276話 予選開始
生徒達の控え室へ。
と言っても剣術部門と魔法部門で尚且つ男女に分かれている。
そしてそれとは別に生徒会の控え室もある。
こちらも男女分かれてはいるが、共用スペースもある。
私がその生徒会控え室の共用スペースに入ると、既に揃っていた。
一通り挨拶を終えるとレグルスとベネトさんを筆頭に友人達とリオト、ルビアが集まってきてこっそり話す。
「(父上達、連れて来たのか?)」
「(うん。皇帝陛下はわざわざ国王陛下に依頼してたのよ。)」
「(すまない‥‥そしてありがとう。)」
「(と、いうことは‥‥)」
「(うん。元帥様も来てるよ。皇妃様とフローラ様もね。)」
「(うわ‥‥)」
「(母上と姉上もか‥‥で、今どうしてる?)」
「(全員に姿消す道具作って渡して、貴賓室に籠って動くなって言ってきた。)」
『‥‥‥‥』
「(マリン姉様‥‥色んな意味ですごいことをサラッと‥‥)」
「(でね、お昼も持っていくって言ってあるけど、万が一私が忘れてたら教えて。)」
『‥‥‥‥』
「さて、そろそろ時間だよね?まずは開会式からだね。」
「ああ。行くか。」
そして生徒会全員が闘技場の武舞台に向かっていき、併設された審判用の壇上に整列する。
そして目の前の武舞台に全校生徒となった参加者が並ぶ。
そして会場に集まった保護者達にこの剣術・魔法大会の説明等をしたあと、開催宣言をするのだが‥‥
それまで話してくれていたベネトさんやシリウスがその時になって何故か私にマイクを渡してきた。
ーマイクは私が創作で複製した物で、陛下の許可を得て借りている。ということになっている。ー
「(ちょっと!?私じゃなくて会長のベネトさんに決まってたでしょ!?)」
「(ふっ。表向きはな。‥‥残念ながら全員、発案者のマリンがやるべきだと意見が一致している。)」
「(うそでしょ!?)」
「(残念ながら本当だ。)」
と言われ、生徒会の面々を見渡すと‥‥‥にっこり。
謀られた‥‥
と諦めてマイクを受け取った私は生徒会が並ぶ列から数歩進み出てピタッと止まった。
あれ?何言えばいいんだろう‥‥?
開催宣言ってやっぱり「スポーツマンシップに則り~」的なやつ?
いや、スポーツじゃないし、そんな言葉使ったところで分からないだろうし‥‥
どうしたものかと何気なく振り返ると、シリウス達がきょとんとして首を傾げていた。
‥‥‥いいこと考えた!
とニヤリとした顔をそのままシリウス達に向けたあと向き直り、再び歩き出した。
この時にマリンから大勢の前に出る緊張と迷いは消え去った。
そして、マイクのスイッチを入れたマリンは話し出した。
「さて、本来はここで開催宣言という流れですが、折角の機会なのでちょっとだけ話します。」
『え?』
「まず、この剣術・魔法大会は私の発案ですが、その意図をお話したいと思います。‥‥折角王国最難関校である王立学園に入学し、魔法や剣術を極めているのにその力量を計るのは成績だけ。しかも順位の表示は筆記込み。この中には座学は苦手でも剣術又は魔法には自信があるという方もいるでしょう。」
『!!』
「でもそれを確かめる方法はなかなかないのに将来のことは考えないといけない。魔法を生かしたいなら魔法師団、剣術を生かしたいなら騎士団。それでもいいでしょう。ストレージを持っているなら商人もいいと思います。ただ、貴族家の嫡男はこれらの道に進むことはない。家の後継ぎだからです。でも、そんな人達でも、いざという時自分の身は自分で守れるという自信にはなる。」
『‥‥』
「そして自身の力量がどれ程他の人に通用するのか。これを知ってるのと知らないのとでは大きく違います。己を過信し過ぎてもいいことはない。その辺りのことをそれぞれに把握してほしい。そして下級生は上級生の技術や戦い方を見て様々なことを学んでほしい。上級生も下級生を見て、初心を思い出し、忘れない様にしてほしい。私はそんな願いも込めて今回の行事を提案しました。全校生徒の皆様。この行事は確かに楽しむ要素が強いですが、学びの場でもあります。‥‥程々に学び、大いに楽しんでください!」
『!!!』
そしてここからようやく開催‥‥宣言?と首を傾げたくなる宣言。
「さて、長々と話してしまいましたが、ここからは宣言とは言えない開催宣言をしたいと思います。少し言葉使いが砕けた言い回しになるかと思いますが、ご容赦を。
‥‥ここに集まった生徒の皆様。今の自分の実力はどれ程のものか、Fクラスの人はSクラスの人にどれだけ通用するのか。そういう色んなことを試す為もあって参加を希望してくれたことと思います。そして中には私達生徒会に下剋上を目論む人もいるでしょう。」
『え!?』
「生徒会は文武両道の者達の集まり。やる気が出るならそれもいいでしょう。特に私と同じ学年の四年生達!私の他に王太子、皇太子、公爵家の嫡男がいますが、ここは学園行事の場。遠慮はいらないわ!立場など考えず、正々堂々戦って驚かせてやりなさい!」
「「「マリン!?」」」
「そして他の学年にも王子や皇族がいますが、遠慮はいりません。この人達はこの場でしか実力をぶつけられる機会のない人達です。思いっきりぶつかって構いません。むしろ受け止める技量を見せろというところです。
