271話 周囲の目
マリンが去ったあとの講堂では、多くの生徒達が少しの間マリンが去った入口を見て固まっていた。
そんな中、最初に声を発したのはシリウスで、
「リジア。」
「! な、なに?」
「マリンを頼む。」
「! うん。‥‥では、皆様。私は親友を追い掛けますので失礼します。」
リアラを見ながら「親友」を強調して言ったあと、マリンを追い掛けて講堂を出たリジア。
その様子を頼んだシリウスや二人のことを知る親しい者達は苦笑いを浮かべたが、それも一瞬のこと。
「さて、聖女様。」
「! は、はい。なんでしょうか?王太子殿下。」
「あまり友人を苛めないでくれませんか?」
「え?そ、そんな‥‥苛めるなんて‥‥」
「ではあなたと友人にならなかったマリンへの嫌がらせでしょうか?」
「皇太子殿下‥‥苛めたつもりも嫌がらせのつもりもありません。」
「では何故あの様なことを?しかも生徒とはいえ多くの目があるこの場で。」
『‥‥‥』
講堂に残った者、全ての視線が聖女とシリウスやレグルス、リゲルに集まる。
端から見ればこの現状が苛めでは?という雰囲気だ。
「聖女様。マリンが世間からどう見られているのかご存知ですか?」
「え?天使と‥‥」
「それだけですか?」
「い、いえ!王太子殿下やリゲル様の命の恩人だということや功績以外でしたら学園の成績は入試から首席の才媛で魔法にも長けた方と。そして一令嬢としても素晴らしい方だと。」
「まあ、そんなところでしょうね。」
「でも我々にとっては違います。」
「え?」
「確かに我々の命の恩人です。学園での成績、魔法や剣術でさえも誰もマリンに勝てない。それはマリンが幼い頃から続けた努力の賜物です。加護の影響もあるかもしれません。ですが、それを理由に努力を怠ることもなく研鑽を積んだのが今のマリンです。そしてその結果得られた剣術や魔法の技術などを我々にも伝えてくれます。」
「え?殿下方にですか?」
「ええ。いざというときに自分の身は自分で守れる様にと、惜しげもなく。そしてご存知の通り、魔法はイメージです。例え加護があってもそれは魔法の使用者次第。マリンが様々な魔法を使えるのはその努力をしてきたからです。そんなマリンの努力をあなたは神の御使いだからじゃないのか?と言ってしまったのですよ。」
「!!!‥‥わ、私‥‥なんてことを‥‥」
「聖女様。これからどうしたいですか?」
「‥‥マリン様に謝りたいです‥‥。」
「では、まずどうしますか?」
「!!! あ‥‥」
と言葉が切れてしまったものの、リアラは深呼吸して自身を落ち着かせたあと、
「この場にお集まりの皆様。」
『!!!』
しっかりとした聖女としての振る舞いに戻ったリアラに思わず姿勢を正した他の生徒達。
「先程、マリン様に申し上げてしまったことは私の勘違いです。マリン様のことをよく知りもせず、浅はかにも能力だけを聞いて疑ってしまっただけです。くれぐれもマリン様が御使い様などと事実無根なことを広めることは無き様にお願い致します。」
『は、はい。』
『まあ、本当に御使いだから事実無根じゃないけど。』
という言葉を心の中で呟いたシリウス達だった。
「あ、あの。王太子殿下。」
「はい。」
「私もマリン様に謝りたいのですが‥‥私もマリン様をよく知りもしないのに非難してしまいましたから‥‥」
「では、お二人共。こちらでお待ちください。マリンを連れてきます。」
「「え?」」
「で、殿下。でもマリン様は先程‥‥」
「ええ。ですが、マリンは謝りたいと言っているのを無下にする様な人じゃありません。マリンは基本的に誰に対しても平等に優しい人物ですから。私はそんな心優しい人物と友人として、そして縁戚として側にいることができるのを嬉しく思っているんですよ。」
「!!!‥‥羨ましいです。」
「では、一旦失礼します。」
そしてシリウスが出て行こうとすると、何故かレグルスとリゲルまで一緒に歩き出した。
それをまた見送ったベネト達。
「まあマリンはまだ帰ってないだろうし、多分あの場所にいるだろ。シリウス達に任せておけば大丈夫だな。」
「ですね。僕もマリン姉様が行きそうな場所は思いつきますから、兄上なら余裕でしょうね。マリン姉様しか見えてませんし。」
「ふふっ。そうですわね。まあ、兄様もですけれど。」
「ベネト様。私達、マリン様に許して頂けるでしょうか?」
「誠意が伝われば大丈夫ですよ。うちの殿下まで行きましたから、絶対三人がマリンを連れてきてくれます。」
