283話 魔法戦準決勝
少し時間を遡り、シリウスとレグルスを襲撃から守り、控え室に戻ってきたマリン。
「ほら~!リゲルが珍しく私を褒めるから槍が降ったじゃない。」
「いや、槍は槍でも魔法の槍じゃないか。」
「そうだけど~!」
「それより、マリン姉様。兄上達の試合、再開されましたよ。」
「え?‥‥ほんとだ。」
そして再開されたシリウスVSレグルス戦を再び無言で見る一同。
やがて。
「あ。」とマリンが声を溢した直後。
「そこまで!‥‥勝者、皇太子殿下!」
「ふふっ。やっぱりレグルスだったね。」
「だな。」
「う~ん‥‥やっぱり来年、三位まで賞品を用意して三位決定戦までやるかな‥‥」
『え?』
「だって、今回は優勝者だけにしちゃったでしょ?」
「まあ、確かにな。」
「おいおい考えてみようか?」
「ですね。」
そうして話しながらもシリウス達を見ていると。
「ふふっ。」
「マリン姉様?」
「リオト。シリウス、負けたのに楽しそうじゃない?」
「‥‥確かにそうですね。」
「レグルスも楽しそうだし、私が思ってた以上にみんなそれぞれ楽しんでくれてるみたいだね。」
「ああ。俺はこの一回だけになるが、正直すごく楽しいぞ。」
「おお‥‥生徒会長に褒めて頂けるとは‥‥」
「マリン?」
「ふふっ。‥‥ベネトさんは来年も見に来る?」
「ああ。殿下が卒業するまで王国にいるつもりだからな。」
「‥‥丸一年学園内は警護できないのに?」
「マリンがいるだろ?」
「またそれ~?‥‥まあ、いいけど。」
そして、シリウスとレグルスも戻ってきた。
「おかえり、二人共。いい勝負してたね。」
「ああ。正直、レグルスといい勝負できるとは思わなかったから、楽しかったよ。」
「私もだ。楽しかったからまたやろうと話しながら戻ってきたぐらいだ。」
「ふふっ。やっぱり楽しんでくれてたんだね。」
「予想以上にな。」
「さて、殿下が終わったなら次は俺だな。」
「いってらっしゃい。会長。」
「マ~リ~ン?」
「ふふっ。」
「‥‥いってくる‥‥」
私がふざけたのに対し、苦笑いを浮かべたベネトさんは武舞台へと向かった。
まあ、ベネトさんあっさり勝ちましたけども。
ということで、再び一年生から今度は決勝戦。
準決勝からそのまま決勝をやらないのは、他の学年がやってる間に、体力の回復に努めるためだ。
冒険者なら連戦は仕方ないかもしれないが、これは学生の実力勝負。命のやり取りはないので、とりあえずこれでいい。
一年生の優勝者が決まり、次の二年生ではリオトが危うげなく、あっさり優勝した。
そして控え室に戻ってきたリオトを全員で迎えた。
「おかえり、リオト。優勝、おめでとう!」
『おめでとう!』
「ありがとうございます。皆さん。‥‥マリン姉様。」
「ん?」
「指名してもいいでしょうか?」
「もちろん、いいよ。」
「! ありがとうございます!」
そうして、話している間に三年生も終わり‥‥
「さて、レグルス。行こうか?」
「ああ!」
そして、武舞台に到着したところで。
「なあ、マリン。」
「ん?」
「こうして、純粋な剣術のみの対決は初めてだな。」
「そうだね。魔法なしだからお互いに身体強化も使えないしね。」
「ああ。‥‥マリンの純粋な剣術を受けられる訳だな。」
「そうなるね。」
「‥‥‥」
「レグルス?」
「‥‥マリンと真剣勝負ができるんだと噛みしめていた。」
「? 言ってくれたらいつでも相手するよ?」
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが‥‥こうして大勢の観客がいる中で、堂々と力を示せることが嬉しいんだよ。」
「‥‥そっか。」
そして、私達はそれぞれの立ち位置に向かった。
すると、最早私達専門の審判になってくれてるのかと疑いたくなる人。メリアさんが今回も審判をしてくれる様で‥‥
「皇太子殿下、マリンさん。‥‥よろしいでしょうか?」
「「はい。」」
「では。‥‥始め!」
開始の合図と共に向かってきたレグルス。
軽くいなしたが、それでも攻めてくるレグルスと斬り結ぶ。
それを何度も繰り返しながら、私はレグルスを観察していた。
さっきのシリウスとの対決でも思ったけど、強くなったよね‥‥レグルスも。
