170話 披露宴2
黒かった父様の笑顔だが、すぐに元の顔に戻り私達に内緒話をしてきた。
(クリス、マリン。そうは言ったが世間話以外、例えば婚約話とかしてきたら拒否していいからな。)
(前に私が申し上げた様に片っ端から断っていいということですか?)
(そうだ。ここは「結婚披露宴の場」だからな。「嫁探しの場」じゃない。だからマリン。)
(はい。)
(もし、実力行使してくる様だったらクリスを守ってあげてくれ。)
(大丈夫ですよ。姉様には私が差し上げた「あの」ペンダントがありますから。さすが姉様。ちゃんと今日も着けてくれてますしね。)
(そういえばそうだな。じゃあ頼むな。何かあっても俺達は手出ししないからな。)
((はい。))
ちなみにこの会話、周りに私達の他の家族がいたりしたので口の動きすら見えてなかっただろう。
「あの‥‥‥ラルク辺境伯殿。お嬢様方とお話させて頂けますでしょうか?」
勇者がいたー!この包囲網の中に声を掛けてきた強者が‥‥‥って集団が出来てる‥‥‥え?私達、この集団と話すの?
「ええ。構いませんよ。ほらクリス、マリン。行って差し上げなさい。」
くっ。父様‥‥‥本当に送り出したよ‥‥。
「「はい。」」
考えてることを微塵も表に出さずに私達は返事をして貴族の集団へと向かった。
「はじめましてクリス嬢、マリン嬢。私は‥‥」
「はじめまして。私は‥‥」
「私は‥‥」
「私は‥‥」
「私は‥‥」
ええい!またかい!一斉に言われて分かるか!
「あの、皆様。私達にお声掛け頂いたのは嬉しく思いますが、一斉に言われてしまうと反応に困りますわ。」
『!』
「し、失礼しました。確かにそうですね。」
おお~!姉様やる~!
そして一人ずつ自己紹介し直してくれたが、殆んど覚えてない。80ぐらいはある貴族家の顔と名前を覚えろって無理でしょ。全員が押し寄せた訳じゃないけど、覚えるなら時間くれって話だ。
私達は一応世間話を振られては答えるの繰り返しをしていた。主に学園でのこと。私がまだ学生だから話題がさほどないんだ。
そして話してる途中に乱入者がきた。
「ちょっとすみません。我々も話に加わらせて下さいますか?」
「これはこれは。辺境伯家の子息の方々。どうぞ。」
「「「ありがとうございます。」」」
「マリン様ははじめましてですね。北の辺境伯家長男のシオン・フォン・ブリーズと申します。」
「東の辺境伯家長男のアゼル・フォン・フロールと申します。」
「南の辺境伯家長男のネウス・フォン・ソレイユと申します。」
「ご丁寧にありがとうございます。私は西の辺境伯家次女のマリン・フォン・クローバーと申します。姉はご存知なのですか?」
「ええ。我々の2つ下でしたので。生徒会で一緒だったのですよ。」
「そうでしたか。」
チラッと姉様の方を見ると嫌そうな顔をしていた。
「ところでクリス様、マリン様。お2人共婚約者を決めていらっしゃらないとか。どちらか私で手を打ってはいかがですか?」
はあ?何、こいつ。何「手を打つ」って。
結婚ってそんな簡単なことじゃないでしょ。
「あ!ずるいぞ。シオン。私でも構いませんよ。」
「アゼル。お前も人のこと言えないじゃないか。この2人はほっといて私にしませんか?」
3人共同類か。最低だな。はぁ‥‥‥追い払うか。
「申し訳ありませんが、私も姉もお3方共お断りさせて頂きますわ。」
「「「なに!?」」」「!」
「何故です!?同じ辺境伯家。家格は釣り合いが取れておりますし、我々は各家の長男。後継ぎですよ?将来の安定は約束されているのに。」
「家格は関係ありません。まず私の場合ですが、私はまだ学生の未成年です。急いで婚約者を決める必要はありません。それに安定と仰ってましたが、私は冒険者でもありますのでその辺は必要ありません。そして姉の場合ですが、今の姉は自分の将来に迷っているのです。そんな時に婚約者を決めたら、姉は結婚に逃げたといつか後悔するかもしれません。そんな姿、妹として見たくありません。そして最後に皆様はここに何の為にいらしたのですか?兄達の結婚披露宴の場ですよ?ここは。婚約者を探す場ではありません。以上の理由でお断り致します。」
