194話 卒業パーティー3
私が会場内から死角になるようにベランダの壁に寄り掛かって休憩していると。
「休憩か?」
と声を掛けてきた人物は。
「陛下?どうされたんですか?」
「先程まで卒業生の両親達と話してたんだが、ようやく解放されてな。一息つこうと思ったらマリンが外に出るのが見えてな。休憩がてら来てみたんだ。」
「そうでしたか。私も休憩です。精神的に疲れましたので。」
「だろうな。シリウスとリゲルに皇太子の相手をした後だからな。三人の相手をしてくれたこと、私としても助かった。」
「あの三人の最初の相手は注目されますからね。」
「ああ。」
王子と皇太子、そして王家の血を引く者。
重要な立ち位置の三人が最初に踊る相手=親しくしている相手。すなわち婚約者候補と捉える人も少なくないからだ。
「その点、マリンは三人の共通の友人だからな。変な勘繰りもない。しかも三人共相手をしたことでマリンが誰を選ぶのかは定かではないからな。マリンに迷惑が掛かることもない。」
「三人にも言われました。相手をしてくれて助かったと。」
「だろうな。」
「それで、陛下。この話をする為に私のところに?」
「いや。ちょっとマリンに聞いてみたいことがあってな。」
「歴史の話はしませんよ?」
「シリウスに伝言を聞いたから歴史のことは聞きたいが、今は諦めてるよ。聞いてみたいことは別のことだ。」
「何でしょうか?」
「マリンは何故シリウスが王太子ではないのか不思議ではないか?」
「そうですね。レグルスは初めて会った時はもう皇太子でしたからね。でも一令嬢に過ぎない私が聞くべきことではないなと思って聞きませんでしたが、教えて下さるんですか?」
「ああ。シリウスが王太子ではない理由はな。王太子にするかどうかは国王である私の一存で決まるからだ。」
「年齢関係なくですか?」
「ああ。何歳にならないと、というのはない。私が将来、王位を譲っても大丈夫だと思えたなら王太子に任命できる。」
「そうですか。」
ん?‥‥‥‥折角だから聞いててもらうか。
「それでな、マリンに聞いてみたいことはシリウスを王太子に任命していいと思うか?ということだ。」
「私は王族じゃありませんよ?」
「ああ。だから友人として側にいるマリンの意見を聞きたいだけだ。」
「なら、尚更私に聞くべきことではないですよ。」
「何故だ?」
「私と陛下で見ているものが違うからです。」
「どういうことだ?」
「陛下は‥‥国王は広く国民全体を見なければならないですし、自国の発展の為に他の国々にも色々目を向けていないといけない。広い視野が必要です。ですが、私は貴族令嬢とはいえ国民です。精々自分のことや周りの人達のことしか見てません。そんな私にシリウスが次期国王としてどうかと聞かれても正直分かりません。」
「そうか‥‥‥なるほど。ではマリンの個人的意見としては?」
「そうですね‥‥‥シリウスは昔はともかく、今は雰囲気が優しくなりましたね。帝国では市民の味を食べてみたいと言ったレグルスと共に市民の味での食事をしたり、私の買い物に付き合ってくれたりもしました。あ、うちの領地の街も一緒に歩きましたね。だから国民が見ているものを学ぼうとしているんじゃないかなと思います。そういう意味で申し上げるなら国民に寄り添った国政も出来るんじゃないかなとは思います。若干自分の価値を忘れている節もありますが。」
「なるほど。貴重な意見だ。で、自分の価値を忘れているとは?」
「ふふっ。これはシリウス、リゲル、レグルス、ベネトさんの全員に共通していることですが、あの人達自分が王族や皇族だという意識が低いと思います。先程話した帝国でのことでも、普通はそれだけの地位にいる人達ですから馬車に乗って移動しようとする筈なのに、誰一人提案すらしなかったんですよ。」
「ははは!そうか!なら歩いて観光したのか?」
「はい。私が一緒なら大丈夫でしょ?って帝国の方達も誰一人止めなかったんです。」
「ああ。確かにマリンが一緒なら何が起きても大丈夫だろ?」
「帝国の人達にも言われましたが、何でしょうね?この不思議な信頼感。私、一応女の子ですよ?女の子が男の子守るっておかしくないですか?普通逆じゃないですか?」
「ははは!確かにそうだが、マリンに敵うやつは実際おらんだろ?」
「そうですけど‥‥‥実際複雑な気分です。私、女の子としてこれでいいのか?と。その辺り、どう思います?お行儀悪く、立ち聞きしてる皆さん?」
「え?」
「ふふっ。やっぱり気付いてたのね。マリンちゃん。」
「勿論ですよ。リリ姉様。」
「お前達、いつから?」
「陛下がシリウスを王太子にしていいと思うか?と言っていた辺りからです。で、私の意見ちゃんと聞いた?シリウス。」
「ああ。その後も全部聞いた。」
「そっか。折角だから聞いてもらおうと思って全員が立ち聞きしてるのに気付いたけど言わなかったからね。レグルスもちゃんと聞いた?」
「ああ。聞いた。シリウスにいうことは私にもいえることだからな。」
「うん。次期国王と次期皇帝。私の、一令嬢に過ぎない私の意見もちゃんと覚えててね。二人共。」
「「ああ。」」
「父様。すみません。立ち聞きなんてしてしまって。」
「いや。改めて話す手間が省けた。リリアーナ、私は相談相手として最良の者を選んだと思うか?」
「ええ。王族以外の人で真っ直ぐ意見を言ってくれるのは私もマリンちゃんしか浮かびません。お義父様でも遠慮して言葉を選びそうですから。」
「そうだな。ラルクは言葉を呑み込みそうだ。」
「そういえば、皆さん全員出て来て大丈夫なんですか?主役じゃないとはいえ、まだパーティー終わってませんよね?」
『あ!』
と言って皆が会場に戻っていく中で。
「マリン。」
「はい?」
「ありがとな。先程話してくれた意見。参考にさせてもらう。」
「!‥‥はい。陛下。」
そして私達も会場に戻っていった。