266話 終結
書斎で悠長に話していると、人が来た。
やってきた人は中に入るなり、
「ネクロマンサー様!こちらにいらっしゃったのですか!探しましたよ!」
「げっ。もう見つかってしまいましたか‥‥。」
入ってきた人はルシアを見て目をキラキラさせ、ルシアは逆に嫌そうにしていた。
ちなみに入ってきた人は男性だ。私も引きながら聞いてみた。
「ルシア、知り合い?」
「ええ。私の後にギルドマスターになった者です。」
「ネクロマンサー様!私とだけ話して下さればいいのに!一体誰が私のネクロマンサー様を‥‥」
と、ここでようやく私達を視界に入れた様だが、何故か固まった。
「「「?」」」
「な、何故‥‥捕らえた筈の二人がここに!?しかも一緒にいるのは‥‥その青髪からして、噂の天使!?」
「ええ。私の敬愛するマリン様です。」
「何ですと!?西の辺境伯領に盗賊を差し向けた筈‥‥捕らえられなかったのか!?‥‥チッ役立たず共が。」
ああ~こいつか。指示したやつ。
っていうかお喋りだな。聞かなくても知りたかったことをペラペラ話してくれたよ。
「ほう?あなた、マリン様を誘拐するつもりだったのですか?」
「え‥‥はい。天使を誘拐してあなた様に捧げようかと‥‥」
「あ。そうでしたか。売り捌くとか言い出したら殺すところでした。」
「ひ!‥‥と、当然ではないですか!‥‥しかし、天使よ。よく無事だったな?」
二人の会話にドン引きしてたら話し掛けられた。
「えっと‥‥100人以上はいたよね?結局何人差し向けて来たの?」
「130人だ。」
「「130人!?」」
姉様とリゲルの声がハモった。
「あなた‥‥マリン様は130人程度じゃ誘拐できませんよ。世界中の人を集めるぐらいじゃないと。」
「え!?天使はそれほどまでに強いのですか!?」
「ええ。私を捕らえた方ですよ?まあ、先に心を掴まれましたが。」
「な!!私のネクロマンサー様を虜にする程の魅力が天使にあると!?」
「先程から思ってましたが、私はあなたの物になった覚えはありません。気持ち悪いこと言わないでください。」
「「「お前が言うな!!!」」」
「え?今でもマリン様を諦めてはいませんよ?」
「「「!!!」」」
ドン引く私達。
「そんな‥‥天使のどこがそんなに‥‥」
「むしろあなたには分からないのですか?マリン様の神々しさが。」
「私はあなたが神々しい!」
「ねぇ。私達はいつまでその気持ち悪い茶番に付き合わされるの?」
「気持ち悪いだと!?誘拐した二人に危害を加えるなと下の奴らに言ったのは私だぞ!?」
「あら。それはありがとう。私が仮に誘拐されてきた時に暴れない様に?」
「ああ。天使の武勇は有名だからな。念のためだ。」
「そう‥‥でもね。姉様とリゲルを誘拐した時点で私の怒りを買ってるのよ。」
「え?」
「私を敵に回すのがどういうことか教えてあげるわ。安心して。殺さないであげるから。」
「なに!?私は仮にも実力でギルドマスターになった者だぞ!?」
「はっ。闇ギルドでしょ?関係ないわ。」
「私一人ならな。ここに何人いると思っている!?合計50人だぞ!?しかも手練れのみを厳選したな。」
「あなた馬鹿?私が姉様達を救出した時点で気付かないの?それに私の背後にある物にも気付いてないの?」
「は!‥‥!?」
私に言われてやっと気付いた様だ。そして【水牢獄】を見て驚いた。
「あ。やっぱり馬鹿だ。よく今までギルドマスターできたわね。」
「昔から馬鹿ですが、こいつが実力でギルドマスターになったと言ったでしょう?私の次に強かったんですよ。」
「ふ~ん。で?どうするの?一人でも足掻いてみる?」
「くっ。ああ!最後まで足掻いてやるさ!」
