15話 ゴブリン掃討戦
さて、冒険者を待たずに突入を開始した私達。
中の通り道は狭く、2人並んで立つぐらいしか広さは無かった。だが着実にゴブリンを倒しながら進み、いよいよゴブリンの住処である広い空間に到着した。
「ヒスイ、アクア、マリン。一番奥でふんぞり返ってる大きくて偉そうなゴブリンがいるだろ?あれがゴブリンキングだ。俺も本でしか見たことがないし、実物は初めて見るがな。」
うわ~マジで偉そうな態度だな。こちらを見下してる目が何となくイラッとくる。
「「「あれが‥‥。」」」
「3人共。ボーッとしてる時間はないぞ。俺も参加してくるから無茶はしないでくれよ。」
と言って父様まで剣を持ち、戦いに行った。
「「「‥‥‥。」」」
「父様まで行くんですね‥‥。今無茶は父様の方だと思ったのは私だけですか?」
「「いや。俺も思った。」」
「ですよね‥‥父様も剣の腕凄いですね。兄様達ご存知でした?」
「いや。多分兄弟誰も見たことないと思うぞ。」
「ですよね‥‥。」
兄弟でこんな会話をしてるが合間で魔法を放ってそれぞれ兵士さんや父様の援護をしている。もちろんたまにこちらにもゴブリンが来るが兄様達が宣言通り切り伏せている。
とそこに。
「待たせたな。マリン。加勢しに来たぜ。」
「レックスさん!みなさんも。父様の言う通り、早かったですね。」
「ん?何か聞いたのか?」
「はい。昔からの知り合いだと。だからちょうどいい時に来てくれるはずだと言ってました。」
「そうか。‥‥ってラルク。あいつ!領主自ら剣持って戦ってるじゃねぇか!しかもゴブリンナイトに向かっていきやがって‥‥おい。皆!急いで加勢に行ってくれ!」
『はい!』
「全く‥‥。何考えてるんだ?子供ほったらかして自ら戦うなんてありえねぇぞ。」
「あはは‥‥ですよね‥‥私達も父様が戦ってるところを見たことがなかったので驚いていたところです。」
「だろうな。で、ここまで無事だったし、3人共自分の身は自分で守れると思っていいか?」
「「「はい!」」」
「いい返事だ。じゃあ俺も一暴れしてくるわ!」
「「「え!?」」」
そう言うや否やすぐに父様の所に合流して2人でゴブリンナイトを倒し始めた。
「レックスさん‥‥人の事言えないじゃないですか‥‥。」
「「確かに‥‥。」」
「まあ、私達がやることは変わりませんし。頑張りましょう?兄様。」
「そうだな。」
そして着実にゴブリンを掃討していき、ゴブリンナイトも全て倒し、残るはゴブリンキングのみ。
「父様達、どうやって倒すんですかね?かなり大きいですよね?」
「そうだよなぁ。」
やっぱり人間の心臓の位置とか頭とか狙うのかな?他のゴブリンも急所が人間と同じだからって、その辺りを狙って倒してたし。
っていうか、あのゴブリンキング。仲間が全員やられたのにまだふんぞり返ってる‥‥。
あっ。やっとゆっくりだけど立った。その間みんなで攻撃してるのにびくともしないな。
これは倒すのに苦労しそうだな‥‥。みんな重傷とまでは行かないけど、怪我してるし疲労も溜まってるみたいだしな‥‥。
とか考えてると、父様だけこちらに戻ってきた。
「あれ?父様、どうしたんですか?」
「マリン。まだ魔力残ってるか?」
「え?はい。ちょこちょこと支援で使ってただけなので。余力がありますよ?」
「もう1つ聞くがあのゴブリンキングを魔法で撃ち抜くことは出来るか?」
「え?多分出来ると思います。」
「なら頼んでいいか?」
「え!?私が止め刺すんですか!?」
「ああ。出来れば最後まで俺達でやると言いたかったが、生憎無理そうでな。そしたらレックスがマリンを推薦したんだ。マリンが家庭教師を受けてる間狩ってきたのを見てきて、できるはずだと。」
「そうですか‥‥。分かりました。やってみます。」
「頼む。魔法を放つ時に言ってくれ。この事をみんなに知らせてくる。」
「はい!分かりました。」
そう言って再び前線に父様が戻って行くと。
「‥‥マリン。大丈夫なのか?」
「はい。ヒスイ兄様。兄様達が守ってくれたので、魔力もある程度温存出来てますし。それに私のステータス、お見せしてませんが異常なのはご存知ですよね?それが家庭教師を受けてる間に魔力制御も上達しましたし、魔力量も更に増えたんですよ?仮に広域魔法を放ってもまだ魔力が残るぐらいです。」
「「‥‥そうなのか?」」
「はい! ということで大丈夫です。」
「わかった。」
さて、何の魔法使うかな‥‥?まず頭とかを狙うなら槍かな。火と土が使えないから‥‥。やっぱりリサ先生が最初に見せてくれたやつの応用でいいかな。それで頭を狙ったらいいだろうし。
よし。それでいくか!