「は!そういえば私、王太子殿下に皇太子殿下、公爵家のリゲル様まで‥‥頼んでしまって大変失礼だったのでは‥‥」
『今気づいたんかい!』的なツッコミを心の中で呟いた会場の生徒一同。
「構いませんよ。三人は自ら行ったんですから。」
「会長は殿下の護衛だったのでは?兄上達と行かせて良かったんですか?」
「学園内で何が起きるよ?三人一緒だし、向かったのはマリンのところだぞ?何が起ころうと問題ないだろ?」
「ふふっ。確かにそうですね。」
◇◇◇◇◇
一方。時間を少し遡り、講堂を出たあとのマリンは。
「さて、出てきたはいいけど‥‥どうしようかな。帰っちゃ駄目だよね‥‥。」
と、一人呟いていると背後からリジアに呼ばれて振り返る。
「あれ?リジア。出てきて良かったの?」
「シリウスが私に頼むって言ったのよ。そうじゃなくても追い掛けたけど。」
「え?シリウスが?‥‥へ~。」
「で、どうする?マリン。」
「‥‥帰っちゃ駄目だよね?」
「当然ね。」
「う~ん‥‥じゃあ、リジア。ちょっと付き合って。」
「ふふっ。勿論。」
そしてマリンとリジアが訪れたのは庭園だった。
今はまだ他の生徒は授業中の為、二人だけだ。
庭園内のベンチに並んで座ると、
「一年で大分綺麗になったわよね。」
「うん。」
「‥‥怒ってる?」
「聖女様?」
「うん。」
「う~ん‥‥精神的に疲れるから嘘つかないといけない状況は作らないでほしいなとは思った。」
「ふふっ。やっぱりマリンは優しいわね。世間的に狙われる羽目になるかもしれなかったのに。」
「そうだね‥‥あ。伝承なんか知るかって言っただけで御使いの否定してなかったな‥‥」
「そこはシリウス達でなんとかしてくれるわよ。」
「‥‥‥出てくるの早かったかな。」
「信じてあげないの?」
「信じてるよ。じゃないとステータス見せないよ。」
「ふふっ。それもそうね。」
「そして多分、みんなここにいるって察しはついてると思うよ。三人で来るかな。」
「シリウス、レグルス、リゲルね?」
「うん。ちなみにここを選んだ理由、分かる?」
「ふふっ。マリンの癒しだからでしょ?」
「ふふっ。正解。」
「でも、待ってる間暇よね?」
「そうだね~。」
「‥‥‥マリンは聖女様と友人になってもいいかなとか思う?」
「ん?う~ん‥‥もう少し考えてから話すようになってくれたらいいかな~とは思うね。」
「うん。私もそれは思う。」
そしてしばらく二人で雑談をしていると。
「お。やっぱりここにいた。」
「ふふっ。やっぱり三人で来た。」
「ふふっ。本当ね。」
「お互い予想通りか。」
「うん。それで、改心してくれた?聖女様。」
「ああ。マリンに謝りたいってさ。」
「マリンに苦言を言ったやつもな。」
「へ~‥‥もしかして三人掛かりで話したの?」
「「「‥‥‥」」」
「苛めじゃん!やめなよ~女の子に男三人でなんて可哀想だよ~。」
「そうだそうだ!」
「マリン‥‥リジア‥‥俺達はマリンの為に‥‥」
「ふふっ。分かってるよ。ありがとう。じゃあしょうがないから戻ってあげますか!」
「ふふっ。そうね。」
そして講堂入口付近。
「‥‥‥そういえば、今更入り辛いな‥‥。」
と呟いたマリンにガクッとなる4人。
「マリン‥‥」
「だって話したくないって出てきたんだよ?どんな顔して入るのよ?」
「ふふっ。まだ怒ってるって不機嫌顔で入ったら?」
「シリウス達に説得されて渋々来た的な?」
「そうそう。」
「‥‥うん。面白そうだね。」
「でしょ?私も聖女様を挑発してから出てきたからマリンに乗っかるわ。」
「いいね!それで行こう。という訳で三人も合わせてね。」
「「「‥‥‥」」」
呆れた表情の三人。
「なによ?あっさり許したら聖女様に成長はないわよ?」
「‥‥‥はぁ‥‥分かった分かった。」
「もう入るぞ?」
「「は~い!」」
「「「はぁ‥‥。」」」
そして講堂の中に不機嫌顔のマリンとリジア、苦笑いのシリウス達三人が入ると、しんと静まりかえった。
そのまま気にせず生徒会席に真っ直ぐ来ると、まだ教国と帝国の生徒会も集まったままだった。
「お。やっぱりまだ帰ってなかったか。」
「ものすごく帰りたかったけどね。」
「‥‥‥」
私が聖女様を一回も見ずに話していると、シリウスが
「聖女様。いいのですか?」
「‥‥‥よくありません。‥‥マリン様、お話よろしいでしょうか?」
「‥‥‥」
敢えて無視してみた。どうするかな?
