270話 歓迎パーティー‥‥だよね?
翌日。
午前中はいつも通り座学の授業を受けたあと。
これから講堂に各学年の代表でSクラスが集まり、歓迎パーティーだ。
パーティーと言っても学生同士の集まりであり、交流なので制服のままだ。
それはいいんだ。制服のままというのは素晴らしいとも思う。でも、私は今も仮病を使ってでも早退したいと思っている。
‥‥仮病使えないけども。
何故か。聖女様がいるからだ。
でも友人達はそれを知ってて私を連行している。
「‥‥‥」
「マリン。いい加減、諦めろ。」
「‥‥‥」
「御使いなんてすぐには分からないだろ?」
「でも、シリウス。聖女様は自力で御使いと気付く可能性があるんだよな?」
「らしいな。」
「それってどうやって気付くのかしら?マリン、生命神様から聞いてる?」
「‥‥‥聞いてたら皆に言ってるよぉ~‥‥。」
「それもそうね‥‥。」
「とりあえず、マリンと話す機会をなるべく減らせばいいんじゃないか?」
「‥‥‥雪達は私を見ただけで分かったよ‥‥?」
『‥‥‥。』
「し、四神と聖女様は違うんじゃない?それなら前に会った時に気付いてる筈だし。」
「あ。そっか。」
「まあ、もう着いたから逃げられないけどな。」
「え!?‥‥‥やっぱり帰っちゃ駄目?」
『駄目!!』
「‥‥みんなして言わなくても‥‥」
「私だって本来パーティー自体嫌いなのに出るんだから、マリンも一緒に頑張ってよ。」
「‥‥‥‥‥‥‥分かった。」
「長かったな‥‥。」
「「ああ‥‥。」」
そして、私達が講堂に入ると既にある程度の生徒が集まっていた。
基本的に立食形式で好きな様に集まっているが、生徒会だけは別のテーブルを囲む様になっている。
そこに私もリジア達に連行されていくと。
「お。ちゃんとマリンを連れてきたんだな。」
「ええ。勿論。」
「父上にも絶対出るように言われたのにまだ逃げたいって言ってたけどな。」
「「マリン姉様‥‥。」」
「だって‥‥」
「マリンが逃げたいのは聖女様だけだろ?」
「うん‥‥。」
「堂々としてりゃいいじゃねぇか。」
「まあ、そうなんだけどね。これだけの人の前で堂々と文句は言い辛いなって‥‥。」
「文句言う前提なのか‥‥。」
「何故かそんな予感しかしないんだよ‥‥。」
そして王国側の生徒達が全員集まり、司会役の教師によって呼ばれた帝国と教国の生徒会の面々がそれぞれのテーブルに移動した。
次に王国の王太子であるシリウスと生徒会長であるベネトさんがそれぞれ壇上に上がり、挨拶を終えると私にとって恐怖の歓談の時間になった。
すると、真っ先に王国の生徒会が集まるテーブルに来たのは‥‥
「マリン様!」
「‥‥‥聖女様‥‥。」
やっぱりきた‥‥
「マリン様!再びお会いできて嬉しいです!」
「聖女様。私より先に挨拶すべき人達がいますよ。」
「は!そうでした!‥‥失礼致しました。王太子殿下、皇太子殿下。リオト殿下にベネト様も。お久しぶりにございます。」
「「「「ええ。」」」」
「お気になさらず。マリンに会えて嬉しいのは見ていて分かりましたから。」
「ただ、二人共注目の的ですのでその辺りはお気をつけ下さいね。」
「「え?」」
と私と聖女様は揃って周囲を見回すと、「聖女様と天使が並ぶと尚、神々しい!」と一人の令嬢ー王国の生徒会員ーが言った言葉に他の生徒達が頷きつつ、遠巻きに見られていた。
「「‥‥‥。」」
「聖女様。」
「はい。なんでしょう?」
「注目の的って恥ずかしいですよね‥‥。」
「はい‥‥。激しく同意します。」
「ふふっ。やっぱりマリン様はどこにいても注目されるのですね。」
「アリス様。」
「お初にお目に掛けます。聖女様。私は帝国より参りました、クレースト公爵家のアリス・フォン・クレーストと申します。」
あ、アリス様って公爵家だったの!?
‥‥‥確認なんて失礼だと思ってしなかったけど‥‥
ある意味正解だった!!
と私が頭の中だけで驚いている間に聖女様も自己紹介を終えていた。
その時、腕をちょんちょんとされて振り向くとレグルスとベネトさんがにっこり笑っていた。
「(マリン。アリス様が公爵家って今、初めて認識しただろ?)」
「(な、なんで分かるの!?レグルス、私顔に出してた!?)」
「(いや。出てはない。ただ、今までアリス様しか名前で呼んでないし、一回しか自己紹介してないから覚えてないだろうなって思ってな。)」
「(分かってたなら教えてよ!親善パーティーの時でもいいし!)」
「(でも今から一通り自己紹介するだろ?覚えきれなかったら言ってくれ。帝国の人達なら分かるし、教えるから。)」
「(あ、ありがとう~!)」
「「マリン様?」」
私達がこそこそ話してるのに気付いたアリス様と聖女様の声が被った。
「な、なんでもないです!」
「そうですか?」
「はい!」
そして三国それぞれの生徒会全員が揃ったところで、自己紹介し合った。
帝国側は親善パーティーで会っていた人達なら顔と名前を一致させることはできた。他の人達も教国含めて事前に名簿を見せてもらってたので、大体は顔と名前を一致させることができた。
そう、大体だ。一回で全員一致させることはさすがにできない。
「ところで、マリン様。」
「はい?」
「私達をリジア様に任せての急ぎの用事とはなんでしたの?」
言っていいんだろうか‥‥?
