282話 準決勝
途中からシリウス、レグルス視点のつもりで書いてます。
翌日。
今日も私は皇族の方々を闘技場の貴賓室に、フレイ兄様夫妻を父様達と合流させたあと、控え室に向かった。
「おはよう、みんな。」
『おはよう。』
「マリン。姉上、どうだったんだ?」
「知りたい?シリウス。」
「え?まあ、姉だし、心配はする。」
「ふふっ。あとで分かるよ。リリ姉様が自分で直接言うべきことだからね。」
「「え?」」
「ふふっ。リオトも気になる~?」
「はい。もちろんです。‥‥病気ではないんですよね?」
「うん。違うよ。だから安心して大会を楽しもう?」
「! はい。」
そして、まずは剣術の準決勝を一気に進める。
一年生から順に2試合ずつ。
もちろん、二年生のリオトは決勝に進んだ。
続いて三年生も終わり、次は私達四年生。
準決勝の初戦は私VSリゲルということで、私達は武舞台に向かった。
そして舞台に到着し、距離をとるために左右に分かれようとしたところで。
「‥‥なんか不思議な気分だな。」
「ん?」
「マリンとこんな広い場所で一対一の剣術のみの勝負。やったことないし、こんなに堂々と対戦できるんだなって思ったらな。」
「ふふっ。なるほどね。‥‥確かに一対一の正式な勝負はしたことなかったね。‥‥堂々と対戦できるって?」
「2・3年前まではあり得なかっただろ?‥‥俺はマリンに会ってから考え方も変わったし、少しずつ実力をつけて将来の目標も得た。‥‥‥マリン。」
「ん?」
「正々堂々と戦ってマリンに今の実力を示したい。」
「!!‥‥うん。いいよ。」
「ありがとな。」
そう言ってリゲルは立ち位置に向かったので、私も反対に向かって歩き出した。
そしてお互いに最初の立ち位置に着くと、審判のメリアさんから声が掛かる。
「マリンさん。リゲル様。よろしいでしょうか?」
「はい。」「ああ。」
「では。‥‥‥始め!」
メリアさんの開始の声と同時にリゲルが一気に距離を詰めてきた。
あ。リゲル、動きが早くなってる。
そう感じながら私はリゲルの攻撃を軽く避ける。
ちなみに、魔法使用不可の状況なので身体強化すら使えない。それは私も同じ。
これは純粋な剣の腕での試合。
避けられても斬り込んでくるリゲル。避けてるだけだと悪いなと思った私はリゲルが斬り込んできた時の隙をついて剣を弾いた。
けど、リゲルはその瞬間、後ろに飛んで距離をとった。
なので。
「リゲル。」
「え?なんだ?」
このタイミングで話し掛けるのは予想外だったらしい。
「ごめん。このままはリゲルに失礼だった。真面目にやるからちょっと待って。」
「え?」
私は剣を地面に置き、ハーフアップで留めていた髪紐を解いた。
「え‥‥?マリン?」
リゲルが戸惑いを見せるが、とりあえず無視して私はポニーテールに結び直した。
そして再び剣をとってリゲルに向ける。
「お待たせ、リゲル。これは本気で相手するって意思表示だと思って。」
「!!‥‥そうか。それは嬉しいが‥‥」
「ん?なに?」
「その髪型も可愛いな。」
「え!?な、なに、いきなり‥‥り、リゲルがそ、そんな、れ、レグルスみたいなこと言うとか‥‥や、槍が降る!」
「物騒なこと言うな!‥‥でも、俺でもマリンを動揺させられるんだな。」
「え?えっと‥‥‥もう!とにかくやるよ!リゲル。」
「ああ!」
そして、試合を再開させたが、やっぱり何回か斬り結んだら私が隙をついてリゲルの喉元に剣を突き付けたところで、
「そこまで!‥‥勝者、マリンさん。」
メリアさんの言葉で試合終了。
私達は剣を降ろし、一礼した。
「「ありがとうございました。」」
そして同時に顔を上げた私達は笑い合っていた。
