116話 国王陛下への報告
そして城に到着して、いつも通りに一室に案内された。
そこには既に陛下、王妃様、宰相様、公爵様が座っていた。
「陛下、ただいま戻りました。」
「ああ。みんなもよく来てくれた。座ってくれ。」
そして全員が座ったのを確認した陛下から話し掛けてきた。
「それで、今日は例の件の話をしに来てくれたのか?」
「それもありますが、それだけではありません。」
「何かあったのか?リジア嬢が一緒なのは?」
「はい。今年は帝国で色々ありましたが、それとは別に私個人のことでもお話があります。それを一緒に聞いていてほしいということで、リジアにも私が無理を言って一緒に来てもらいました。」
「そうか。」
「ではまず、私個人のことからお話してもよろしいですか?」
「ああ。話す順番は任せる。」
「ありがとうございます。実はこれから話さないと他の話の時にあれ?ということになってしまいますので。」
「そうか。では私が最初に言った例の件にも関わる話なのだな?」
「はい。では私個人の話ですが、これは陛下、王妃様、公爵様、宰相様、リジア以外のこの場にいる全員には既に伝えていることなのですが‥‥」
「マリン?」
「リジア、私の覚悟が足らなくてリジアに話すの、遅くなってごめんね。」
「え?」
「‥‥陛下は薄々感じていらっしゃるでしょうが、私が使える属性魔法は水、土、風、光だけではありません。残りの火と闇も使えます。そして夏休み前に使った浄化魔法ですが、あれは光魔法とは別物で聖魔法になります。なので私が使える魔法は6属性全てと聖魔法、空間魔法です。」
「「え!?」」
「陛下はあまり驚かれないのですね。宰相様と公爵様も。やはり私を御使いだと疑ってらっしゃるからですか?」
「いや。正直驚いてはいるぞ。浄化が聖魔法とは初めて知るからな。だが、マリン。何故それを話す気になったのだ?」
「それは、家族と話している時に気付いたからですよ。陛下に疑われてようと関係ない。私は自由だと。」
「どういうことだ?」
「まず、今の話ですが、家族には洗礼後すぐに話しました。ステータスを見せる訳にはいかない理由として。次に去年はリリ様とマリア様に、今年はシリウス、リゲル、レグルス、ベネトさんに話す前にそれぞれ家族と相談しました。そして今年、相談した時に気付きました。私の魔法を知られても皇帝陛下も国王陛下も私を自由に使う権利はないと。」
「何故そう思った?」
「私は確かに王国の国民です。ですが、一令嬢です。どんなに功績を挙げようと爵位を得ることはありません。そして爵位は陛下に、国に忠誠を誓うもの。なので私が忠誠を誓うことはありません。ただ冒険者ではありますので、陛下は指名依頼という形でなら私を使うことができます。それもあくまでも依頼。私が断ることは可能です。私は爵位もないですし、今はまだ未成年。断る要素はありますから。だから私は自由だと、私は私の力をどう使うか自分で決められる。陛下に従う義務はないとそう思いました。」
「なるほどな‥‥」
「陛下。私個人の話はもう一つあります。」
「なんだ?」
「私は空間魔法の一つとしてゲートが使えます。これは移動魔法です。実際にお見せした方が分かりやすいかと思いますがどうされますか?」
「「「「「え!?」」」」」
「え?マリン、移動魔法って‥‥?」
「えっと、例えばここから屋敷の私の部屋とか、帝国とかでも一瞬で行けるよってこと。」
「え!?」
「それで陛下、どうしますか?」
「‥‥‥見せてもらえるか?」
「はい。あ、えっと父様。どこに繋げたらいいですか?」
「なんで俺に聞くんだ‥‥?荒野でいいんじゃないか?」
「はい。では荒野にしますね。」
そして私が荒野にゲートを繋げると、何故か一緒に来た家族も含めた全員が通った。