と思っていると
「俺とマリンの姉であるクリス様を救出に来てくれたんですよ。」
「あ。教国の方々のお迎えに行かれた時の襲撃事件ですか?」
「ええ。詳細はお話できませんが、マリンが魔法を駆使して俺達を捜し出してくれたんですよ。」
「まあ!だからあんなにお急ぎで‥‥あの時のマリン様、今思い出しても格好良かったですわ~!」
『え?』「「「あ。」」」
「あ、アリス様。その話は‥‥」
「? 何故ですか?格好良かったのに。」
「アリス様。マリンが格好良かったというのは?」
「レグルス!!聞かなくていいから!」
「え?気になる。」
「ふふっ。マリン様を迎えにいらっしゃった王太子殿下をマリン様が横抱きに抱き抱えて颯爽と去って行かれたのですわ。」
「「「‥‥‥。」」」
「ぷっ。シリウス‥‥抱えられたのか‥‥マリンに。」
「ぷっ‥‥くくっ‥‥普通逆じゃないのか‥‥?」
「ぷっ‥‥あ、兄上‥‥面白すぎます‥‥。」
「レグルス‥‥リゲル‥‥リオト‥‥」
「はぁ~こうなるから話さなかったのに‥‥リジアもでしょ?」
「うん。さすがにシリウスが可哀想かなって。」
「あら‥‥申し訳ありません。王太子殿下。」
「いえ‥‥あの時は非常時でしたし、今も言ってしまったのは仕方ありません。」
「ま、マリン様‥‥帝国の方々をお迎えに行かれていたのに南の辺境伯領まで‥‥?」
「と言っても王都に程近いところまで来てましたよ?」
「それでもその後、リゲル様やお姉様まで救出して‥‥襲撃された護衛の方々の治療もされたのでしたよね?」
「え、ええ‥‥まあ。」
やばい‥‥聖女様が怪しんでる。
「あの護衛の方々、医師様の治癒魔法の効果がさほど出ていないと伺ってましたが‥‥?」
「あれは襲撃者に闇魔法を使われたからですよ。」
「その闇魔法に防がれていたと?」
「ええ。」
「では、マリン様はどうやって?」
「私は闇魔法を打ち消す浄化魔法が使えますから。」
「浄化魔法の後に治療も?」
「はい。辺境伯邸でお会いした時はその治療直後だったのですよ。」
「はい。後々辺境伯様から伺いましたが‥‥マリン様、あなたは何者ですか?」
『!!!』
「何者でもありません。私は西の辺境伯家のマリン・フォン・クローバーですよ。」
「それは存じております。‥‥王太子殿下を抱えて王都に戻り、リゲル様達を救ったあとの護衛達の治療。マリン様はどれ程の魔法をお使いに?」
『‥‥‥。』
講堂の中が静まりかえって、全員がマリンとリアラの会話を聞いていた。
「聖女様は何を仰りたいのですか?」
「マリン様。あなたは神々に愛されてます。それこそ私以上に。それならマリン様は、伝承にある神の御使い様ではないのですか?」
『!!!』
おっと‥‥その伝承、教国にもありましたか‥‥王国は分かるけど、教国は‥‥ルチア様かな‥‥。
でも、とりあえず。
「それを確認してどうするのですか?」
「え?えっと‥‥」
「考えなしに質問されたのですか?ご自身の発言がどれ程の影響力をお持ちかを考えずに。」
「あ‥‥」
『あ~あ‥‥またマリンを怒らせたな‥‥。』
とマリンのステータスを知ってる人達が思っている中。
「ちなみに私は伝承のことなど知りません。なので、伝承の御使いかと聞かれても分かりかねます。それと、前回お会いした時もそうですが、もう少し周りを見て下さい。」
はぁ‥‥精神的に疲れるから嘘をつかなきゃいけない状況作らないでよ‥‥。
「‥‥‥申し訳ありません。」
「マリン様。」
「はい?」
「聖女様に対してそれは言い方がひどくありませんか?」
今度は他の教国側の人達か‥‥
「そうでしょうか?聖女様が私を御使いだと仰れば私は世間からそう見られるのですよ?私がいくら違うと言っても聖女様の発言が優先されるんです。その時、私は世間から色んな意味で狙われるんです。私の自己防衛のための発言を非難されるのですか?」
「それは‥‥」
「‥‥‥生徒会長、王太子殿下、皇太子殿下。」
「「「ん?」」」
「気分が悪くなりましたので、申し訳ありませんが退場させて頂きます。」
「「「ああ。」」」
三人は苦笑いである。「だろうな。」と予想できたからだ。
勿論、体調不良ではなく不機嫌になっただけだ。
「それから聖女様。」
「は、はい。」
「明日からの授業、ご一緒することになるかと思いますが、私はしばらく聖女様と話したくありません。無視する形になりますので、先に申し上げます。申し訳ありません。では。」
と言いたいことを言って去っていくマリンの後ろ姿を呆然と見送った一同だった。
マリンの予感は見事に的中したのだった。