「!‥‥‥マリン‥‥ありがとう。」
「いいえ。今申し上げたのは私の本心ですよ。姉様。」
「認めない‥‥‥。」
『え?』
「認めないと申し上げたのです。人が折角丁寧に話せば図に乗って!年下の癖に生意気な!」
「痛っ!」
シオンがクリスの腕を掴んだのだ。
「シオン様?何故姉の腕を掴んでいるのですか?放してください。痛がってるじゃないですか。」
「おっと。マリン様も動かないでください。」
「アゼル様?何のつもりですか?私まで腕を掴むなんて。放してください。」
「「嫌ですよ。」」
「これだけの人の目があるんだ。ちょうどいい。」
「姉様。」
「ええ。」
「私は「放して」と申し上げましたからね?」
「「え?」」
「麻痺」「【麻痺】」
「「ぐぁ!」」
「シオン!アゼル!‥‥2人に何をした!」
「今申し上げましたよ?」
「くそっ!」
残りのネウスがマリンに掴み掛かろうとしたが同じく麻痺の餌食になった。
「はぁ‥‥‥言うとおりにならないから実力行使ですか。最低ですね。お3方共女の敵ですわね。」
『その通りですわね。』
いつの間にか集まった令嬢達が声を揃えて言った。
「ところで姉様。腕、大丈夫ですか?」
「え?‥‥‥まだちょっと痛いかな。(あ、そうだ。「通常」。)」
「え!?では。【ヒール】」
「!‥‥‥ありがとうマリン。」
「どういたしまして。ふふっ。お3方。私達に対して既成事実を作るのは不可能ですよ?私、先程冒険者でもあると申し上げましたよね?ランク、何だと思います?」
「「「っ!」」」
「ああ、今お答えできませんよね?でも教えて差し上げますわ。私、こう見えてもAランク冒険者なんですよ?実力行使が無謀だとこれでお分かり頂けますよね?」
「「「!!!」」」
3人共すごい驚いてる。
「お分かり頂けましたら今後うちに関わらないでくださいね。」
『か、格好いい‥‥!』
「へ?」
「格好良かったですわ。マリン様。お3方をあっという間に行動不能にしてしまうなんて。反論も凛々しくて格好良かったですわ。」
「そう‥‥ですか?」
『はい!』
「あ、ありがとうございます‥‥‥あ、このままだとまた動ける様になった時が大変ですね。お3方のご家族の方、いらっしゃいますか?」
「「「すみません!」」」
と、ずっと私達のやり取りを見ていた集団の後方から声が掛かった。
そしてやっと来てくれた3人の父親らしき人達。
「申し訳ありません。愚息がお2人に大変なご迷惑を。」
「いえ。身を守る為とはいえ行動不能にしてしまいましたから。こちらこそ、申し訳ありません。」
「いえ!正当防衛です。謝るべきは愚息の方です。」
「そ、そうですか‥‥。」
「失礼しました。名乗っておりませんでしたな。私は北の辺境伯でフロイス・フォン・ブリーズ・ノーティアと申します。」
「私は東の辺境伯でグラン・フォン・フロール・エスティアと申します。」
「私は南の辺境伯のアストル・フォン・ソレイユ・シュティアと申します。」
「ご丁寧にありがとうございます。私も名乗らず失礼しました。私は西の辺境伯家次女のマリン・フォン・クローバーと申します。」
「同じく長女のクリス・フォン・クローバーと申します。」
「ああ、あなたがマリン様でしたか。お噂は聞き及んでますよ。」
「え?‥‥‥それはどんな噂でしょうか?」
「4属性の魔法を使えるのとは別に、浄化の使い手。あと学園では入試から首席の天才と。」
「そ、そうですか‥‥。」
と、話していると。
「「クリス、マリン。」」
振り返ると私達を呼んだのはこの場から離れていた2人だった。