134話 救出作戦2
そして救出部隊と共に出発した馬車の中。
私はこちらも女性がいるということで魔法師団の方の馬車に乗っていた。
馬車と言っても貴族が乗るような馬車ではない。帰りは誘拐された人達を乗せるのもあって幌馬車と呼ばれる様な複数名乗れる馬車である。
「マリン様。申し訳ありません。ご令嬢にこの様な馬車に乗って頂くことになってしまって‥‥」
「お気になさらず。今の私は冒険者としてご一緒してますから。」
「そう言って頂けると助かります。」
「あの、皆さんもよろしければフリードさんみたいに呼び捨て敬語なしで話して頂いて構いませんよ?」
「え!?い、いや‥‥‥さすがにそれは‥‥」
「いいじゃねぇか。本人がこう言ってるんだし。」
「フリードさんは私に聞きもせずいきなり呼び捨て敬語なしでしたけどね。」
「あれ?そうだったか?」
「はい。まあいいんですけどね。‥‥だからフリードさんは軽い人に見られるんですよ。」
「あはは!‥‥確かにそうですね!」
「団長軽いっすからね~。」
『確かに!』
「ひでぇ‥‥」
「でも良い方に言い替えれば親しみやすい人ですよね。壁が無くて。」
「あぁ~確かにそうですね~。」
「な、なんだよ!いきなり褒めやがって!」
「照れましたね。」
『照れた。』
「お前ら‥‥」
「団長で遊ぶのはここまでにしましょうか。‥‥マリン様。そろそろ止まって夜営の準備をしませんと。」
「そうですね。」
「俺で遊ぶなや‥‥」
「でもお陰で場が和みました。ありがとうございます。団長。」
「!‥‥‥おう。」
‥‥‥‥チョロいな。
でもこういう人だから団長が務まってるんだろうな。
そして夜営の準備が終わり、魔法師団と騎士団の人達と全員で食事を囲っていると。
「そういえばマリン様。」
「はい?」
「シリウス王子と友人だと団長から聞いたんですけど、本当ですか?」
「はい。本当ですよ。あとリゲルも友人ですよ。」
『え!?』
「不思議ですか?」
『はい。』
「俺も不思議だったな。去年までの王子ならマリンは嫌だったんじゃないか?」
「はい。初めて会ったのは10歳の時でしたけど、あの時は本気で嫌いでしたね。あと、去年は学園で会っても避けてました。私がSクラスでシリウスとリゲルがBクラスで教室が違うのが嬉しかったぐらいに。」
「なら何故だ?」
「う~ん。あの2人から模擬戦挑まれて返り討ちにした辺りぐらいからですかね?2人は迷い始めてて、私が初めて帝国に行った時にレグルスと友人になったって知ってまた苦悩してました。今年レグルスが私のクラスに転校してからはレグルスに対抗意識出して、何かと突っ掛かってたので何がしたいんだろ?って思って観察してたんです。」
「それで?」
「私、シリウス、リゲル、レグルス。それと私のいとこであり、同じクラスの友人‥‥この前一緒に来てたリジアです。その私達5人は今年から貴族科と魔法科の選択授業で会う様になってたので観察するにはちょうど良かったんですけど、言い合いが煩くて先生の話が入ってこないことがありまして‥‥怒りが頂点に達して3人をまとめて説教しました。」
『‥‥‥』
「マリン。確認だが、3人ってシリウス王子とリゲル様と皇太子殿下だよな?」
「はい。」
『‥‥‥』
「その時、説教ついでに聞いてみたんです。王子として、公爵家の嫡男としてどうなんだと。」
「それで、お2人はなんて?」
「どうすればいいか分からなくなったと。」
「え?なにが?」
「さあ?でも私は怒ってる途中だったので「こいつら馬鹿か?」と思ってつい言っちゃいましたね。あなた達は馬鹿ですか?と。」
「すげぇな。マリン。」
「怒らせる方が悪いんです!‥‥私もあの時は不思議でしたね。陛下と公爵様を父に持って、後を継ぐ立場なのに何を迷うんだ?見本なら国王と公爵という素晴らしい父親達がいるのにと。だからそれをそのまま伝えました。」
「確かにな。あんな素晴らしい見本がいるのにな。」
