275話 闘技場へ
話は続き‥‥
「マリン。折角、二人だけでいるから聞いてみたいことがあるんだが、いいか?」
「なんでしょう?」
「お披露目会の後にした約束、覚えてるか?」
「‥‥‥‥‥‥シリウスに時間をくれと仰った話のことですか?」
「ああ。で、どうだ?」
「どうだ?って‥‥‥う~ん‥‥‥確かに王子らしくはなったと思いますし、かつて私が嫌だと言ったところは直してくれたので、あの時に比べてマシというか、むしろ気持ち的には好きな類いに変わったとは思います。」
「ほう。」
「でも、リゲルやレグルスより好きかと聞かれると微妙なんですよね‥‥三人共に好きな類いの気持ちはあるっぽいので。」
「曖昧だな?」
「う~ん‥‥こればかりは自分の恋愛経験の無さが仇になってますね。前世の記憶があるのも影響してるかと思います。前世も恋愛経験は乏しかったので。」
「‥‥‥難儀だな。」
「ですね~。三人共、魅力的になってしまったので余計にです。むしろハッキリしない私は諦めて他を探した方が早い気がします。」
「とりあえず、私はまだ急いでシリウスの婚約者を決める気はないし、シリウスも嫌がるだろう。」
「‥‥‥リゲルとレグルスもですかね?」
「だろうな。」
「‥‥ちなみに陛下はどうして王妃様だけだったのですか?」
「ん?」
「国王なら側室を持ったりするでしょう?でも陛下は王妃様だけで側室の方はいらっしゃらないですよね?」
「ああ。俺はラルクと違って一途なんだよ。」
「そうですか‥‥決め手は?」
「ん?う~ん‥‥私の場合は選んだ者が後に王妃になるだろ?元々候補が決められていたんだ。その中の一人がルミナスだったんだ。」
「へ~!」
「ルミナスはその中で唯一生徒会でも一緒でな。人となりを知るには十分だった。生徒会にはエド、ラルク、ベアル、ディアナ、アリアもいたが、誰も反対しなかったのもある。」
「では、陛下にとってはほぼ王妃様一択だったんですね。」
「ああ。そうなる。‥‥参考にならないだろ?」
「はい。」
全くもってその通りだ。私は三択だよ?
「ははは!ハッキリ答えるな。マリンのそういうところが好ましい。」
「むぅ‥‥私、本気で困ってるんですけど?三人共、無駄に重要な立場ですし。」
「ああ。分かっている。私はシリウスがマリンを困らせるまでになったことが嬉しいんだ。」
「‥‥‥‥私は三人の中から選ぶなんて贅沢な話ですよね‥‥」
「うん?」
「私は恐らく、三人の誰も選びきれない気がします。そして三人以外を選ぶこともきっとない。」
「どうしてそう思う?」
「あの三人程、私を理解して、受け入れてくれる優しい人達はきっと二度と現れない。そして、私は三人共同じぐらい好きなんだと思います。それが友人としてか、男性としてかはまだ分かりません。」
「いつか分かるさ。‥‥‥私はマリンが娘になってくれたら嬉しいがな。リリアーナもリオトも喜ぶだろうしな。」
「ふふっ。うちからは既にヒスイ兄様を取り込んでるので、他の貴族達からの当たりが強まりますよ?あ、公爵家もですね。フレイ兄様とマリア姉様で。」
「取り込んでるとか言うな‥‥‥そうなると、皇太子しか選択肢なくなるぞ?」
「ふふっ。そうですね。」
「‥‥‥貴族達の当たりが気にならなくなるぐらいにマリンを惚れさせないとシリウスもリゲルもマリンに選ばれることはないと。」
「ふふっ。ですね。王太子と公爵家嫡男を選ぶ側とは‥‥普通は逆なんですけどね。」
「ああ。そうだな‥‥ああ~マリンとの初対面までに更正できなかったことが悔やまれるな‥‥」
「ふふっ。10歳の時に今の様なシリウスでも私は断ったと思いますよ?」
「え?‥‥あ~御使いか‥‥」
「です。しかも前世の記憶持ちです。マリンとしては同い年でも魂では年上です。‥‥陛下はそれでも私に娘になってほしいですか?」
「ああ。」
「ふふっ。即答ですか。」
