258話 過ぎていく日々
職員室での話は続いて。
「まあ、場所はあとで実際に参加者を募った時に判断するとしよう。」
「そうですね。マリンさん、魔法が球のみ使用可能にしたのは危険性を考慮してですか?」
「それもあります。あとは、あまり実力差を出さない様にする為です。私は弾も槍も使えますから、使えない人にとってはずるくてやる気を削ぐことになるかなと思ったので。球なら初級なので魔法試験で入学した人ならみんな使える筈ですから。」
「それもそうですね。で、優勝の景品が指名対決なのは?」
「ここも実力差を考慮して学年ごとに対戦する様にしましたが、中には他の学年の人とも戦ってみたかったとか言う人がいるかもしれないなと思ったので。」
「クローバー‥‥‥間違いなく下級生の奴等からお前に指名が殺到するぞ。」
「私もそう思います。」
「私達で話し合った時も全員同じ認識でした。」
「だろうな。クローバーは全員受けきれるのか?」
「まあ、余裕ですけど‥‥瞬殺できるので面白くないと思いますよ?」
『‥‥‥』
ヴァン先生とレイヤ先生は呆れ顔、他の先生達は呆気に取られた感じだった。
「マリンさん。確かにあなたならそうでしょうが、実際に指名されたらちゃんと相手してあげてくださいね。」
「はい。分かりました。まあ、全員私に来るとは限らないですよね。」
「いや、4年はクローバーが優勝するだろうからいいとして、他の学年の魔法・剣術の両方で全員クローバーに指名すると思うぞ?」
「いや、そんなまさか‥‥」
『‥‥‥』
可能性がないとは言い切れないだろ?と言いたげな表情の先生達。
「‥‥‥来るんですかね?指名‥‥まあ、来ても最大8人‥‥一気に相手しても大丈夫ですけど‥‥。」
「それはちゃんと一人ずつ相手しろ。逆にクローバーはやってみたいやついるのか?」
「あ~‥‥考えてなかったですね‥‥。」
「まあ、時間はあるんだ。ゆっくり考えとけよ。」
「はい。あと、やっぱり実戦式になるので念のため治癒を使える人も派遣しないとです。」
「クローバーがいるじゃないか。」
「先生。勿論私がいる間は私が治療しますが、私は行事の提案に来たんですよ?私達の代だけでやるならただの我が儘な道楽です。私が卒業しても続けられる様にしたいんです。今年は難しいのでしょうがないですが、後々生徒同士で審判もできる様になったら上級生と下級生の交流にもなると思うんです。今、1年~5年生まで垣根なく交流があるのは生徒会だけです。伝統を引き継ぐのは生徒会だけになってます。交流があれば下級生が上級生から学ぶこともあると思いますし、逆に上級生が下級生に気付かされることもあると思うんです。」
「なるほどな。それでいきなり行事を増やすとか言い出したのか。」
「はい。学祭も似た理由です。」
「職員室に乗り込んできただけあって先のことも考えてたか。」
「その様ですね。マリンさん。私は剣術・魔法大会。賛成です。理事長である陛下や統括責任者の公爵様に提案してみてもいいと思いますよ。」
「俺も賛成だ。」
「私もいいと思いますよ。でもまずは各クラスに「こんな行事あったら参加したいか?」というのを聞いてみるのもいいかと思いますよ。その後に陛下や公爵様に提案して、許可が出たら本当に参加者を募る。という風にしてはどうでしょう?」
「あ。それいいですね。理事長。」
「じゃあ、他の先生方。いかがですか?」
賛成だという声が多く出たところで。
「マリンさん。そういう訳ですからやっぱりまだ提案はしないでくださいね。聞き取り結果と共に提案することにしましょう?」
「はい。分かりました。先生方、ありがとうございます。」
「ふふっ。いえ。マリンさんの提案、私としても楽しみになってきてるんですよ。面白そうだと。」
「俺もだ。」
「それなら良かったです。では、長居してすみません。生徒会に行きます。」
「ああ。」
そして私達は職員室を出て生徒会室へと向かった。
職員室での話をシリウス達にも伝え、陛下への提案は一旦保留の旨を伝えた。
翌日。
先生達の行動は早かった。
昨日話したばかりなのに私達のクラスだけじゃなく、朝各クラスで聞き取りをしてくれたそうだ。
