214話 帝国に遺された面影
帝国にいる間、親善パーティー以外の予定は基本的にない。毎年一週間ぐらい掛けて来るのでむしろ休めなのだが、私達が大人しくしてる筈がないので行動してるだけだ。
浴衣を試着した翌日。
再び女性陣だけで帝都に出て反物屋に向かった。
そして店内の場所を借りて私だけ浴衣に着替えて完成を店員(もとい店長)に約束通り見せた。
その後、全員で次に作る人達の為の反物を選んでいたが、私は今日こそはと聞いてみた。
「もしかしなくても店員さんじゃなくて店長さんですよね?」
「ふっ。さすがに分かりますよね。」
「勿論ですとも。では、改めて店長さん。柄がない真っ白と真っ黒の反物ってあったりしますか?」
「真っ白と真っ黒‥‥‥?えっと‥‥‥‥」
あ、無いかな?やっぱり。
真っ白と真っ黒って極端だからな‥‥
「少々お待ちください。」
と言って店の裏の方に行ってしまった。
「ねぇ、マリン。真っ白と真っ黒って何作るの?」
「袴っていうやつです。」
『はかま?』
「はい。浴衣と違って上下別々に作ります。」
「それもマリンが着たいから?」
「はい。袴は弓を射る時の制服の様な物です。王国に無かったみたいなので作ってしまおうかと。」
「はかまって何ですか?」
「あ、おかえりなさい。店長さん。」
「あ。すみません。お待たせしました。ありましたよ。」
「あったんですか!?」
「ええ。それで、はかまって何ですか?」
「えっと、弓を射る時の制服の様な物ですよ。上下別々に作ります。」
「あ、だから2色なんですか?」
「そうですよ。それで、幾らですか?」
「えっと、こちらの反物達も含めてですよね?」
「はい。」
「では全部で金貨2枚です。」
「はい。」
金貨2枚。日本円で20万。
13歳でこんな金額をさっと払えるって‥‥‥
って去年も同じこと考えたな。
とか考えつつ支払いを終えて、店を出ようとしてはたと気付いた。
私、着替えてねぇ‥‥‥浴衣のままだった‥‥
「折角なのでそのまま歩かれては?」
と店長がとんでもないことを宣った。すると、当然。
「いいじゃない!マリン。そのまま歩いたら?」
やっぱり姉様が乗っかった。
「‥‥‥‥下駄、歩き続けたら足を痛めるんですよ?」
苦し紛れに言ってみたが。
「それならそれで自分で治療できるじゃない。」
ですよね‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥分かりました。」
結局着て帰ることになった。そしてそのまま店の外に出ると。
思いっきり注目を集めた。何故か。誰も同じ格好の人がいないから。
この中を帰るのか‥‥と思っていると。
「あれ?マリンか?」
『え?』
と、全員で振り返ると去年冒険者ギルドで会った人達がいた。
「あ、お久しぶりです。」
「あ、やっぱりマリンか。本当に今年も来てくれたんだな。って女性ばっかりだな。」
「ふふっ。全員私の家族と親戚ですよ。」
「え?じゃあ‥‥‥」
「はい。レウス伯父様の家族がいますよ。」
「マリン?あの、誰?」
「去年冒険者ギルドで会った冒険者の人達ですよ。去年、レウス伯父様が慕われていたと話したの、覚えてますか?」
「ええ。」
「この人達のことですよ。」
『え!?』
「マリン。」
「すみません。お待たせしました。こちらがレウス伯父様の妹であり私の母で、こちらが伯父様の兄の娘であり私のいとこです。」
と母様とリジアをそれぞれ示しながら紹介した。
「そうか‥‥去年マリンには伝えましたが、レウスさんにはお世話になりました。」
と母様に頭を下げて言った。下げたのは一瞬だったが。
「そうですか‥‥。皆さんにとって兄さんはどういう存在だったのですか?」
「簡単に言いますと、尊敬する面倒見のいい兄貴‥‥ですかね。」
「ふふっ。そうですか。」
ふふっ。おじさんらしいな。
「妹さんから見たらどうだったんですか?」
「優しい兄でしたよ。私が落ち込んでたら一番に気付いて宥めてくれてましたね。」
変わってないな。おじさん。
「そうでしたか。」
それから少しの間、母様達はレウス伯父様の話をしていた。
「ふふっ。今年、マリンに誘われて初めて帝国に来ましたが、来て正解でした。」
「我々も嬉しいですよ。ありがとな。マリン。」
「ふふっ。いいえ。」
「ところでマリン。その格好なんだ?」
「浴衣っていうんですよ。」
『ゆかた?』
「私が作ったので売り物ではないですけどね。」
「自分で作ったのか!?‥‥‥器用だな。」
「そうですか?」
「ああ。っと。引き止めて悪かったな。またな、マリン。」
「はい。また。」
そして冒険者は去っていき、私達も帰路に戻った。
「ふふっ。さっきも言ったけど、帝国に来て正解だったわ。兄さんの軌跡を聞けたみたいで嬉しい。あの人達の中でも兄さんは生きてるって思えた。誘ってくれてありがとね。マリン。」
「ふふっ。どういたしまして。」
「マリン。」
「ん?」
「私達の伯父様ってすごい人だったんだね。」
「そうだね。」
そして私達は話ながら城に戻った。
陛下にも浴衣姿を見せることになったが‥‥‥。