127話 現れたのは‥‥1
さて、私達兄弟の魔法のお披露目です。
危ないので皆様には事前に離れてもらってからですが、現在威力抑え目の兄弟対決してます。
抑え目でも魔法をバンバン撃ち合ってます。
『‥‥‥‥』
魔法師団の団員の皆様無言です。
「驚いただろ?フリード。」
「え、ええ。予想以上でした‥‥」
「始める前、マリンがあっさりしていた理由が分かっただろ?」
「ええ‥‥」
十数分前。
「え?兄弟対決?」
「はい。私対兄様達4人です。」
「それだと、いじめじゃねぇか。」
「まあ、それだけ聞くとそう感じるよな。」
「大丈夫ですよ。兄弟対決は何度もしてますので。」
「しかも、毎回マリンが勝ってる。一度も負けたことがないそうだぞ。」
「え!?」
「本当ですよ。だから大丈夫ですので、兄弟対決してもいいでしょうか?」
「あ、ああ‥‥」
そして現在。
「さっき言った通り、マリンが勝ち続けてるってのはこれで分かるだろ?」
「ええ‥‥」
「嘘だろ‥‥‥全員無詠唱の上にあの威力‥‥」
「しかも兄弟対決ってことはあの一人で相手してる子が末っ子だよな‥‥?」
「あ、ああ‥‥多分。その子も無詠唱で4人からくる魔法を全て捌いてるぞ‥‥」
「その間に攻撃までしてるよな?」
「あ‥‥ああ。」
「‥‥‥は!‥‥こほんっ。お前達、あの一人で相手してる子はシリウス王子の友人で同い年の子だぞ。お前達、あの子に勝てる自信あるか?」
『‥‥‥‥』
そうして魔法師団の団員達と、フリード、シリウスが話していると、遠くのマリンから声が掛かった。
「あの~!フリードさん!」
「なんだ?」
「このまま続けると兄様達が疲れるか、私が兄様達を気絶させるかしないと終わりませんよ~?」
「あ、ああ!止めていいぞ!」
「だ、そうです。兄様達!」
『分かった。』
そしてぞろぞろと私達兄弟はみんなのところに戻る。
「いかがでしたか?」
「驚いた。いろんな意味で。」
「そうですか。お役に立てました?」
「どうだ?お前達。」
『‥‥‥‥‥』
「えっと、無言なんですが‥‥」
「だな‥‥‥あ。こいつらが復活するまでの間、ちょうどいいからとあるものを見せてやるよ。ちょっと待ってろ。」
「え?はい。‥‥なんだろ?」
『さあ?』
そして少しして。
「待たせたな。マリン、見せてやるって言ったのはこれだ。」
と、フリードさんが一枚の紙を差し出した。
そこに書かれていたのは一人の人物の姿絵だった。
「?‥‥‥誰ですか?」
「例の指名手配犯だよ。」
「え!?じゃあこの人がネクロマンサー‥‥?え~‥‥?」
「まあ、そうだよな。俺も思った。」
「そうですよね?これ‥‥‥見た目だけなら得意な魔法間違ってますよね?」
「ああ。闇じゃなくて光の間違いじゃねぇの?って感じだよな。」
「ええ‥‥そうですね‥‥。」
そうなんだよ。間違ってるよ。この紙に書かれてる人、めっちゃ綺麗な顔してるんだよ。
髪の色は茶髪だけど、本人を忠実に再現できてるならサラサラなんだろうなって感じの。
‥‥‥男?女?どっち?
と言いたくなる程のサラサラ髪っぽい美形。
「ちなみに男性なんですか?女性なんですか?」
「ああ。それはな‥‥」
ドクン
えっ。
は!まずい!