その後、二人で控え室に戻りながら話した。
「やっぱりマリンは強いよな‥‥」
「ふふっ。でもリゲルも強くなってたよ?」
「ほんとか!?」
「うん。‥‥この髪型も気合いを入れたりする時ぐらいしかしないの。」
「え‥‥?俺はそうしてもらえる程だったのか‥‥?」
「真面目に戦って勝つって言ったでしょ?でも、見て分かる様にもしたくなったの。」
「!!‥‥そうか。ありがとな。」
「楽しかったね、リゲル。」
「ああ。」
そして私達と入れ代わりでシリウスVSレグルスの試合がある。
「シリウス、レグルス。見てるから頑張ってね。」
「「ああ。」」
今度は二人が武舞台へと向かった。
「ねぇねぇ、マリン。」
「ん?なに?リジア。」
「シリウスとレグルス。どっちが勝つと思う?」
「レグルスでしょ。」
「やっぱりそうなの?」
「うん。でも‥‥」
『でも?』
聞いていたのはリジアだけじゃなかったらしい。
「でも、今のシリウスなら昔よりはいい勝負になると思うよ。」
『!!』
「そうですね。僕もそう思います。‥‥兄上、学園が休みの時、勉強ももちろんしますが、騎士団や魔法師団にも行って訓練しているんですよ。」
「その時、兄様も一緒に行ってますわ。」
「そうなの!?‥‥道理で‥‥」
そして実際、シリウスとレグルスはいい勝負をしていた。
私達はいつしか無言で二人の試合を見ていた。
「‥‥強くなったなぁ‥‥」
『え?』
みんな私の呟きを拾ったらしい。
「マリン姉様?」
「ふふっ。‥‥初対面の時が嘘みたいだなって。」
「シリウス?」
「レグルスやリゲルも。」
「ああ。確かに、昔の殿下は実力があっても相手をするのは俺か陛下だったからな。‥‥マリンに会って友人を得て人見知りが改善された。それにシリウス達も昔に比べて色々成長したし、強くなったよな。」
「そうだね~。」
◇◇◇◇◇
一方、試合中のシリウスとレグルスはというと。
「シリウス!」
「なんだ!?」
「強くなったな!」
「! 当然だ!」
鍔ぜり合いをしながら会話し、再び離れてお互いを見据える。
「レグルス。見えるか?‥‥マリンが見てるぞ。」
「ああ。もちろん、見えてるよ。」
「‥‥さっきのリゲル。羨ましかったな。」
「ああ。マリンに本気で相手してもらってたな。」
「‥‥でも俺達の勝った方が決勝でマリンと戦える。」
「ああ。そうだな。‥‥でも」
「ああ。今がもう楽しい。」
「そうだな。‥‥だからこそ、シリウス。本気でいかせてもらう!」
「ああ!挑むところだ!」
そして二人はまた斬り結ぶ。王太子と皇太子の対決。
会場にいる観客が固唾をのんで見守っている。
が。
突然試合をしている二人の頭上から武舞台全体を覆う程のシールドが展開された。
「「え?」」
そして二人が戸惑う間もなく、そのシールドに槍の雨が降り注いできた。それは水、火、土、光と様々だ。
「「な!?」」
二人が驚いていると、いつしか槍の雨は終わり、自分達の無事が観客に伝わったのか、歓声が上がった。
そしてとりあえず、自分達の命の危機だったことくらいしか分からない状況の中、しっかり自分達を槍の雨から守ってくれたシールドはまだしっかり残っていた。直後にその上、シリウスとレグルスの頭上に綺麗で長い青髪を靡かせた一人の女の子が立った。
自分達が惚れた女の子。
見た目もそうだが、笑顔が可愛い子。
真面目で優しくて、ちょっと天然だけど芯がしっかりした心の強い子。
頭脳明晰で、剣術や魔法は誰も勝てない程の猛者。
でもそれを自慢する訳でもなければ、むしろ努力を怠らない。
そして神々に愛された御使い。
その子はシールドの上で見た目とは裏腹の言葉を叫んだ。