それに続いて陛下達が最後に恐る恐る通った。
「おお‥‥本当に別の場所に来た‥‥」
「ま、マリン。ここ‥‥どこ?」
「ごめん。場所は言えない。それは家族全員にも知らせてないの。ただ私達の魔法の練習場にしてる場所だよ。」
「あ、そうなんだ。」
「マリン。ちょうどいい機会だし、リジアに火と闇を見せてあげたら?」
「そうですね。姉様、火魔法で何かやってほしいのありますか?」
「あ、それならあの爆発したやつもう一回見たい!」
「え?あれですか?‥‥確かにここでしか使えませんね‥‥ではそれでいきますか。」
少し移動してから、誰もいない安全な場所に向けて放った。
「【大爆発】!」
ドガァァァァァァァァン
「「「「「‥‥‥‥」」」」」
「おお~!やっぱり凄いね~!マリン。」
「そうですか?では次、闇ですね。やっぱり槍ですかね?」
「うん。それでいいんじゃない?」
「はい。‥‥では【闇槍】!」
そして戻ってきた私が聞いたのは‥‥
「ラルク‥‥凄い娘だな。」
「はい‥‥。俺も最初は衝撃でしたよ。洗礼の翌日に全属性での魔法を見たんですから‥‥。」
という陛下と父様の会話だった。
「陛下、皆様。話すことはまだありますし、戻りますか?」
「ああ‥‥」
そして再び城の客室内へ。
「ちなみに今の様に皇帝陛下にもお伝えしてます。そして私個人の話と言っていいのか分かりませんが、もう一つ。私は帝国で加護をもらいました。」
「「「「「加護?」」」」」
「はい。浄化魔法を使える者だけだそうです。しかも加護を与えたのは私が初めてらしいです。」
「らしい?あと、加護とは?」
「私は精霊王の加護を頂きました。そして精霊王本人にも会いました。」
「「「「「精霊王!?」」」」」
「はい。精霊王曰く、私は加護をもらっていなかったらいずれ自分の魔力に体が負け始めると言われました。」
「体が負ける?」
「うん。私の魔力は特殊らしくてね。何を基準に言ってるのかは分からないけど、私の魔力って純粋で綺麗な魔力らしくてね、その魔力は人を惹き付けるけど強すぎると体に影響が出るみたいなの。学園で初めて浄化を使った時倒れてなかなか起きなかったでしょ?あれは確かに闇の力が私の中に入ってたのもあるけど、突然浄化を使ったから体が驚いたっていうのが一番の原因なんだって。」
「そうなの!?」
「うん。でね。私の体を守る意味もあって精霊王は私に加護をくれたの。」
「じゃあもう浄化を使っても倒れないの?」
「うん。もう大丈夫だよ。」
「マリン。もう一つ見せるもんがあるだろ?」
「ベネトさん‥‥他人事だからって‥‥」
「なに?」
「‥‥‥精霊王に加護と一緒にもらったものがあるの‥‥」
「見せてくれるの?」
「うっ‥‥‥恥ずかしいけど見せないと不公平だよね‥‥」
ということでまた精霊王の衣を着た姿に変えました。
「か」
「か?」
「可愛い~!マリン、髪の色まで変わってるじゃない!」
「だよね!?なんでマリンが恥ずかしいって言うのか分からないけど、可愛いわよね?」
「はい!」
「リジア‥‥姉様‥‥ますます恥ずかしいので、戻っていいでしょうか?」
「「まだ!」」
「‥‥‥‥はぁ‥‥またか‥‥」
「私は嬉しいぞ?また見れたからな。」
「レグルス‥‥‥しょうがない。‥‥リジア。私ね、浄化魔法を使う度にこの姿になるらしいんだよ。」
「え?そうなの?」
「うん。‥‥さて、話を戻しますね。陛下。私個人の話は以上なのでここから帝国であったことと、陛下が聞きたいであろうことをお話します。」
「ああ。分かった。」
さて、ここからが話の本番。
帝国であったことと、話すべきことだ。
