180話 修行の終わり
雪奈姉の剣術指導。
開始の一撃は何とか防いだけど、あれは多分‥‥いや、確実に本気じゃなかった。現に「鍛えるためなんだから殺そうとなんてしない」と言っていた。
でも今、私は見事に吹っ飛ばされてる。
転生して初めてだ。
そして雪奈姉。相変わらず強い。
前世では剣道道場の師範の娘だったこともあり、師範である雪夜おじさんと共に日々鍛えていたので当時から強かった。
そこにたまに母に連れられて私が道場を訪れると、雪奈姉に捕まってよく対戦相手をさせられていた。
一度も勝てない私に追い討ちを掛ける様にその後の鍛練に連れ出されていた。
それでも私が雪奈姉に懐いていたのはやっぱりこの剣道を教わっていて良かったと思うことが多々あったからだろう。
あの当時の鍛練で精神的にも雪奈姉に鍛えてもらった気がするな。
「鈴、考え事しながらなんて余裕こいてていいの?」
「いたっ!‥‥‥‥雪奈姉と対戦してたら昔を思い出してただけだよ!」
「そっか。昔は全く剣道に興味がなかった柚蘭の変わりによく相手してもらったからね!」
「体格的にも性別でも私しか相手がいないからってね。本当、容赦なかったよね。昔から。」
「だって嬉しかったんだよ。まともにやりあえる年の近い女の子って鈴しかいなかったしさ。」
「確かにそんなこと言ってたね。」
「今も嬉しいよ。武神様の加護に甘えずちゃんと鍛練してるみたいだしね。」
「そりゃそうだ‥‥は!そっか‥‥‥雪奈姉の刷り込みで‥‥?3歳から剣握ろうとか普通考えないよね‥‥‥?刷り込み恐っ!」
「人のせいにするな!いいことじゃん。マリンになった今の鈴は可愛いから護身術の一つとして使えるし。」
「そうだけどさ~って雪奈姉。ちょいちょい可愛いって言うけど、この世界の人達マジで顔面偏差値半端ないから!私なんて霞むから!」
「そうかな~?」
「私の部屋にこれるなら移動したい放題でしょ?世界を見て回ってみれば?」
「そうだね‥‥‥いつか回ってみようかな。」
「うん‥‥‥‥ところで雪奈姉。まだやるの?」
「う~ん、そうだね‥‥‥今日はこれで止めるか。私の家行こ。」
そう言って歩き出した雪奈姉についていきながら。
「うん‥‥‥‥って「今日は」?明日もやるの!?」
「勿論。鈴にはもう少し剣術も強くなってもらうよ。倒すべき敵を倒した後、その後も生きて人生を楽しんでほしいから。ギリギリで生き残って一生ベッド生活とかしてほしくないからさ。」
「え?命があるなら一生ベッド生活はないよ?ここは日本じゃないし、私は治癒も回復も使えるから欠損も治せるよ?」
「あ。そういえばそうだね。でも人生を楽しんでほしいのは本当だよ。」
「うん。でもそれは雪奈姉もだよ。」
「!‥‥‥うん。」
「ところで雪奈姉。今までご飯どうしてたの?」
「そりゃ、すぐそこに森があるでしょ?そこで狩りをしたりキノコ食べてたりしてたよ。さすがにそれだけだと飽きるから野菜育てたりとかもしてるね。」
「お米は?」
「ない‥‥‥この世界にないんだもん。」
「雪奈姉。帝国に行ってないね?」
「え?‥‥‥‥そういえば随分前から行ってないな。」
「お米なら帝都に売られてるよ。」
「うそ!?」
「ほんと。私も帝都に着いた瞬間歓喜したよ。ないと思ってたお米があるんだもん。」
「じゃあ味噌とか醤油は?」
「皇族のみだったけどあったよ。味噌と醤油の生産者が一人ずつしかいないこの事実。本当に勿体ない!」
「し、市販されてない‥‥‥?」
「うん。だから皇帝にも生産者を増やす努力してって言っといたから!だからいつか‥‥‥徐々に増えてくれる筈。」
「でかした!鈴。」
「でしょでしょ!でね、皇帝と城の料理長に頼んで味噌と醤油、分けてもらって今持ってるから味噌汁とか食べれるよ。食べたい?雪奈姉。」
「食べたい!」
「じゃあ久しぶりに雪奈姉の料理食べたい。作ってくれるなら材料の提供するよ。どう?」
「喜んで作る!」
「やった!雪奈姉の料理久しぶりだ!」
と喋りながら雪奈姉が暮らす家に向かった。
ああ~昨日の味噌汁とか美味しかったな~。
マジで天才だよね~雪奈姉。
翌日起きてすぐに準備運動をしながらそう私は思っていた。
「鈴~。そろそろ打ち合い始めるよ~!」
「は~い!」
そうしてまた雪奈姉に吹っ飛ばされて、怪我したら自分で治して。そしてまた吹っ飛ばされて。
そしてご飯は私と雪奈姉で一緒に作ったり、代わる代わる作ったりしていた。
そうして日々は過ぎていき、ダンジョン搭をクリアして更に1年が過ぎた頃。
私はようやく雪奈姉に勝つ回数が増えてきたところだった。
そして今もまた勝った。
「うん。鈴。強くなったね。もう私が教えられることは無いね。」
「本当!?修行終わり?」
「うん。終わり。」
「やった!雪奈姉に勝てる様になるとは思ってなかったからすごく嬉しい。」
「鈴。強くなることだけがここにきた目的じゃないでしょ?」
「うん。じゃあやっと話してもらえるの?何で柚蘭が一緒にいないのか、とか。」
「うん。全部話すよ。とりあえず家に戻ろうか。」
「うん。」
そして2人で雪奈姉の家に向かった。
やっと封印の中の敵の正体が分かるんだ。
この時の私はそれぐらいにしか考えてなかった。