最初から魔法も合わせての対決しかしたことなかったけど、純粋な剣術だけでも十分強い。
‥‥ベネトさん。私の護衛、必要ないよ。
レグルスだけじゃない。シリウスやリゲルも。
もう、私が守らなくてもある程度なら対処できると思うよ、三人共。
そんなことを考えていると。
「マリン!」
「なに?」
「考えごととは余裕だな!」
気付く余裕ができてるか‥‥
「‥‥ふふっ。」
「え?」
「強くなったよね、レグルスも。」
「!! そ、その笑顔は反則だろ!」
「は!?」
確かに楽しくなってきたな~とは感じたけど‥‥
「まあ、とりあえず、レグルス。時間いっぱいまでやるつもりはないから、そろそろ決着つけようか!」
「! ああ!」
こうして話している間も攻防は続いていたが、私はレグルスの隙をついて剣を弾き、レグルスの首筋に剣を突きつけた。その瞬間。
「そこまで!‥‥勝者、マリンさん!」
メリアさんの声で私は剣を下ろし、レグルスとお互いに一礼した。
「「ありがとうございました。」」
そして、私達は控え室に戻りながら再び話し始めた。
「やっぱり強いよな~マリン。」
「ふふっ。私は皇太子相手だろうと負けてあげないよ。
‥‥でもまあ、立場を優先するなら、私はまずリゲルに負けてあげないといけなかったんだろうね。」
「そうなるな。でも、多分リゲルもだろうが、私もマリンがわざと負けたら怒っただろうな。」
「え?‥‥‥それはそれで見てみたかったかも‥‥」
「え?」
「だって私、レグルスが怒ったところとか見たことないでしょ?」
「‥‥‥確かに。自分自身でも最後に怒ったのがいつか覚えてないな‥‥」
「どれだけ優しい性格してるのよ‥‥」
「そもそも怒るべき場面に遭遇しないんだよ。」
「なるほど。」
そんなことを話ながら控え室に戻ると。
「マリン。優勝おめでとう。」
『おめでとう。』
「ふふっ。ありがとう、みんな。」
「で、やっぱり負けたな。レグルス。」
「ああ。でも楽しかったぞ?」
「ああ。分かる。マリンが真剣に相手してくれるってだけで嬉しかったしな。」
「ああ。」
「‥‥リゲルとレグルスはいいよな‥‥」
「「だろ?」」
「くっ‥‥!」
そんな話をするシリウス達の横をスルッと通ってベネトさんが歩き出した。
「頑張ってね、ベネトさん。」
「おう。‥‥殿下とマリンの試合見てたら疼いてたからな。勝ってくるよ。」
そして、宣言通りベネトさんは優勝した。
戻ってきたベネトさんも‥‥
「マリン。優勝の景品。俺もマリンを指名していいか?」
「! もちろん。受けて立つよ!」
「おう。‥‥魔法戦でもその予定だから覚悟しろよ?」
「ふふっ。いいよ~!もちろん。」
「僕もです!マリン姉様。」
「あら?私は魔法ならばリオトに勝つつもりですわよ?」
「え?ルビア?」
「絶対に決勝でリオトと戦って勝ちますわ!」
「おお‥‥ルビアがやる気満々だ‥‥」
「意外だな‥‥」
「「ああ‥‥」」
「む。マリン姉様、皇太子殿下、兄様達。私だってやればできると見て頂きたいのですわ!」
「「「「!!」」」」
「ふふっ。そっか。じゃあ、ルビアも頑張ってね。ちゃんと見てるからね。」
「! はい!」
そして、剣術に引き続き、魔法の準決勝が始まった。
一年生が順調に終わり、二年生。
リオトとルビアは宣言通り、決勝に勝ち進んだ。
ということで二年生の決勝戦はリオトVSルビア。
三年生も終わり、私達四年生。
まずはレグルスVSリゲル。
二人共、やる気満々で武舞台に向かった。
「ねぇ、マリン。」
「ん?なに?リジア。」
「やっぱりレグルスが勝つのかな?」
「そうだね~。いい勝負は見せてくれるだろうけど、レグルスが勝つだろうね。」
「‥‥ということは魔法戦も決勝はレグルス対マリン?」
「かな。」
「そっかぁ~大番狂わせとかないかな?」
「大番狂わせか~‥‥あったら面白いのにね~。」
とリジアと二人で話していると、シリウスから苦言がきた。
「二人共、真面目に見てやれよ‥‥」
「「見てるよ~?」」
『‥‥‥』
実際、ちゃんと真面目に見てる。二人の攻防もしっかり。
ただ‥‥
「ふふっ。」
「マリンも?」
「うん。」
「「楽しそうだよね~」」
「やっぱり。」
「ふふっ。そうね。」
「レグルスとリゲル。楽しそうだよね。」
「うん。私にもそう見える。」
と。
『あ。』
