132話 気付いたことと守りたい日常
そして場所は変わってリリ様の部屋です。
「‥‥‥‥なんか不思議な気分ですね。」
「「「「え?」」」」
「私はリリ様のお部屋は初めて来ましたが、集まった人達は姉様ともうすぐ家族になる人達なんだな~と。」
「なるほどね。」
「リリ様とマリア様は夏休みの間と最近もですが、じわじわと「このお2人が義理の姉様になるんだな~」と感じていたのですが‥‥まさか私まで姉と呼ばれる日が来るとは思わなかったので、不思議な気分だなと。」
「一応2人共、10歳のお披露目が終わってたから結婚式までに紹介しようと思ってたのよ?今回はマリンちゃん達が城に全員集まってくれたからちょうどいいねって父様達と話して、会ってもらったの。黙ってた訳でも隠してた訳でもないのよ?」
「ふふっ。はい。分かってますよ、リリ様。ただ、色々な意味で驚いただけです。」
「ふふっ。兄様が兄っぽくない‥‥ですか?」
「ええ。そうですね。だからリオト殿下もルビア様もシリウスとリゲルに中身が似なくて良かったです。」
「確かにそうね。シリウス王子達と同じじゃなくて良かったわ。」
「姉様に聞いてましたが‥‥本当に兄様達はマリン様達にもあのままでしたの?」
「「はい。」」
「‥‥‥‥‥兄が申し訳ありませんでした‥‥‥」
「ふふっ。もう大丈夫ですから。ルビア様も気になさらないで下さい。中身が似なくて良かったと申し上げたのはシリウス達の10歳の時と、という意味ですから。」
「私もですよ。ルビア様。」
「それをお聞きして安心しましたわ。‥‥ところで、あの、クリス様。マリン様だけではなく、クリス様も姉様とお呼びしてよろしいでしょうか?」
「ふふっ。勿論ですよ。」
「! ありがとうございます!‥‥アクア様も兄様とお呼びしていいか聞いてみていいのでしょうか?」
「ふふっ。いいと思いますよ。今までは私が兄様と呼んでいましたので慣れてるでしょうし、兄様と呼ぶ人が増えるなら喜ぶと思いますよ。」
「そうでしょうか?」
「「ええ。」」
「ふふっ。男性陣がいないだけなのにやっぱり違うわね。マリンちゃん達見てるとほっこりするわ。」
「そうね。学園を卒業してからシリウスとリゲルがマリンちゃんに迷惑掛けてないか心配してたから余計にね。マリンちゃんの笑顔見たらほっこりするわ。」
「確かに私達の妹同士の交流は見ててほっこりするわ。」
「あ、あの、マリン様。私、マリン様に色々と伺いたいことや話したいことがありまして‥‥リリ姉様には申し訳ないと思いつつ、こうしてお邪魔させて頂いたのです。」
「? 私とですか?」
「はい。‥‥ご迷惑でなければお話したいのですが‥‥よろしいでしょうか?」
「ふふっ。はい、私でよければ喜んで。」
「!‥‥やりましたわ!ではマリン様。まずは‥‥」
とルビアからマリンへの質問攻めが開始された頃。
シリウスの部屋では。
「レグルス、残念だったな。」
「ん?なにがだ?」
「マリンと2人っきりになれなくて。」
「ああ。そのことか。むしろ当然じゃないか。王国の城の一室に王国の令嬢と帝国の皇太子が2人っきりは外聞が悪いだろ?」
「まあ、確かにな。」
「だから、シリウス。部屋に呼んでくれてありがとな。」
「当然だ。俺も王子だし、レグルスは友人だからな。」
「う~ん、それならリゲルも連れてくれば良かったか?」
「あ~。そうだな‥‥。まあたまにはいいんじゃないか?この組み合わせで話すことなんてなかなかないんだし。面白そうじゃないか?」
「確かにな。」
と、ここでも友人同士ということもあり、話し続けていた。
そしてその日の晩。再びリリの部屋。
夕食を終えてお風呂上がりに一人ベランダに出て涼んでいた私は目の前に広がる庭園を眺めていた。
晩という時間の為周囲は暗いのだが、月明かりのお陰で庭園は見えていたのだ。
そこでふと違和感を感じたが、部屋の中には姉達がいるため動くと気付かれて心配を掛けてしまう。
なので視覚だけ飛ばして違和感の元である庭園の先を見た。
「(【ロングサイト】)」
小声で魔法を発動し、庭園の先を見ると小さな池があった。
そして違和感の元はその池だった。
正確には池の中‥‥‥いや、池の底の様だった。
そしてあることに思い当たり、ロングサイトを解除して今度は世界地図を発動させた。そして四神がそれぞれいる遺跡の場所と池の位置を確認してみると、その予想は的中していた。
東西南北にある四神の遺跡。東西、南北それぞれを対角線で結んだ中心地。そこに池がくる。
「マリンちゃん?」
‥‥‥‥封印はここか‥‥‥。まあ確かに四方の中心地に置くよね‥‥城を池の近くになるように建てたのか‥‥池が中心地になるように四神を配置したのか‥‥どっちかな‥‥?