と、何やら魔法を使おうとしたが。
「はぁ‥‥【氷弾】」
「ぐぉっ!」
倒れた。
呆気なさ過ぎる。回収したけども。
「ねぇ。ルシア。あいつ、本当に実力でギルドマスターになったの?」
「え、ええ‥‥一応。今こいつが使おうとしていたのは隷属させる魔法だったんですよ。その魔法でかつては誘拐して売り捌くを繰り返していたんですよ。」
「ルシアがギルドマスターを辞めたのはあいつから離れるため?」
「ええ。さすがに男に好かれるにしてもあいつは異常でしたから。気持ち悪くて。」
「あっそ。さて、これからどうするかな‥‥」
「あ。マリン。教国の人達は?」
「辺境伯邸に匿われてるそうです。」
「護衛達は!?」
「亡くなった人もいるけど、騎士の一人が頑張って辺境伯様に助けを求めてくれたから、生きてる人は治療中だって。」
「そう‥‥」
「良かった‥‥」
「姉様。私は捕らえた人達を辺境伯領の詰所に連れて行きます。」
「うん。私とリゲルとルシアも辺境伯領に連れて行ってくれる?」
「‥‥辺境伯邸に行くんですか?」
「うん。行かないと。ルシアを引き渡しについて来たんだし。」
「‥‥‥‥分かりました。姉様、もう落とさないで下さいね。」
「え?」
私は姉様のペンダントの切れた紐部分を【創作】で作ったチェーンに変えて、姉様の首に下げた。
「あ。これ‥‥」
「辺境伯様が伝令の人に持たせてくれたんです。それで陛下が姉様の物と推測して私に。」
「そっか‥‥良かった‥‥ごめんね、ありがとう。マリン。」
「どういたしまして。南だから‥‥ネウス様ですね。何かされそうになったら問答無用で麻痺させちゃって下さい!」
「ふふっ。うん。そうするわ。」
「じゃあ、行きましょうか。ルシアも行くよ。」
「ええ。」
と四人で玄関に向かって歩きながら
「あ、私も後で辺境伯邸に行くべきですよね?」
「そうね。」
「はぁ‥‥結局行かないといけないのか‥‥避けた意味ないじゃん‥‥。」
「はは!結果的にそうなったな。」
と進んでいたが、玄関ホールに着くとまだ水浸しだった。
「「「‥‥‥」」」
「マリン。なにしたのよ?」
「勿論、集団が鬱陶しかったので一斉に麻痺してもらっただけですよ。まだビリッとくるかもなので、今足場を作りますね。【土塊】‥‥ついてきてください。」
「え、ええ‥‥。」「あ、ああ‥‥。」
そして全員、外に出ると。
「あ!?何で誘拐したやつが出てくるんだ!?」
「って、お前誰だ!?」
チッ。まだいやがったか。
まあたった三人だし、どうでもいいんだけど。
「ってネクロマンサー様ま‥‥」
「【岩弾】‥‥うるさい。」
何か言ってる途中で倒して【水牢獄】へ。
それを見て無言になる姉様達三人。
「あ。この建物、残す理由はないか。」
「そうね。壊しちゃったら?」
「そうですね。怒りのぶつけどころが無かったので丁度いいですね。何にしようかな~。爆発させてやろうかな?」
「いや、あれをやったらこの辺り一帯がとんでもないことになる。他のにしてやってくれ。この地の領主の為に。」
「む。確かに。分かった。‥‥‥あ、雷ならいい?」
「‥‥‥威力によるかな‥‥。」
「勿論、この家を破壊するぐらいに留めるよ。」
「なら、いいんじゃないか?」
「やった!じゃあ早速。【雷】」
ドガァァァァァァン
「「おお~!」」
この一撃で平屋建ての建物は破壊された。
「やっぱり雷はこうだよね~!麻痺させる程度じゃ物足りないよ。でもちょっとだけスッキリした。」
「「「ちょっとだけ‥‥?」」」
ちなみに犯人一味は【水牢獄】内で全員起きていて、一連の様子を見ていた。