‥‥さて、いい加減長いので締めましょうか。‥‥皆さん、楽しむ準備はいいですか!?」
『おお~~!!!』
「では皆さん、存分に学園行事を楽しみましょう!!」
『おお~~!!!』
「では、ここからは各学年ごと、尚且つ剣術と魔法で分かれて予選を開始します。それぞれ指示に従って安全に楽しめる様に協力お願いします!」
『はい!』
そして生徒達が動き始めたのを見て振り返ると、じとんとした目を向ける人達と苦笑いを浮かべる人達に分かれていた。
「「「「マリン~?」」」」「マリン姉様~?」
じとんとした目の人達はもちろん、名指しした人達である。
でも私は全く怖くないので言い返す。
「ふふん!私にマイクを持たせるからよ。」
「「「「「‥‥‥」」」」」
「それともなに?王太子が、皇太子が、王族と皇族ともあろう人達が怖いなんて言わないわよね?」
「「「「ぐっ‥‥」」」」「‥‥‥」
「ふふっ。さて、私達も動かないといけないのは同じなのよ?私に非難の目を向けてる場合なのかしら?」
「「「「くっ‥‥」」」」「‥‥‥」
「‥‥‥すごいですわ‥‥マリン姉様。」
「そうね‥‥‥楽しいことは緊張を上回るみたいだし、あの五人を黙らせられるのはマリンだけよね‥‥。」
「さあ、シリウス、リゲル、レグルス。リオトとベネトさんも。まずは剣術からだよ。精々頑張ってね。」
「「「「「‥‥‥」」」」」
さて、この学園の生徒だが、大抵は魔法試験で入学している。それでも予選をするぐらいはいる。私達の様に両方共出場する者は他にもいるのもあるが、まずは剣術の予選を一気にやる。
ということでリジアやルビアの様に魔法部門のみの生徒は一旦、控え室に戻る。
それから一年生から順に各学年で剣術の予選をこなしていき、トーナメントに進む者達が続々と決まっていく中、私達四年生の剣術部門の予選が始まる。
武舞台に上がる全員が刃を潰した訓練用の剣を持っている。一学年に200人いる中、剣術で入学してきた人は大体3割か4割程。そこに私達の様に両方出る人も合わせて大体50人ぐらいか。
ここから16人まで一気に絞る。
ちなみに
舞台から落ちる。
剣が折れたり、破損したり。
ギブアップしたり。
そういったことで脱落者が出て最終的に残った16人がトーナメント進出である。
私が舞台に上がって見渡していると、審判を務める騎士から開始を呼び掛ける声が上がる。
続々と出場者が舞台に上がる。その中にはシリウス、リゲル、レグルス、アイリスもいる。
そしてこの武舞台。何とも素晴らしい設備が備わっている。
交換できる魔道具が設置されているのだが、これは簡単に言えば反則防止装置だ。
開始の合図と共に魔道具を起動すると、半透明の壁が四方を囲む。ここから一度出てしまうと舞台に復帰はできない。そしてこの魔道具、同じく開始の合図と共に中にいる人達の魔法を全て強制解除させる。私のサーチも解除される。正にこの予選にうってつけ。
で、魔法戦の時はまた違う魔道具を使うらしい。
色んな意味でこの闘技場は剣術・魔法大会を行うのにうってつけの場所だったのだ。
それはそれとして、そろそろ全員集まる。
そして集まったところで、魔道具が魔法師団の人達によって起動され、半透明の壁が現れた。
それから間もなく、審判から開始の声が掛かる。
と、開始早々シリウス、リゲル、レグルスが囲まれていた。アイリスと私には誰一人こない。なので。
「ねぇねぇ。アイリス。」
「ん?なに?」
「どうする?あれに加わる?」
「え~‥‥あれには入りたくないな‥‥」
「だよね~‥‥」
ちなみに私達含めても女子は7人。シリウス達に群がってるのは全員男子。
「‥‥ねぇ、アイリス。男子達は女子を狙わない紳士の集まりかな?それとも、単にシリウス達と戦いたいだけかな?」
「う~ん‥‥両方?‥‥かな‥‥?」
「‥‥‥とりあえず暇になったね‥‥」
「だね~。」
そんな私達を筆頭に「戦わなくてよさそう」と思ったのか、女子全員が固まった。そして男子達の攻防を見ていると、段々人数が減っている様で‥‥
「頑張ってるみたいだね~。」
「そうだね~。」
やがて、人数が減ってきたことにより、シリウス達の目にサボってる女子達が映った様で。
「「「マリン!!」」」
「なに~?」
「なにじゃないだろ!?」
「なんで戦ってないんだ!?」
「だってこっちには誰も来ないんだもん。女子同士は戦う気も失せてたし。」
「「「は!?」」」
と、ここでシリウス達合わせて男子が9人だけになったところで予選終了。審判からも終了の声が掛かる。
「ふふっ。終わったね。三人共、予選通過おめでとう。」
「「「ありがとう‥‥?」」」
「さて。怪我した人いますか~?」
『はい!』
「え?」
本当にえ?と言いたくなるぐらいの声が返ってきた。
「シリウス達‥‥容赦ないわね‥‥」
「いや、あれだけ囲まれたらそうなるだろ?」
「‥‥‥私、帝国の兵士さん達をそこまで怪我させてないよ?」
「マリンと一緒にしないでくれ‥‥」
「‥‥‥」
とりあえず、怪我したと言っても軽傷ばかりだったので一気に治した。
そしてその後、最後のベネトさんがいる五年生の予選も終わった。
リオト、シリウス、リゲル、レグルス、私、アイリス、ベネトさんは全員、無事予選通過した。