260話 それぞれの話
そして順調に旅路は進み、途中のアルス子爵邸にいつも通りお世話になりつつ領地に到着した。
まずは私を辺境伯邸に送り届けてから騎士達や冒険者達は、宿で休むそうだ。
そしてお昼前に屋敷に到着した。
すると父様、セレス母様、フレイ兄様、アクア兄様、マリア姉様が出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。ふふっ。まさか全員でお出迎えしてもらえるとは思いませんでした。」
「夏休み以外で帰ってくることがなかったからな。」
「私達も楽しみだったのよ。」
「マリア様。お久しぶりにございます。」
「あら、メリア。久しぶりね。マリンちゃんの護衛?」
「はい。」
「ふふっ。そう。でも、メリア。私はもう嫁いだ身よ。畏まる必要はないわ。」
「そうなのですが、どうも抜けない様です。」
「マリン。」
「はい?」
「あれ、どういうこと?」
「マリア姉様ですか?」
「うん。マリンのお姉ちゃんって一人じゃなかった?」
「ああ。マリア姉様は元公爵令嬢で、今はフレイ兄様の奥さんですよ。」
「元公爵令嬢‥‥?が、義理の姉ってこと?」
「はい。ちなみに一番上のヒスイ兄様が王女殿下と結婚してますので、もう一人の義理の姉は元王女ですよ。」
「「元王女!?」」
「はい。お二人共、元々姉様の友人でしたので私にも良くしてくれる優しい方々だったんですよ。だからお二人が義理の姉になった時はすごく嬉しかったですね。」
「そうなんだ‥‥。」
「すごいわね、マリン。色々と‥‥。」
「? そうですか?」
「マリンちゃん。」
「はい?」
「この人達は知り合いなの?」
「はい。5歳の時に家庭教師をしてくれた方々がいるってお話したの、覚えてますか?」
「うん。あ、このお二人のこと?」
「はい。そうです。」
「ふふっ。そうなのね。‥‥マリンちゃんの義理の姉でマリアと申します。お二人共、マリンちゃんをよろしくお願いしますね。」
マリア姉様が先生達に笑顔で挨拶すると、元公爵令嬢と知った直後だからか、
「「は、はい!」」
と緊張で固まってしまった。
「マリン。ちょっと話があるから来てくれるか?」
「はい。父様。」
「あ、メリアもいい?」
「? はい。」
そして呼ばれた私とメリアさん以外は宿に向かうべく、去っていった。
私達が連れて来られたのは勿論、応接室。
出迎えてくれた5人と私とメリアさんだけ。全員が座ったところで、最初に口を開いたのは父様だった。
「マリン。正直、こっちに来たのがマリンで助かった。」
「何かあったんですか?」
「また出る様になったんだ。盗賊。」
「え~‥‥‥ここに来るまではいなかったので、また帝国へ向かう道の方ですか?」
「ああ。捜査したりしてるんだが、足取りが掴めなくてな。だから、明日迎えに出発するだろ?気を付けてくれ。」
「メリアも、この事を他の護衛の人達に周知しておいてくれる?」
「はい。畏まりました。」
そして現状の被害場所とかの報告を聞いた後、メリアさんへの用件は以上ということで、メリアさんも宿へと向かった。
「で、まだ何か困ったことでも?」
『‥‥‥。』
私達だけ応接室に残ったままだったので聞いてみたのだが、言うか迷っている様子だった。
ちょっと迷ったあと、アクア兄様が口を聞いた。
「マリン。」
「はい。」
「昔、ゴブリンの掃討しただろ?」
「しましたね。‥‥‥まさかまた巣を見つけたんですか?」
「いや、また目撃情報だ。盗賊の件もあって情報が錯綜してるんだ。」
「アクア兄様でも巣は見つけられてないんですか?」
「ああ。あまり奥に行くのは危険だからと止められるんだ。」
「ああ~‥‥なるほど。アクア兄様は冒険者じゃないから余計にですね。」
「ああ。」
「なら私が巣を探して来たらいいですか?」
『え?』
「え?そういう話じゃないんですか?」
「さすがにマリンちゃんでも、森の中を歩くのは時間が‥‥」
「歩きませんよ?空から探した方が早いですし。」
『あ。』
「ふふっ。何ならそのまま掃討してきましょうか?」
『‥‥‥。』
「確かにできるよな‥‥マリンなら。」
「はい。昔の様に家族にまで実力を隠さないでよくなりましたから。今からサクッと行ってきましょうか?」
『‥‥‥。』
今度はちょっと呆れた顔を向けられた。
「ゴブリンの集団もマリンにとってはサクッとぐらいか‥‥。」
「まあ、面倒ではありますが。臭いも最悪ですし。で、行って来た方がいいですか?」
「すまん。頼む。」
「見つけ次第、掃討までしますか?」
『‥‥‥』
男性陣がどうする?って考えだした‥‥。
「規模が分からないですからね。前回程じゃなければ冒険者達に頼みますか?」
「ああ。そうしよう。前回以上だったら掃討してきてくれ。」
「了解です。早速行ってきますね。」
「ああ。」
そしてその場でゲートを開き、久しぶりの草原に出る。
念のため雲隠で姿を消したあと、サーチを使いつつフライで飛んで探し始めた。
◇◇◇◇◇
一方その頃、南の辺境伯領にある、とある建物の一室。
ここに一人の男が入ってきて報告する。
「対象がもうすぐこちらに着くぞ。」
『本当か!?』
その報告に中にいた複数の人物が反応した。
「ああ。しかもご執心の天使様は別行動らしい。」
「絶好の機会だな。」
「ああ。」
「絶対逃がすなよ。」
と息巻いているところで、報告に入ってきた男が「ただ‥‥」と。
「なんだ?」
「一緒に騎士やら魔法師団やらがいる。冒険者もな。」
「冒険者も?なんでそんなにいるんだ?」
「交流会の話があっただろ。あれだ。」
「ああ~そのために騎士達まで動いてるのか。」
「ああ。」
途端に中にいた者達が「どうする?」とお互いに話し出した。
そんな中、恐らくこの集団のリーダーと思われる男が口を聞いた。
「相談なんぞ必要ない。やつを奪う。それだけだ。話し合うことはやつを奪う算段をつけるだけだ。」
『‥‥‥』
その言葉に鎮まりかえる周囲。
「黙ってないで、作戦を考えるぞ。」
その言葉に全員が頷く。