レグルスがリゲルの隙をついて真空弾を撃つと、それが見事にリゲルに当たり、武舞台から落ちて終わった。
「勝者、レグルス!」
ちなみに審判は姉様だった。
『‥‥‥』
「‥‥リゲル、動かないね?」
「ああ。気を失ったかな?」
「う~ん‥‥行ってあげた方がいいかな?」
「ああ。そうだな。行くか。」
ということで、ちょうど次は私とシリウスの対決だからと、二人で武舞台に向かうと、さすがにレグルスがリゲルの側にいて、私達に気付いた。
「あ。マリン、良かった。来てくれて。」
「リゲル、気を失ってたりする?」
「ああ。頼めるか?」
「うん。」
そして、一応鑑定で様子を見たあとに治療すると、わりとすぐにリゲルは目を覚ました。
「‥‥ん‥‥」
「あ。リゲル、大丈夫?」
「‥‥マリン‥‥?」
「うん。」
「‥‥は!試合は!?‥‥って俺の負けだよな。」
「うん。そうだね。‥‥それで、リゲル。今、念のためとはいえ、リゲルに鑑定使ったの。ごめん。」
「ん?マリンになら見られても構わないからいいよ。それに治療のためでもあったんだろ?」
「うん。」
「なら文句はないよ。むしろありがとな。」
「! ふふっ。」
「? なんだ?」
「いや?別に?」
「気になるから言ってくれ。」
「いい方に変わったな~って実感しただけ。」
「ふふっ。確かにそうね。シリウスもリゲルも、マリンとの初対面からこうだったら、もう少しレグルスと張り合えてたかもしれないのにね~。」
「あ、私もそう思います。姉様。むしろレグルスに勝てたかもですよね?」
「そうね。」
「「「‥‥‥」」」
私達姉妹の会話に苦笑いの三人。
「さて、マリンとシリウスは次にやるっていうのもあって二人で来たのよね?」
「「はい。」」
「で、リゲルは自分で戻れそう?」
「ええ。マリンのお陰で大丈夫です。」
「駄目でも私が支えて控え室まで連れて行きますよ。」
「そう。じゃあ、お願いね。‥‥マリン、シリウス。このままやる?」
「「はい。」」
「分かった。じゃあ、この試合も私が審判するからそれぞれ立ち位置について。」
「分かりました。」
「‥‥マリン。」
「ん?」
「言いたいことはリジアと同じだ。遠慮なく撃ってきてくれ。正々堂々と戦いたい。」
「! うん。分かった。いいよ。」
そして、私達は武舞台の上に上がり、それぞれの立ち位置に移動した。
姉様は私達を見て、それぞれ頷いたのを確認したあと。
「それでは。‥‥始め!」
姉様の開始の合図と共に、シリウスは早速水弾や土弾で攻撃をしてきたので、私も同じ魔法で相殺することから始まった。
魔法戦なのでひたすら魔法しか撃たないが、二人共無詠唱なので、避けたりもする。
私達の攻防は続き、私はたまに真空弾も撃ったりしたが、意外にもシリウスは避けたりできていた。
おお‥‥!今の、避けたよ‥‥!
と普通に驚いていると。
「マリン!そんなに意外だったか?」
「! うん。」
「じゃあ、もう少し驚いてもらうぞ!」
「え?」
「【氷弾】」
「え?あ、【氷弾】」
もちろん、相殺したけど!
「うそ!?シリウス、いつの間に!?」
「やっぱり、相殺されるか‥‥なら!」
答えてくれなかった。
まあ、あとで聞けばいいかな。
と思ってる間に、今度は岩弾が飛んできた。
「え!?【岩弾】」
「ああ~!やっぱり相殺するのか!」
「え?いや、それはそうだよ!」
と答えたが、シリウスはまだあるらしく、ニヤリとした。
「え?」
「【光槍】」
「え!?ら、【光槍】」
今度はシリウスの光槍を破壊した。
「どうだ?少しは楽しくなりそうか?」
「!! うん。楽しくなりそう!」
「それなら、どんどんやるぞ!」
「いいよ~!」
「言ったな?【氷槍】」
「【氷槍】‥‥それもだったか~!」
「(‥‥‥分かってたとはいえ、こうもあっさり全て相殺されるとやる気が失せるよな‥‥)」
「え?」
「なんでもない。続きやるぞ!」
「うん。」
そうして氷と岩での魔法の応酬に変わり、意外とシリウスは頑張っていた。
最後はやっぱり私が隙をついて真空弾を当て、それでシリウスは武舞台から落ちた。
「そこまで!‥‥勝者、マリン!」
早いもので、この作品を書き始めて今日で一年が経ちました。
亀の速度での投稿が続いてますが、完結まで引き続きお付き合い頂ければと思います。