268話 報告
翌朝。
朝食までいただいたあと、応接室に場所を移動して私達は話し始めた。
姉様達は誘拐される前から私が救出に来るまでのことを話した。私はどうやって来たか、どうやって姉様達を探したかは言わず、犯人達が闇ギルドの者達でルシア狙いだったことを話した。
ゲート、フライのことを言う訳にはいかないからだ。
言ったらあとが面倒だ。
ちなみに当のルシアは部屋に監禁されたままだ。
「なるほど‥‥‥では、やはりマリン様が捕らえて下さった犯人一味は王都へ連行することになりそうですね。」
「はい。それで、辺境伯様。」
「なんでしょう?」
「私、こちらに来る前に陛下から指示を伺ってまして。」
「え?陛下はなんと?」
「教国の方々とリゲルの護衛が重傷者ばかりだとの辺境伯様の報告を受けて、すぐに新たな護衛を編成してこちらに向かわせてくださると。そして、護衛が来るまではリゲルと姉様はこちらで待機する様にと。」
「‥‥‥まるでマリン様なら解決できると確信しているかの様な指示ですね。」
「ははは‥‥」
だって実際、犯人一味を捕まえてから報告したもん‥‥。
「それで、私は解決したら帰ってきていいと言われてますので、よろしければ報告書とか陛下にお届けしましょうか?」
「‥‥‥よいのでしょうか?」
「万が一私が帰りに殺されても、ストレージの中身は本人以外出せませんから。情報漏洩はありませんよ。」
「‥‥そうですね。では、お言葉に甘えさせて頂きます。では、早速書類を纏めてきますね。皆様はご自由になさってください。」
そう言って辺境伯当主アストルは去っていった。
そこで、クリス、リゲル、マリンの三人だけになった所で。
「で、マリン。本当はいつ聞いた指示なの?」
「ふふっ。勿論、検問の兵士に犯人一味を預けた後ですよ?」
「そうか。やっぱりな。それで、マリン。よく抑えたな?」
「犯人達を殺さなかった理由?」
「あ、ああ。」
「こっちに来る前にシリウスに殺すなって言われてたし、私自身が殺人に手を染めたくなかったんだよ。例え凶悪犯でもね。それに、姉様とリゲルを誘拐した時点であいつらに未来はないもの。わざわざ私が手を汚す必要はないかなって思って。」
「そうね。私も、マリンの手は綺麗なままであってほしいわ。」
「それでも怒りのぶつけどころがなかったので、大いに不満ではありますが。帰ったら一回荒野で発散してきます。」
「え、ええ‥‥。」「あ、ああ‥‥。」
二人は何とも言えない表情をしたが、気を取り直して
「そういえば、マリンの方は大丈夫だったの?」
「はい、大丈夫ですよ。盗賊が襲ってきたのは帝国の人達と合流する前でしたし、残りのやつらは父様と兵士達で確保済み。もうすぐ王都に着くというところでリジアに交代してもらって、陛下の話を聞いてからこちらに来ましたから。」
「そう‥‥でもそれにしても早くない?飛んで来たの?」
「いえ。焔がかつていた場所にゲートで来てから姉様達を探しました。」
「結局、あそこはどの辺りだったんだ?」
「ここから北西の方向に向かった先だよ。」
「よく私達を見つけたわね‥‥。」
「私も「まさか、簡単すぎる」と思いつつ、他に考えられることもなかったので向かったら正解だっただけです‥‥。うちの領地から南東に、ここから北西に向かったら合流するな‥‥と。」
「「‥‥‥」」
「えっと‥‥うちの領地に現れた盗賊との関連性を疑ってたの?」
「‥‥‥統率者いなかったな~指示したの誰かな?姉様達を誘拐したのと同じ人だったりして~‥‥みたいな感じです。」
「「‥‥‥」」
「つまり‥‥」
「勘も含んでいたのは否定しません。」
「‥‥‥まあ、お陰で助かったからいいか。」
そして、しばらくすると。
「お待たせしました。マリン様。よろしくお願いします。」
「はい。承りました。」
「では、馬車をご用意しますね。」
「いえ。辺境伯様、私は自分で帰ります。今の私は令嬢として来ている訳ではありません。指名依頼ではありませんが、私は陛下に頼まれて動いただけです。馬車を用意するなら護衛も付くのでしょう?今は私より、教国の方々もいるこの辺境伯邸の守りを固めるべきかと。」
「‥‥‥そうですね。分かりました。」
『『あれは早く帰りたいだけだな。』』
様子を見ていたクリスとリゲルの心の声だが、これは正解だった。
現にホッとした顔をしたマリン。ほんの一瞬でなかなか気付かない範囲でだが。
「あと、亡くなられた護衛の方々も私のストレージでお連れしましょうか?」
「それは護衛の方々をご家族にお帰しするために?」
「はい。」
「‥‥ありがとうございます。亡くなられた方々をご家族の元に帰して差し上げたかったので、ありがたいです。」