「友人同士の楽しい試合を邪魔するとはいい度胸ね~?でも、二人の邪魔はさせない。どうしても二人の邪魔をしたいなら私を倒してからよ!」
ざわつく周囲。
「さあ、襲撃者共。かかってきなさい!」
マリンがそう叫んだ真下では。
「「‥‥‥ぷっ。」」
「さ、さすがマリンだな。」
「ああ。笑ってる場合じゃないんだろうがな。」
「まずは状況整理からかな。」
「だな。‥‥どっち狙いだったと思う?シリウス。」
「‥‥両方かもな。」
「それもあり得るか。‥‥なあ、シリウス。」
「ん?」
「マリンには悪いが、続け辛いよな?」
「ああ。普通、仕切り直しだよな。」
「「‥‥‥‥」」
「俺達、このまま待機か?」
「‥‥そんな雰囲気だな。」
ちなみに二人の頭上では四方八方の観客席にいる襲撃者達が魔法攻撃を再開してきたのだが、逆にマリンがそれを避けたり相殺したりしつつ、別の魔法で仕留めている。
もちろん、観客席には他の観客もいる。その人達を人質にとろうとする者もいた。
が、それはマリンを更に怒らせるだけで、観客席まであっという間に移動したマリンに直接倒された。
そのままマリンは観客席を一周しながら武舞台の側に襲撃者達を叩き落としていった。
そうすると、シリウスとレグルスがいる武舞台を襲撃者達が気を失った状態で囲むこととなった。
「「うわ~‥‥」」
シールドで守ってもらったとはいえ、襲撃者達に囲まれていい気分になるはずがない。
気を失っているし、シールドがあるので襲われる心配はないのだが、ドン引きする光景ではある。
そんなところに無傷で、しかも汚れ一つなく戻ってくるマリン。倒れている襲撃者達を一纏めに水の牢獄に入れると、ようやくシールドを解除した。
そして、二人が好きな可愛い笑顔を向けてくれる。
「シリウス、レグルス。お待たせ。」
「「!!」」
「‥‥ああ。ありがとな、マリン。」
「また助けてもらったみたいだな。ありがとう。」
「ふふっ。どういたしまして。」
「確認だが、マリンは怪我してないよな?」
「うん。大丈夫。」
マリンは怪我しても自分で治せるが、これは嘘をついてる顔じゃない。
二人共それが分かるから素直に安堵の表情を浮かべる。
そして。
「マリン。」
「ん?」
「さっき言い損ねたことがあるんだ。」
「え?なに?」
「「可愛いな。」」
「え!?な、なに?」
「「髪型。」」
「え?えっと、その、リゲルも言ってくれたけど‥‥似合って‥‥るの?」
「ああ。」
「もちろん。だから俺達も可愛いって言ったんだしな。」
「! あ、ありがとう‥‥」
「観客席を走っていた時は綺麗だったな。」
「ふぇっ!?」
「ああ。確かにあれは綺麗だったな。尻尾の様に靡いてて。」
「な、なんで‥‥」
「「ん?」」
「なんでリゲルも、シリウスも、レグルスもそんなにいきなり褒めだすの!?」
「「え?」」
「俺達は思ったことを言っただけだが?」
「ああ。それにマリン。」
「え‥‥?」
「武舞台で言ったら観客が見てるだろ?会話は聞こえないだろうが、私達の様子を見てどう思うかな?」
「え‥‥?な、え‥‥?」
「俺達三人、マリンしか見えてない。マリンは俺達三人に狙われてる。俺やリゲルとマリンの間にあった溝は完全になくなった。最早友人以上にしか見えない。‥‥とかかな。」
「!!‥‥は、嵌められた‥‥」
笑顔も可愛いが、照れてる顔も可愛い。そして表情豊かなその顔をずっと側で見ていられたらどんなに幸せだろうか。
ただでさえ王族や皇族という責任の多い自分達の立場。
それに巻き込むのは忍びない気持ちもあるが、手離したくない気持ちの方が大きい。
こんな風に立場を気にせず接してくれる子、しかも魅力に溢れた存在をどうして手離せる?