「まず、私は帝国に着いて3日目から父様達と別行動を取ることになりました。なので父様、アクア兄様、姉様、リリ様、マリア様の5人は先に帝国を出ることになりました。そして私が別行動を取ることになった理由ですが、それは皇帝陛下からの指名依頼があったからです。」
「「「「「え!?」」」」」
「皇帝陛下からの依頼は帝都から馬車で2日の距離にある、魔物の森にいるアンデッドの浄化です。詳しくは帝国でのことですので差し控えますが、現時点で浄化魔法を使えるのは私だけ。特に断る気もなかったので引き受けました。ただこの依頼は魔物の森に行くだけで最低でも往復4日掛かります。実際は5日掛かりましたが、このままでは本当に親善パーティーの為だけに行った様なものです。父様達の滞在日数も伸びてしまいますし。そこで私のゲートです。」
「なるほど。ゲートで領地の屋敷に帰ればいいと。」
「はい。そして私がアンデッドの浄化を終えて城に戻ってきた時、シリウス、リゲル、レグルス、ベネトさんは待っていてくれました。なので4人と一緒に帝都観光をしたりしました。」
「え!?マリン、その4人と観光って‥‥すごいことするわね‥‥」
「私もね。まさか全員歩いて観光するとは思わなかったよ。両方の国民からしたら4人共、なかなか会うことすらできない筈の人達なのにその自覚が足りないの!誰も馬車で動くという提案をしないの、信じられる!?」
「えっと‥‥でも、それはマリンもだよね?」
「そうだけど、私は冒険者でもあるから、むしろ歩き慣れないといけないの。でも4人は違うでしょ?」
「あ~。確かにそうだね‥‥」
「でしょ!?まあ‥‥結果私が付き合ってもらった感じになったし、歩き出す前にレグルスとベネトさんが一言言ってくれて、国民の皆さんが私達のことそっとしててくれたから、あんまり文句言えないんだけどね。」
「マリン‥‥」
「うっ‥‥話を戻します。父様達がそろそろ領地の屋敷に着いてるかなってぐらいに4人とゲートで屋敷に戻ったのですが、まだ戻ってきてなかったんです。母様に聞くと確かにその時間ぐらいには帰ってきてる予定だったと。」
「そこからが、私が聞きたかったことだな?」
「はい。私はすぐにサーチで父様達が通る筈の道を探しました。そして人の塊が父様達に近づいているのに気付いて、母様に念のために確認しました。「盗賊の被害の情報が上がってたりしますか?」と。」
「盗賊‥‥‥いたの?」
「うん。‥‥母様はそういった報告が上がってるとすぐに答えてくださいましたので、父様達の近くにいるのは間違いなく盗賊だと分かった私は、シリウス達を屋敷に置いて一人で父様達のところまで行きました。現場に着いた時には既に父様、アクア兄様、姉様が戦っていました。‥‥盗賊達は全員倒しましたが、リリ様やマリア様にも怖い思いをさせてしまいました。私が一緒にいれば早い段階で盗賊に気付き、先に倒してから進むなり、迂回して避けるなりできたはずだったのにと‥‥」
「マリン。気に病む必要はない。結果、マリンはまたしてもリリ達を守ってくれた。盗賊達もどちらにせよそのままにするわけにもいかんしな。」
「はい‥‥」
「なるほど‥‥。確かに先にゲートの話を聞いてないと話が噛み合わないな。」
「ああ‥‥。でな、マリン。盗賊達の処遇だが、やはり全員処刑になりそうだ。」
「そうですか‥‥」
「折角マリンが全員生け捕りにしてくれたが、辺境伯当主、王女、公爵令嬢を襲ったんだ。処刑は免れん。」
「はい。父様と詰所の兵士さんから伺ってます。まずそうなるだろうと。」
「そうか。では私が話すことは特にないが、マリンはまだ何かあるか?」
「はい。私の魔法の件はできれば広めないでほしいです。色々面倒なことになりかねないので。」
「ああ。それは勿論だ。」
「ありがとうございます。あとは一つだけ。皇帝陛下から言付かっていることがあります。」
『え!?』
