思い出話をするなら、今はもう相手は雪奈姉と柚蘭だけですね。」
『!!』
「ふふっ。今世の私は色んな意味で強いですから。思いっきり楽しむ気満々ですよ。それに友人達を巻き込んで楽しい思い出を増やしてるだけです。‥‥ずっと自分の足で立ち続けられる様に。」
『!!!』
「ああ。前に話したことだな。」
「はい。」
私はみんなと生きる時間が違ってしまった。長い年月を生きることになる私の人生の糧は今の学生の内に築けるはずだから。
そうしてちょっと空気が静けさを纏ってきたので。
「さて、改めてベネトさんの疑問の解消はできたって思っていいのかな?」
「ああ。‥‥修学旅行の行き先はこれからだよな?」
「うん。また生徒会で話し合いだよ。」
「了解。‥‥来年はマリン達だからな。殿下のためにも良い前例になってやるよ。」
「ふふっ。来年は随行するの?ベネトさん。」
「邪魔しない程度にな。」
「いいね~。ベネトさんだけ2年連続じゃん。」
「ある意味そうだな。」
「ふふっ。‥‥さて、帰ろうか?」
「だな。‥‥陛下、要項等を纏め次第すぐに上げます。」
「ああ。楽しみにしてるぞ。」
『はい。』
学生全員で返事したところで、陛下が思い出した様に聞いてきた。
「あ。マリン。一応聞くが、セツナ様の日記の翻訳、あまり進んでないよな?」
「‥‥はい。学園が休みの日とかに進める様にはしてますが、日記を借りた夏休みからの数ヶ月で色んなことがありすぎてなかなか進みません。」
「だよな‥‥」
「量もそれなりにあるのでやる気が削がれてますし。」
「そうだろうな。‥‥引き止めて悪かったな、マリン。そっちも無理せず頑張ってくれ。」
「はい。」
その後、私達は陛下方に挨拶して退室した。
そして、馬車に向かう廊下で‥‥
「あ。ベネトさん。私も色々ごめん。」
「え?なにが?」
「言い方とか。きつい言い方したし、ベネトさんを苛立たせる様なことをわざと言ったりしたから‥‥感じ悪かったでしょ?」
「ああ、そんなことか。普段のマリンを知ってるからこそ、珍しいなってのが先にきたからな。別にいいよ。それに結局は俺のためだったしな。」
「良かった‥‥」
「俺もこのまま気まずいのは嫌だったしな。」
「友人が減るしね。」
「ああ。マリンは見た目美少女なのに全く恋愛感情を抱かないし、俺達の立場を気にせず対等に接してくれる貴重なやつだからな。」
「それ、褒めてるの?貶してるの?」
「褒めてんだよ。男女の友情はないって思ってたが、マリンは別だ。」
「ああ~分かる。私もベネトさんには恋愛感情の意味では惚れない自信があるもん。」
「マリンこそ貶してないか?」
「ふふっ。‥‥私とベネトさんは友達。それ以上でもそれ以下でもない。一緒にいると楽しいよ?」
「ああ、俺もだ。マリンに関わると色んなことが起きて全然飽きねぇからな。」
「騒動を引き寄せてるみたいに言わないでよ。」
「違わないだろ?」
「‥‥否定し辛い‥‥」
「ははは!」
「むぅ‥‥」
「むくれるな。‥‥マリン。」
「ん?」
「ありがとな。色々。」
「! どういたしまして。」
こうして話してるところを見てもただの友人。お互いに恋愛感情などない。そして歳も一つ違うのに対等。
それは端から見ても同じ。
だからこそ、今回の喧嘩は珍しかった。
2人が話すところを見て、マリンの家族や友人達はそう思っていた。
翌日。
生徒会室で再び顔を合わせた2人は早速、修学旅行の提案を始めた。
先生達や学園長も同席している。
先に理事長である陛下に話を通してしまったため、順番が逆になってしまったが。と最初に言い置いてから。
そうして修学旅行の説明等を終えたあと、一先ず全校生徒に周知と「行くならどこがいい?」とアンケートのつもりでの聞き取りを兼ねて各クラスで話してもらうことになった。
その翌日。
やっぱり先生達の行動は早く、早速各クラスで聞き取りを行ってくれた。
その結果を伝えてくれたレイヤ先生や学園長も交えて旅程計画の例を上げて予算を算出したりする。
それを踏まえて聞き取り結果から複数の行き先候補を上げ、その中から生徒に選ばせるとして‥‥と内容を詰めていき‥‥
「‥‥あっという間にできたね‥‥」
「だな‥‥」
「はぁ‥‥会長、副会長も。あなた方の能力が凄すぎるだけですよ。」
「「え?」」
「そうか?」「そうですか?」
「息が合いますね‥‥」
「まあ、とりあえずできたしな。陛下に上げるか。」
「だね。」
「俺が渡しとこうか?」
「お。最速で陛下に渡せる人材がいるといいよな。」
「確かにそうだね。」
「‥‥人材って‥‥俺、王太子だよな‥‥?」
「間違いなく王太子だぞ?シリウス。」
「‥‥会長と副会長がそう見てないんだが‥‥?」
「だってここ、学園だもん。」
「‥‥‥」
「正論を言ってやるなよ、マリン。」
「言ってほしいから王太子って主張したんじゃないの?」
「いや、違うだろ‥‥」
「まあ、それはどうでもいいんだけど、頼んでいいの?シリウス。」
『どうでもいいって言いきった‥‥』と周囲が思う中、反論を飲み込んだシリウスが答える。
「ああ。構わないよ。」
「じゃあ、お願いします。」
「おう。」
これで承認が出れば年明けすぐにとはいかないが、数日で修学旅行に向かえるだろう。
元々、年内で五年生は生徒会を引退する。年明けからは毎年、卒業式の準備ぐらいしかないからだ。
だからあらゆる意味で修学旅行に行くならこの時が最適なのだ。
「さて、今度は定期試験だね~。」
『‥‥‥』
「副会長‥‥嫌なこと思い出させないでくださいよ‥‥」
「ふふっ。ここにいる人達は余裕のはずでは?」
『うぐっ』
「ふふっ。‥‥先輩方。試験が終わり、休みが明けたら修学旅行です。楽しんでくださいね。」
『!!』
「ああ。」
「ありがとうございます。マリン嬢。」
こうして生徒会室での話し合いも終わり‥‥
数日後。
やっぱり「これでいいよ。」とあっさり陛下からの許可が下りたのだった。