280話 マリンVSリジア。そして‥‥
姉様の開始の合図と共に私達の魔法戦が始まった。
そしてリジアから土弾が無詠唱で飛んできた。
それを私は土弾で相殺する。
それも予想していたのか、リジアは次に火弾を打ち、私は水弾でまた相殺する。
少しの間、私は一歩も動くことなくこの攻防を続けると、リジアが手を止めて言ってきた。
「マリン!」
「なに?」
「マリンも打ってきて!避けたり相殺してみせるから!」
おお‥‥リジア、すごいこと言うな‥‥
っていつも私が言ってることか、これ。
‥‥よく恥ずかし気もなく言えたな、私。
やっぱり見た目と魂の年齢差がなくなってきてるのかな?
そんなことを無言のまま考えていたのを、リジアは悩んでると判断した様で、
「マリン!マリンの魔法は当たっても怪我しないんでしょ?ならどんどん打ってきて!」
「!!‥‥リジアもそんなこと言ってくれるんだね。」
「え?」
ちょっと離れたところにいるので、私の呟きは聞こえなかったらしい。
でも私は嬉しい気持ちのままリジアに視線を向けて、笑顔で告げた。
「リジア!ありがとう。そう言ってもらえて、すごく嬉しい。」
「!! 当たり前でしょ!」
(当たり前か‥‥
私にとっては感慨深いんだよ、リジア。)
そして私達は再び魔法を撃ち合った。
先程と違うのは私が僅かに攻勢に出たこと。私は両手で別々の攻撃魔法を出せる。
それに対してリジアは火と土と光の3属性で、尚且つ両手で別々の魔法を使うことはできない。なので相殺できるのもあるが、大抵避けることになる。
そんな中でも私はずっとリジアを見ていた。
対戦相手なので当然だが、それだけじゃない。
こうして真っ直ぐ正面から対戦しているのが感慨深かったからだ。
リジアはあの日、10歳のお披露目会からずっと私の近くにいてくれた。魔法では私に敵わないから他のところで私を守ると言って。
でもリジアは私やシリウス達を見て、自分もと魔法の練習をひたすら頑張っていた。努力の甲斐あって今や無詠唱までできる様になった。
きっと、リジアは私に関わらなければここまで頑張る必要はなかったと思う。
普通に伯爵令嬢として、嗜み程度で魔法が使えたらそれでよかったはずなんだ。
でもリジアは私が行くならとずっとついてきてくれた。
行きたくないって言ってた陛下の前にだって、帝国にだってついてきてくれた。軽く文句は来るけど、最後は「仕方ないな」って顔でいつもついてきてくれる。
私はそんなリジアにずっと助けてもらってる。心を。
ずっと私がリジアを守らないと。って思っていたのにリジアはいつの間にか強くなっていた。
そしてずっと助け合ってきた友達だからこそ、真剣勝負を挑んでくれて、今も真っ直ぐ私に向き合ってくれてる。努力した成果を見せてくれてる。
私はそれがたまらなく嬉しかった。
でもそろそろ嬉しくて楽しかった時間も終わり。
そう言う代わりに私はリジアの一瞬の隙をついて真空弾を撃った。
それでリジアは武舞台から飛ばされて、場外に出た。
段差はほぼないので、大怪我はしないはずだ。
「そこまで!勝者、マリン!」
私は姉様の声で勝ったのも分かったし、リジアが怪我してないか心配だったけど、一歩も動けなかった。
涙で視界が滲んでよく見えなかったから。
私が動かないからか、姉様がリジアのところに行ってくれた様で、二人で戻ってきた。