少しずつ前に進みながら魔力を練って‥‥今だ!
「父様!皆さん!離れて下さい!」
みんなが離れたのを確認し、ミラ先生に教わった身体強化魔法も使って。
「【氷槍】!」
ちょっと大きめに作った氷の槍を思いっきり振りかぶって放つと、頭に命中したゴブリンキングが前にうつ伏せになるようにゆっくり倒れた。倒れた拍子に頭に刺さった氷は砕けた。が。
うわっ‥‥血が‥‥!グロテスクだ‥‥。
一発で仕留められる様に念のために身体強化使って投げたけど‥‥やっぱり頭でもグロテスクだな‥‥。
とか考えてる私をよそにみんなでゴブリンキングが死んだことを確認すると、みんなから歓声が上がった。
『うぉぉぉぉぉぉぉ!』
『ゴブリンキングに勝ったぁぁぁぁぁ!』
ふぅ。でも成功して良かったぁ。命中するか不安だったんだよね。身体強化しても命中率がね‥‥今後の課題だな。
ってそうだ!
「父様!皆さん!怪我してる方、沢山いらっしゃいますよね?兵士さんと冒険者の皆さんそれぞれ一ヶ所ずつに集まってもらえますか?」
『え?』
「いいから集まってくれ。みんな。」
『? はい。』
よし。これぐらいなら私の魔法円陣内かな。
「【サークルハイヒール】。」
すると表れた魔法陣の中にいる人達の傷が全て治っていった。それをもう一度繰り返すと全員の傷が治った。
『‥‥すげぇ。』
と、よくみると重傷の人も数人いて個別に治癒魔法をかけていった。そして今度こそ全員傷が治ったのを確認し、動けるようになるまで休憩することになったのだが。
「父様、レックスさん。このゴブリン達どうします?このままここでとなると、休憩にならないですよね?」
「‥‥そうだな‥‥このまま休憩はいやだな。外に移動してから休憩するか。みんな!まだ動けるか?」
『はい!大丈夫です!』
「なら行くか。あとゴブリンだけどな、素材になるのは一切ないんだ。だからゴブリンは全部燃やしちまう方がいいんだが‥‥。」
「何か問題でもあるんですか?」
「いや。問題というかな、そもそもこの空間を燃やし尽くす程の火魔法を使えるやつがいないんだよ。危ないしな。火魔法を使えるやつを束にして一斉に放てばいけるがその後、逃げる体力が残ってないんだ。」
「じゃあ私がやりましょうか?」
『は!?』
「え?何ですか?」
「いや。何ですかも何もマリン。まだそんな魔力があるのか!?」
「え?はい。ありますよ?父様。皆さんの怪我の治癒もそこまで魔力使ってないですし。」
『‥‥‥マリン様すげぇな。』
「で、どうします?私がやります?」
「‥‥‥確認だが、逃げる体力もあるんだよな?」
「はい。兄様達のお陰で。」
「‥‥‥じゃあすまんが頼む。」
「分かりました。」
ということで皆が移動を始めた。重傷だった人も軽傷だった人の手を借りながら移動して行った。
そして私1人だけ残った。
さて、どうしようかな。ここにいるゴブリン達が燃え尽きるようにしないとなんだよね?
っていうか私、意外と汚れちゃったな‥‥ゴブリンの血、臭い‥‥。
先にこれ何とかしたいな‥‥となると、あれか。
やってみるかな。水属性の応用でいけるでしょ。
「【洗浄】。」
‥‥‥お。成功だ。匂いは‥‥この空間が臭すぎて分からないな‥‥。
とりあえず本題を片付けないと。何がいいかな‥‥。
単純にこのエリアのゴブリンを燃やす‥‥。
そうだ!めっちゃそのままだけど、
「【エリアフレイム】。」
えっと‥‥これで大丈夫かな?