「【シールド】!」
「‥‥‥ほう。これを防ぎますか。完全に不意を突いたと思ったのですが‥‥やりますね。」
「な!あ、あなた‥‥まさか!」
私が突然来た上からの魔法攻撃を防ぐと、頭まで覆うローブを来た人が降り立ってきた。
そしてその時頭に被っていたローブがふわっと一瞬上がって見えた顔に私は驚いた。
なんせその顔はたった今、見せてもらっていた紙に書かれていた人物と同じ顔だったからだ。
一瞬だったので、また隠れてしまっているが。
「おや?あなたは‥‥‥ふふっ。強い魔力を感じたと思ったらあなたでしたか。マリン様。」
「え?‥‥‥私はあなたとはじめましてのはずですが?」
「ええ。はじめましてで間違いないですよ。」
「ではあなたは何故、私のことをご存知なのですか?」
「それは私がマリン様を初めてお見かけした時からあなたをいつか我がものに。と調べさせて頂いたからですよ。」
『は?』
「初めてマリン様をお見かけした時は胸が震えました‥‥!やっと探し続けた人に会えたようなあの高揚感!!」
『‥‥‥‥‥』
「ですが‥‥直後、私が崇高すべき存在が我が体内に入り込みました。」
「え?」
「その時彼のお方は私にこう仰いました。「あの者はいずれ我が器となる者。手出しは認めん。」と。」
『な!?』
「勿論私は答えました。「はい。」と。それと同時に思いました。いつかマリン様を私の手であの方の器たるに相応しく染め上げて差し上げようと‥‥!」
「え‥‥え?」
「色に例えるなら今のマリン様は純粋な真っ白。そしてあの方は真っ黒。このままでは正反対。あの方の器にはできません。なのでゆっくり黒く染め上げて差し上げますよ。マリン様。」
「は!?」
こ、こわ!何この人。闇に落ちてる感じの人だよ!
ぞわって!今めっちゃぞわって来た!
「えっと‥‥‥お断りします。」
「な!?何故ですか!?あの方の器になるに相応しい逸材だというのに!私が器になれるなら喜んで差し出すところだというのに!」
「えっと‥‥‥誰かに自分の体を好きに使われるとか嫌だからです。」
「そ、そんな理由で‥‥!?いや、待てよ‥‥マリン様。」
「は、はい?」
「‥‥‥よく考えたらあの方の器になるにはまだ強さが足りません。マリン様には強くなって頂かないと。」
「は、はあ‥‥」
「‥‥‥ふむ。マリン様がいるならとりあえずあいつらはもう用済みだな。」
「あ、あいつらってもしかして誘拐した人達のことですか?」
「ええ。マリン様もある程度私のことを知ってくれているようですね。」
「はい。恐らくですが、ネクロマンサーと呼ばれていらっしゃる方ですよね?」
「はい。正解ですよ。」
「それで、誘拐した方々はどうされるおつもりですか?」
「殺すのも面倒なので引き取って頂けますか?マリン様。」
「え?‥‥‥はい。返してくださるんですか?」
「ええ。‥‥マリン様が私のことをどこまでご存知かは知りませんが、折角です。私の得意な魔法を一つお見せしましょう。」
「「え?」」
と私と同時に声を出したレグルスが私に近付いてきた。
「え?レグルス?こっち来たら危ないよ!‥‥レグルス?」
「ふふっ。無駄ですよ。今私が操らせて頂いてますから。」
『え!?』
「え?‥‥‥ちょっ‥‥‥何を、っ!」
ネクロマンサーはレグルスを操って私に近付き、そのまま私を抱きしめて口付けてきた。
「ん!‥‥‥‥‥っ!」
そして口付けたままレグルスが帯剣していた剣を抜き、私の背中から私の体とレグルスの体を貫いた。
そしてようやく唇を離したレグルスを操ったままネクロマンサーは愉快そうに告げた。
「ふふっ。油断しすぎですよ。マリン様。」
「「「「マリン!殿下!」」」」
「「「マリン!レグルス!」」」
「まだ来ちゃ駄目!」
『!』
「っ!‥‥‥ま、マリン!大丈夫か!?」
「‥‥レグルス?」
「ああ。ごめん‥‥っ!ゴフッ!」
「っ!ゴフッ!‥‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥大丈夫。」
「‥‥だが!」
「‥‥‥レグルス。私を信じられる?」
「な、何を!‥‥マリンを信じないのはあり得ない!」
「そっか‥‥‥じゃあちょっとそのまま動かないでね。剣もまだ抜かないで‥‥ごめんね‥‥痛いだろうけど‥‥‥私もだから一緒に耐えて。」
「ああ‥‥‥勿論だ。」
「‥‥‥ありがと。」
そしてレグルスから少しだけ肩を離した私はレグルスの胸の辺りに片手を置き意識を集中させる。
まだ、ネクロマンサーがレグルスから出た感じがないからまだ中にいるはず‥‥
痛くていつもより集中し辛いな‥‥‥‥
‥‥あ。いた!