そして放課後の今、生徒会室に結果を伝えにレイヤ先生が来てくれている。
「え?もう聞き取りしてくれたんですか?全学年、全クラス?」
「はい。うちのクラスの様に全クラスの生徒が二つ返事でやりたいと言ってきたそうです。」
「‥‥‥ということは懸念した通り、学園の規模ではできないので会場は闘技場に?」
「なるでしょうね。」
『‥‥‥』
「1日で終わらないのでは‥‥?」
「はい。無理でしょうね。」
『‥‥‥』
「ふふっ。マリンさん、皆さんも。すぐに行動開始しろという訳ではありません。」
「でも、試験休みを狙うなら交流会の後すぐぐらいじゃないですか?」
「‥‥‥とりあえず概要を纏めて陛下と公爵様に提案してみましょう。全ては許可が出てからです。」
ということで先生にも協力してもらい、とりあえず剣術・魔法大会だけ概要を纏めて提案してみた。
‥‥‥数日後。
あっさり許可が出たそうな。
闘技場もしばらく使ってなかったそうで、使い道ができたと陛下があっさり使用許可を出してくれたそうだ。
そして交流会と平行して剣術・魔法大会の準備を進める内に月日は流れ、そろそろ帝国と教国から生徒会の人達が来るという時、週末に何故か城に呼ばれた私。
嫌な予感を感じつつ向かうと、いつもの一室に通された。
そこには陛下と宰相様、公爵様とシリウスにリオトもいた。
「お待たせしました。陛下。」
「呼んだのは私だから気にするな。」
「陛下、私嫌な予感がしてるんですが。」
「正解だろうな。」
「教国には行きませんよ!?」
「やっぱり正解だったな。マリン、国境まででいいから迎えに行ってくれないか?」
「予想通りだった!!陛下、ハッキリ申し上げます。嫌です。」
「何故だ?聖女は気を付けていれば問題ないだろ?」
「そこじゃありません。陛下、国境までということは辺境伯家のところを通るってことですよね?」
「そうなるな。‥‥‥‥ああ~あの長男か。」
「はい。冒険者としてなら無視しますが、教国の人達を迎えに行くということは王国の令嬢の一人としての振舞いをしないとです。そうなると、辺境伯家を無視できません。あの長男に会いたくないです。」
「う~ん。なら、マリンは帝国側の迎えに行ってもらうか。」
「迎えに行くことが決定事項なら、帝国側に喜んで行きます。」
「なら頼むな。教国側にはリゲルに行ってもらう。」
「え?リゲルは冒険者じゃないですよ?」
「今回はマリンも冒険者としてではなく、生徒会の代表として迎えに行ってもらうんだ。帝国だけ行って教国に行かないのは違うだろ?だからリゲルに行ってもらう。」
「生徒会代表は私とリゲルだけですか?」
「ああ。会長が皇族だし、皇太子と王太子を向かわせる訳には行かないからな。順当に考えて他に腕の立つのはマリンとリゲルだろ?」
「まあ‥‥そうですね。」
「心配しなくても冒険者も別に付ける。それぞれな。」
「まあ、向こうもそれぞれ護衛はいるでしょうしね。」
「そうだな。」
「分かりました。帝国側を迎えに行くなら文句は一切ありません。むしろ夏休み以外で領地に帰れるので嬉しいぐらいです。」
「だろうな。早速で悪いが、明後日の朝にまた城に来てくれ。城で集まってから向かってもらう。学園も公休扱いになるから、気にせず頼むな。」
「はい。分かりました。で、シリウスとリオトはなんでいたの?」
「ん?この後、マリンに予定がないなら騎士団に連れて行こうと思ってな。」
「え?なんで騎士団?」
「マリン姉様。帝国の軍の相手だけして王国の騎士や魔法師団の相手をしないのは不平等だとお話しましたよね?」
「あ~‥‥したね、そんな話。」
「これから兄上と騎士団のところに行こうと思ってるんですが、折角マリン姉様が登城してきてくださってるので、お誘いしようと思って待ってたんです。」
「どうだ?マリン。」
「ふふっ。いいよ。行こうか、リオト。」
「やった!」
「‥‥‥何故リオトだけなんだ‥‥。」
「ふっ。シリウス。同い年と弟の差だよ。」
「そうか‥‥。」
「では陛下、失礼します。」
「ああ。またな。」
そしてシリウス、リオトと共に騎士団へ向かい、剣術の相手をした後ちゃんと馬車で帰った。