220話 聖女様
一気に書いてしまいたかったので通常より少し長いです。
この世界では聖女といっても称号を得た素質のある者がその役目を負う。
なので貴族令嬢の時もあれば、平民の時もある。
そして先代の聖女が亡くなる前に素質がある者が現れればいいが、そうでない場合は聖女がいない期間が存在してしまう。それは避けるべき事。
聖女は神様の声を届ける者。教国にとって、なにより尊重される存在。
なのに今代の聖女は王国に来てしまったと。
今代の聖女は貴族令嬢で、私と同い年。
教国の学園に普通に通ってる。令嬢として。
これが、私が知る知識と領地の屋敷で教えてもらった父様情報だ。
あれ?教国の学園にも夏休みあるんじゃないか?
‥‥聖女様も夏休みじゃ‥‥?
*****
そして、城に着いた私達はいつも通りの一室に通された。
中には申し訳なさそうな顔の国王夫妻と宰相様、公爵様がいた。
あと、明るい黄色の髪とオレンジ色の目をした女の子。
あの子が聖女様かな?
「陛下。お待たせ致しました。」
「いや。毎年すまないな。」
「いえ。」
「で、マリン。手紙は読んだか?」
「はい。もしかして、こちらにいらっしゃるのが聖女様ですか?」
「ああ。」
「お初にお目に掛けます。私は西の辺境伯家次女のマリン・フォン・クローバーと申します。」
と女の子に向けてカーテシーをして自己紹介すると。
「あなたが天使様なのですね!ようやく会えましたわ!」
と言って立ち上がり、私の手をとって両手で握ってきた。
え‥‥‥様?
「えっと‥‥聖女様、私に会いたがっていたと陛下や父から伺ってますが、何故でしょうか?」
「聖女様なんて‥‥リアラと呼び捨てでお呼びください。」
リアラっていうんだ、名前。
「とりあえず、座りませんか?」
「あ。そうですね。」
と言ってやっと座れたが、私以外も全員初対面じゃないのかな?私しか自己紹介してないよ?
聖女様、聞く気なさそうだな‥‥。
「天使様。まずは誘拐された我が国の民を救って頂き、感謝致します。」
と言ってペコッと一瞬、頭を下げた。
「いえ。私は自分に出来ることをしただけですよ。聖女様。」
「む。また聖女様と‥‥。」
「それはそうです。私は一貴族令嬢に過ぎませんから。聖女様は私よりも立場が上なので仕方ありません。」
《本当は御使いのあなたの方が立場は上なのよ?》
聞いてたんですか‥‥声からして生命神様かな。
「うっ‥‥‥天使と呼ばれているあなたなら私の気持ちが分かるかと思いましたのに‥‥。」
え~~?
「予想はできても理解はできません。申し訳ありません。」
「どういうことですか?」
「聖女様は神々に称号を得て聖女の任についてるかと思いますが、それが時に重荷に感じることがあるでしょうし、逃げたくもなる事もあると思います。私なら間違いなく逃げたいです。
それに比べて私は称号に天使があるわけでもありません。天使呼びも私の意思に関わらず広がってしまったので恥ずかしいがまず来るんですよ。そして強制される立場でもありません。なので聖女様の事を理解できるとは思いませんし、理解するなどおこがましいのですよ。」
《あら、なら天使の称号あげましょうか?》
《やめてください!》
《ふふっ。》
「‥‥‥‥確かに重荷に感じることはあります。でも逃げるつもりはありません。ただ、私には相談できる相手がいませんでした‥‥天使様。私の友人になって頂けませんか?」
おっと‥‥‥どうしよう‥‥色々言いたいこと我慢してるんだけど‥‥友人ねぇ‥‥。
う~んなんか聖女様見てるとデジャブを感じるんだよね‥‥‥
と考えてる間、私が無言になっていたのが気になったのか。
「やはり駄目でしょうか?私が聖女だからですか?皆さんそう仰るので私は友人がいないのです‥‥。」
えっと‥‥それ以前の問題なんだよ‥‥。
「確かに畏れ多いことですが、聖女様という立場は関係ありません。現に私の友人には王国の王子や帝国の皇太子もいますから。」
「え!?で、では何故でしょうか?」
「えっと‥‥」
「ハッキリ言って頂いて構いません。何を言われても咎めませんので!どうぞ。」
「えっと‥‥いいのでしょうか?陛下。」
「いいんじゃないか?本人がそう言うなら。」
「‥‥‥分かりました。では何を言っても構わないなら、先程から我慢していたことから申し上げてよろしいでしょうか?」
「え?我慢?ど、どうぞ。」
「まず、私は聖女様の名前を存じ上げません。名乗らずに名前で呼んでくれというのは無理です。そこからまず、聖女様以前に人としてどうなんですか?」
「「うっ。」」
外野のシリウスとリゲルです。
あ、デジャブは二人か。
「あ。申し訳ありません。」
