284話 魔法戦の決勝へ
「‥‥勝者、マリン!」
姉様の声を聞き、私は武舞台から落ちたシリウスのところに向かった。
そして、シリウスの顔を覗き込む。
「大丈夫?シリウス。」
「‥‥‥」
「あら‥‥?気を失ってる感じかな‥‥?」
「そうみたいね。」
後からきた姉様も同意したので、念のためシリウスにも鑑定を使ってみたが、特に問題はなかった。
ただ、衝撃で気を失っただけの様だった。
「‥‥マリン。怪我が見当たらないけど‥‥」
「ふふっ。私の魔法はいつも通り、殺傷能力を消してますので、当たっても無傷です。」
「‥‥相変わらずすごいわね‥‥」
「う~ん‥‥でも、シリウス起きないですね‥‥」
「水で運んであげたら?」
「‥‥前にそうしようとしたらやだって‥‥」
「ああ~‥‥言ってわね‥‥」
「かといって抱き抱えるのも恥ずかしいですし‥‥‥やっぱり起こしますか?」
「まあ、それが無難ね。」
ということで、私はシリウスの横に膝立ちになり、シリウスの肩を掴んで揺すってみた。
「お~い。シリウス。」
「‥‥‥」
「お~い。」
「‥‥ん‥‥?」
「あ、起きた?」
と私がシリウスの顔を覗き込んで言うと、シリウスが驚いて、目を見開いた。
「!! ま、マリン!?」
「あ、起きたね。大丈夫?」
「え!?‥‥あ、ああ‥‥大丈夫だ。‥‥俺、負けたんだよな?」
「うん。」
「やっぱりかぁ~‥‥」
「それで、シリウス。起きれる?」
「ああ。大丈夫だ。」
と言って自分で体を起こしたが「うっ」と呻いた。
「え?シリウス、大丈夫?」
「ああ。ちょっと衝撃が残ってただけだろ。」
「そっか、良かった‥‥あ。シリウスにも鑑定使ったの。ごめんね。」
「念のために見てくれたんだろ?俺もマリンになら見られても構わないからいいよ。」
「! そ、そっか。‥‥シリウス。立って歩けそう?」
「ああ。大丈夫だ。」
そう言った通り、シリウスは自ら立ち上がり、色々自身を確認したあと、「やっぱり大丈夫そうだ。」と笑顔で言った。
「! そっか。大丈夫なら良かったよ。‥‥戻ろうか?」
「? ああ。」
そうして、私とシリウスは姉様と分かれて控え室に戻ってきた。
すると、やっぱりシリウスの心配もあったが、私に「おめでとう」とシリウスには「やっぱり負けたな」とみんなから声を掛けられた。
そして、次は五年生ということで、ベネトさんだ。
「頑張ってね、会長。」
「マリン?」
「ふふっ。」
再びため息をこぼしつつ、「行ってくる。」と軽く言って武舞台に向かったベネトさん。
すると。やっぱりあっさり勝ったベネトさん。
ベネトさんが戻ってくると。
「おかえりなさい、会長。」
「まだ言うか。」
「じゃあ、言い直してあげよう。おかえり、ベネトさん。」
「おう。‥‥会長呼び、すげぇむずむずするからやめてくれ。」
「あ。本当に嫌な類いだったんだ。ごめん。」
「いいよ。一度こうして言ったらやめてくれるだろ?」
「もちろん。」
「だからそれでいい。」
と話している間に魔法戦の決勝戦が一年生から始まった。
これが終わると次は二年生のリオトVSルビアだ。
なので。
「リオト、ちょっと話があるの。いい?」
「? はい。」
私はリオトと2人でみんなの輪から外れ、隅に移動してこっそり話す。
「マリン姉様?」
「リオト、これからルビアとの決勝戦でしょ?」
「はい。」
「相手がルビアだからって手を抜こうとか考えてない?」
「え?‥‥‥はい。考えてます。」
「それはルビアに失礼だよ。」
「! ですが!」
「リオト。さっきルビアはなんて言ってた?」
「魔法ならば僕に勝つつもりだと。」
「うん。そうだね。でも、ルビアはそのあとに「私もやればできると見てほしい。」‥‥そう言ってたでしょ?」
「はい。」
「これは私達だけに向けた言葉じゃないと思ってるの。」
「というと?」
