2話 転生、そしてこれまでの私
「ぅ‥‥ん?」
目を覚ますとまず見えたのは見たことがない天井。
えっと‥‥もう転生後‥なのかな?
とりあえず上半身を起こし周囲を見てみるとまだ夜だった。周りに誰もいなくてベッドの上の私だけ。
ふと自分の体を見下ろすとその動きに合わせて腰まである長い髪が視界に落ちる。問題はその色だった。月明かりで見えたその色は綺麗な真っ青。空か海を思わせる青。そこで間違いなく転生後だと自覚できた。
いや日本で青とか浮くし。前世でもいくら好きな色でも青に髪を染めようなんて考えたこともないし。
それに見下ろした今の私の体はどうみても3歳児ぐらい。
さて、とりあえず今の自分の姿を見てみたいけど‥‥鏡あるよね‥‥?
とベッドから降りて近くにあった机の引き出しを探ってみると。
「あっ!てかがみだ。あったあった。」
早速自分の顔を見てみる。そこには3歳児らしい可愛い顔をした子が映っていた。その瞳の色は月明かりなので微妙だが、多分琥珀色をしていた。
「ふぁ~ふしぎなかんじ。これがいまのわたしなのか‥‥」
前世の私は黒髪だけど瞳は茶色だった。特に外国人の血は入ってないはずなのに茶色だったので今度は明るめの色だな~ぐらいの感想だが、やっぱり青髪で琥珀の瞳は不思議な組み合わせだと思う。
自分の姿を確認できたのはいいけど、そもそも今何時だろ?時計‥‥ないじゃん‥‥。まずこの世界に時計って存在するのかな?まああっても普通3歳児に時間は読めないから必要ないか‥‥。
う~ん。まあ普通に考えたらまだ夜なんだし寝るべきだよね‥‥。どちらにしろ今の自分のことは誰かに聞かないと分からないしな‥‥。
‥‥なんか眠たくなってきたし寝よ。また明日考えればいいや‥‥。
「ぅ‥‥ん‥‥。」
翌朝、目が覚めると人の気配を感じてそっちに目を向けると驚いているメイドさんと目が合った。
メイドさんだよね?メイド服着てるし‥‥。
でもこの子まだ10歳ぐらいじゃないかな‥‥?
とか考えつつメイドさんを寝起きのぼーっとした目で見ていると、
「マリン様!?分かりますか!?私のこと!‥‥いえ!ご自身のことも含めて覚えてらっしゃいますか!?」
とものすごい勢いで聞いてきた。
近い!近い!ベッドにまで乗り上げなくても話せるでしょ!
「えっと‥‥その‥‥まずちかいです‥‥。それとごめんなさい。わからないです。わたしのこともあなたのことも。」
事実、全く分からないので正直に答えることにした。
するとメイドさんはハッとしたように元の位置に戻って姿勢を正し頭を下げた後、
「失礼しました。取り乱してしまい申し訳ありません。」
「きにしないでください。ちょっとおどろいただけなので。それで、あのさっきわたしにむかって「マリンさま」っておっしゃってましたよね?「マリン」がわたしのなまえですか?」
「はい。正確に申し上げますと、「マリン・フォン・クローバー」がマリン様のお名前でございます。」
「やっぱりそうなんですね。あ、すみません、あなたのおなまえをうかがってもいいですか?」
「私としたことが!重ね重ね失礼しました。私はシャーリー・フレグラントと申します。ぜひシャーリーと呼び捨てでお呼びください。それと、マリン様。私に対し敬語は必要ありません。話しやすい様にお話しください。」
大分落ち着いてきたのか少し微笑んでいた。
えっと‥‥今の私の方が年下のはずなんだけどタメ口でいいよってこと‥‥だよね?
ってか3歳児、喋りにくい!
「えと、じゃあ‥‥まずじぶんのなまえはわかったからいままでのこととか、わたしのかぞくとかおしえてくれる?‥‥はなしかたこれでいいの?」
「はい!話し方もそのままでお願いします。」
それからシャーリーは色々教えてくれた。この国のことから始まり、私が記憶を失うきっかけも教えてくれた。
多分だけど、前世の記憶を思い出して今の記憶がスパッと思い出せなくなっただけだよね‥‥?