「ですよね?でも2人はそれで何か吹っ切れたみたいで少しずつ変わりましたね。今年、帝国に行く時一緒に行きましたがその時にはシリウス達に慣れてたのでじゃあと、友人になりました。」
『へ~。』
「じゃあ、やっぱり王子が変わったのはマリンのお陰なんだな。」
「そうなんでしょうか?私はきっかけに過ぎないんじゃないですか?」
「ああ。きっかけでも、マリンのお陰だ。俺は今の王子の方がいいからな。だからマリンには感謝してるんだ。」
『俺もです!』『私もです!』
「!‥‥ふふっ。次代の国王陛下は人望厚い人になりそうですね。」
「ああ。マリンのお陰で弱みも握れたしな。」
『ええ。』
「え!?あれ?よ、弱みですか?」
「ああ。マリンに説教されるとはな‥‥俺達にとっては感謝しかないが、王子にとっては恥ずかしい過去になるだろ?また前みたいになるようならこの話を持ち出してやろうと思ってな。」
「脅しに使うとかは‥‥」
「勿論しない。折角マリンが話してくれたんだ、マリンを裏切る様なことはしない。王子が今のまま、まともであり続けてくれたらそれでいいことだ。だからここだけの話に止めるさ。お前達もいいな?」
『はい!』
「!‥‥良かった‥‥」
「むしろ当然だ。俺達は普段王家を中心に国防を担ってるんだぞ?王子を脅してどうするよ。」
「ふふっ。確かにそうですね。」
「でもやっと陛下の言った意味が分かったよ。」
『え?』
「何がですか?フリードさん。」
「陛下はマリンを含めて守れと俺に命じただろ?」
「? はい。」
「辺境伯家の令嬢だからっていっても冒険者として参加する以上、覚悟はあるはすだ。‥‥マリンも覚悟を持って参加を決めてくれたんだろ?」
「はい。勿論。」
「だから絶対無事に連れ戻せってのは国王としてではなく、親心からなんだなってな。」
「??」
「陛下にとってマリンは大事な息子の友人であり、息子が惚れた女の子だからな。無事に帰ってきてくれないと困るだろ?」
『!』
「王子‥‥やっぱりマリン様に惚れてたんですか?」
「おう。王子だけじゃないぞ、リゲル様と皇太子殿下もだ。」
「ちょ、ちょっとフリードさん!」
『おお~!』
「だからお前ら、意地でもマリンを守れよ。まあマリンが強いから俺達が守られるかもだけどな。」
『はい!』
「‥‥フリードさんの中で、私はどんな人物に‥‥」
「ん?決まってるだろ。シリウス王子とリゲル様を更正してくれた上に友人にまでなってくれた強くて優しい勇者。」
「確かにお話を聞く限り、同意見ですね。」
「あ、違ったな。学園で他の生徒達から別名付けられてたよな?天使って。」
『天使?』
「ぴったりですね。」
「ええ。最初に言った方天才ですね。」
「‥‥‥」
「どうした?マリン。‥‥ぷっ、真っ赤じゃねぇか!」
「誰のせいだと思ってるんですか?さっきフリードさんで遊んだ仕返しですか?」
「おう。」
「くっ。」
『ははは!』
と和やかに夜営の夜は過ぎて。
翌日。
再び出発した私達がネクロマンサーの地図通りの場所に着くと、街道から外れた森の近くの草原にポツンとその一軒家があった。
「ここです。この中に誘拐されただろう人達がいました!」
伝言を伝えてくれた魔法師団の人の言葉を受け、この家の周りをぐるっと見て回ったあと、改めて中をサーチで探ってみた。
「確かに複数の人の気配を感じますね。ここに着くまでの道中、ここから人が出入りした様子はなかったので、誘拐された人達を別の場所に移動させたりはしてないかと。昨日や一昨日までに移動させてたら分かりませんが。」
『え?』
「マリン、ここの人の出入りが分かってたのか?」
「近くまで来てからの話ですよ。」
「それでもすげぇよ。」
「そうですか?‥‥それで、どうしますか?入り口は玄関しか無いみたいですけど、入ってみますか?」
そう。この家、裏口も窓もない平屋だったんだ。
‥‥‥‥根暗なのかな?暗くないと寝れない人?