「私はね、リオトに一番言いたかったことじゃないかなって思ったの。あくまでも想像だけど、ルビアはリオトに守ってもらうだけなのは嫌なんじゃないかなって。‥‥リオトと対等でありたい、隣にいたいんだって言いたいんじゃないかなって思ったの。」
「! 仮に僕が手を抜いたところをついて勝ててもルビアは嬉しくない‥‥」
「そういうこと。‥‥それにね、ルビアは相手がリオトだからこそ、ちゃんと戦いたいんだと思うよ。リオトもルビアが真剣に、そして本気できてくれたら嬉しくない?」
「‥‥嬉しいです。」
「でしょ?‥‥リオト。」
「はい。」
「ルビアは女の子だし、怪我させちゃったらとか考えてのことでしょ?」
「はい。もちろんです。‥‥大切にしたいですし。」
「ふふっ。それはいつかルビアに直接言ってあげてね。」
「!!‥‥‥はい‥‥」
「リオト。例えルビアに怪我させてしまっても私がいる。絶対に傷跡を残したりしない。だから、ルビアの意思に答えてあげて。」
「!!‥‥分かりました。僕の全力を持ってルビアと戦います。マリン姉様、ありがとうございます。」
「うん。ちゃんと見てるからね。」
「はい!」
そうして話したあと、みんなのところに戻った。
やがて一年生の決勝戦が終わり、次は二年生のリオトVSルビア。
「僕達の番だ。ルビアとの決勝戦、行ってきます。」
「うん。いってらっしゃい。リオト、ルビア。ちゃんと見てるから、二人共頑張ってね。」
「「はい。」」
そして武舞台に向かった二人。
それを見送ったあと。
「それで、リオトに何言ったんだ?」
「ん?ルビアに対して手加減したら失礼だよ。って言っただけだよ?」
「‥‥それにしては長くなかったか?」
「ふふっ。リオトにちゃんと理解してもらっただけだよ。」
「なにを?」
「親しい人に真剣に対応してもらえないこと程、寂しいことはないってね。‥‥気遣いは大事だけど、相手が求めてないなら、それは迷惑に変わるからね。」
「なるほどな‥‥」
「シリウス、マリン。ちゃんと見てるのか?」
「見てるよ~リゲル。‥‥ちゃんと伝わったみたいだね。」
「そうね。」
私達の視線の先ではリオトもルビアも無詠唱ではないが、容赦なく魔法を撃ち合っている。
やがて。
『あ。』という私達の声と共に、リオトが真空弾を撃ち、ルビアを武舞台から落とした。
「そこまで!‥‥勝者、リオト!」
姉様です。審判。
「ふふっ。やっぱりリオトは優しいよね~。最後、真空弾で落として終わらせるんだもん。‥‥さて、診てきますか。」
私はそう言いながら控え室から出て、武舞台へと向かった。
そして、私が着く前にルビアの側にはリオトと姉様がいた。
「マリン姉様!」「マリン!」
ルビアはどうやら気を失っているらしく、膝立ちのリオトの腕の中で目を閉じていた。
「リオト、姉様。大丈夫ですよ。ずっと見てましたが、大した怪我はないはずですから。」
そう言いつつリオトの前に私も膝立ちになって、ルビアの怪我を治し、念のため鑑定を使ってみたが、問題なし。
「うん。やっぱり大丈夫。‥‥リオト。その内、目が覚めるだろうから、ルビアを運んであげて。」
「え?ぼ、僕がですか?」
「うん。それはリオトの役目でしょ~?ね?姉様。」
「ふふっ。そうね。」
「な!?‥‥2人共、ニヤニヤして言ってるということはからかってますよね‥‥?」
「「いや~?」」
「‥‥‥」
「ふふっ。とりあえず戻らないと、三年生ができないよ?」
「うっ‥‥」
すると、リオトは覚悟を決めてルビアを横抱きに抱えあげた。
「「おお~!!」」
「‥‥マリン姉様‥‥」
「ふふっ。恥ずかしいよね?戻ろっか。」
「‥‥はい‥‥」
姉様と分かれて控え室に向かってる間も会話は続いた。
「リオトが怪我させたんだから責任とらないと。」
「‥‥本当にそういう意図でしたか‥‥?」
「もちろん。」
「‥‥」
