26話 入試試験
それから数ヶ月後、学園の入試試験数日前。
私はとあることを思い出した。
なので私は今、姉様とアクア兄様が出てくるのを学園前に止めた馬車の中で待っている。もちろん用事があるのは姉様でもアクア兄様でもない。2人なら帰ってから話せばいい。
そして、姉様と一緒に用事のある人達が出てきた。
私は3人が馬車に近付いてきたところで乗ってきた馬車から降りた。
「姉様。おかえりなさい。リリ様、マリア様。お久しぶりです。」
「‥‥ただいま。マリン。どうしたの?」
「えっと、リリ様とマリア様にお話がありまして。」
「「私達に?」」
「はい。マリア様。私、リゲル様には呼び捨てに関して許可も拒否もしてないのです。なので、今のままだともしかしたら次に会った時にリゲル様は堂々と私を呼び捨てにするかもしれません。そして一番可能性があるのは数日後の試験の日です。」
「確かにそうね‥‥だから今日来たのね?」
「はい。突然で申し訳ないですし、2人のお姉さんであるリリ様達に言うのは大変心苦しいのですが、伝言をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「なに?この間の話を無視してマリンちゃんを呼び捨てしたら返り討ちにするって言えばいい?」
「リリ様‥‥楽しんでます?」
「否定はしないわ。」
「‥‥えっと、さすがに返り討ちにすると後が大変なので、害することはできません。なので、喋れないようにします。」
「「「?」」」
「声が出ないようにするんです。姉様に掛けてみていいですか?」
「え?うん。いいよ。」
「ありがとうございます。では【消音】。姉様、喋ってみてください。」
「‥‥‥!っ!‥‥」
「【消音解除】。姉様もう一度喋ってみてください。」
「マリン?‥‥あ。声出た。」
「こんな感じです。もし次、公衆の面前で呼び捨てにしたら問答無用でこうするとお伝え頂けますか?」
「いいけど‥‥守るかしら。」
「私あの話し合いの時、疲れてもう帰りたいっていうのが先行してたので、リゲル様にも伝えて欲しいと言い忘れてたんです。それに、守って頂かないと困ります。」
「ああ‥‥確かにあの時疲れてたわね‥‥マリンちゃん。分かったわ。ちゃんと伝えるわ。」
「よろしくお願いします。マリア様も‥‥いいでしょうか?」
「ええ。勿論よ。あ、ついでに呼び捨てじゃなくても用も無いのに話し掛けたら無視するとかも言っとこうか?」
「それいいわね!」
「あなた達‥‥そう言ってくれるのはマリンの姉としては嬉しいけど、自分達の弟に凄いこと言うわね。」
「これぐらい当然よ!私がどれだけシリウスに頭を悩ませてきたことか!」
「私だってそうよ!やっとリゲルを変えてくれる存在が現れてくれたのよ。協力はいくらでもするわ!私達は全面的にマリンちゃんの味方よ!」
「あ、ありがとうございます。お願いします。」
姉3人すげぇ‥‥。
やっぱりリリ様達、頭悩ませてきたんだな‥‥。
「で、マリンちゃん。呼び捨てが嫌なら何て呼ばせる?」
「リリ。そんなの決まってるじゃない。「クローバー」もしくは「マリン嬢」よ。」
「まあそれが無難かしらね。分かったわ。マリンちゃん、私達に用事はこれだけ?」
「はい。私の我が儘でリリ様とマリア様にわざわざうちにきて頂くのも申し訳ないので。突然変な頼み事をお願いしてすみません。」
「いいのよ。我が儘じゃないし。私はマリンちゃんに会えて嬉しかったしね。」
「私も。」
「そう言って頂けてよかったです。‥‥あれ?姉様。こちらを窺ってるのアクア兄様ですよね?」
「ん?‥‥あ、ほんとだ。アクアだね。」