シャーリーがまず教えてくれたのは何故記憶を失うことになったか。(前世を思い出すことになったか。)つまり昨日までの私に何が起きたのか。
ある日熱っぽいことに気付き、休めというのを聞かずに一番上の兄を出迎えにいった。案の定、その日の内にフラりと倒れたかと思ったらそのまま高熱を出し一週間も起きない日が続いたそうだ。熱は数日で下がったが一向に目が覚めないので心配していたところだった。
そして(シャーリーにとっては)今朝気付くと目が合ったので驚いてしまったとのこと。
だから最初に目が合った時、驚いてものすごい勢いで確認してきたのか‥‥。
実は前日の夜に一度目が覚めていて周囲を見て机の引き出しとかを見てみると手鏡とかしかなく、また眠たくなってきたので再び寝ることにしたと伝えるとまた驚いていた。
そして、その後はこの国のことや家族のことを教えてくれた。
まず、今私がいる国は「セレスティン王国」といい、私の父親はこの国の4家ある辺境伯家。その当主の1人だそうだ。
父親の名前はラルク・フォン・クローバー・ウェスティア。
東西南北にそれぞれ辺境伯がいて、方角に合わせた名前になっている。うちの場合は西のウェストからきてるとのこと。
奥さんが2人いて私は第2夫人の娘で末っ子。そして他の家族の名前とかも教えてくれた。
第1夫人の名前がセレスで子供は3人。上から長男ヒスイ(12歳)、次男フレイ(10歳)、長女クリス(7歳)
第2夫人の名前がディアナで子供は2人。3男アクア(5歳)、次女マリン(私3歳)合計3男2女・2人の母と父が私の家族だそうだ。
と、そこまで話しを聞いているとタイミングよく?部屋をノックする音がした。シャーリーが返事をするとどうやらノックしたのは私の母親らしい。
「どうする?」といった感じの顔をシャーリーが私に向けてきた。
が、私はこれまで家族とどんな風に接していたのか分からないので戸惑った。
するとシャーリーがこそっと、
「ありのまま記憶がないと言ってしまった方がいいと思います。奥様はショックを受けるでしょうが、熱にうなされる前と後でマリン様の雰囲気は変わってしまってるので後々納得しやすいと思いますので。」
え?前の私どんな感じだったんだろ‥‥?
気になるけどいつまでも扉の外に待たせる訳にもいかないのでシャーリーに入ってもらうように言うと、扉を開けて部屋に入れてくれた。
入ってきた人は私と同じ青い髪に琥珀色の瞳のまだ20代前半ぐらいの凄い美人だった。
「!!」
やっぱり驚き、すぐにまだベッドの上に座っていた私に近付いて‥‥
「マリン!目が覚めたのね!私が分かる?」
またか!顔が近い!近い!
「奥様!気持ちは分かりますが、落ち着いて下さいませ!」
「え?あっ、そうよね。マリン、ごめんね。驚かせたよね。」
「いっいえ。たしかにすこしおどろきましたがだいじょうぶです。」
「えっ?」
あれ?戸惑ってる?まさかまた私が前と違う反応したから?
「奥様‥‥マリン様はどうやら熱にうなされる前の記憶が無いようなのです‥‥。」
「‥‥‥。」
あ、固まっちゃった。そりゃ3歳の娘が記憶喪失ってショックだよね‥‥何か凄い申し訳なくなるな。
「‥‥ねぇマリン、本当にそうなの?私のこと分からないの?」
「はい。ごめんなさい‥‥さっきシャーリーがかぞくのなまえをおしえてくれましたし、かみやめのいろがおなじなので、わたしのおかあさまのディアナかあさまかなとは‥‥。」
「そうよ!私が貴方の母親のディアナよ。‥‥でも今迄のことは覚えてないのね?」
「はい。ごめんなさい‥‥。」
「謝らなくていいのよ。こうして目覚めて話せるんだから。この一週間生きた心地がしなかったから本当に良かったわ。どこか痛いところとかない?違和感とかある?」
「はい。それはだいじょうぶです。どこもいたくないですし、からだにいわかんとかもないです。ちなみにわたしは、かあさまのことをどのようによんでましたか?」
「良かった~。前はディアナ母様と呼んでくれてたからまたそうして。そうだ!これから朝食を食べに食堂に行こうと思ってたんだけど、マリンも動けるなら一緒に行く?朝食の席なら家族全員揃ってるはずだから。」
「はい!ぜひ!」
「じゃあ着替えたら一緒に行きましょ。みんなマリンのこと心配してたから顔を見せてあげないとね。」
「はい!」
それからシャーリーが着替えを手伝ってくれたのだが、着替えた服は可愛い感じのワンピース。見た目3歳児なので部屋の隅にあった姿見でみると可愛いのだが、前世の記憶を思い出した今、心境はものすごく複雑だ。はっきりいうと、前世の私の趣味じゃない。だが、この服装がこの世界の当たり前ならこういうのにも慣れないといけないんだろな‥‥。
っていうかあったのか姿見。昨日気付かなかった‥‥。
とか心の中でため息をつきつつ着替え終わった私は気を取り直して母様と一緒に食堂へと向かった。
※2021,9,2 改稿しました。