ポンっ
「マリンちゃん?」
と肩に手を置かれてビックリしながら世界地図を閉じた。
「わっ!‥‥‥リリ様?」
「あら、驚かすつもりはなかったのだけど‥‥どうしたの?まだ暖かいとはいえ、風邪引くわよ?」
「あ。そ、そうですね。戻ります。」
そして2人で部屋に戻る。
「何してたの?マリン。」
「ちょうどベランダから庭園が見えたので思わずじっと見てしまってました。そういえば城には何回か来てるのに庭園は初めて見るな~って思いまして。」
「ああ~。なるほどね。確かに見たことなかったわね。私もちょっと見て来よっと。」
と言って庭園を見にベランダへ向かった姉様を見ながら‥‥
私は嘘は言ってない。庭園を見たのは初めてだったし、実際見てたし。ただ、その先の池まで勝手に見ただけ。
‥‥‥‥他にも考え事してたからリリ様に気付かなかっただけで。
「それで、マリンちゃん。庭園、どうだった?」
「月明かりで幻想的になっていたのもあって綺麗でした。昼間に見るのとではまた違うとは思いますが、とにかく綺麗でした。」
「ふふっ。良かったわ。」
「あ。帝国の庭園も綺麗だったので、対抗意識出ました?」
「ええ。ちょっとね。」
「ふふっ。国が違えば庭園も違いますね。どちらも甲乙つけがたいです。」
「ええ。私もそう思うわ。」
「むう~。私も見たいですわ。帝国の城の庭園。」
「ふふっ。ルビア様も見る機会が来ますよ。もしかしたら来年かもしれませんよ?」
「そうね。」
「そうですわね!楽しみですわ!」
と、ここで姉様がベランダから戻ってきた。
「何が楽しみなんですか?ルビア様。」
「姉様、私が帝国と王国の庭園を見て甲乙つけがたいと言ったら、ルビア様も帝国の庭園を見たいと。それで、来年かもしれませんよ?って話してたんです。」
「ああ、そういうこと。確かにそうね。」
「あ、来年といえば。‥‥ルビア様。もしかしてリオト殿下とルビア様も学園を受験されるんですか?」
「はい。マリン様の後輩になるべく、勉強中ですわ。」
「それは楽しみですね!‥‥あ。でもこのままだとシリウスとリゲルの兄としての威厳が無くなる‥‥」
「ふふっ。威厳なんて元々ないわよ。マリンちゃん。」
「ええ。リゲルに威厳なんて言葉、当てはまらないわよ。」
「実の姉達は厳しいわね‥‥」
「私も兄様を尊敬したことはありませんわ。」
「妹の言葉が一番グサッときそうですね‥‥」
「あら、リオトもシリウスと最近まであまり話してもいなかったのよ?尊敬なんてしてなかったと思うわよ?」
「なんかシリウスとリゲルが可哀想に思えてきました‥‥」
「「自業自得よ。」」「自業自得ですわ。」
「「‥‥‥」」
「私‥‥兄弟が姉様達で良かったです。」
「私も。‥‥妹がマリンで良かったわ‥‥」
そうして何気ない話をした後、私達は眠りについた。
翌朝。
私は再びベランダから庭園を見ていた。
正確にはその先の池。
今まで気付かなかったのは城になかなか来ないから?