「私達がこそこそと話してるから声掛けづらかったからですね。多分。」
そう。こんな話普通の声量で話せない。なんせ学園前。生徒は姉様達だけじゃない。なのでこそこそ話。
「じゃあ私達は帰るわね。」
「はい。リリ様、マリア様。引き止めてしまってすみませんでした。」
「マリンちゃん。そんなに謝らなくていいわ。頼みがあるなら普通にお願いしますだけでいいの。言ったでしょ?私達はマリンちゃんに会えて嬉しいし、マリンちゃんの味方だって。頼ってもらえると私達も嬉しいから謝られると逆にちょっと複雑な気分になるのよ。ね?マリア。」
「ええ。私も同じ。」
「‥‥‥分かりました。では、えっと‥‥今日は相談にのって頂いてありがとうございました。シリウス王子とリゲル様に伝言をよろしくお願いします。‥‥でよかったでしょうか?」
「うん。次からは是非そうして。じゃあまたね。マリンちゃん。クリスはまた明日ね。」
「またね。マリンちゃん。クリス、また明日ね。」
「はい!」
「うん。また明日。‥‥‥アクア!話終わったからこっち来ていいわよ!」
姉様が声を掛けると、アクア兄様と友達らしき人達がきて
「おかえりなさい。アクア兄様。すみません。話し込んでしまって。」
「ただいま、マリン。いいよ。王女殿下にマリア様なら学園にきた方が話やすいだろうしね。俺はマリンがいることにちょっと驚いただけだからな。」
「なあアクア。もしかしてこの子がアクアの妹?」
「あ、すみません。アクア兄様の妹でマリンと申します。」
「おお‥‥ちゃんとした子だな。さすがアクアの妹だな。」
「当然だ。お前はマリンを見習え。」
「アクアひでぇ!」
「マリン。こんなやつほっといて帰ろ。」
「え?俺達を紹介してくれねぇの!?」
「いつか機会があったら自分で自己紹介しろ。俺はお前達を紹介したくない。」
『ひどくね!?』
「ひどくない。お前達は友達としては話しやすくていいが、それとこれとは話が別だ。」
『なんでだよ!』
「ぷっ!‥‥ふふっ‥‥あ、すみません。つい。」
笑いを堪えきらなかった私は吹き出してしまった。
「ん?マリン。なんか可笑しかったか?」
「いえ。アクア兄様の今の喋り方が新鮮だったのと皆さんと仲いいなぁって思っただけです。」
「そうか?」
「はい。皆様、私は数日後のこの学園の入試試験を受けます。合格しましたら皆様の後輩になりますので、その時はよろしくお願いします。」
『ああ。』
「マリン。そいつらに丁寧に接する必要はないし、いい加減帰るぞ。みんなまた明日な。」
『おう!』
「はい。」
そしてやっと私達3人は馬車に乗って屋敷に帰った。
数日後、学園の入試試験の日。
馬車で学園に着いた私は、学園の入り口へ向かって歩いていた。
すると後ろから声が掛かった。私はその声に振り返り、声の主が近付くのを笑顔で待った。
「マリン!」
「リジア!」
「久しぶり!会えて良かった。」
「うん!久しぶり!私もリジアに会えて良かったよ。他に話したことある人いないし。」
「ああ~。お披露目会であんなことがあればそりゃあね‥‥。」
「だよね!?」
「うん。でも私がいるからいいでしょ?そろそろ行こ?」
「うん。本当にリジアが居てくれてよかったよ。」
と私達が話しながら歩き出すと、私にとって一番聞きたくない声が聞こえてきた。
「マリン!」
「(ねぇリジア。もしかしなくても今の王子?)」
「(うん。王子だね。)」
「(無視しちゃ駄目かな?)」
「(う~ん。気持ちは分かるけど‥‥また呼んでるよ?)」
「おい!マリン。聞こえてないのか?」