最初に玄関を守っていた二人が起きたのは、集団で麻痺させられた人達がぽいぽい【水牢獄】に放り込まれてきた時だ。
その後もあっさり地下に入るところも含めて全て、入ってきた仲間達を起こしながら見ていた。
次々と難なく仲間達を倒すマリンを見て、抵抗すれば仮に出ることができても殺される。という恐怖心を抱いたからだ。今の雷でその恐怖は倍増されたが、
そんなことは露知らず、マリンは
「さて、行きましょうか。」と。
それにコクンと無言で頷く姉達三人。
とりあえず、姉様達が誘拐された現場近くにゲートを繋いで、改めて辺境伯領へと向かった。
そして検問で。
「兵士さん。この三人は連行途中だったネクロマンサーこと、ルシアと護衛の一人のクリス姉様、それとリゲル様です。」
「え!?ご、ご無事でしたか!!‥‥君は?」
「こちらのクリス姉様の妹で、マリン・フォン・クローバーと申します。誘拐犯の一味を捕らえましたので、引き取って頂けますか?」
「マリン?‥‥まさか、噂の天使殿か!?」
「‥‥‥‥はい。」
噂って‥‥‥どこまで広がってるんだ‥‥全く。
「天使殿の噂は聞いている。犯人達はこちらで引き取ろう。クリス様とリゲル様はネクロマンサーと共にお通り頂いて構いません。ただ、念のために護衛は付けさせて頂きます。」
「「はい。」」
ということで、姉様とリゲルはあっさり通されたので、ルシアを連れて辺境伯邸に向かった。検問の兵士さんの護衛付きで。
私も【水牢獄】に改めて【麻痺】を掛けてから解除した。
「あ、兵士さん。この人達、闇ギルドの者達みたいです。」
「そうなのか!?‥‥分かった。厳重に警備する。」
「はい。私の方で辺境伯様にお伝えしておきますね。」
「ありがとう。後々王都から騎士達が引き取りに来るんだろうな。」
「恐らくは。それまではお願いしますね。」
「ああ。」
そして犯人全員を詰所の兵士さんに預け終わった私は一旦領内の路地に入り、そこから城の庭園にゲートで向かった。そして、陛下はまだ執務室にいるみたいだったので向かい、ノックをして許可を得てから入室すると。
「マリン。どうだった?」
「三人共無事です。犯人達も全員拘束して辺境伯の詰所で引き取って頂きました。」
「そうか‥‥助かった。ありがとな、マリン。」
「いえ。詳しくはまた後程。私はこれから辺境伯様に犯人達のことをお伝えに参ります。その後は姉様やリゲルと共に教国の人達の護衛に参加した方がいいでしょうか?」
「いや。死者もいるし、護衛も重傷者ばかりだ。こちらから改めて護衛を派遣するからそれまでリゲル達には待機してもらう。マリンは帰ってきていいぞ。」
「分かりました。もう夜に近付いてますので一泊してから戻ります。」
「ああ。それでいい。ご苦労だったな、マリン。」
「はい‥‥。では陛下、こんな時間に失礼しました。」
「構わないよ。安心させてくれるためだろ?」
「ふふっ。はい。では。」
そして再び辺境伯領にゲートで戻り、辺境伯邸に向かった。
夜に近付いているので同じく失礼だが、しょうがない。
そして辺境伯邸の門番にギルドカードを見せて、身分を明かして中に入れてもらうと。
「おお!マリン様まで!」
げっ。早速か。
玄関ホールにネウスがいた。
そして姉様達三人もいた。
「姉様?」
「辺境伯様に取り次いでくれって言ってもなかなか連れてきてくれないのよ‥‥。」
「ほう?ネウス様、もう一度痺れたいですか?それとも気絶したいですか?」
「何故そんな物騒な二択なんだ!」
「それが嫌なら辺境伯様をお呼びください。私、今機嫌が悪いので早くしてください。」
と言いながら冷やかな目を向けると、ネウスは諦めて父親である辺境伯家当主を呼びにいった。