帝国から戻って陛下に話す時にも城に来たのに気付かなかったしな‥‥
‥‥‥‥あ~、サーチ‥‥王都で使わないからかな?
昨日は偶々気付いただけかな?でも闇の嫌な感じが僅かにするから浄化してみた方がいいのかな‥‥?
‥‥‥‥‥‥今は考えてもしょうがないかな‥‥。
あの封印の中身が何かも知らないしね‥‥‥。
考えるのを中断して部屋の中に戻ると、ちょうど全員普段着に着替え終わっていた。
ちなみに私はちゃんと制服に着替え終わっている。
「皆さん起きてらしたのですね。おはようございます。」
「「「おはよう。」」」「おはようございます。」
「ま、マリン様‥‥!制服姿もお似合いですわ!」
「え?‥‥あ、ありがとうございます。ルビア様。」
「それで、マリン。体調とかどう?もう平気なの?」
「ええ。大丈夫ですよ。さすがにいきなり激しい戦闘とかは避けるべきだとは思いますが、そんなこと起こらないでしょうから。」
「そうね。」
「でも、今回のことで改めて実感しました。油断大敵ですね。」
「「「そうよ!」」」「そうですわ!」
「今まで怪我する様なことがなかったので‥‥自分が怪我して初めて、油断してるつもりはなかったのに、甘かったなって思いました。」
「マリンはあいつを見つけ出して捕まえることもできるのよね?」
「それはあいつが近くにいればの話ですね。王都から離れたら探す手立ては今の所ありません。」
「そう‥‥」
「クリス。あんまり話してると、マリンちゃんが遅刻しちゃうわよ?」
「「あ。」」
「ごめん。マリン。」
「いえ。姉様は私の心配をしてくれただけですから。」
そして朝食まで頂いた後。
「陛下。突然で、しかも2日もお世話になってしまい申し訳ありません。」
「気にするな。‥‥でも私も謝られるのはあまり好きじゃないんだよな。」
「!‥‥陛下‥‥では、言葉を変えますね。2日間お世話になりました。ありがとうございます。‥‥で、いかがでしょうか?」
「ああ。その方がいいな。今度は普通に遊びに来るといい。リオトも喜ぶだろう。」
「では、私も。陛下、お世話になりました。ありがとうございます。」
「ああ。皇太子殿下も遊びに来るといい。」
「陛下‥‥さすがに城は遊びに来るようなところじゃないですよ?」
「そうか?」
「マリンちゃん。無駄よ。父様は伯父様と一緒に城で遊んでたらしいから。」
「え?えっと、伯父様って公爵様ですか?」
「ええ。」
「陛下‥‥私と公爵様を一緒にしないで下さい‥‥。立場が全然違うのですから‥‥。」
「そうだな。すまん。」
「では、そろそろ行きますね。」
「ああ。」
「では行って参ります。父上、姉上。」
「ええ。いってらっしゃい。シリウス。クリスとマリンちゃんもまたね。」
「ええ。」「はい。」
「あ、ここを出る前に姉様を屋敷にお送りしないとですね。」
「そうね。お願い。」
「はい。直接姉様の部屋に繋げますね。」
「うん。」
そして姉様の部屋にゲートを繋げると、あっさり通っていった。
「さて、行こうか。シリウス、レグルス。」
「「ああ。」」
そして馬車に乗る前、私は庭園の方を振り返った。
‥‥‥‥やっぱり、ちょっと離れたらもう分からないか。
あれが封印から漏れ出たやつなのかは分からないけど‥‥
これを離れたら気付かない程度だから大丈夫だと判断していいのか、ネクロマンサーが言った様に封印が解けるのが早まってる兆候と見るべきか‥‥‥。
‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥私じゃ判断つかないな。判断材料が少なすぎる。
「マリン?どうした?」
「あ、ううん。なんでもない。」
「そうか?」
「うん。大丈夫だから、行こ。」
「ああ。」
そして馬車が走り始める。
「‥‥‥‥‥‥なんか変な気分。」
「「え?」」
