21話 お披露目会
城に到着する迄に無理やり覚悟を決めた私は父様と2人、会場である城の大広間に入った。
そこで目にしたのは立食形式になっていて既に到着していた貴族の人達がそれぞれ談笑しているところだった。
リコリス公爵親子もいた。そして、何よりシャンデリアが眩しい。
しばらくその眩しさに目を慣らしていると、1人の男性が近づいてきた。よく見るとその男性は赤い髪に琥珀の瞳をした父様と同世代ぐらいの人だった。
あれ?もしかしてこの人‥‥。
「ラルク。久しぶりだな。」
「ああ。アポロ殿、お久しぶりです。」
「ラルク、この子が末っ子か?」
「ええ。‥‥ほら。マリン。」
「あ、失礼しました。私はマリン・フォン・クローバーと申します。」
カーテシーをしながら自己紹介すると、
「おっ。アクアと同じ反応だな。気付いたか?」
「えっと、もしかしてディアナ母様のご兄弟でしょうか?」
「ああ。正解。俺はディアナの兄のアポロ。アポロ・フォン・アドニスだ。よろしくな。」
おお!アポロとディアナ。確か太陽の神様と月の女神様の兄妹だったっけ。
こっちの世界でも兄妹かぁ。凄い偶然。‥‥‥偶然?
「はい。ということは私の伯父にあたる方なのですね。」
「そういうことだ。今後は普通に伯父様呼びでいいからな。」
「はい。分かりました。伯父様。ところで、一緒にいらっしゃる方はもしかして‥‥」
「ああ。俺の娘。こっちも末っ子だ。ほら。」
「えっと、初めてまして。私はフリージア・フォン・アドニスと申します。」
「こちらこそ初めまして。私はマリン・フォン・クローバーと申します。従姉妹にあたりますし、私のことはマリンと呼んでくださいね。」
「分かりました。では私もリジアとお呼びください。」
「あの。無理にとは言いませんが、敬語も良ければやめませんか?」
「え?よろしいのですか?」
「はい。良ければ友人になって頂ければ嬉しいです。」
「はい!私で良ければ是非。」
「やった!王都で初めて友達できた。これからよろしくね。リジア。」
「! うん!こちらこそよろしくね。マリン。」
「お。早速友達になったか。やっぱり女の子同士だからか?」
「恐らくそうでしょうな。」
と4人それぞれ話していると、会場に音楽が流れた。
王族の登場みたいだ。シリウス王子も当然いた。
周りの王子を見る目は微妙だ。みんな表現し辛い顔をしてる。
それは数日前私が指摘した違和感を皆が感じているんじゃないかと思う。
そして、陛下が広間を見渡して‥‥
「今日は遠いところから集まってもらって感謝する。ここにいる子供達には将来、この国が発展するように日々努力してもらいたい。それでは乾杯をしよう」
来場者がグラスを持つ。子供達はもちろんジュースだ。
「乾杯!!」
『乾杯!!』
乾杯が終わると親子揃って王族に挨拶をしに行くそうだ。今は公爵家が話している。
「マリン。そろそろ俺達も行くぞ。」
「え‥‥。」
「マリン、どうしたんだ?」
「伯父様‥‥私は王子に近付きたくないんです。」
「ああ。そういうことか。」
「あれ?納得するのですか?」
「ああ。結構あの王子を嫌がるやつはいるからな。」
だろうね。王子としてそれはどうなんだ‥‥。
駄目だろう‥‥大丈夫かな?この国。
「ほら。行くぞ。挨拶したらすぐ離れればいいだろ?」
「‥‥はい。分かりました‥‥頑張ります‥‥。」
と覚悟を決め、並ぶ。そして私達の番になった。
私達が何か言う前に何を思ったのかシリウス王子は私に近付き、いきなり抱きしめてきた。
は!?何してんの、この王子。遂に狂ったか!?
それよりまずい。このままだと気を失いそうだ。
「シリウス殿下。何の冗談ですか?離れてください。」
「‥‥‥。」
無視かい!‥‥まずいんだってば!
