114話 模擬戦
さて、模擬戦の開始なのですが。
何故か荒野に行く直前でディアナ母様も見学したいと言い出したので、一緒に連れてきました。
そして、全員が忘れていました。審判を誰がやるのかを。
父様がやれやれと仕方なく引き受けてくれました。
「あの、兄様達。私が使用禁止なのはシールドと攻撃魔法と麻痺とか、ずるい類いのだけですよね?」
「ああ。」
「じゃあ兄様達に直接、何かするのでなければいいということですよね?」
「あ、ああ。そうだが‥‥何するつもりだ?マリン。」
「あ、ヒスイ兄様。それは誘導尋問ですよ。言ったら意味ないじゃないですか。」
「それもそうだな。」
「ちなみに兄様達全員見たことがない魔法です。いつ、何がくるか分かりませんよ?」
「「「「え?」」」」
「いいんですよね?」
「「「「‥‥うん。」」」」
「やった!上手くいけば勝てるよ!みんな。」
「「「「ああ!」」」」
「じゃあマリン達、ヒスイ達も。もう模擬戦始めるか?」
『はい!』
「じゃあ全員準備してくれ。」
ということで荒野の中を移動しようとしたが、その前に。
「兄様達。ベネトさんがどの属性使えるか知らないですよね?」
「「「「あ!」」」」
「楽しみですね~!」
「「「「‥‥‥」」」」
「ほら、みんな行こ。」
「「「「ああ。」」」」
改めて荒野を移動して兄様達チームと私の友人チームが向かい合ったところで。
「では両方共準備はいいか?」
『はい!』
「よし。では‥‥‥‥始め!」
と、父様の開始の合図と共に兄様達全員が一斉に魔法を撃ってきた。シリウス達4人の間、つまりど真ん中に出た私を狙って。
「え?あれ?狙い私?とりあえず、【土壁】。」
兄様達全員の魔法は土壁で防いでる間に。
「えっとみんな。よく考えたら私、後ろにいたらシリウス達守るにしても魔法使えないなって。だからここで守るね。あと、そろそろ壁消すから、それぞれ頑張ってね。」
「「「「ああ!」」」」
「ちょっとマリン!その壁固すぎよ!」
土壁を消したあと、姉様からの文句に返した。
「シールドを使えないんですから固くしますよ。というか、全員で私に向かって魔法撃っといて何言ってるんですか?」
「うっ。」
「それより姉様、私と話してていいんですか?」
「え?わっ!」
「くっ。外したか。」
「シリウス王子!?」
「ふふっ。アクア兄様もこっち見てていいんですか?」
「え?」
レグルス、ベネトさん組がヒスイ兄様とフレイ兄様狙いで、シリウス、リゲルがアクア兄様と姉様狙い。4人共私が土壁を消してすぐに攻撃を始めてる。
つまりリゲルも詠唱を始めていた。
「【岩弾】」
「「うわっ!」」
「リゲル2人共狙えるんだね。でも避けられちゃったね。」
「ああ。でも‥‥!」
「【水弾】!」
「「くっ。」」
「うん。さすが幼なじみ。シリウスは当てたね。っと!【岩弾】」
アクア兄様と姉様からそれぞれ岩弾と氷弾がシリウス達に飛んで来たので相殺しただけですよ?
「くっ‥‥やっぱりマリンの壁は厚いわね。」
「ええ‥‥」
という攻防をしている横ではレグルス、ベネトさん対ヒスイ兄様、フレイ兄様の戦いが繰り広げられていた。
「くっ。やるな。殿下達も。」
「ええ。2人は無詠唱みたいですしね。」
「ヒスイ様、フレイ様!話してていいんですか?【火弾】」
「【岩弾】!」
「くっ。【水弾】!」
「【岩弾】!」
「くっ。相殺された!ベネトさん!」
「ああ!」
うん。2人も頑張ってるね。そろそろかな?
