264話 教国側
王都側から近付いて来る人達。
それに気付いたが、何故来たのかが疑問だった。
疑問ではあるが、無視する理由もなければ何かあったから来たのかもと思い直し、近付いて来る人達の存在を馬車の窓からメリアさん達に伝える。
「メリアさん。」
「? どうされました?」
「何故かシリウスとリジアがこちらに向かって来てます。」
「は!?え?殿下が?」
「はい。」
「で、では次の休憩場で待ちましょうか。」
「はい。」
そして馬車が街道沿いの休憩地点に到着し、待っていると。
「‥‥‥本当にいらっしゃった‥‥。」
騎士が乗る馬にそれぞれ相乗りしたシリウスとリジアが来た。
「さすがマリン。気付いて待っててくれたな。」
「うん。それはいいんだけど‥‥リジア、大丈夫?」
急いで来たからなのかリジアがヘロヘロになっていた。
「だ‥‥大丈夫‥‥じゃない‥‥。」
「あらら‥‥【気分鎮静化】」
「!!‥‥あ、ありがとう~!マリン。」
「どういたしまして。で、何かあったの?」
「ああ。ちょっといいか?」
「? うん。」
そしてシリウスは私とリジアを連れて、護衛達や帝国の生徒会の人達から離れたところに来てから話し出した。
「簡潔に言うと、リゲル達が捕まった。」
「は!?」
「リゲル、クリス様、ルシアが捕まったと言った。」
「え!?姉様も!?って姉様やリゲル、それに護衛がいながら何で!?」
「詳しくはまだ分からない。ただ、護衛達は全員重傷を負っていた。唯一辛うじて動けた騎士の一人が辺境伯邸に向かって助けを求めたことで事態が判明した。その騎士の証言の場所に辺境伯様自ら私兵を伴って向かうと、重傷を負った護衛しかいなかったそうだ。」
「それで、護衛の人達は?」
「幸い辺境伯領の近くまで来ていたらしくてな、治療中だ。だが、亡くなってる者もいたそうだ。」
「そう‥‥で、二人が来たのは私を呼びに?」
「ああ。父上がお呼びだ。」
「リジアは私と交代して帝国の人達を案内するため?」
「うん。そうよ。」
「そっか。分かった。まだ聞かないといけないことがありそうだし、一先ず陛下のところに行こうか。」
「ああ。ただ‥‥」
「帰り方だよね。ゲートを誰にも見えなくなった所で使うよ。シリウスも一緒に帰る?」
「ああ。頼む。ゲートは俺の部屋に繋げてくれたらいい。」
「ふふっ。じゃあ、シリウス。ちょっとの間、共に羞恥心と戦おうじゃないか。」
「「は?」」
「とりあえず行くよ。時間ないでしょ?」
「う、うん。」「あ、ああ。」
そしてみんなのところに戻りながら私は、後ろで髪を一つに結んだ。これからすることにちょっと邪魔かなと思ったからだ。
「帝国の皆様。申し訳ありませんが、私は急ぎ戻らないといけなくなりました。」
『え?』
護衛含めて私達三人以外全員の声。
「私の代わりにリジアが皆様をお連れしますので。」
「よろしくお願いしますね。」
『え、ええ‥‥。』
「マリン様、殿下。何かあったのですか?」
「はい。ちょっと。メリアさんは一先ず護衛に集中してください。」
「え、ええ。勿論。」
「さて、行くよ。シリウス。」
「ああ。で、どうするつもりだ?」
「ふふん!羞恥心と戦おうって言ったでしょ。こうするの!」
と言ってシリウスを横抱きにした私。
王太子をお姫様抱っこする令嬢。普通逆。
が、今は気にしてられん。と身体強化と風を纏った。
「ま、マリン!?」
「シリウス。ちょっと大人しくしててね。」
『‥‥‥。』
この場に微妙な空気が漂う中。
「では、皆様。失礼します。」
と言って駆け出した。
その後ろ姿を見送ったリジアが「そういうことね」と呟いていた。
そして少し進んで誰にも見えなくなったかなと思われる位置まで来たところで、私は立ち止まった。
「マリン‥‥羞恥心ってこういうことか‥‥」
「うん。私だって恥ずかしかったんだから、文句は聞かないからね?」
「ああ。それはいいんだが‥‥」
「ん?」
「降ろしてくれないのか?」
「あ、そうだね。なかなかない位置にシリウスの顔があったから新鮮だなって思って。」
と言ってシリウスを降ろすと、
「俺は理性と戦っていたというのに‥‥」
「え?」
と複雑そうな顔をして何か呟いていた。
「いや。ここなら大丈夫だろう。頼む、マリン。」
「? うん。」
そして私達はゲートで一旦シリウスの部屋に行き、陛下はいつもの一室にいないとシリウスに告げると、恐らく執務室だろうということで案内してくれた。
そしてノックの後に入室の許可を得てから、陛下の執務室に入った。
「父上。お待たせしました。マリンを連れてきました。」
「ああ。マリン、突然呼び戻してすまないな。」
「いえ。リゲルと姉様とルシアが捕まったと聞きましたが。」
「ああ。まずは座ってくれ。」
そして全員、ソファーに座ると。
「マリン。どこまで聞いた?」
「今、申し上げた様に三人が捕まったことと、護衛達に死傷者が出ているとだけ。」
「そうか。まず、このことがあって教国の者達は辺境伯邸に匿ってもらっている。そして、三人を誘拐した者達の足取りは分かってない。その旨を辺境伯が私兵を使って知らせてくれたんだが、一緒にこれを持ってきた。」
と言って陛下が布にくるまれた物を取り出し、中身を広げて見せてくれた。
「!!!」
私は中身を見て驚いた。
それは、私がかつて姉様にあげた護身用のペンダントだった。
「これ‥‥姉様の‥‥。」
「やはりそうか。これに触れると麻痺する様になっていた様でな、持ってくるのに苦労したそうだ。」
「私が盗難対策にそういう設定にしましたから‥‥。」
「「え!?」」
「これは私がかつて、勝手に姉様を心配して渡した護身用のペンダントです。」
「護身用っていうのが気になるが、やっぱりクリスの物か。リリ達の披露宴でも着けていた物だよな?」
「はい‥‥‥紐が切れてる‥‥抵抗した姉様からこれを切り離した‥‥?」
「恐らくそうだろうな。」
「ほう‥‥‥いい度胸だ‥‥私を怒らせたことを後悔させてあげようじゃないか‥‥。」
「「ま、マリン?」」
「ふふっ。早速、はっ倒してきますね。陛下。」
立ち上がってにっこり笑ったけど、多分目が笑ってない。
「あ、ああ。」
「マリン。気持ちは分かるが、殺すなよ?」
「ふふっ。善処するわ。シリウス。」
「あ、マリン。どうやって南の辺境伯領に行くんだ?飛んで行くのか?」
「ううん。焔のいた場所に一旦ゲートで行ってからにする。」
「場所分かるのか?」
「うん。焔と契約しに行った時に周辺を見て回ったから分かるよ。」
「さすがだな。マリン。」
「あ、そういえば陛下。うちの領地近くでまた盗賊が出たんです。既に私達で全員返り討ちにして、一部以外は全員生け捕りにしてますが、ちょっと怪しいところがあるんです。詳しくはまた後程お話しますね。」
「え?あ、ああ。」
「では、行って参ります。」
「ああ。気を付けてな。」
「はい。」
そして私は再びゲートを開き、南の辺境伯領にあるかつて焔がいた遺跡があった場所に出た。姉様のペンダントを持って。