「半分はね。」
「マリン姉様‥‥」
「ふふっ。‥‥‥あ。リオト。」
「はい?」
「優勝おめでとう。」
「! はい。ありがとうございます、マリン姉様。」
数秒程沈黙の後。
「マリン姉様。」
「ん?」
「手加減しなくて正解でした。‥‥僕もすごく楽しかったです。」
「ふふっ。そっか。それなら良かった。」
「言って頂けて良かったです。ありがとうございました。」
「うん。どういたしまして。」
そして、私達が控え室に着いたあとにルビアは目を開けた。そのあと、視線をキョロキョロさせて最終的にリオトを見た瞬間、顔を真っ赤にした。
「な!?わ、私‥‥り、リオト、あの、その、」
「落ち着け、ルビア。」
「む、むむむむむむ無理ですわ!り、リオト。」
「ん?」
「ふぇっ!」
微笑ましいわ~。リオトと至近距離の今の状況、ルビアには効果てきめんみたいだし。
美少年のドアップを目覚めに見たら心臓に悪いよね~。
「ルビア?」
「お、降ろして‥‥」
「え?大丈夫なのか?」
「い、いいいい今の状況の方が大丈夫ではありませんわ!」
「え?」
きょとんとしたリオトが可愛すぎる‥‥
「おい、マリン。楽しんでないで助けてやらないのか?」
「だって、ベネトさん。あんな微笑ましい状況を壊すなんて‥‥」
「まあ、それは私も同意見だけど、そろそろ助けてあげないと、ルビアが可哀想よ?」
「それもそうだね。‥‥リオト。」
「はい?」
「ルビアの治療は終わってるし、目が覚めたなら大丈夫だから降ろしてあげて。」
「はい。分かりました。」
と答えたあと、リオトはゆっくりルビアを降ろしたのだが、ルビアは自分の足で立ちながら、呟いた。
「なんでマリン姉様の言うことなら素直に聞くのよぅ‥‥」
『‥‥‥』
うん。そうだね、ルビア。
と思いつつ、ルビアにも鑑定を使ったことを詫びた。
けど、ルビアも「念のために見てくれただけ。私なら見られても構わない」とお兄ちゃんであるリゲルと同じ答えで返してくれた。
そんな一幕のあと、少しして。
三年生の決勝も終わり、次は四年生である私VSレグルス。
「さて、行こうか?レグルス。」
「ああ。」
剣術と同じ対戦相手だ。
私達は武舞台に一緒に向かった。
「あ。レグルス。」
「ん?」
「火も使っていいからね?」
「え?‥‥ああ~一応、ずっと使うのを避けてたからな。」
「やっぱり。」
「‥‥どんなに強くてもマリンも女の子だろ?当たったら火傷とかするだろうし、服が燃えたりとかするし‥‥」
「私に当たるとでも?」
「‥‥思わないが、これは私の心情的な問題だ。」
「ふふっ。紳士ですね~皇太子殿下。‥‥でも今は威力はともかく、魔法の種類は全力できてほしい。」
「! ああ。‥‥私もその方がいいらしい。‥‥マリン、全力でいくな。」
「うん。」
そして、武舞台に着くと姉様がやっぱりいた。
「姉様はまさか私達専門ですか?」
「ええ。団長に「マリン達の審判ができるのは見慣れてるクリスだけだ」って言われたのよ‥‥」
「‥‥まさか、剣術のメリアさんも‥‥?」
「ええ。団長の推薦よ。」
「確認ですが、団長ってフリードさんのことですよね?」
「? もちろん。他に誰がいるのよ?」
「いえ、姉様はフリードさんを団長って呼ぶ様になったんだなと‥‥」
「ああ~なるほど。‥‥魔法師団で私だけフリードさん呼びも違和感が出てきたのよ。」
「へぇ~!」
「えっと‥‥2人共、試合は‥‥?」
「「あ。」」
「ふふっ。ごめん、レグルス。」
「いや、私はいいが‥‥」
「ベネトさんが控えてるもんね。‥‥姉様。」
「ええ。2人共、定位置について。」
「「はい。」」
そして、私とレグルスは武舞台のそれぞれの定位置で向かい合う様に止まる。姉様も審判の定位置に。
それから私やレグルスと視線を合わせ、それぞれが頷いたのを確認したあと、姉様が告げる。
「それでは‥‥‥始め!」