255話 王族は大変
そして城門前の広場に向かっている途中で。
「ところでマリン。さっき、俺に対して失礼なこと考えたろ?」
「え?‥‥やっぱり気付かれてたか‥‥。」
「だと思った。何考えた?」
「‥‥‥ベネトさんがちゃんとしてる!‥‥と。」
「正直なのはマリンのいいところだが、内容が失礼だな。」
「でも、気にしないでしょ?」
「まあな。普段の俺からすると、言われて当然だしな。」
「確かにそうだな。」
「‥‥‥殿下。言うようになったよな、本当に。」
そうして話している間に城門をくぐり、広場の手前までくると、見渡す限りの人。
「うわ~‥‥人がいっぱいいる‥‥‥私、本当に王子じゃなくて良かった~。」
「「「‥‥‥。」」」
王子、皇子の三人がなんとも言えない顔で見てきた。
特にシリウス。
「マリン‥‥今から俺はあれの前に立つんだが‥‥?」
「そうだね。頑張ってね。」
「他人事だ‥‥。」
「他人事だからね。でも、ここに集まってくれた人達はシリウスの言葉を聞きに来てくれたんだよ?」
「そうだな‥‥。」
「緊張、戻ってきた?」
「まあな‥‥。」
「じゃあ、シリウス。私が新入生代表挨拶する前のリオトに言ったこと覚えてる?」
「ん?ああ。緊張が解けないなら深呼吸しろとか言ってたやつか?」
「うん。場所も規模も違うけど、同じ様にしてみたら?」
「‥‥‥そうだな。そうしてみる。ありがとな。」
「ふふっ。どういたしまして。今日はありがとうばっかりだね。」
「謝罪より感謝の方がいいんだろ?」
「まあね。」
「シリウス。そろそろ行くぞ。」
「‥‥はい。父上。」
そして陛下と、思いっきり深呼吸したシリウスが広場に臨時で作られた特設舞台に上がっていった。
「ふふっ。マリン、ありがとね。」
「ふふっ。いえ。あの人数は私も本気で避けたいですから。王子の宿命とはいえ、ちゃんと立つシリウスはすごいと思います。」
「あら?ちょっとは見直した?」
「ふふっ。ちゃんと全うできたら見直すかなと。母である王妃様に対して失礼ですが。」
「構わないわ。言われて当然だもの、シリウスは。」
「あの母上、マリン姉様。兄上の言葉、聞かないんですか?」
「あ。」
「ふふっ。大丈夫よ。リオト。まだあの人が話してるもの。シリウスはこれからよ。」
「そうみたいですね。」
その言葉通り、陛下が話し終わったところだった。
そして次はシリウス。
あ。また深呼吸してる。
お。話し出すかな?
「‥‥まずは残暑の残る中、これだけの人が集まってくれたことを感謝する。改めて、今日陛下より王太子の任を頂いたセレスティン王国第一王子のシリウス・ユラ・セレスティンだ。」
こうしてシリウスが話し出したところで私はちょっと動いていた。
「王妃様、父様。マイクの声が届いてるか確認してきますね。」
「ええ。お願いね。」「ああ。」
ってちゃんと言ってから動いたよ?
私は【雲隠】で姿を消してから【飛行】で飛んで、人混みの後ろの方に回ってみた。
その人混みは広場を出て、王都の街の中にまで延びていた。
おお~!すごい人だな~。やっぱり王子の言葉だからね。
でもやっぱり‥‥さすがに街中まで来ると聞こえにくいな。
スピーカーないからな‥‥‥。無い物ねだりしてもしょうがないし、私が作っても使い道はそうそうないだろうしね。戻るかな。
そして私はそのまま文字通り飛んで戻り、今国民の頭上からシリウスを見ている。
う~ん。ああやってちゃんとしてると格好よく見えるのは不思議だよね‥‥
ん?‥‥‥平和でもいるんだな。やっぱり。
シリウスに向かって放たれた土槍をシールドで防いだあと、シリウスに近付いて
「(シリウス。)」
「(マリンか?)」
よし。ちゃんとマイクのスイッチ切ってる。
「(うん。捕まえてくるからこのまま頑張って。王太子の腕の見せ所だよ。)」
「(ああ。頼む。こちらは大丈夫だ。)」
「(うん。いってきます。)」
そのまますぐに犯人の背後に音もなく降り立ち、後ろから手刀を食らわせて気絶させた。
そして【水牢獄】に入れてこれにも【雲隠】を掛けて見えない様にした。
単独犯か‥‥‥無謀なことするな‥‥。あ、私がいるの知らないとか?まあ、いいや。
そして私が【水牢獄】と共に父様達の近くに降り立ち、他の人達の死角になるところまで移動してから【雲隠】を解いた。改めて父様達の所に向かうと。
「あ。マリン姉様。」
とリオトが気付いた。
「マリン‥‥もしかして、その水の中にいる人って今シリウスを狙った人?」
「うん。そうだよ、リジア。魔法放つ瞬間に大体の位置は分かってたからシリウスに一言言ってから捕まえてきた。」
『‥‥‥。』
「いや~この人捕まえた時さ、「私本当に暗殺できるじゃん。こわっ!」って思ったよ~。」
「‥‥‥‥そうみたいね。確認だけど、その人気絶してるだけよね?」
「うん。勿論。で、この人どうしたらいいですか?陛下。」
実はシリウスが話し始める前に戻って来ていた陛下。
「ん?その辺の騎士に渡してくれたらいいぞ?」
「はい。分かりました。」
と言って去っていくマリンを見ながら国王がボソッと
「う~ん。精鋭集めて特殊部隊作ってくれないかな?マリン。」
『‥‥‥。』
無理だろう‥‥‥それは。と全員が思っていた。
そして。
「え?あんまり聞いてなかった?」
「うん。マイクがどこまで声を届けられるかって飛んでたからね。あと、シリウスを狙った犯人を捕まえに行ったりしてたし。」
私達は今、シリウスやリオト以外は再び制服に着替えていつもの一室に集まり、話していた。
「ぷっ。ざ、残念だったな。シリウス。」
「確かにね。折角格好よく見えたのにね。」
「レグルス、リジア。傷口を抉ってやるな。」
「‥‥‥三人は聞いてたんだろ?」
「「「勿論。」」」
「ならいい‥‥と思うことにする。」
「ふふっ。私、何気にシリウスを正面から見てる時もあったんだよ?ちゃんとしてると格好よく見える不思議を感じてた。」
『え?』
「いつ?」
「シリウスが狙撃される前。」
「あ、だからあんなにすぐ対応してくれたのか。」
「そういうこと。」
そこに陛下達も入ってきた。
「マリン。あいつまだ目を覚まさないから今日はもういいぞ。さっき聞かせてもらったので十分だ。事情聴取も勿論こちらでやる。」
「あ。陛下。事情聴取といえば、ネクロマンサーの事情聴取はどうしますか?」
「マリンの都合に合わせてくれていいぞ。」
「なら週末にまた来ますね。」
「ちゃんと馬車でくるんだぞ?ゲートで来るなよ?」
「うっ。はい‥‥。」
そして陛下から「帰っていいよ。」と許可が出たのでやっと帰れる。
広場にいた人達がいなくならないと馬車の通り道がないのだ。加えて貴族当主達も馬車で帰っていく。私達はそれらの人達がいなくなるのを待っていたのだ。
ようやく1日が終わった‥‥。