122話 冒険者ギルドにて
週末。私は一人、王都を歩いていた。
目的地は冒険者ギルド。盗賊討伐の書類提出のためだ。
そして受付嬢へ事前にストレージから出しておいた書類とギルドカードを出した。
「すみません。これを、こちらへ提出する様に言われて持って来たのですが‥‥」
「はい。お預かりしますね‥‥‥‥って、この書類!‥‥‥マリン様!?」
「はい?」
「マリン様、これからお時間ありますか?」
「え?はい。大丈夫ですよ?」
「では、ギルドマスターがマリン様をお待ちでしたので、お会い頂けませんか?」
「え?私をですか?」
「はい。いかがでしょうか?」
「構いませんよ。」
「ありがとうございます。あ、ギルドカードも確認しましたのでお返ししますね。」
「あ、はい。」
「ではご案内致しますので、こちらへどうぞ。」
「え?いきなり行って大丈夫なんですか?」
「ええ。ギルドマスターよりマリン様が来たらすぐにお通しするよう言われてますので。」
「そうなのですか!?」
「ええ。」
そして案内されるがままにギルドマスターが待つ一室に到着してすんなり通された。
「いらっしゃい。待ってたわよ。マリン。」
「お待たせしたみたいですみません。」
「いいのよ。まだ学生だから来るなら週末かなって思ってたしね。とりあえず座って。」
「はい。失礼します。」
そして受付嬢の方が2人分の紅茶を準備してくれて去ったあと、2人だけになったところで。
「ねぇ、マリン。盗賊の討伐したからあとは護衛依頼受けたらAランクになれるわよ。受ける?」
「いえ。そんなに急いでランク上げたい訳でもないですし、まだBランクのままでいいです。」
「そうなの?」
「はい。私、まだ登録して半年も経ってない12歳ですよ?急ぐ必要はないですよね?」
「まあ‥‥そうよね。」
「何かあるのですか?」
「ええ。できればマリンにはなるべく早くSランクになって欲しいのよ。」
「え!?Sランクですか?」
「ええ。マリン。帝国で皇帝陛下の依頼を受けてアンデッド集団の浄化したわよね?」
「はい。」
「あれも陛下の指名依頼じゃなかったら本来はSランクじゃないと受けることはできないものだったのよ?」
「え!?」
「そりゃそうよ。アンデッドは浄化が使えないなら火で焼くしかない。しかも集団でいるなら相応の実力者じゃないと無理よ。そして魔物の森の中だから自然破壊になるし、消火が難しいから陛下もなるべく火魔法で焼くことはしたくないと渋ってらしたでしょ?」
「はい。」
「でも浄化なら森を焼くことなくアンデッドの討伐ができるわ。マリンは陛下にとってまさに希望だったでしょうね。だから指名依頼という形でマリンに浄化してもらった。その話も聞いてるでしょ?」
「はい。陛下は事細かく話してくださいました。」
「そう。‥‥まあそういうこともあるし、私もマリンに頼みたいことがあるのよ。」
「え?私にですか?」
「ええ。‥‥最近、とある闇ギルドマスターが各国で誘拐事件を起こしてて、指名手配されてるのよ。」
「え?誘拐事件の犯人が闇ギルドのギルドマスターって分かってるんですか?」
「ええ。そいつは人々が見てる中で堂々と目的の人物を誘拐していってるのよ。」
「え?闇ギルドのマスターなのに目立ちたがり屋なんですか?」
「それは知らないけど、自分の能力に余程自信があるんじゃないかしら?」
「へ~‥‥‥各国?王国にも被害者がいるんですか?」
「いいえ。何故か王国と帝国では被害者が出てないわ。」
「そうなんですか?」
「ええ。だから私達はこう考えたのよ。去年、リリアーナ王女達を誘拐した伯爵が連れて行こうとしてたのはその闇ギルドマスターのところじゃないかとね。」
「え?どうしてそう考えたのですか?」
「王国を足掛かりに人材を集めようとしたらマリンに防がれて失敗した。人を使うより自分で誘拐した方が確実だと判断したんじゃないかと思ったのよ。実際、伯爵には闇ギルドとの繋がりがあったみたいだしね。それで、王国はとりあえず一旦諦めて他の国からって事かなと思ってね。」
「はあ‥‥。では帝国に被害者がいない理由は?」
「それも去年陛下を襲った‥‥義賊だったかしら?をマリンが返り討ちにして捕らえたでしょ?まああれは多分けしかけただけだろうし、陛下自身がお強いからね。単純に警戒してるだけじゃないかしら?」
「そうですか‥‥。ではギルドマスターが私に依頼したいことってもしかして‥‥」
「ええ。その闇ギルドマスターの討伐、もしくは捕獲。生死は問わないわ。倒して誘拐された人達を保護してほしいの。」
「でもそれなら他の冒険者やそれこそ、各国の騎士や兵士の方々が捕らえたりしないんですか?」
「できないのよ。捕らえることが。」
「え?何故ですか?」
「そいつはね。闇ギルドのマスターらしく、闇魔法の使い手でね。自分の幻影を作ったり、あらゆる手段で逃げたりするからどうしても捕まえられないのよ。しかも誘拐された人達の行方も分からないから救い出すこともできない。救い出せてもどうしようもない可能性もあるのよ。」
「どうしようもないってどうしてですか?」
「そいつの異名にもなってる能力のせいよ。」
「異名ですか?」
「ええ。そいつはね、こう呼ばれてるのよ。「死霊術士」ってね。」
「え?ネクロマンサーって死人を操るとかじゃなかったですか?」
「ええ。本来はね。でもそいつは生きてる人間も操るのよ。」
「!‥‥精神攻撃の類いですか?」
「かもしれないわ。詳しくは本人のみぞ知るってことね。」
「それで私に誘拐された人達を保護して、本当に精神汚染を受けていたら浄化魔法で戻してほしいと?」
「ええ。そういうことよ。」
「‥‥‥‥」
「ごめんね。12歳の女の子には荷が重いわよね。でも忘れてとは言えない。心に止めておいてほしいだけ。Aランクになるのも急ぐ必要はないわ。今話したことも確かに大人達でなんとかすべきことだもの。ただ‥‥」
「はい。もし、誘拐された人達を保護して精神異常があるなら。闇魔法の影響を受けていて、私が助けられるなら助けます。」
「ええ。ありがとう。その言葉だけで十分よ。今日は時間をとってごめんなさいね。」
「いえ。では失礼してよろしいでしょうか?」
「ええ。」
「分かりました。では失礼します。」
そしてマリンが去ったあと。
「やっぱりすぐには頷けないよね‥‥。でも助けられるなら助けます‥‥か。ああいう優しい子だから神様も浄化魔法をあげたのかしらね‥‥」
と、ギルドマスターが一人呟いていた。