「‥‥‥ではマリン様。勝手に話しますので、気が向きましたらお返事下さい。」
「‥‥‥」
ほう。何言うんだろ?
「マリン様が退場されたあと、王太子殿下や皇太子殿下、リゲル様にお話伺いました。」
ん?何話したんだ?三人は。
「マリン様の‥‥幼い頃からの努力の賜物である今の実力を御使いだからと、神々の恩恵の賜物では?と非難してしまい‥‥本当に申し訳ありません!」
と頭を下げてきた。
‥‥‥小さい時からの努力か‥‥そこを言ってくれたんだ‥‥シリウス達。
ちょっと嬉しいかも。
そしてすぐに頭を上げたリアラは、
「それから、私の勘違いでマリン様を御使いにする訳にはまいりませんので、話を聞いていたはずのこの場の方々にも訂正させて頂いてます。」
「マリン様。私も先程、聖女様のことばかりでマリン様のことを考えず発言してしまいました。申し訳ありません。」
こっちも頭を下げたが、すぐに上げて様子を窺われた。
さて、どうするかな‥‥この場に集まった人達も、聖女様ももう私を御使いって疑うことはないだろうけど‥‥
と考えていると、リオトに袖をくいくいとされたので、
「ん?なに?リオト。」
「マリン姉様。実はもう怒ってないでしょう?」
「というより最初から怒っていた訳ではありませんよね?マリン姉様。」
『え?』
私と親しい人達以外全員の声が響いた。
「そろそろお話して差し上げたらどうですか?」
「‥‥‥ふふっ。もう。私の演技が無駄になったじゃない。二人共。」
『え!?』
「すみません。マリン姉様。」
「私達はマリン姉様がお優しいのを存じてますから。演技もそろそろやめたくなってましたでしょ?」
「ふふっ。うん。正解。」
「「やっぱり。」」
『え!?』
「聖女様。」
「は、はい。」
「無視はちょっとやりすぎでしたか?」
「い、いえ。当然かと‥‥」
「ふふっ。では、聖女様。一つだけお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「え?は、はい。」
「聖女様。これからは好奇心任せに発言するのはお控えください。話す前に考えてみて、相手が不愉快になる様なことは避けてください。場合によっては戦略としてわざと不愉快にさせることもありますが、それは聖女はすべきではありません。よろしいでしょうか?」
「!!! はい。私も伯爵家の令嬢としても教育を受けたにも関わらず、この失態。しかも一度ならず二度目。マリン様の寛大なお心に感謝致します。」
「ふふっ。では、明日からは普通にお話しましょうか。リアラ様。」
「!!! はい!」
「あなたもです。先程の言葉は聖女様を思ってのことでしょう?分かって頂けたなら構いません。」
「!! ありがとうございます。」
会場にようやく和やかな雰囲気が漂ったが、
「リアラ様。先程の発言は私からすると、問い詰められてる気分でしたので、これからは本気で発言にご注意くださいね?」
と本気モードでリアラ様に念押しすると、再び静まりかえった。
「は、はい!マリン様を問い詰める気も苛めたい訳でもありませんので発言には細心の注意を払いますわ!」
「良かった‥‥その上でのお話なら伺います。」
「‥‥‥マリン様。」
「なんでしょうか?」
「私はマリン様の友人になれますか‥‥?」
「‥‥‥分かりません。‥‥ちなみにリアラ様は今回、聖女としてではなく、教国の生徒会の一員として交流会にいらしたのでしょう?」
「はい。勿論、そうです。」
「そう思って私は今リアラ様と呼ばせて頂いてますが、そもそも友人になったとしてもなかなかお会いする機会がないのに意味があるのでしょうか?」
「あります!‥‥今まで友人がいなかった私にはマリン様だけでも‥‥たった一人だけでも友人と呼べる方がいるだけで違うと思うんです。‥‥私の精神的にですが。」
「!!‥‥ふふっ。分かりました。じっくり話してみましょう?それからです。」
「はい!」
こうしてまた私は自ら自身の首を締めてしまうのであった。
最近こちらの投稿が遅くなっており、申し訳ありません。
書いては消し、書いては消しと「何か違う」と文章に悩んでいる日々です。
書きたいことはあるのに文章におこすと「何か違う」となってしまうのです。投稿は続けますので気長にお付き合い頂ければと思います。