「リゲルとベネトさんがいなくて、シリウスとレグルスだけってなかったからさ。」
「確かにそうだな。」
「ああ。」
「王子と皇太子が乗る馬車に同乗してるってことか‥‥不思議。あ、レグルス。もう体調とか平気?」
「ああ。大丈夫だよ。さすがにいきなり激しい戦闘とかはしない方がいいだろうが、そんなこと起こらないだろ?」
「ふふっ。レグルス、私と同じようなこと言ってる。」
「え?そうなのか?」
「うん。」
「なら2人共もう大丈夫ってことだな?」
「ああ。」「うん。」
「ならいいさ。」
「あ、シリウス。ルビア様に聞いたんだけど、リオト殿下とルビア様も学園の入試受けるんだってね?2人が首席と次席で入学してきた時にBクラスのままだとお兄ちゃんとして嫌なんじゃない?」
「ぐっ‥‥ああ。それもあってSクラス入りを目指してたんだよ。」
「威厳を取り戻す為?」
「‥‥‥も、ある‥‥」
「一番は私とリジアがマリンと一緒なのが羨ましいからだろ?」
「くっ!‥‥ああ!そうだよ!‥‥リゲルも同じだがな。」
「開き直ったな。‥‥それで、仮に来年運良くSクラスに入れたら生徒会にも入るのか?」
「ああ。そのつもりだ。」
「リゲルも?」
「ああ。そう言ってたな。」
「ええ~‥‥生徒会でも3人揃うの~‥‥?」
「‥‥‥‥言い合いは‥‥多分しないと‥‥」
「思うぞ‥‥?」
「2人共。そういうことは目を泳がせて言っても説得力皆無だよ?っていうか2人共、次期国王と皇帝なんだからしっかりしないと。いくら敵国がないからって今みたいな分りやすい顔してたら外交とかするとき相手になめられるよ?」
「「分かってる。」」
「今だけだからだ。マリンとレグルスだけの‥‥友人だけだからだ。これからそういうのも学んでいく必要があるのも分かっている。こういうのは学生の間までだからな。」
「そうだな。私も同じだ。」
「ふふっ。それなら良かった。‥‥でも、2人共ちゃんと王子と皇太子だね~。」
「「当然だ。」」
「ふふっ。‥‥あ、着いたね。」
そして馬車を降りようとすると、先に降りた2人が手を差し出していた。
「!‥‥ふふっ。シリウス殿下、皇太子殿下。ありがとうございます。」
私はそう言いつつ、2人の手に自分の手を添えて馬車から降りた。‥‥のだが。
「し、シリウス王子と皇太子殿下が一緒の馬車に!?」
「しかも今降りて来たの、マリン嬢だぞ。」
「何故あの3人が一緒の馬車に!?」
「ああ、マリン様‥‥羨ましいですわ!皇太子殿下に手を貸して頂けるなんて!」
と周りで偶然目撃した他の生徒達が騒ぎ出した。
「「「‥‥‥」」」
「シリウス。」
「なんだ?」
「羨ましいって言われた中にシリウスの名前、入ってなかったね。」
「‥‥‥‥そうだな。」
「マリン!‥‥シリウスとレグルスも、おはよう。」
「あ!リジア。おはよう!」
「「おはよう」」
「ふふっ。3人共朝から目立ってるわね。私もちょうど見てたけど、絵になるわよね。3人共。」
「俺も見た。確かに絵になってたな。」
「あ、俺も見た。」
「ベネトさんとリゲルもおはよう。」
「「おはよう。」」
「マリン、殿下。もう平気か?」
「うん。」「ああ。」
「なら良かったよ。」
「あ、兄様。おはようございます。」
「おはよう。マリン。みんなも。」
「「「「「おはようございます。」」」」」
「ってリジア。私達、絵になってたの?」
「うん。見目麗しい3人の男女。絵にならない訳ないでしょ?」
『その通りです!』
リジアの言葉に反応して周囲の生徒達の声が揃った。
「わっ!ビックリした。」
「‥‥同じく。」
「‥‥みんな教室行くか。」
『はい。』
そして全員でそれぞれの教室に向かうべく歩き始めた。
私はみんなから少し遅れて歩き始めて‥‥
‥‥‥‥‥この人達を守る為に私は戦うんだよね‥‥
絶対守ってみせるよ。私の好きなみんなの日常を。
みんなの後ろ姿を見ながら私は決意を新たにしていた。