‥‥お!全体的に燃え広がってるっぽいな。
じゃあ大丈夫かな。私も洞窟から出よっと。
私が入り口から出てくると、
「マリン。出来たのか?」
「はい。時間は掛かるかもしれませんが、多分あれで燃え尽きるかと。」
「マリン。何の魔法を使ってきたんだ?」
「え?燃やした方がいいとのことでしたので、あの空間全ての床が炎に包まれるように範囲指定した火魔法の【エリアフレイム】を使ってきましたが‥‥。駄目でしたか?」
『‥‥‥。』
あれ?皆黙っちゃった。私が魔法使うとちょいちょいこういう事が起きるな‥‥。
「‥‥つまり今あの洞窟の中は炎の監獄状態ということか?」
「はい。そうなります。あ。いつ火が消えるか分からないですね。私、使う魔法間違えましたか?」
「いや。消火確認は俺達冒険者ギルドで交代で見るさ。それより、ありがとな。あのままにするとゴブリンのとんでもない匂いがここら辺一帯に充満しちまうところだったからな。」
「いえ。じゃあ消火確認お願いします。なかなか消えないようなら今度は消火に来ますよ。」
「ああ。その時は頼むな。」
「はい。」
「じゃあマリンも休憩するといい。休憩が終わったら帰るぞ。」
「はい!あ。そういえば、父様。さっき思い付いた魔法があるんですが、試してもいいですか?攻撃でも回復でもないですし既に自分に実証済みなのですが。」
「ん?何か分からんがそういうことならいいぞ。」
「ありがとうございます!ちょうど皆さん集まってくれてますし。このまま魔法掛けますね。【範囲洗浄】。‥‥‥どうでしょう?皆さんゴブリンの返り血を嫌そうにしてたので綺麗にしてみたんですが。恐らく消臭もできてるんじゃないかと‥‥。」
『‥‥‥。』
皆めっちゃ確認してる。匂いを確認し合ってる人達までいる‥‥。
『‥‥すげぇ。』
「ああ。すげぇ。ありがとな。マリン。ゴブリンの返り血って取れ辛いし匂いは残るしで、毎回服を捨てるしか選択肢が無かったんだよ。マジで助かる。」
「え?そうなんですか?だから皆さんゴブリンの返り血を見て嫌そうな顔してたんですか?」
「そういうことだ。」
「へ~。初めて知りました。」
それから少し時間が経って‥‥
「マリン。休憩できたか?」
「はい。父様。もう大丈夫です!」
「じゃあ帰るか。」
ということで森の中、来た道を戻りながら‥‥
「しかしマリン。我が娘ながら凄いな。その発想力。マリンの頭の中がどうなってるのか一度見てみたいよ。」
「「「確かに!」」」
兄様達とレックスさんの声がハモった。
「う~ん。確かにさっき使った治癒、火、洗浄の広域魔法は全部今日初めて使いましたね。発想力ということなら先生と魔法について話したり、意見の出し合いしたりしてたのでその影響じゃないかと。」
「そういうものか?」
「はい。私の場合はですが。」
「なあ。マリン。明日からそれ、俺達とやらないか?」
「え?兄様、それって魔法の意見の出し合いですか?」
「そう。マリンの発想力面白そうだし、一緒にやってる内にマリンみたいに無詠唱で魔法放つとかできるかもしれないしさ。」
「なるほど。いいですね!やりましょうヒスイ兄様!」
「俺も参加していいか?」
「勿論です。アクア兄様。それにさっきヒスイ兄様が「俺達」って仰ってたじゃないですか。あれはアクア兄様を含めてということですよね?ヒスイ兄様。」
「ああ。そのつもりだ。」
「だ、そうですよ?アクア兄様。」
「ああ!明日から魔法の練習が楽しくなりそうだな。」
「そうですね!」
そんな兄弟の会話を聞いて大人組は。
「ラルク。お前の子供達、兄弟仲良いな。」
「そうだな。元々兄弟全員仲は悪く無かったが、マリンが産まれて更に仲良くなった気がする。」
「なるほどな。じゃあマリンがお前ん家の太陽みたいな感じだな。」
「確かにそうかもな。」
と話していたが、目の前の兄弟達には届いてないのか楽しそうに話していた。が、
「あっ!兵士さん!また猪がきます!今度は1匹だけですが、なかなか大きいみたいなので気をつけて下さい。」
「了解です!」
と兄弟で話しながらもサーチを続けて指示を出すマリンを見て、改めてこの6歳の少女の底知れなさを大人達は感じていた。
ちょっとだけ規格外さを出してみました。
一応ここまでは自重が出来てる前提で、マリンからすると、ちょっと実力を出しちゃった程度。
でも周りには規格外。その温度差が出せてたらいいなと思います。
※2021,9,4 改稿しました。