「シリウス、リゲル。そろそろ私が言ったやつやるから詠唱始めてて。」
「「ああ。」」
「レグルス!ベネトさん!」
「「ああ!」」
「「「「!」」」」
「マリンが何か仕掛けてくる。」
「「「ええ。」」」
「ふふっ。兄様達。目の前だけに集中してたら駄目じゃないですか。」
「「「「え?」」」」
「【水沼】!」
そう。リサ先生が学園に来た時に見せてくれたやつだ。
「「「「うわっ!」」」」
思った通り、足元を気にしてなかった兄様達4人は水沼に足を捕られてバランスを崩していた。
「みんな!今だよ!」
「「「「ああ!」」」」
「「「【岩弾】」」」
「【真空弾】」
「え?わっ!」
「うっ!」
「うわっ!」
「ぐっ!」
「‥‥‥そこまで!勝者王家組!」
『え?』
「クリスが気絶してる。残ったアクアも倒したあと、王子達もヒスイ達を狙うって作戦だろ?」
「おお!さすが父様。その通りです。」
「なら足元を捕られて出られない時点で終わりだ。全員気絶させられるのは時間の問題だからな。」
「ですね。‥‥ということでみんな勝ったよ!」
「あ、ああ‥‥私達が勝った‥‥んだよな?」
「うん!」
「「やった!」」
「やったな。殿下。」
「ああ!」
「みんな。怪我とかある?」
「大丈夫だよ。」
「「「俺も。」」」
「なら姉様の様子、見に行っていい?」
「「「「勿論。」」」」
「むしろ全員で行こうぜ。」
そして私達全員まだ動けたので、そのまま歩いて兄様達のところに向かった。
リリ様、マリア様、母様、審判の父様も集まってきた。
‥‥‥‥あ、姉様達結局シリウスに一撃当ててないな‥‥
と思いつつ、全員が集合したところで。
「姉様。大丈夫ですか?」
「ああ。多分気絶してるだけだ。」
「兄様達は?怪我とかありますか?」
「いや。最後の一撃はなかなか効いたが大丈夫だ。」
「マリンに鍛えられてたんですかね?」
「可能性はありますね。」
「兄様達‥‥ひどくないですか?」
「そうか?」
「それはそうと、兄様達。そこから出ないんですか?」
「「「あ。」」」
「その前にクリスをあげてやれよ。お前達。‥‥よっと。」
と言いながら父様が姉様を横抱きに抱え上げてくれたので。
「父様、ありがとうございます。姉様をそのままこちらに向けてもらえますか?」
「ん?ああ。」
「さすがにこのままは駄目ですからね。【洗浄】」
「ああ。なるほどな。」
水沼に気絶して倒れたので、泥水みたいなので汚しちゃったからと、父様ごと洗浄魔法を掛けた。
「ほら、兄様達も。出てきてください。足、洗浄しますから。」
「「「ああ。」」」
3人共ズボッと音をたてながら出てきた。
「【洗浄】これで大丈夫ですか?」
「「「ああ。」」」
「‥‥‥っん。」
「あ、姉様。起きました?」
「‥‥‥あれ?父様?‥‥‥私達負けたんですか?」
「ああ。」
「そうですか‥‥‥父様。ありがとうございました。降ろして大丈夫ですよ。」
「ああ。」
「姉様は怪我とかないですか?」
「えっと‥‥‥‥大丈夫みたい。」
「良かった。」
「あれ?そういえば私、汚れてない?」
「私が洗浄の魔法使いました。」
「そうなの?ありがとうマリン。」
「いえ。私の魔法で汚しちゃいましたし。」
「そうよ!あの魔法、いつ考えたのよ?」
「私が考えた魔法じゃないですよ?」
『え?』
「姉様とアクア兄様は覚えてますか?リサ先生のこと。」
「ええ。」「ああ。」
「リサ先生とミラ先生が去年冒険者科の特別講師で学園に来てくれたんですが、その時にリサ先生が見せてくれた魔法なんです。」
「そうなの!?」
「はい。今まで見せてなかったのは、さすがにこれを使ったら駄目かなって思ってたからです。でも今回は私はシールドと攻撃を禁止されてたので折角ならとお見舞いしました。」
「「「「‥‥‥‥」」」」
「マリンはその一回見ただけで覚えたのか?」
「うん。そうだよ。ベネトさん。」
『‥‥‥』
「それで、姉様、アクア兄様。」
「なに?」「なんだ?」
「結局シリウスに一撃当ててないですよね?」
「そうね‥‥」「ああ‥‥」
「俺も殿下に一撃当てられなかったな。避けられるか相殺された。」
「それは近くに一番いい見本がいますから。」
「ああ、確かにな。兄弟対決も見せてもらってたしな。」
「やっぱりマリンを入れたのは失敗だったな‥‥」
「お前達‥‥今兄弟対決って聞こえたんだが、こんな感じの事をやってたのか?」
「父様。これはまだ優しい方ですよ。普段は私対兄様達4人ですから。これはさすがに攻撃もシールドも使いますが。」
「な!?マリン対兄弟4人?‥‥‥お前達‥‥」
「でも私が毎回勝ちますよ?」
「「え!?」」
「ま、マリン。ヒスイ達4人相手に勝ってるの?」
「はい。母様。」
「「‥‥‥」」
「‥‥‥あの、アクア様。クリス様。」
「「え?」」
「俺に一撃当てて下さい。」
「「「え!?」」」
「え?シリウス?」
「俺は今の実力をお見せできました。だからお2人からも2年前の制裁を受けるべきかと。」
「い、いいの?シリウス。」
