256話 事情聴取
週末。
宣言通り学園が休みのこの日、マリンは馬車で登城していた。
そして。
「‥‥‥姉様。」
「ん?なに?」
「ネクロマンサー‥‥ですよね?」
「ええ。マリンが捕まえてくれたネクロマンサーよ。」
「こんな感じでしたか?」
「まあ‥‥‥やつれたからじゃない?」
登城した理由はネクロマンサーの事情聴取のため‥‥なのだが、今目の前の牢屋の中にいるネクロマンサーは、あの時の綺麗な顔と髪が嘘の様にやつれて台無しになっていた。
ちなみに姉様がいるのは事情聴取のためとはいえ、私をネクロマンサーと二人きりにさせられるか。とフリードさんに抗議したらしく、フリードさんも同じ意見だったので、あっさり姉様立ち会いの事情聴取だ。姉様は内容報告の意味もある。
「えっと、何故こんなにやつれたんですか?」
「マリンと会えないなら食べたくないって、ちょっとずつしか食べなかったらしいのよ。」
「え?馬鹿なんですか?」
「マリン様。ひどくないですか?」
「いや、会いたいなら食べて生き延びることを考えるでしょ。普通。」
「‥‥‥‥そうですね。」
「姉様。ネクロマンサーの本名は?」
「喋らないわ。あと、鑑定は相手が正常に会話できる状態なら使用禁止なのよ。」
「では、鑑定を使えるのは精神に異常がある人とか亡くなってる人とかだけですか?」
「そういうこと。」
「じゃあ、ネクロマンサーさん。名前から教えて。」
「ルシア・アルシオンです。歳は26ですよ。」
「「‥‥‥。」」
あっさり教えてくれた‥‥‥最初から聞いてみれば良かったかな?
って、マリンとしては一回り違うんかい!
「ルシアか‥‥格好いいと思うけど‥‥もしかして平民だった?」
「はい。私は12歳ぐらいの時に両親を亡くしました。スラム育ちだったので、餓死であっさり。ちなみに兄弟もいませんよ。」
「へ~。12歳ぐらいの時なら普通に冒険者とかなったら生きていけたんじゃないの?何で闇ギルドのマスターになるの?」
「私は魔法が闇しか使えなかったからですよ。」
「え‥‥‥本当に闇魔法特化だったの?」
「はい。私は当時のマスターに目を付けられまして、闇魔法の英才教育を受けさせられました。」
「うわ~‥‥‥出会いって時に残酷だね‥‥。」
「全く持ってその通りね。」
「ははは‥‥‥それよりお二人共、反応がゆるっとしてますね。」
「そりゃ本人が悲壮感も何もなく、ただ事実を述べてるだけって感じだったから。私達が同情するのは違うでしょ?」
「まあ、その通りですね‥‥話を戻しますね。マスターを引き継いだ時には人の命の重さなど考えなくなりましたね。その時にはもう例の伯爵と交流がありました。その時のことは以前お話ししましたね。」
「うん。聞いたね。じゃあ、今回の事情聴取の目的であるその後、各国から誘拐してきた人達のことを教えて。」
「えっと‥‥何を話せば?誘拐してくるまでは良かったのですが、その後はマリン様に会ってからというもの、まるで興味がなかったのでどの国から何人誘拐したかとか覚えてないのですが。」
「あ。私も一斉に助けてそれぞれの国に帰すのは騎士達に任せたから詳しく知らない‥‥‥姉様、聞いてます?」
「‥‥‥そういえばそうだったわね‥‥聞いてるわ。まず、教国が10人。で、東の海を渡った先にある亜人、異人っていう人もいるわね。あと、獣人とかの集まる国、セレナイト連邦国で5人。教国より更に南にある海を渡った先にあるディクロアイト王国で15人。全部で30人。見事に東と南に集中してるわ。ここ、セレスティン王国と帝国はマリンを警戒して避けたって言ってたわね。」
「ええ。しかし、30人とは‥‥私、意外と集めてたんですねぇ‥‥。」
「そうみたいね。ちなみにマリンが浄化してくれたあと、精神異常が残ってる人はいなかったそうだから全員母国に帰還済みよ。」
「良かった~。」
「ふふっ。そうね。」
「で、姉様。何を聞いたらいいんでしょうか?」
「えっと‥‥誘拐方法とか?」
「それでしたら‥‥」
と、誘拐方法をペラペラとあっさり話してくれるネクロマンサー改め、ルシアさん。
「「‥‥‥」」
「大体私の予想通り‥‥」