「当然だ。シリウスの幸せはマリンと共にあることだからな。」
「‥‥‥陛下。」
「ん?」
「私は学園を卒業したら世界を巡るでしょう?」
「ああ。そう言ってたな。」
「私、例え世界を歩き回って魅力的な人に出会ったとしても、心を掴まれることはないと思います。」
「何故そう言い切れる?」
「先程、シリウス達以上の人は現れないと申し上げたでしょう?そういうことです。‥‥三人には私が旅の途中で結婚相手を見つけるかもしれないから、ちゃんと他の人も見てねとは言ってるんですけど‥‥」
「聞く耳持たなかったか?」
「はい‥‥私は選べないならいっそ独身でいいんですけどね~‥‥恐らく生きる時間も違ってしまってますし。」
「‥‥‥」
「神の領域に一歩踏み出してると思うんです。雪奈姉みたいにある程度の年までで見た目が老けずに止まると思います。なのに隣で三人の誰か‥‥ううん、皆だけが老けていって置いてかれる‥‥柚蘭を助けるためだったので後悔はしてませんが、想像すると寂しいですね‥‥。」
「なるほどな‥‥‥難儀だな‥‥マリンも、そんなマリンを見初めてしまった三人も。」
「ですね‥‥陛下。今、話したことは誰にも言わないでくださいね。」
「ああ。折角正直に話してくれたんだ。誰にも言わんよ。」
「ありがとうございます。」
「だが、マリン。これだけは言っておくぞ。例え生きる時間が違おうと、ずっと先の未来の話だ。その未来が辛いからとこの先の人生を諦める理由にするのは違う。
‥‥マリン。自由に自分の思う通りに生きたらいいんだ。マリンの人生に必要だと思う者を伴侶に選んだらいい。考え方を変えるんだ。そうしたら自ずと見えてくるものがあるはずだ。」
「!!‥‥‥はい。肝に命じます。」
「ああ。」
「ふふっ。なんだか途中から私の悩み相談みたいになりましたね。」
「違いない。‥‥私は天才の悩みが意外と女の子らしくて微笑ましかったがな。」
「天才じゃないですが、私は前世から女の子ですよ。」
「そうか?天才だろ?さほど勉強しなくても首席の座を維持し続けているんだから。」
「むぅ。努力の結果です!」
「ははは!そうだったな。」
「‥‥私、帰っていいですか?」
「ああ。言いたいことも言えたし、聞きたいことも聞けたからな。久しぶりに愉快な時間だった。」
「はぁ‥‥そうですか‥‥陛下は変わらないですね。」
「ああ。」
「では、失礼しますね。」
「ああ。またな、マリン。」
「はい。」
その後、屋敷に帰った私はとある物を作り始めた。
そして試験結果が出てすぐ、いよいよ剣術・魔法大会当日を迎えた。
試験休みを利用したこの行事。本来は休みなので、学園に行かず、直接闘技場に現地集合となる。
という訳で、当日の朝まず私はゲストを迎えに行く。
最初に向かったのは帝国城内。
以前と同じように客室にゲートで向かい、姿を消して陛下の執務室へと向かった。
周囲を確認し、扉をノックする。
許可を得てから中に入り姿を見せると、いるのは陛下だけではなかった。
「‥‥はぁ‥‥やっぱりか‥‥」
『え?』
「将軍や宰相様に許可得られたんですか?」
「えっと‥‥?」
「陛下だけではなく、皇妃様、フローラ様、元帥様も行きたいという話ではないのですか?」
「な、何故分かった‥‥?」
「ふふっ。レグルスとベネトさんの学園行事、見てみたいから陛下は私に打診したのでしょう?お三方がそれに乗っかったのでは?」
「ふふっ。正解よ。マリン。‥‥いいかしら?」
「ええ。予想はついてたので。では、先にとある物を配りますが、特に陛下。最後にちゃんと返してくださいね?」
「え?あ、ああ。」
そして四人に配った物はペンダント型の道具。
「これは?」
「これには雲隠を付与してます。」
『え?』
「今、私が姿を消していた魔法ですよ。お渡ししたペンダントに魔力を込めると姿を消せます。」
『え!?』