「ああ。このままでは駄目だと思うんだ。お2人も一撃入れないと気が済まないって言ってただろ?」
「そうだけど‥‥」
「いいんだよ。俺の自業自得なんだから。」
「‥‥‥‥」
「えっと‥‥本当にいいんですか?王子。」
「はい。」
「じゃあ‥‥マリン。」
「はい?」
「殺傷能力を無くした魔力を手に纏うの、私にもできる?」
「え?えっと‥‥やってみます。ご自身の魔力を纏わせてみてください。」
「うん。」
姉様の手をとり、姉様が手に纏っている魔力に殺傷能力を消す処置をした。
「これで大丈夫だと思います。」
「ありがとうマリン。‥‥ではシリウス王子。お覚悟よろしいですか?」
「はい。」
「では遠慮なく。」
と本当に遠慮なくシリウスのお腹に一撃入れた。
「ぐっ!」
シリウスは気絶することも、飛ばされることもなくよろめいただけだった。
「お。耐えましたね。では次は俺ですね。‥‥マリン、俺も頼む。」
「え?はい。兄様。」
そして同じくアクア兄様も遠慮なく、シリウスのお腹に一撃入れた。
「ぐあっ!」
と、今度はふっ飛ばされた。
「あ!【ウォータークッション】」
そのまんま水でクッションを作り、シリウスが地面に倒れる前に確保した。
そしてシリウスに近づき、確認のために問い掛けた。
「シリウス、大丈夫?」
「あ、ああ‥‥。一応な。‥‥結構効いたが。」
「ヒール掛ける?」
「ああ。頼んでいいか?」
「勿論。【ヒール】」
「‥‥ありがとう。この水ももういいぞ。」
「うん。どういたしまして。あと、私からも。兄様と姉様の一撃を受けてくれてありがとう。」
そして水クッションを解いた。のだが、シリウスがふらついた。
「っと!大丈夫?シリウス。」
「ああ。ごめん。ふらついただけだ。」
「なら良かった。」
と私達が会話しているのを見ていた家族が驚いていた。
「マリンが‥‥王子に優しくするとは‥‥」
「マリンが‥‥王子に笑顔を向けるなんて‥‥」
「王子が素直に謝った‥‥」
「マリンが抱きつかれても平気そうにしてる‥‥」
アクア兄様、姉様、父様、母様でした。
それを戻ってきながら聞いた私達。
「家族の言葉がひどいな。」
「ははっ。しょうがないだろ。」
「私達が変わったことを喜ぶところじゃないのかな?」
「素直に喜べないだろ。俺に一撃当てた後だしな。」
「う~ん。」
「じゃあシリウス王子に制裁が終わったところで、次は俺が殿下に一撃いいですか?」
「「え!?」」
「ひ、ヒスイ兄様がですか?」
「ああ。」
「‥‥‥‥分かりました。どうぞ、ヒスイ様。」
「レグルス!?」
「シリウスが受けたんだから、私も受けるべきだ。」
「さすが皇太子殿下。覚悟が早くて助かります。‥‥というわけでマリン、俺も頼む。」
「え!?‥‥‥分かりました。」
ヒスイ兄様も遠慮なく、シリウスの時と同じように、レグルスのお腹に一撃入れた。
「ぐっ‥‥!」
「お。耐えた。さすがですね。」
「ヒスイ兄様~!」
「大丈夫だって。その為に殺傷能力消したんだからな。」
「む~。‥‥‥レグルス、大丈夫?」
「ああ。一応な。‥‥‥でも頼んでいいか?」
「うん。勿論。【ヒール】」
「‥‥‥ありがとう、マリン。」
「どういたしまして。レグルスもありがとね。受けてくれて。」
「ああ。あれは私が悪いからな。シリウスと同じだ。自業自得だよ。」
「ふふっ。」
「シリウス王子、皇太子殿下。」
「「はい?」」
「俺達の一撃。受けて頂いて、ありがとうございました。」
「お陰でスッキリしました。」
「私も。マリンが平気ならもう口出ししません。マリンが3人の誰を選んでもこれで素直に祝福できます。」
「え?姉様?祝福って‥‥」
「「それなら良かったです。」」
「え?あれ?」
私が戸惑い始めると、レグルスがニヤリとした顔を向けてきた。
「マリン。私達の中から選ぶことになったみたいだぞ?」
「え!?‥‥」
「「「嫌か?」」」
「‥‥‥‥‥嫌じゃない‥‥」
「ならいいじゃない。将来義理の弟になる人と禍根が無くなって良かったわ。」
「姉様!?」
「マリン。何も今すぐ決めろとは言ってないだろ?」
「父様‥‥」
「ちゃんと友人でもあるのは確認できたからな。ヒスイ達も満足だろ?」
「「「「はい。」」」」
「だからマリンも気にせずいつも通りでいいんだ。」
「!‥‥‥はい!」
「但し、また暴走したら叩きのめしていいからな。」
「はい!」
「「「え!?」」」
「いや、普通にしてればいいだけだろ。殿下。」
「そうそう。私の制止に背いたら‥‥ってだけだよ?」
「「「!」」」
「大丈夫そうだな。マリン、まだここで模擬戦したりするか?」
「えっと‥‥私は大丈夫ですけど、兄様達とシリウス達が大丈夫じゃないですよね?」
『ああ。』「ええ。」
「なら帰りましょうか。父様もお仕事の続きですよね?」
「ああ。」
ということで全員で屋敷に戻ってきました。
ちなみにゲートを繋いだのは私の部屋です。一番無難なので。
そして父様が私の部屋から出ようと扉を開けると、そこにシャーリーがいた。