「私も団長にその話は聞いてたけど‥‥マリンの予想通りね‥‥。」
「おや?やっぱり看破されてましたか。あの時使っていた魔法はあの方の恩恵です。今の私に同じことはできません。」
「できないのはなに?」
「分身を作り、操ることですね。幻影は私が元々使えていた魔法ですよ。」
「へ~。あ、ちなみにわざわざ誘拐する時に人前でやったのはどうして?」
「え?決まってるじゃないですか。反応を楽しむ為です。あと、私を捕らえられない各国の騎士達の無能を実感できて面白いではないですか。あの国民達の恐怖や絶望の表情。騎士達の怒りや焦り、鬼気迫る雰囲気。愉快でしたねぇ‥‥。」
「「‥‥‥」」
ああ‥‥‥リアルに頭のおかしいやつだったか‥‥
多分姉様も同じ事を考えてるんだろう。なんとも言えない表情だった。
「はぁ‥‥‥とりあえず今回はここまででいいわ。これからあなたは我が国も含めた4ヵ国で話し合って刑が決まると思うわ。」
「では、マリン様にはもう‥‥?」
「会える訳ないでしょ。本来はこの聴取もさせるのを反対する声の方が多かったぐらいなんだから。」
「そんな!」
と言って牢屋の柵を掴んで悲壮感漂う顔をしていた。
「いやいや、犯罪者なんだからそうだよ。」
「マリン様に会えないなんて‥‥」
「それで自殺なんてしたら許さないわよ?」
「な、何故ですか!?」
「するつもりだったの‥‥‥はぁ‥‥当然でしょ?今回のことだけじゃない。あなたに苦しめられた人は沢山いる。あなただけ死んで罪から逃れるなんて誰も許さない。これから先、他にも事情聴取することは沢山ある筈よ。3年前の誘拐事件の首謀者でもあるし。その度に私を呼ぼうとしないでね。迷惑だから。私がいなくてもこれからはちゃんと質問に答えて。正直に。いいわね?」
「‥‥‥‥」
「いいわよね?」
「‥‥‥‥」
「ルシア。」
「‥‥‥はい。」
「姉様。これでいいでしょうか?」
「ええ。助かったわ。マリン、ありがとう。」
「いえ。‥‥‥‥ルシア、もう会うことはないだろうから、さようなら。」
「マリン様!!!」
あ~‥‥何か弟に言い聞かせる感じだったな、最後。
春斗君はまともだったのにな~。
と思いながら私はその後、振り返ることなく姉様と一緒に牢屋のある地下を出て地上への階段を登っていった。
「‥‥‥姉様。聴取を切り上げてくださってありがとうございました。」
「ううん。私も限界だったのよ。あいつと話してるとこっちが精神的に疲れるわ。」
「ですね。でも、ハデスの一部が入っていた時よりはちょっとだけましになってましたね。」
「そうね。ハデスとあいつの異常さが合わさってのあれだったってことよね‥‥。」
「これでやっと気持ち悪いのから解放されますね‥‥。」
「ふふっ。そうね。お疲れ様、マリン。」
「はい‥‥‥」
そして一階に上がってくると。
「あれ?みんな、何でいるの?」
友人集合である。それだけではなく、王族も。
「心配だったからに決まってるでしょ?私達にとってはあの異常な置き手紙の印象が強いんだから。」
「まあ、そうだね。でもあの時の力はないし、何かする気力もなさそうだからね。もうルシアに会うことはないよ。」
『ルシア?』
「ネクロマンサーの本名だよ。」
『え!?』
「ふふっ。マリンにはあっさり答えてくれたわ。で、この後の聴取もマリンがいなくても正直に答えてって説得までしてくれたのよ?」
「応じたんですか?」
「渋々ね。」
「渋々でもありがたい。助かったぞ、マリン。」
「ふふっ。いえ。陛下、半分は自分の為ですよ。毎回呼ばても迷惑ですし、うんざりですから。」
「ははは!そうか。とりあえず、マリンは大丈夫か?」
「はい。牢屋越しでしたから。精神的にちょっと疲れただけです。」
「そうか。」
「マリン。」
「ん?なに?リジア。」
「確認だけど、もうネクロマンサー‥‥ルシアと戦ったり、会ったりしなくて良くなったんだよね?」
「うん。」
「そっか‥‥‥やっと安心できるね。」
「うん。そうだね。」
頼むから脱獄とかしないでくれ。
と、心の中で切に願う私だった。
大変遅くなりました!すみません‥‥。
活動報告にうだうだ悩んでいることを書いてしまってます。