「試していいかしら?」
「どうぞ。むしろ、ずっと発動しててください。」
『え!?』
「私も参加者なので、一旦全ての魔法を解除する必要があるんです。その時にご自身でそれを発動させてほしいので今、お渡しした次第です。」
『なるほど‥‥』
「一先ずうちの領地の屋敷に行きますが、全員連れて行っていいんですよね?」
「ああ。大丈夫だ。頼む。」
「分かりました。」
そして結局、この場では試さないまま皇族一家を連れて領地の辺境伯邸の応接室に向かうと、そこにはフレイ兄様とマリア姉様が待っていた。
「おはようございます。フレイ兄様、マリア姉様。」
「「おはよう。」」
「もう行けます?」
「ああ。‥‥皇帝陛下、皇族の皆様。おはようございます。」
「おう。フレイ、お前の妹は天才だな。」
「え?」
「ふふっ。姿を消す道具を貸してくれたのよ。」
「‥‥そんなの持ってたのか?」
「今日のために作ったんです!夏休みの時には既に来たがってらしたので、王都で素材を買って自分で付与したんです。」
『え?』
「‥‥お疲れ。マリン。」
「はい‥‥」
「悪い。マリン。」
「いえ。‥‥では、行きますよ?」
「ああ。」
そして試験後に下見しておいた闘技場の貴賓室へと向かった。
「ここは?」
「闘技場の貴賓室です。先に下見しておいたんですよ。ここには後程国王陛下もいらっしゃるかと思います。」
「へ~!助かる。ありがとな、マリン。」
「いえ。この大会は1日で終わりませんので毎日私が送迎します。皇族の方々は特に私が来るまで姿消して待っててくださいね。」
「お、おう。」
「フレイ兄様とマリア姉様はヒスイ兄様達と合流しますか?」
「ああ。いいか?」
「勿論です。多分そろそろ‥‥あ、ちょうど来たみたいですね。行きましょうか。」
「ああ。」
「あ、その前に皇族の皆様。一度動作確認いいでしょうか?」
「おう。」
と言って陛下だけではなく、皇族の全員がペンダントを使って見せてくれた。
「‥‥‥問題ないみたいですね。そのまま維持しててくださいね。お昼とかも私が持ってきますから。」
「至れり尽くせりだな。」
「誰のせいだと‥‥?」
「‥‥‥主に俺だな。」
「なら、分かりますよね?動いたら私の仕事が増えると。大人しくしててくださいね?陛下。」
「何故俺だけに言うんだ?」
「一番動き回る可能性が高い人だからです。王都も何年振りかというぐらい来ていないのでしょう?ついでに見て回りたいとか言わないでくださいよ?」
『‥‥‥‥』
「ちなみに大人しくしてくれないなら明日から送迎しませんから。」
『え!?』
「当然でしょう?私達学生の行事ですよ?」
『‥‥‥』
「元帥様。陛下を抑えててくださいね。」
「ええ。お任せを。」
「すごい言われようだな‥‥俺。」
「日頃の行いよ。あなた。」
「‥‥‥」
「さて、フレイ兄様、マリア姉様。行きましょうか。」
「あ、ああ‥‥」
そしてフレイ兄様とマリア姉様と共に貴賓室を出て、誰もいない廊下を進み、ヒスイ兄様とリリ姉様、父様達がいる観客席の一角へと向かった。
「父様、ヒスイ兄様。」
「お。マリン。ありがとな。」
「いえいえ。皇族方も引っ張ってきましたから。」
『え?』
「ベアルはやっぱり来たがったのか‥‥」
「はい。雲隠を付与したペンダントを渡して貴賓室に籠ってもらってます。」
「なるほどな‥‥」
「では、私も参加者なので行きますね。」
「ああ。」
そして私は家族と別れて生徒達の控え室へと向かった。
最近投稿が亀の速度ですが、あとから書き始めたもう一つの作品の方が先に完結しそうなので、そっちに集中してしまってます。
他にもこの作品の再編集版を投稿してましたが、こちらも方向転換するか否か再び迷い始めております。
どうするにせよ、この作品も完結まで頑張って投稿していく所存ですので、気長にお付き合い頂ければと思います。