そして二人は私の様子を見て驚いた様だった。
「「マリン!?」」
「ど、どうしたの?」
「ごめん‥‥大丈夫‥‥リジア、怪我は‥‥?」
「大丈夫。飛ばされた時になんとか受け身をとったからちょっと擦りむいただけ。」
「よかった‥‥」
「それより、マリン。なんで泣いてるの?私の魔法、当たったの?」
「ううん‥‥当たってない。」
「さすがマリン‥‥」
「じゃあ、なんで泣いてるの?」
「分かんない‥‥」
「「えぇ‥‥?」」
そして試合が終わったにも関わらず、私達三人が一塊になって動く様子がなかったからか、シリウス達も来た。
「「「マリン!?」」」
「どうした?」
「分かんない‥‥」
「「「えぇ‥‥?」」」
「とりあえず、私達がいたら試合が進まないわ。マリン、動くわよ。」
「ねえさま‥‥視界がにじんで‥‥無理です。」
「「「「「えぇ‥‥」」」」」
僅かにどうしよう‥‥という空気が流れるが。
「‥‥仕方ない。マリン、ちょっと我慢してくれ。」
「え?‥‥わ!」
そう言ってシリウスが私を横抱きに抱え上げた。
「じっとしててくれ、マリン。」
「うん‥‥」
そして何故か勝ったはずの私が抱えられて、控え室に戻ることになった。
「「マリン姉様!?」」「マリン!?」
やっぱりリオトやルビア、ベネトさんまで驚いていた。
「‥‥兄上、マリン姉様に何かしたんですか?」
すると、私を抱えてくれていたシリウスが疑われてしまった。
「違う‥‥シリウスは‥‥運んでくれた‥‥だけ。」
「え?‥‥疑ってすみません、兄上。」
「いや、それはいいが‥‥」
全員に心配させてしまった‥‥
そう思うものの、私はずっと顔を覆う手を離せなかった。
私が手を離して、自分の魔法で出した水で顔を洗い、ストレージから清潔な布を出して顔を拭ったのは、その後のベネトさんの第1試合が終わって戻ってきた頃だった。
一連の私の動きを見ていた一同から再び「器用だな」と呟かれた。
そして、シリウスを見たら、何故かシリウスの顔が赤かった。
「シリウス?」
「な、なんだ?」
「なんでそんな顔赤いの?」
「ふふっ。決まってるでしょ?マリンの可愛い姿を特等席で見てたからよ。」
「へ?‥‥あ!ご、ごめん。シリウス。降ろしていいよ。」
私はずっとシリウスに抱えられたままだったのである。
「‥‥やだ。」
「へ?いや、重くない?腕、疲れるでしょ?」
「いや、全然重くないし、まだ疲れない。」
「‥‥‥」
何がしたいんだ‥‥シリウス。
「マリン。このまま抱きついてくれると嬉しいんだが?」
「‥‥‥」
シリウスがなにやらにっこりと告げてきた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
無言で見つめ合うことになってしまった。
これは抱きついてあげるべきなのか?
ちょっと迷った末に私はシリウスの首に抱きつき、
「シリウス。運んでくれてありがとう。」
「! ああ。どういたしまして。‥‥役得でもあったけどな。」
そして私がすぐに腕を離すと、ちょっと名残惜し気ではあったが、降ろしてくれた。
「それで、マリン。なんで泣いてたの?」
「えっと‥‥」
言い辛い‥‥これだけ心配掛けて、多分嬉し泣きだったなどと‥‥!
「「な・ん・で?」」
リジアと姉様の圧が‥‥!