どっちでもいいか。
「ああ。俺が先に入るからマリンは後に続いて何かあったら対応してくれるか?」
「了解です!」
「お前達も大半の‥‥40人ぐらいか、外でそのまま見張っててくれ。中には残りの10人で行く。マリンの後についてきてくれ。」
『はい!』
そしてフリードさんを先頭に玄関から入ると、中は静まりかえっていた。
家の中の扉のどこを開いても誰もいなかった。
そして最後に書斎らしき場所に入ったが‥‥
『あれ?』
「誰もいないのか?‥‥でもこの家の中に人の気配を感じるんだよな?マリン。」
「はい。‥‥地下ですね。」
『地下?』
「地下への入り口なんてあったか?」
「ちょっと待ってくださいね‥‥って、これ、書き置き?」
『え?』
「書き置きがあったのか?」
「はい。」
私はフリードさんに返事をしたあと、改めて書き置きを読み、感想と共にフリードさんに書き置きを渡した。
「‥‥わりと腹立つし、悪寒で凍えそうな感じでした。どうぞ、読んでみて下さい。」
「お、おう。」
そして、受け取ったフリードさんは徐々に顔を歪めながら読み進め、感想を溢した。
「‥‥これ、確かに腹立つし、気持ち悪いな‥‥」
「ですよね?」
内容はこれだ。
『マリン様へ。
私がこの場におらず、残念でしたね。
私としても本当は、愛しのマリン様をお迎えするつもりでした。ですが、ふとあることに気付きまして、泣く泣くここを去ることに致しました。
私が気付いたこと、知りたいですか?知りたいですよね?教えて差し上げますね。
当初の予定ではここでマリン様の全てを頂くつもりだったのです。全てとは勿論口付け以上のことですよ。
ふふっ。楽しみだったんですけどねぇ‥‥あの甘美な口付けの感触‥‥思い出すだけでも楽しめます。
‥‥ですが、マリン様はまだ12歳の学生であり子供。今でも十分魅力的ですが、もう少し色気が欲しいところです。
それに全てを奪おうものならそれは犯罪ですからね。成人まで待つことにしました。
それに、マリン様があの方の器になろうとも私のあなたへの愛は変わりません。
マリン様が成人した時、あの方の器になっていたとしてもマリン様の全てを頂きたく思います。
なので今回は泣く泣くこの場を去りました。誘拐してきた者達は連れていって構いません。
では、この辺で。愛しいマリン様へ。
ネクロマンサー』
これを一緒に入ってきた魔法師団と騎士団の人達も見たが、見た人達から順に全員が固まっていった。
「なにこれ‥‥気持ち悪いですね‥‥」
「ええ‥‥気持ち悪いですね‥‥女の敵じゃないですか。」
「どの口が犯罪になるとか言ってるんだろうな。」
「ですね‥‥。しかもそれ、成人を過ぎてるいい歳した大人の男性の言葉ですよ。」
『げっ!』
「ますます気持ち悪い‥‥」
「なあ‥‥マリン。こんな気持ち悪いもんほっといてさっさと誘拐された人達救出して帰ろうぜ。」
「そうですね。」
そして、改めて地下への入り口を探し始めた。
えっと‥‥地下への入り口が見当たらないとなると、やっぱり隠してあるんだろうな‥‥多分、仕掛けがあるはずだよね?
