281話 二人の義理の姉に‥‥
そして帰りの馬車の中。
私の両隣はセレス母様とディアナ母様。対面にはアクア兄様と父様。
「ねぇ、マリン。私の予想が当たってるか聞いてもらっていい?」
「はい。ディアナ母様。耳打ちでなら。」
「うん。」
そして私の右隣に座っていたディアナ母様はその予想を伝えてきた。
「ふふっ。正解です。ディアナ母様。でも、私の鑑定で見るより医師にちゃんと言われた方がいいと思いませんか?」
「ふふっ。そうね。‥‥マリン。目の前の男共は分かってないみたいだから、私からは言わないでおくわ。」
「ですね。リリ姉様ならちゃんと報告してくれるでしょうし、待ってもらいましょう。」
「ええ。」
「私も確認していい?マリン。」
「はい。セレス母様。」
そして左隣のセレス母様も耳打ちで聞いてきた。
「ふふっ。セレス母様も正解です。」
「あら。やっぱりそうなのね。」
「セレス母様もまだ内緒ですよ。」
「ふふっ。うん。」
「‥‥父様。この感じは、誰も教えてくれそうにないですよね‥‥?」
「そうみたいだな‥‥」
そんな話をしつつ、屋敷に到着したあと私は自室に直行した。そしてサッと湯殿で汗を流し、着替えたあと、私はまず領地の辺境伯邸の自室に向かった。
自室を出た私は、マリア姉様とフレイ兄様がいる執務室に向かい、扉をノックした。
すると、やっぱりマリア姉様が扉を開けて中に入れてくれた。
「あれ?どうした?マリン。」
「フレイ兄様。お二人を帰したあと、リリ姉様のことで急遽、私達女性陣だけ大公家に集まることになりました。リリ姉様の要望は私、姉様、マリア姉様です。なので、マリア姉様を連れて行っていいでしょうか?」
「「え?」」
「リリに何かあったの?」
「ちょっと。‥‥マリア姉様。一緒に来てくれませんか?」
「‥‥リリが呼んでるのね?」
「はい。」
「‥‥フレイ様。」
「ああ。なにかは分からないが、マリンが一緒なら構わないよ。‥‥マリン。あとで教えてくれるんだよな?」
「それはリリ姉様次第です。リリ姉様のことなので、私からは言わない方がいいかと思いますので。」
「?‥‥やっぱりよく分からないが、とりあえずマリアを連れて行っていいよ。」
「ありがとうございます!‥‥行きますよ、マリア姉様。」
「うん。」
そして、私達は直接大公家の一室に出た。
大公家の使用人は大半が辺境伯家から引き続きヒスイ兄様についていった人達。なので、新しく入った人もいるが、全員私のゲートも知ってるし、口外しないでくれている。
この一室も、ヒスイ兄様がゲートを使う時にここから出ていいよと言ってくれてる場所だ。
部屋から出た私達はまず、ヒスイ兄様の執務室に向かった。
扉をノックすると、ヒスイ兄様が開けて中に入れてくれた。
「マリン。‥‥マリアも。早かったな。」
「はい。もちろんです。‥‥ヒスイ兄様。今、リリ姉様は‥‥」
「別室で診察中だよ。」
「え?診察?‥‥マリンちゃん、リリに何が‥‥?」
「ちょっと吐き気が続くと聞いて、私が鑑定で見た結果、ちゃんと医師に見てもらった方がいいと判断して、ヒスイ兄様に進言したところですよ。」
「‥‥なら、私も見てもらった方がいいのかな‥‥?」
「「え?」」
「最近、やたら眠いのよ。」
それを聞いた私はマリア姉様にじとんとした目を向けた。
「‥‥マリア姉様‥‥?」
「ご、ごめん。眠いだけで医師に見てもらうとか変かなって‥‥」
「‥‥鑑定使っていいですか?」
「は、はい!」
「【鑑定】」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥マリンちゃん‥‥?」「マリン?」
はぁ‥‥マリア姉様もかぁ‥‥
「‥‥マリア姉様。」
「は、はい!」
「リリ姉様と一緒に診てもらいます。行きますよ!」
「え!?」
私はマリア姉様の手をとり、扉に引き返しながらヒスイ兄様に向けて言った。
「ヒスイ兄様。来たばかりですが、リリ姉様のところに行ってきます。」
「あ、ああ。」
そして、リリ姉様が診察を受けている一室に扉をノックしてから入れてもらった。
「マリンちゃん?‥‥マリア、来てくれたのね。」