そしてマリンは亡くなった護衛達をストレージに入れてから辺境伯邸を出て、検問に歩いて行った。
すると。
「あれ?天使殿、もう帰るのか?」
「あの、天使殿ってやめませんか?私、マリンって名乗りましたよ?」
「そういえばクリス様の妹君と言っていたな。だったらこの口調も直すべきか?」
「ふふっ。いえ。私は確かに西の辺境伯令嬢ではありますが、冒険者でもありますので口調はそのままでも構いませんよ。」
「そうか!クローバーって‥‥マリン様が優しい方で良かった。」
「ふふっ。あ、犯人達は大人しくしてますか?」
「ああ。なんか「あの水から出ようとしなくて良かった」とか「あんなに強いなんて反則だろ‥‥」とかぶつぶつ言ってたがな。」
「そうですか。」
「ああ。あと、「あの雷一発で俺達死ぬよな‥‥」って下っ端達が呟いてたな‥‥いや、それに全員頷いていた様な‥‥?何か知ってるか?」
「私を怒らせたことを後悔させてやる」っていつの間にか実行されてたみたいだな。
「ふふっ。いいえ。存じません。では、引き続きお願いします。私は失礼しますね。」
「って!馬車は!?」
「えっと‥‥」
アストルに話したことと同じ事を告げ、大丈夫だと言ったあと、身体強化と風を纏って一気に駆け出した。
そして兵士達に見えなくなる位置で止まり、王都の城門近くの路地にゲートで移動した。
そのままマリンが城門警備の騎士に近付いただけで、
「どうぞ。マリン様は到着次第、陛下の元にお連れする様に申し付けられてますので。」
と言われて、すんなり入れた。
顔パスって‥‥
昼前だから城に直接行かない方がいいかなって城門通ることにしたけど、正解だったな‥‥。
城内に入り、執事に案内されながらそんなことを思っていると。
「マリン様。到着いたしました。」
「はい。ありがとうございます。‥‥ん?リジアとシリウスにリオトもいますか?」
「ええ。フリージア様が到着されたばかりですので。」
「なるほど。」
そして、扉をノックして許可を得てから中に入ると。
「「マリン!!」」「マリン姉様!」
「ふふっ。ただいま。‥‥陛下、お待たせしました。」
「いや。休息はとったか?」
「はい。辺境伯様が泊めて下さいました。」
「「「え!?」」」
「だ、大丈夫だったの?マリン。」
「ネウス様だよね?大丈夫だよ。最初に機嫌悪いって言った後は会うことがなかったから。」
「「「さすが‥‥。」」」
「で、マリン。先程父上から聞いたが、リゲル達は無事なんだよな?」
「うん。大丈夫だよ。」
と言うと、三人共安心した様だった。
「それから陛下。私と姉様達で先に辺境伯様にお話したら書類を纏めて下さいまして。預かってきたのですが、お渡ししても?」
「ああ。助かる。」
そしてストレージから書類を陛下に渡したあと、
「それからリゲル達の護衛の方々ですが、治療もしてきました。」
「そうか!色々ありがとな。」
「いえ。あと私のストレージの中に、亡くなった護衛の方々と、うちの領地で先生達に返り討ちにあって亡くなった盗賊がいますが、どうしたらいいでしょうか?」
「‥‥‥両方あとで騎士団の詰所に行って出してやってくれ。確認だが、マリン。マリンは誰も殺してないよな‥‥?」
「はい。この手は綺麗なままですよ。犯人を氷像にしてやろうかなとかは思いましたが、実行はしてません。」
「「「「‥‥‥。」」」」
「とりあえず、クリス達の話もあとで帰ってきてから改めて聞くが、先にマリンの話を聞いていいか?」
「はい。」
そして私はうちの領地近くで襲ってきた盗賊を返り討ちにした時の違和感と、姉様達を探し当てた時のこと。
その後、中で聞いた闇ギルドのことなどを話した。
南の辺境伯邸で治療を受けていた時の護衛達の状態も。
とりあえず私が見て、聞いて、行動したことを話した。
「「「「‥‥‥」」」」
「あらゆる意味で、マリンに行ってもらって正解だったみたいだな。」
「ですね。」
「勿論、辺境伯様にはゲートとフライの話はしてませんよ?」
「そうか‥‥とりあえず、今日はもういいぞ。リジアもな。二人共、ご苦労だった。」
「「はい。」」
話は終わったと立ち上がったところで、
「マリン。」
「はい?」
「帰りは馬車で帰れよ。」
「‥‥‥この後、荒野に行って発散するつもりだったのですが‥‥。」
「屋敷に着いてから行け。」
「‥‥‥はい。」
そして私が騎士団の詰所に行き、亡くなった盗賊と護衛の人達を出してから馬車に乗るべく移動している間、何故かずっとリジア達三人がついてきていた。
‥‥監視?ちゃんと馬車で帰るよ?
と思いつつ、馬車が止まる場所まで来ると。
「天使様!」
すっかり忘れていた人が待ち構えていた。