RPGとか物語とかなら本棚の本を動かすとかが考えられるけど‥‥
ガチャ
ゴゴゴゴゴゴ
マジか‥‥本棚、動いたよ‥‥
「お?それが入り口か?良く分かったな、マリン。」
「‥‥‥‥そうですね。」
「ん?入り口が見つかったんだぞ?嬉しくないのか?」
「いえ。‥‥あまりにも簡単に見つかったので拍子抜けというか‥‥」
「そうか?本動かすとか思いつかないと思うがな。」
「‥‥‥‥そうですね。行きましょうか‥‥」
「おう。」
そして地下への入り口を改めて見ると、真っ暗だった為光魔法で灯りを灯して中に進んでいった。
この世界の人達は思いつかないんだな‥‥だから今までここから救出されることがなかったんだ‥‥
‥‥じゃあネクロマンサーってこの世界だと天才なのかな?
‥‥‥‥なんか虚しくなってきた‥‥もう考えるの止めよ。
そして地下に着くと、通路を挟んで両側に複数の牢屋の様なものが並んでおり、中にそれぞれ人が複数名ずつ入れられていた。中には腕を吊るされて壁に固定されている人もいたが、全員表情が暗い。体も満足に食事してなかったのか、ガリガリだった。
「ひどい‥‥」
「ああ‥‥お前達、牢屋から出してやれ。」
『はい!』
「待って下さい!」
『え?』
「‥‥全員から闇の魔力を感じます。精神をやられてるかもしれません。」
「それがどうした?」
「精神を蝕まれてるなら攻撃性があってもおかしくありません。‥‥私達の自己防衛でこの方々を怪我させる訳にはいかないでしょう?」
「ならどうするってんだ?」
「フリードさん。お忘れですか?‥‥それに私がなんの為にここまでついて来たと思ってるんですか?」
「!‥‥そうだったな。でもこんな暗いところでもできるのか?」
「恐らく。では早速やってみますね。【空間浄化】」
「わっ!すごい‥‥‥」
「あれ?マリン様の姿が変わった?」
「本当だ‥‥髪の色と服装が変わってる‥‥」
な、何か話してる‥‥。
ああ~そういえば、魔法師団の人達はこれを見たことがあるけど、騎士団の人達は見たことなかったな‥‥
‥‥また説明か。
「ああ、あれな。マリン曰く、精霊王の加護をもらったらしくてな。その時に一緒に授けられた服なんだってよ。浄化魔法使うと必ずあの姿になるんだとさ。」
『精霊王!?』
「マリン様、すごいっすね‥‥」
「精霊王ってどうやったら会えるんですかね?」
「それは知らん。」
『え~!』
代わりに説明してくれてありがとうございます。フリードさん。
‥‥‥‥でも呑気ですね‥‥皆さん。
‥‥‥‥さて、もういいかな?
浄化魔法を止めてみると、牢屋の中にいる人達の目がハッキリと私を捉えてるのが分かった。
「‥‥皆さん。もう大丈夫ですよ。私達は皆さんを救出するために派遣された者です。」
『え‥‥』
牢の中の人達はそう呟いたあと、それぞれが周りを見回したり自分の手の感触を確かめたりしていた。
そして確認のあと、もう一度私を見た一人が聞いてきた。
「私達を助けにって‥‥ここは‥‥?それにあなたは?」
「私はセレスティン王国から参りました、西の辺境伯家次女のマリン・フォン・クローバーと申します。皆さんはネクロマンサーによって誘拐されていたんです。何か覚えてらっしゃいますか?」
「王国の辺境伯家!?そんな方が何故‥‥?えっと、すみません。誘拐される前までのことしか覚えてません。」
「そうですか‥‥。では、ご自身のことはお分かりになりますか?帰る場所とか、覚えてらっしゃいますか?」
「はい。それは大丈夫です。」
「皆さんもでしょうか?」
『はい。』
「では、一先ずここから出ましょうか。私と一緒にいる人達は王国の騎士団と魔法師団の方達ですのでご安心ください。」
『はい。』
そして全員を牢屋から出し終わって地上に向かいながら‥‥
「(フリードさん。)」
「(なんだ?)」
「(あの人、一緒に建物の中に入ったのに、地下まではついて来てませんよね?)」
「(!‥‥ああ‥‥そうだな。)」
「(地上に出たら襲い掛かるつもりですかね?)」
「(可能性はあるな。)」
「っと、そう来たか‥‥」
地上へ出る入り口を閉じられていたのだった。