「う、うん。」
「リリ姉様。診察終わりました?」
「え?ええ。今終わったわ。」
「では、医師の方。マリア姉様も同じですので診察してもらえますか?」
「「「え?」」」
「マリアもなの!?」
「え?‥‥え?」
「えっと、ちなみにあなたは?」
「あ。失礼しました。大公の末の妹であり、西の辺境伯家次女のマリン・フォン・クローバーと申します。一緒に来たのも義理の姉です。」
「マリア・フォン・クローバーと申します。」
「! あなたはリコリス公爵家の‥‥!」
「元ですが、そうです。」
「‥‥なるほど。畏まりました。では、こちらにどうぞ。」
「は、はい。」
診察がマリア姉様に移ったところで、リリ姉様が近付いてきた。
「マリンちゃん。マリンちゃんの言った通りだったわ。」
「やっぱり。」
「それで、マリアもなのよね?」
「はい。‥‥あ、マリア姉様に鑑定結果言ってなかった。」
「マリンちゃん‥‥」
「まあまあ、医師の方が言ってくれますって。」
「‥‥そうね。あ、クリスは?」
「私達が来た時はまだでした。‥‥あ、来たみたいですね。リリ姉様。先にここに姉様も連れてきて話しますか?」
「‥‥そうね。先に友人達に話したいわ。」
「では連れて来ますのでマリア姉様とお待ちください。」
「うん。ありがとう、マリンちゃん。」
「はい。では、行ってきます。」
そして、とりあえず兄様の執務室に向かっていた姉様と共に一旦兄様に挨拶しに行ったあと、姉様を連行してきた。
「‥‥今、マリンに聞いたけど、マリアも診察してもらったのよね?」
「うん。今、診察結果を教えてもらったところ。」
とマリア姉様が答えたところで、医師が立ち上がりつつ、
「では、私はこれで失礼しますね。また定期的に診察にきます。」
「はい。」
そして扉の前でピタッと止まったかと思うと、振り返って聞いてきた。
「‥‥確認ですが、リリアーナ様だけですよね?」
「はい。」
「畏まりました。では、失礼致します。」
そして医師の方が帰っていき、部屋には私、姉様、リリ姉様、マリア姉様だけになった。
「それで、リリ、マリア。診察結果は?‥‥っていうか二人の結果は同じなの?別なの?」
「同じですよ。姉様。」
「そうなの?‥‥で?ヒスイ兄様より先に教えてくれるつもりで呼んだのよね?」
「う、うん。」
「えっと、私はここに来てからマリンちゃんに言われるがままに診察を受けたけど、受けて良かったと思うわ。」
「だから、なに?」
「「‥‥‥」」
「姉様。病気ではないですが、勇気がいることなので、あんまり急かさないであげてください。」
「え?‥‥分かった。」
すると、いつかの時の様にリリ姉様とマリア姉様はゆっくり深呼吸しだした。
やがて。
「「クリス。」」
「な、なに?」
「私達」
「懐妊したの。」
「‥‥‥‥‥‥は?」
「だから」
「懐妊。」
「‥‥‥‥‥か、懐妊!?そ、それって、その、お、甥か姪かができたってこと!?」
「クリスにとってはそうなるわね。」
「ま、まままままままマリン!?」
「お、落ち着いてください!姉様。」
「そ、そそそそうよね。」
「「「‥‥‥」」」
「‥‥リリ姉様、マリア姉様。ヒスイ兄様のところに行くのは姉様が落ち着いてからにしましょうか?」
「「そうね‥‥」」
「‥‥あ。マリア姉様。フレイ兄様も連れてきますか?」
「そうね。お願いしてもいい?」
「はい。‥‥その間、姉様をお願いします。」
「「ええ。」」
そしてゲートで再び領地の辺境伯邸に向かい、「予定が変わった」とフレイ兄様も強制連行し、ヒスイ兄様の執務室に待機してもらった。
そのあと、リリ姉様達が待つ部屋に戻ると、さすがに姉様も落ち着いていたので、改めて全員でヒスイ兄様の執務室に向かった。
そして私はテーブルを挟んで、兄様二人と向き合っている。
何故私が向き合っているかというと、リリ姉様とマリア姉様の間に挟まれているからである。一つのソファーに三人並んで座っている。私の両手は左右から姉達に握られている。
ちなみに何故、姉様が真ん中じゃないのかというと、姉様が「なんとなくやだ」と言って、一人掛けに座ろうとしたからである。