「【光牢獄】!‥‥‥つ‥‥捕まえ‥‥た
‥‥ヒスイ兄様!‥‥これ、持っててください!」
と、レグルスの体の中からネクロマンサーを捕らえ、無理矢理出した後、ヒスイ兄様に投げ渡した。
「え!?‥‥‥ととっ!」
「ネクロマンサーが‥‥その中に‥‥いるので‥‥気をつけてください!」
「え!?あ、ああ。」
さて、次は‥‥
「レグルス‥‥真っ直ぐ剣を‥‥引き抜くの難しいよね?」
「‥‥ああ。」
「‥‥‥じゃあ‥‥ベネトさん!」
「な、なんだ?」
「私達に刺さってる剣を抜いて!」
「え!?わ、分かった。」
そしてベネトさんが私達に近付いてきたところで。
「ベネトさん‥‥一先ずレグルスに‥‥刺さってる分だけ引き抜いて。」
「「え?」」
「でも、一気に引き抜かないと痛くないか?」
「そうだけど‥‥‥今の私に‥‥この傷を2人‥‥纏めて治癒は‥‥‥難しいんだよ。」
「!‥‥‥分かった。‥‥死ぬなよ?マリン。」
「ふっ‥‥‥死なないよ‥‥‥生き抜いて‥‥‥みせるから
‥‥‥ベネトさんも信じて。」
「ああ。じゃあいくぞ。」
「うん‥‥ゆっくりやってね。」
「ああ。」
そしてゆっくりレグルスに刺さってる分だけ引き抜いてくれた。
「ぐっ!」
「っ!‥‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥よし、じゃあ‥‥」
そしてレグルスの体から刺さった剣が離れたところで、私はレグルスの傷に手を翳した。
「【エクストラヒール】」
『!』
するとみるみる内にレグルスの傷が塞がっていった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥ゴフッ!」
『マリン!』
「大丈夫。‥‥‥はぁ、口の中‥‥血の味で‥‥気持ち悪いな‥‥ベネトさん‥‥今度は全部引き抜いて。」
「あ、ああ。すぐにやっていいのか?」
「うん‥‥」
肺をやられなくて良かった‥‥
と思いながら私は一度ゆっくり呼吸した。
そして。
「‥‥‥いいよ。やって!」
「分かった。」
そして再びベネトさんはゆっくり剣を抜いてくれた。
「ぐっ!‥‥‥はぁ‥‥‥はぁ‥‥ありがとベネトさん。」
「‥‥‥あ、ああ。」
「じゃあ私も‥‥【エクストラヒール】」
そして私の傷も塞がったところで。
「‥‥ふぅ‥‥レグルス。私もだけど、傷は治せても失った血は戻ってないから、しばらく無理しちゃ駄目だからね。」
「ああ。分かった。」
「さて、ネクロマンサーさん。これからどうしますか?」
『え?』
すると光牢獄に捕まえていたはずのネクロマンサーが出てきて元の姿で現れた。
「おや?もしかして私の魔法がどういうものかお気付きに?」
「私が聞いていたのは幻影か何かを使って逃げてるという話でしたが、それだけじゃないですよね?」
「ええ。」
『!』
「あなたが今レグルスにしたのは憑依の類いですよね?」
「ええ。正解ですよ。マリン様。」
「なら、今の私にあなたを捕まえることはできませんね。」
『え!?』
「ええ。そうでしょうね。」
「それで、私を生かした理由は器にさせる為ですか?」
「ええ。勿論。」
「なら何故マリンを刺す必要がある!」
「私を試す為ですよ。フリードさん。‥‥違いますか?」
「いいえ。それも正解ですよ。マリン様。」
『な!?』
「それで、あなたはこれからどうするおつもりですか?私を誘拐しますか?今なら誘拐しやすいでしょうし。」
『っ!』
「いえ。あなたの今の実力を見せて頂きましたし、そこの皇太子越しでしたが、あなたに口付けまでできましたからね。
‥‥‥あれは甘美でした‥‥!なので私としては大いに大満足です。‥‥あ、マリン様。もしかして初めてでしたか?」
「‥‥‥‥いいえ。初めてはそのレグルスに去年奪われてるので今更です。」
『え!?』「‥‥‥」
ネクロマンサーと魔法師団の皆さんが驚き、レグルスはなんとも言えない感じの表情をしていた。
そして私は再びぞわってしてました。
だって甘美とか言うんだよ?
見た目成人した大の大人が12歳の未成年に口付けできた!って恍惚とした顔で喜んでるんだよ?