「それから、私や陛下達以外は初対面ではないのですか?自己紹介させて頂いてませんが、私と一緒に入って来た中には王国の王子や皇太子殿下もいらっしゃるんですよ?失礼ではありませんか?」
「あ‥‥‥私、天使様に夢中で‥‥」
「その天使もです。私の名前、申し上げましたよね?私、天使と呼ばれるのは恥ずかしいと申し上げましたよね?」
「あ‥‥」
「それから、聖女様。あなたはご自身の立場を本当に理解していらっしゃいますか?あなたは聖女。教国にとってなくてはならない存在。本来は自由に国を出ていい方ではありませんよね?」
「はい‥‥。」
「陛下は私が学生だから聖女様に会いに行くことはできないと手紙に記してらっしゃいましたよね?ということは卒業したら自由に移動できるので会いに行けた筈なんです。」
「あ。」
「私は冒険者でもあるのでどちらにしても卒業した後、教国にも行ってみるつもりだったんです。何故卒業後まで待って頂けなかったのですか?」
「その通りでした‥‥一時は天使様‥‥マリン様が同い年と知って王国の学園に転校してしまおうかと思ったこともありましたが‥‥しなくて正解だった様ですね。」
「はい。国の重要な立場の方が敵国がない世の中とはいえ、そうそう他国に転校するとか考えるべきではありません。」
「うっ。」
今度はレグルス。
「そうですね‥‥。」
「お分かり頂けましたか?」
「はい。マリン様、やり直しさせて頂けませんか?」
「はい。どうぞ。」
そして聖女様は立ち上がってカーテシーをして、
「ありがとうございます。では改めて。皆様、私は教国の聖女を務めております、リアラ・ヘラ・ディレットと申します。」
「聖女様、息子達も自己紹介させていいでしょうか?」
「はい。陛下。皆様、先程は失礼致しました。」
そして私と一緒に来た家族とシリウス達が全員自己紹介を終えたところで。
「ま、マリン様‥‥‥こんなにすごい方々を置き去りにマリン様と話してただなんて‥‥失礼過ぎました。言って頂いてありがとうございます。」
「いえ。失敗は誰にでもあります。公の場でなくて良かったですね。」
「はい。皆様、お優しい方々で良かったです。」
「ふふっ。そうですね。王子と皇太子を無視するなんて本来は本人もしくは周りの人達から怒られるところですが、聖女様ですから怒り辛いですしね。」
「は!わ、私は伯爵令嬢でもあるので殿下方は怒って頂いても良かったのですが‥‥。」
「例え伯爵令嬢でも聖女である以上はそちらが優先されるんです。よく覚えていてくださいね。」
「はい‥‥(マリン様の友人になるには精進しなければ。)」
「え?」
「マリン様。私は一令嬢としても聖女としても色々足りておりませんでした。ですので、マリン様がいつか教国に来て頂けるその時迄に精進しておきます。そしてその時によければ友人になって頂ければ嬉しく思います。」
えっと‥‥‥言いたいこと言ったし、生命神様の言った通り普段はちゃんとしてるみたいだし、別に今でもいいけど‥‥‥‥‥
って駄目だ!御使いだとまだバレたくない!
「‥‥‥はい。卒業後になりますが、その時に判断させて頂きますね。」
「ありがとうございます。私も学生の身ですので早々に帰りますね。陛下、皆様。お騒がせ致しました。失礼します。」
と言ってさっさと出ていってしまった。
やっぱり夏休みだったのかな?数日欠席になるんじゃないだろうか‥‥‥。
「‥‥‥不思議な方でしたね。」
『‥‥‥。』
全員が無言で頷いていた。
「マリン。助かった‥‥みんなも、すまなかったな。」
「いえ。それよりもシリウス、リゲル、レグルス。私はさっきの話、三人に言ったんじゃないんだよ?」
「なら何でそんなに楽しそうに言うんだ?」
「ふふっ。そりゃあ色々思い出して反応した三人が面白かったからだけど?」
「「「くっ。」」」
「まあ、聖女様の方がシリウス達よりちゃんとしてたし、レグルスより自分の立場を弁えてたけどね。」
「「「‥‥‥。」」」
「ふふっ。」
「さて、みんな。王都に着いたばかりで疲れてるだろ?もう帰っていいぞ。」
「はい。あ、そういえば聖女様は護衛いますよね?」
「ああ。ちゃんと教国を出る時に護衛がついてきたよ。」
「なら大丈夫ですね。では、失礼しますね。陛下。」
「ああ。」
そしてやっと私達は帰路についた。
《マリン。あの子を追い返してくれてありがとね。》
《いいえ。でも確かにちゃんとしてるところはありましたね。自分の失敗をちゃんと理解してましたし。》
《ええ。いい子なのよ?本当は。》
《ふふっ。でしょうね。じゃないと聖女になれないでしょうから。》
《あら、それはあなたもよ?御使いのマリンさん?》
《‥‥‥そうですか?》
《ええ。》
こうして生命神様と念話をしながら。
いつか聖女様を出してあげたいと思ってたので、ここで一旦出て頂きました。