私と一緒にいたシリウス達以外全員が驚いた。
やっぱり驚くよね‥‥
「陛下に話終わったら、皇帝陛下も陛下と話したいことがあると。そう伝えてくれと言われました。」
「それはゲートで繋げてどちらへも行けるからか?」
「はい。そうです。‥‥陛下。皇帝陛下とお話されますか?どちらにしても私が皇帝陛下に報告に行きます。」
「‥‥‥‥‥話そう。伝えて来てくれ。」
「分かりました。では行って参ります。」
そして私は帝国で泊まらせてもらっていた客室にゲートで向かい、(すっかり忘れていたが、精霊王の衣の姿を元に戻してから)雲隠で姿を消して皇帝の執務室に向かった。
幸い、部屋の前も中も陛下以外の気配を感じなかったので、姿を表してから執務室の扉をノックした。
そして返事が返ってきたのを確認してから中に入る。
「陛下。お待たせしました。国王陛下に話終わったあと、陛下からの伝言を伝えました。」
「それで?」
「話すそうです。どうしますか?陛下が行きますか?」
「ああ。俺が行く。でもちょっと待っててくれるか?カレンも行きたいと言い出したんでな。呼んでくる。」
「分かりました。」
そして少し待つと皇后様と陛下が戻ってきた。
「じゃあマリン。頼む。」
「はい。」
そしてゲートを再び王国の方に繋げる。
「陛下。皇帝陛下と急遽皇后様もお連れしました。」
「ああ。久しぶりだな。」
「はい。お久しぶりです。陛下、申し訳ありませんが、部屋を一室お借りできますか?大人達だけで話したいことがあります。」
「ああ。いいぞ。」
「こ、皇帝陛下が敬語‥‥!凄い違和感!」
「失礼だな!マリン。先輩だったって言っただろ?」
「そうですが‥‥実際にその様子を見ると、やっぱり違和感が‥‥!」
「マリン。気持ちは分かるが、話が進まなくなるぞ?」
「レグルスもひでぇな。」
「確かにそうだね。えっと大人達ということは、私達はどうしてたらいいでしょうか?とりあえず私は、城に残ってないと駄目でしょうし‥‥」
「ああ。大丈夫だ。すぐに終わる。」
「では、陛下方はここでお話しして、私達が別の場所に移動しますか?」
「いいのか?」
「私は構いませんよ。ちなみに皇帝陛下が話したいのは誰まででしょうか?」
「陛下以外なら王妃様、宰相、公爵様、ラルクだな。」
「では移動するなら姉様とアクア兄様から下の全員ですね。」
「じゃあ私かシリウスの部屋にくる?」
「いいんですか?」
「ええ。どっちがいい?」
「私はリリの部屋がいい!」
「私も!」
「私もです!リジアは?」
「私も。マリンと一緒じゃないと落ち着けないもの。」
「シリウス達は?私の部屋にくる?」
「俺は弟だからなんともないが、リゲル達は大丈夫か?」
「大丈夫って?」
「いや、マリン。さすがに気まずいかなって考えるだろ。」
「シリウスでもそんなこと考えるの!?私の部屋に入ってもみんな平然としてたのに!?」
「‥‥‥‥平然とはしてなかったんだがな‥‥」
「へ?」
「いや。‥‥それで、どうする?俺の部屋でもいいぞ?」
「シリウス。男女に分かれたら兄様が気まずいと思うけど‥‥」
「いや。マリン。姉様かマリンがいないと、俺はどっちにしても気まずいぞ。」
「ですよね。‥‥じゃあ私とリジアとリゲルとレグルスとベネトさんがシリウスの部屋で、姉様、兄様、マリア様がリリ様の部屋にしたらどうでしょう?」
「まあそれならいいかな。」
「リジアもいい?」
「うん。マリンが一緒ならそれでいい。」
「そ、そう。」
「じゃあ決まりだな。」
「うん。‥‥という訳で私達はリリ様とシリウスの部屋にいますので、終わったら教えてください。」
「分かった。ありがとな。マリン、みんな。」
『いえ。』
という訳で私達はぞろぞろと部屋を出て、リリ様とシリウスの部屋にそれぞれ分かれました。