早く自分を選んでくれないかな。
選んでくれたら大切にするのに。甘やかすのに。
二人はそんなことを感じながらマリンと話していると、騎士団や魔法師団の者達が来て、マリンが拘束した襲撃者達を連行していった。
「あ。そういえば、二人は大丈夫だった?怪我してない?」
「ああ。マリンのシールドのお陰で無傷だ。」
「良かった~。‥‥あ、メリアさん。」
「はい?」
「仕切り直しですかね?」
「ふふっ。はい。そうなりますね。」
やっぱりな。
「じゃあ、シリウス、レグルス。頑張ってね。‥‥さっき途中まで見てた限り、二人共強くなってたから、油断してたらどっちが勝つか分からないかもよ?」
「「え?」」
俺がレグルスに勝てる可能性が‥‥?
私がシリウスに負ける可能性が‥‥?
お互いに視線を向け‥‥‥ニヤリ。
「それは楽しみだな、シリウス。」
「そうだな、レグルス。‥‥負けない。」
「ああ。望むところだ。」
「ふふっ。」
「「ん?」」
「そうしてると格好よく見えるから美形って得だよね~。」
「「‥‥‥」」
まだ言うか。
二人は同時に思った。
「「マリン。」」
「ん?」
「俺達にしたらマリンの笑顔こそ、美少女の笑顔だから破壊力すごいなって思ってるんだが?」
「え!?」
「マリン。世間的にもマリンは美少女なんだ。いい加減自覚してくれ。その笑顔に絆されたやつは多いんだぞ?」
「え‥‥?ええ!?う、嘘だ!」
「俺達が嘘つくとでも?」
「うっ‥‥」
「とりあえず、マリン。その可愛い笑顔を向けるのは私達友人や家族だけにしてくれ。無駄に敵を増やさないでほしい。」
「敵?‥‥増えるとは思えないけど、分かった。」
「「‥‥‥」」
ああ‥‥これはやっぱり長期戦だな‥‥
と二人が感じていると、マリン達に引き続き、審判を務めていたメリアから声が掛かる。
「あの‥‥王太子殿下、皇太子殿下。試合、しませんか?」
「「「あ。」」」
「すみません、メリアさん。‥‥じゃあ、二人共頑張って!」
と言ってマリンも去っていった。
そして、シリウスとレグルスは再び向き合う。
「では、お二方共。よろしいですか?」
「「ああ。」」
「では。‥‥‥始め!」
シリウスVSレグルス戦が再開された。
再び鍔ぜり合いを繰り返し、斬り結ぶ。
やがて。
「そこまで!‥‥勝者、━━━━」
そして試合が終わった二人は武舞台を降り、控え室に戻るべく歩きだす。
「レグルス。」
「なんだ?」
「また別の時にやらないか?」
「! ああ。いいぞ。今度はリゲルともやるか。」
「俺はリゲルと散々やったからいい。」
「ははは!そうか。‥‥でも、楽しかったな。」
「ああ。」
セレスティン王国王太子 シリウス
ルベライト帝国皇太子 レグルス
次期王となる二人はこの日、お互いに立場を忘れて純粋に戦った。
友人であり、同じ女の子を好きになった恋敵として。
でも、こんな楽しい時間を過ごせるのも、あと一年と少し。
それを感じつつも二人は満足気に笑い合って控え室に戻った。
シリウスとレグルスのところはマリンとは関係なく、友人同士のやり取りを書いてみました。
かつて誰に対しても偉そうで当たり散らしていたシリウスはどこにもいない。
人はきっかけ一つで変われる゛こともある゛。
それをシリウス、リゲル、レグルスが体現している感じですね。