でも、リリ姉達の希望で姉様は私の真後ろに立ち、リリ姉とマリア姉様の肩に手を置いている。
「「「「「「‥‥‥」」」」」」
執務室内に少しの無言が続く。
「‥‥えっと、リリ姉様、マリア姉様。その、言わないんですか?」
「え?も、ももももちろん」
「い、いいいいい言うわよ?」
「‥‥時間が経つほど言い辛くなりますよ?」
「「うっ‥‥」」
と唸ったあと、再び深呼吸しだす姉二人。
「えっと、マリン。病気ではないんだよな?」
「はい。違いますよ。」
「ならいいけど‥‥」
やがて、ようやく姉達は決心がついた様で。
「ヒスイ様。」「フレイ様。」
「「な、なんだ?」」
「その‥‥」
「私達‥‥」
「「「「「「‥‥‥‥」」」」」」
‥‥‥両手が痛い‥‥
やっぱり言うの怖いのかな‥‥
「‥‥リリ姉様、マリア姉様。大丈夫です。ヒスイ兄様とフレイ兄様なら。」
「「!!」」
「そ、そうよね。‥‥ヒスイ様。」
「フレイ様。」
「「‥‥‥」」
「私達」
「その‥‥」
「「か、懐妊、しました。」」
「「‥‥‥‥‥‥」」
あ。固まった。
「‥‥‥‥か」
「懐妊?」
「「はい。」」
「二人共?」
「「はい。」」
「「‥‥‥‥‥」」
そしてたっぷり間を置き
「「懐妊!?」」
「む、むむむむむ息子か娘!?」
「が、お、おおおおお俺達に!?」
「「は、はい。」」
「「!!」」
すると、みるみる表情が驚きから喜びに変わる兄様達。
「「や、やった!!!!」」
と嬉しそうに言ったあと、兄様達は次に私に向かって言った。
「マリン!色々ありがとな!」
「ほんとに!ここに連れてきてくれたのもだが、マリアにも診察する様に促してくれたんだよな?ありがとな!」
「ふふっ。どういたしましてです。」
と興奮気味の兄様達にリリ姉様とマリア姉様がおずおずと聞いた。
「ヒスイ様。」「フレイ様。」
「「ん?」」
「その‥‥」
「子供ができて」
「嬉しい‥‥ですか?」
「「もちろんだ!!」」
「「!!」」
「ふふっ。良かったですね。リリ姉様、マリア姉様。」
「「うん。」」
「こうなったらなんとしても、シリウスに国王を引き継いでもらわないとですね。」
「「「「「え?」」」」」
「だってリリ姉様は元王女ですよ?リオトもいますが、二人が仮にいなくなる様なことになったら、リリ姉様の子供は最有力候補にされるんですよ?」
「「「「「あ。」」」」」
「ふふっ。まあ、あくまでも可能性です。シリウスなら国王になれますから大丈夫ですよ。」
「「「「「‥‥‥」」」」」
「ん?なんですか?」
「いや、シリウスなら国王になれるって明言したのは初めて聞いたから‥‥」
「‥‥確かにそうですね。」
「マリンの中でそんなに評価が変わってたの?」
「ふふっ。はい。‥‥さて、そんなことよりどうしますか?」
「そんなことって‥‥」
「どうするって?」
「リリ姉様は陛下に、マリア姉様は公爵様に、あと父様にもですが、いつ話しますか?と。」
「「「「「あ。」」」」」
「ちなみに明日が剣術・魔法大会の最終日なので、絶好の機会ではありますよ?」
「確かにそうね‥‥」
「親族全員いるし‥‥」
「ですね。貴賓室なら姉様達が知らせたい人だけに知らせることができますよ。」
「「そうね‥‥」」
「マリンなら声が漏れるってこともない様にできるだろうから、秘匿したいならできるしね。」
「‥‥‥マリンちゃん。」
「ふふっ。いいですよ。」
「「ありがとう。」」
「はい。」
そして話が一段落したところで‥‥
「さて、じゃあ今日は帰るかな。」
「そうですね。‥‥フレイ兄様、マリア姉様。お送りしますよ。」
「うん。」
「頼む。」
「では、ヒスイ兄様、リリ姉様。また明日。」
「ああ。」
「うん。ほんとにありがとね、マリンちゃん。」
「はい!」
そして、姉様は自分で帰ると執務室を出た。
私はフレイ兄様とマリア姉様を領地の屋敷に送り届けてから王都の屋敷に戻った。
夕食の席でリリ姉様とマリア姉様のことは明日分かりますとだけ報告し、今日も雲隠の魔道具に魔力を注いだ。
ああ~明日、色んな意味で楽しみだな‥‥
そんなことを考えながら私は眠りについた。