「離れてください!‥‥はな‥‥して‥‥‥。」
ここで私の意識は途切れた。
◇◇◇◇◇
マリンが気を失い力が抜けているのを感じ、シリウスがそっと離す。すると、マリンを横から取り返した父親であるラルクがマリンに呼び掛ける。
「マリン!?おい、マリン!」
「すまん!まさかシリウスがこんな行動に出るとは!マリンは!?」
「‥‥恐らく気を失っただけだと‥‥殿下。どういうつもりですか?」
「‥‥‥。」
シリウスは放心状態で何も言わない。
「陛下。マリンがこのようなことになってしまったので、このままお暇させて頂きます。」
「あ、ああ。分かった。ラルク、すまん。マリンにも目が覚めたら申し訳なかったと伝えてくれ。」
「はい。皆さんお騒がせしてしまい、申し訳ない。この後も気にせず楽しんでください。‥‥では陛下。失礼します。」
ラルクはマリンを横抱きにして会場を去った。
そのまま屋敷に戻ると気を失っているマリンを見て大騒ぎになった。
医師を呼び、到着するまでにラルクが家族に経緯を話した。
そして医師が到着し、診察したが異常はないと、恐らく精神的なものなのでその内目覚めるだろうと。
それを聞いてやっと家族は安堵した。
家族から見たマリンは閃き力が凄く、頭もいい。努力を惜しまない家族思いの優しい子。
そんな子をこんな目に合わせたやつ!と、この日家族全員に「王族を‥‥特にマリンをこんな目に合わせたシリウス王子をマリンに近付けさせてはならない。」という共通認識が生まれた。
◇◇◇◇◇
それから3日後。
目が覚めた私はぼーっと記憶を辿っていた。
あれ?朝?私‥‥ああ。殿下に抱きしめられて気を失ったのか‥‥。
とりあえず起きないと‥‥多分みんな心配してるだろうし。
そして私がベッドから出たところで、ノックの音。
返事をすると、勢いよく扉が開きシャーリーが近づいてきて
「マリン様!大丈夫ですか!?」
「うん。大丈夫だからちょっと落ち着こうか、シャーリー。」
「は!申し訳ありません。」
「いいよ。心配してくれてたんでしょ?それで私、どれくらい寝てたの?」
「3日です。」
「3日!?」
「はい。」
うわ~マジか~。
「シャーリーが来てくれたってことは朝ご飯?」
「はい。」
「じゃあ着替えて食べに行きますか。3日も寝てたなら心配掛けちゃっただろうし。」
「はい。今ならまだクリス様とアクア様もいらっしゃるはずですので、元気な姿を見せて差し上げて下さい。お2人共学園に行きながらもずっと心配してらしたので。」
「うん。そうする。」
で着替えて食堂に行くと。
「「「「マリン!?」」」」
おっと。何かデジャブったよ。
人数が違うけど、転生して前世の記憶が戻った時以来かな。
「おはようございます。父様、母様、姉様、兄様。ご心配をお掛けしました。」
ぺこりと頭を下げる。
そしてすぐ頭を上げると
「もう起きて大丈夫なのか?」
「はい。父様。シャーリーが教えてくれたのですが、私3日も寝てたそうですね。それだけ寝てたのでむしろ以前より体が軽いぐらいです。」
「そうか‥‥。」
4人共安心できたみたいだな。良かった。
「ああ。そうだマリン、陛下から伝言だ。申し訳なかったと伝えてくれと言われた。」
「そうですか。陛下は嘘つきですね。シリウス王子を止めてくれるって仰ってたのに。」
「「全くだ。」」「「全くだわ。」」
あれ?兄様と姉様だけじゃなく父様と母様も?
「マリン。あの日私達は共通認識を持ったわ。「シリウス王子を絶対にマリンに近付けさせない」ってね!」
「え?私としては有難いですが、本気ですか?姉様。」
「勿論よ。もし、王子達が学園に来ても私とアクアとリリとマリアで圧力を掛けて近付けさせないわ。」
「同じクラスになったらどうするんですか?」
「その時はマリンが近づいた瞬間、麻痺させてやればいいのよ!」
「ああ。それぐらいならやって構わん。」
「父様!?いいんですか!?」
「ああ。それが3日前の行動の報いだ。むしろあの場でやってくれても良かったぐらいだ。」
すげぇ。何か2人が凄い怒ってる‥‥
被害者の私が引く程に。これは同じクラスにならないことを今までより切に願うばかりだな。
「あ。ちなみにね、公爵の子‥‥リゲルだっけ?あいつもついでに近付けないようにするからね。」
「はい。‥‥ありがとうございます。」
なんだろう‥‥この決定事項のような言い方‥‥学園は姉様が牛耳ってるのか?
まあ姉様達がいるから大丈夫か。
学園に行く心配が減ったな。良かった。
※2021,9,4 改稿しました。