結局、リジアと姉様の圧と心配だと言っている目に負けた私は、仕方なく白状した。
試合中、何を感じて何を考えていたのかを。
『‥‥‥』
無言が一番いたたまれないんだけどな‥‥
と思っていると、リジアが呟いた。
「‥‥そんなこと思ってくれてたんだ‥‥」
「え?」
「私も嬉しいよ、マリン。」
「!! ふふっ。そっか。」
「なるほどね‥‥‥というか、リオト。そもそもシリウスがマリンを泣かすとかできないわよ?」
「あ。それもそうですね。」
「クリス様もリオトも容赦ないですね‥‥」
「ふふっ。万が一マリンを泣かせたら私達が黙ってないし?」
「あ。‥‥そうですね。」
やがてこの日の全ての試合が終わった。
もちろんみんなも勝ち進んだ。明日、準決勝でレグルスとリゲル。私とシリウスがそれぞれ戦うことになる。
ベネトさんも問題なく準決勝に進んだ。
そして今日も家族と合流し、そのまま貴賓室に向かうと、
「なあ、マリン。もしかしてリジアと戦ったあと、泣いてたか?」
と皇帝陛下に早速聞かれた。
「‥‥‥」
「え?やっぱりそうなのか?」
「むぅ‥‥リジアと真剣勝負が嬉しかったんですぅ~悪いですか?」
「悪いなんて言ってないだろ‥‥」
「普段、なかなか泣かないマリンが泣いたから珍しいねってことよ。」
「でしょうね‥‥」
そんな会話をしつつ、雲隠を付与してある魔道具を回収し、まずは帝国に皇族を送り届けた。
その後、フレイ兄様夫妻も領地の屋敷に送った。
すると、今日は国王陛下が話し掛けてきた。
「マリン。毎日、ありがとな。」
「いえ。‥‥陛下。」
「ん?」
「私が思っていた以上に、この剣術・魔法大会が楽しいです。」
『!!』
「そうか。なら来年もやるか?」
「はい!是非。」
「マリンは毎年の恒例行事になることを目指してるんだったな。」
「はい!」
「‥‥シリウス、リオト。王子としてどうだ?」
「楽しいですよ。他のクラスの者達や他の学年の者達の実力も見れますしね。」
「僕もです。兄上やマリン姉様達の実力は何度も見せてもらってますが、兄上が言った様に他の人達の実力も見られるのは新鮮で楽しいです。」
「リゲルやルビアはどうだ?」
「楽しいですよ。シリウスやリオトが言った様に、見るだけでも確かに勉強になりますしね。」
「兄様と同じくですわ。」
「そうか。‥‥来年度は他にも行事を増やすんだろ?楽しみにしてるぞ。お前達。」
『はい!』
「学生っていいわね~やっぱり。」
「そうだな‥‥」
と話していると、
「っ!!」
「リリ姉様!?」「リリ!?」
突然吐き気に襲われた様子のリリ姉様。
少しすると治まった様だったが‥‥
「最近、たまになるのよ‥‥」
「お医者様には?」
「他は何ともないから診てもらってないわ。」
『え!?』
「え?駄目?」
「駄目に決まってます!リリ姉様。鑑定使っていいですか?」
「え?ええ。」
「では。【鑑定】」
‥‥‥‥‥‥
『マリン?』
‥‥‥‥‥は!
「リリ姉様!」
「は、はい。」
「ちょっと来て下さい!」
「え!?」
とリリ姉様を部屋の隅に連れてきた私は鑑定で見えた結果を耳打ちでリリ姉様に告げた。
「え!?‥‥ほんとなの?マリンちゃん。」
「はい。ほんとです。いいですか?絶対、医師に診てもらってください。」
「は、はい。」
そして二人でみんなのところに戻ると、
「ヒスイ兄様。」
「なんだ?」
「今日って馬車で来てますか?」
「え?もちろん。」
「‥‥‥まあ、少しだからいいかな‥‥」
『え?』
「ヒスイ兄様。今日、屋敷に帰ったら絶対にリリ姉様を医師に診てもらってください。」
「え?わ、分かった。」
「リリ姉様。」
「な、なに?」
「私でもいた方がいいなら側にいますよ?」
「‥‥‥お願いしていいの?」
「もちろんです。私なら兄様達の屋敷からゲートで帰れますから。」
「クリスもいてくれたら嬉しいけど‥‥」
「あら。なにかは分からないけど、構わないわよ?」
「ほんと!?」
「ええ。なんならマリアも呼ぶ?」
「え?で、でも‥‥」
「リリ姉様。」
「マリンちゃん?」
「とことん甘えていいんですよ。」
「!!‥‥うん。‥‥マリンちゃん。マリアも連れてきてくれる?」
「はい。もちろんです。‥‥という訳でヒスイ兄様。先にリリ姉様と屋敷に戻って医師の方を呼んで診察してもらってください。」
「あ、ああ‥‥分かった。」
「私はちゃんと馬車で屋敷に帰ったあと、着替えてマリア姉様を迎えに行ってから大公家の屋敷に直接向かいます。姉様は」
「私も隊舎に戻ってから着替えて向かうわ。」
「はい。では、父様。帰りますよ!」
「え?あ、ああ。」
そして私達はすぐさま貴賓室を出て、それぞれ帰路についた。
「‥‥また途中から忘れられてたな‥‥」
「そうね‥‥」
と呟く国王夫妻や公爵夫妻を残して。