‥‥‥‥マジで怖いわ‥‥‥
「じゃあ王国の王子とかにしてみたら面白くなってましたかね?」
「はぁ‥‥‥シリウスとリゲルにもされてるので意味ありませんよ。」
『えええ!?』
再び魔法師団の方々が驚きました。
ちなみに私と一緒にここに来た人達は全員知ってることなので、こちらはなんとも言えない感じの表情です。
「そうですか‥‥。まあいいでしょう。満足出来ましたからあなたも他の人達も誘拐することは止めて差し上げます。」
「誘拐すること「は」?他に何かするつもりですか?」
「どうでしょうね?とりあえず王国と帝国に手を出したらマリン様の逆鱗に触れそうなのでやめておきます。なので、ご安心を。」
「私の逆鱗に触れてもあなたなら逃げられるのでは?」
「いえ。あなたは同じ過ちを繰り返さない。私に次はありませんよ。今もあなたが私を追いきれないと判断したのは集中し辛いからというだけでしょう?体調が万全で集中して私を探せばあなたは確実に私を捕らえられます。」
「はぁ‥‥‥その通りです。」
『え!?』
「マリン様。良く静養して早く強くなってください。あなたが思っている以上に早くあの方は復活しますよ。」
「え!?」
「では。私は失礼しますね。」
『あ!』
とものすごく気になることを言い残し、ネクロマンサーはサッと消えていった。
「はぁ‥‥‥気配を感じない。完全に逃げられました‥‥」
「そうか‥‥それより、マリン。大丈夫か?」
「ベネトさん。大丈夫だと思いますか?‥‥‥血を出し過ぎました。気を抜いたら倒れますよ、私。」
『え!?』
「でもその前にやることがありますが‥‥‥はぁ‥‥とりあえず口の中濯ごう。血の味で気持ち悪い。」
『‥‥‥‥』
みんな、え?今そこ気にする?みたいな顔してるけど、本当に気持ち悪いんだよ?
私はそう思いつつ、魔法で水を出して口の中を濯いだ。
「マリン、私もいいか?」
「うん。いいよ。」
そしてレグルスも口の中を濯ぎ終わったところで。
「ベネトさん。レグルスの剣貸して。」
「え?おう‥‥」
そしてベネトさんからレグルスの剣を受け取ると、やっぱり闇の魔力が込められていた。
「はぁ‥‥‥やっぱりか。」
『え?』
「ネクロマンサーが剣に闇属性の魔力を纏わせてます。それにこの辺りの空気にも闇属性の魔力が少し漂ってます。浄化しますね。」
『え!?』
「【セイクリッドシャイン】」
これでレグルスの剣とこの辺りの空気に漂ってる闇の魔力は浄化できたが‥‥
「はぁ‥‥やっぱり集中出来てないな。」
「え?まだ残ってるのか?」
「うん。レグルスと私の体の中にね。」
「え!?」
「私の中にあるのは後回しでも問題ないけど、レグルスのは消さないとね。」
「え?マリンは後回しって大丈夫なのか?」
「うん。この精霊王にもらった服と加護があるからね。耐性はあるみたい。平気だよ。」
はい。今浄化魔法使ったので精霊王の衣の姿に変わってます。
「そうか‥‥」
「レグルス。私は大丈夫だから。それより浄化するからじっとしててね。」
「あ、ああ。」
そして私はレグルスに近付いて、剣を渡した。それを鞘に戻したのを確認したあと、両手でレグルスの肩を掴んだ。
「【聖光】。」
ん?やっぱり消えないな‥‥‥やってみるか。
そして私は魔法を発動させたまま両手をレグルスの肩から頬に移して顔を挟み、レグルスに口付けて直接浄化の魔力を流した。
「っ!」
お、消えそう‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
はぁ。やっと消えた。
そして口を離してレグルスを見ると、顔が真っ赤になっていた。
「ぷっ。レグルス、顔真っ赤!」
「しょ、しょうがないだろ!」
「ふふっ。そうだね。‥‥‥‥うん。浄化出来たみたい。」
「そ、そうか。ありがとうマリン。」
「うん。どういた‥‥‥しま‥‥して‥‥」
言いながら体の力が抜けると同時に視界が霞み始めるのを感じていると。
『マリン!』
「‥‥っと!」
目の前にいたレグルスが一旦は支えてくれたが‥‥
「ごめん。レグルス。もう‥‥限界‥‥みたい。」
「ああ‥‥‥私もかな‥‥」
と私を支えてくれたレグルスも一緒にふらっと倒れるのを自覚するが‥‥
「お、おいおい!殿下、マリン!!」
「マリン!殿下!しっかりしろ!」
ベネトさんの慌てた声を聞きながら私は意識を失った。