「(はぁ‥‥しょうがないか‥‥リジア、お願いがあるんだけどいい?)」
「(うん。いいよ。何?)」
「(振り返ったら後ろから私の両肩押さえてて。)」
「(え?両肩?)」
「(後で説明するから。お願い。)」
「(うん?‥‥分かった。)」
「(ありがとう。)」
こうしてリジアと小声で話してる間も呼ばれていて正直煩かったので渋々振り返るともう1人一緒にいた。リゲルである。
リジアは私の両肩に手を置いてくれている。
「‥‥何でしょうか?シリウス王子。」
「マリン。久しぶりにあったな。」
「用事は何でしょうか?シリウス王子。」
2人が近付いてくる。
「マリン?」
「はい。何でしょうか?リゲル様」
2人が私から2mぐらい離れた位置まできたので、
「お2人共。それ以上私に近付かないでくたさい。」
「「何故だ?」」
一瞬私は殺意さえ浮かんだが、ぐっと堪えて。
「何故?シリウス王子が私に何をしたのかお忘れですか?それに前にお話しましたよね?あとリゲル様にしても初対面の時に申し上げた筈ですよ。それにお2人共。リリ様とマリア様からの伝言は伝わってないのですか?」
「「!!」」
「お分かり頂けましたか?それに今この場には私達だけではなく、他にも受験者はいます。私からしても皆さんにしても大声で名前を叫び続けるのは大変迷惑です。それに王族として、公爵家の方として風聞がよろしくありませんよ?」
「「‥‥。」」
「お分かり頂けたようですので失礼しますね。」
「待ってくれ!マリン!」
「「マリン」?呼び捨てですか?よっぽど喋れないようにして欲しいようですね。よろしいのですか?喋れないということは詠唱ができません。魔法試験に影響しますよ?」
「! すまない。マリン嬢。それは困るからやめてくれ。」
「はぁ‥‥今回だけではなくこれから先、私が許可しない限り呼び捨てにしないと改めてお約束して頂けますか?あ、リゲル様もですよ。」
「「‥‥‥分かった。」」
めっちゃ嫌々って顔だな。まあ一応釘さしとくか。
「次呼び捨てで私を呼ばれましたら問答無用で喋れない様にするか麻痺して頂きますので。」
「「麻痺!?」」
「ええ。どっちになるかはその時の私の気分次第ですが。それが嫌でしたらご用事がなければ私に近付かないでくださいね。」
勿論、黒い笑顔で言ってあげました!
それを見た2人は青ざめてる。効果あり。私の言葉と実行された場合の未来を予想してだろうけど。
「では。失礼します。‥‥‥行こ。リジア。」
「えっ?うん。」
再び2人で歩き出した私はリジアに
「ありがとう。リジア。助かった。」
「ううん。私はマリンの肩に手を置いてただけだからね。」
「それこそありがとうなんだよ。1人じゃないって落ち着いて話せたからね。私1人だったらもしかしたらあの2人を麻痺させてたかもしれないから。」
「ああ、そういうことか‥‥リゲル様には初対面の時に何かあったの?そもそもお披露目会の前から2人のこと知ってたの?」
「あ。そっか。リジアに話してなかったね。」
「?」
そして私は王都に向かう途中のこと、お披露目会の後のことも歩きながら簡単に説明した。
「は~。王子達は噂に違わぬ最低なやつらだね‥‥マリンも最悪なのに好かれたね‥‥。」
「噂?」
「うん。王子とリゲル様、いとこっていうのもあって悪友なのは知ってるよね?」
「うん。」
「で、ずっと一緒にいるし無駄に立場がいいから悪さしても強く言える人が少ないのよ。だからあんな風に偉そうな態度でね。普通私達の年齢だったら婚約者がいてもおかしくないでしょ?それなのにあの2人はいない。その理由はまさしくマリンの指摘した通りなのよ。」
「えっと、礼儀とか態度とか空気を読むとかあと‥‥見た目?」
「そう。私もあれはないわって思ってたのよ。でも周りの言うことを一切聞かないからマリンが指摘したところが全部治らない。当然お見合い話があってもやんわり断られるか、王子達自身が嫌だと文句を言って破談になって婚約者がいないのよ。まあ私は自由に選んでいいよって父様が言ってくれてるからいないんだけどね。」
「あ。それはうちも同じ。だから私もいないよ。ところでリジアはお披露目会前に2人に会ったことあるの?2人共お披露目会の時髪形変えてたよね?」
「うん。1回だけね。5歳の時に王都近郊の貴族を集めてパーティーがあってね。今思うと2人の婚約者探し。そこで見掛けたの。」
「見掛けた?話した訳じゃないの?」
「うん。‥‥一目見た瞬間「話したくない」って直感がね‥‥。」
「あ~!それ凄い分かる!」
「だよね!?‥‥あ。着いたね。」
「あ。本当だね。」
話しながら受付を通って筆記試験会場が同じ教室だと確認した私達はそのまま話し続けていた。
会場に着いたことで話を中断した私達はそれぞれ席に着いて筆記試験を受けた。
筆記試験と言っても10歳の子が受ける試験なので簡単なものしかない。読み書きは勿論、歴史とか軽い計算問題とかなのであっさり終わった。
ちなみに王子達は別の教室だったのかいなかった。
そして筆記試験の後、次は魔法試験である。正確には魔法と剣のどちらか選べる様になっていたので私は魔法を選んだ。リジアも一緒だ。
会場である魔法訓練場に移動した私達は順番に的に向けて魔法を放ってるのを見ていた。
え‥‥みんな詠唱してる。私、むしろ詠唱の言葉覚えてないけど‥‥しかも的に当たらない人もいるな。
当たっても良くて一部を削れるぐらいの威力って‥‥。これ私、相当威力抑えないとまずいんじゃないかな?
とか考えてると目の前のリジアの番になった。
リジアは詠唱しての魔法だったが、なんと的を破壊させていた。
おお~リジアやる~。じゃあ的を壊すぐらいならいいのかな。う~ん。何を打つかな‥‥今の所うちの家族以外に私が全属性使えるって知ってるの、先生達だけだからな‥‥。誰かに見せたことある魔法のほうがいいよね。
あと的の固さは多分うちで使ってた的と同じぐらいかな?じゃあ魔力量どれくらいにしようかな‥‥?
えっと‥‥
と考えてる間に的の入れ替えが終わり、私の番になっていたので
う~ん多分これくらいかな。
「【氷槍】。」
‥‥‥あ、やべ。ちょっと込める魔力多かったっぽい‥‥。
私も的を破壊した。でも的を破壊した後、そのまま的の背後の結界に当たって砕けた。的を「突き抜けた」ということである。
『‥‥‥‥』
それを見ていた教官の先生と他の受験生は絶句していた。
すると教官の先生が
「無詠唱‥‥あなた今の魔法は?もしかして水の魔法の応用?」
「はい。そうです。」
「氷を一瞬で‥‥しかも無詠唱‥‥。」
先生がぶつぶつ言ってる‥‥まずかったかな?
う~ん。氷じゃなくて水にすれば良かったかな?
「はっ!‥‥こほんっ。皆さん。試験はこれで終わりです。お疲れ様でした。帰る支度のできた人から帰って構いません。」
『はい。』
私が最後だった為、それで解散になった。
「マリン!今の凄かったね!」
「リジアも凄かったよ!的破壊してたじゃない!」
「そうだけど、マリンは後ろの結界まで飛んでたでしょ。そっちの方が凄いよ!」
「そうかな?‥‥ありがとう。」
「こほんっ!」
あ。まだ試験会場だった。
「帰ろっか。」
「うん。」
こうして無事に私達の入試試験は終わった。
※2021,9,4 改稿しました。