104話 大いなる3人の変化
午後の予定は決まったが‥‥
「それはいいけどさ、殿下。結局、昼まで何すんだ?」
「あ‥‥何しようか?自由に帝国回れるの今日までだよ?明日帰る時間も決めてないし‥‥」
「だよな‥‥。マリンもほぼやりたいことやってしまったんだろ?」
「う~ん。そうだね‥‥。とりあえずみんなも体動かしに来たんでしょ?」
「ああ。」
「じゃあ一先ず体動かして、朝食食べる時に考えない?」
「そうするか。」
「それで、どの組み合わせでする?ここなら剣術だけになるけど。」
「普通にマリンに俺達4人、1人ずつ1対1で順に相手してもらえばいいんじゃないか?」
「え?いや‥‥さすがにそれは‥‥」
「いいですよ。」
「「「いいのか!?」」」
「え?うん。私はいいよ?」
「よっしゃ!じゃあ俺からいいか?マリン。」
「はい。ベネトさん。」
軽い手合わせでもあるので刃は潰してある訓練用の剣なのだが、当たれば痛いので私は避けまくりました。
‥‥‥数分後。息を切らしてはいるものの、体力をまだ残してそうなベネトさんから苦情がきた。
「‥‥はぁっ‥‥‥はぁっ‥‥‥マリン!」
「はい。なんでしょう?」
「お前の体力どうなってんだよ!」
「え?兵士さん達にも言ったことですよ?」
「な!?俺に対しても最小限の動きで避けたってのか!?」
「はい。あと3人いるんですよ?温存しないと最後の人に失礼ですから。」
「ああ‥‥そうだったな‥‥。俺、最後にすりゃ良かったかな‥‥次‥‥誰やる?」
「じゃあ私が相手してもらおうかな。」
「次はレグルスか。いつでもいいよ!」
「ああ!じゃあ遠慮なく!」
‥‥‥‥数分後。息を切らしつつも、剣を地面に刺して杖代わりにして、なんとか立っているレグルスがいた。
「‥‥はぁっ‥‥はぁっ‥‥さ、さすが‥‥マリンだな‥‥私の負けだ。‥‥次、誰やる?」
「じゃあ俺がやる。」
「次はリゲルだね。いいよ!」
‥‥‥再び数分後。同じく息を切らしながらも、なんとか立っているリゲルがいた。
「はぁっ‥‥‥はぁっ‥‥‥や、やっぱり‥‥すごいな‥‥マリン。‥‥俺も負けだ。」
「じゃあ最後はシリウスかな?」
「ああ。俺はみんなほど剣術が上手くないからな。お手柔らかに頼む。」
「うん。私がシリウスの動きに合わせるから、好きに打ち込んできていいよ。」
「助かる。じゃあいくぞ!」
「いつでも!」
‥‥‥数分後。そこには両膝に手をつき、同じくなんとか立っている状態のシリウスがいた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥‥」
「大丈夫?シリウス。」
「ああ‥‥なんとか‥‥な。」
「シリウス。ちょっと頑張りすぎだね‥‥ちょっと動かないでね。【体力回復】」
「!‥‥‥ありがとう。マリン。」
「どういたしまして。‥‥う~ん体力は回復できるけど疲労は取れないんだよね‥‥。みんな午前中は動かないで休息にする?」
「「「「賛成~。」」」」
「うん。いいよ。あ。じゃあ明日帰る準備とか、いつ帰るかの相談とかする?」
「ああ。そうしようか。」
「じゃあそろそろ朝食の時間だろうし、戻るか?」
「はい。そうですね。‥‥それで、シリウス。動ける?」
「ああ。‥‥‥っ!」
「っと!あ~‥‥‥やっぱりひねってたか‥‥。リゲル、シリウスを部屋まで運んでもらっていい?」
「ああ。」
咄嗟に近くにいた私がシリウスを支えていたのをリゲルに交代してもらいつつ、シリウスを背負ってもらった。
「このまま一緒に2人の部屋に入っていいかな?」
「「え!?」」
「なに?シリウスの治療しないとでしょ?ここで地べたに座らせるわけにはいかないし。」
「あ、ああ‥‥‥いいぞ。むしろ頼む。」
「うん。あ、兵士さん達。リカバリーとか掛けます?」
「いえ。大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「分かりました。‥‥じゃあみんな行こうか。」
ということでみんなで城の中に戻る途中。
「さっきいつもより無理してたよね?シリウス。」
「そうか?」
「それ、俺も思った。」
「私も。」
「俺も。」
「ほら。みんなにもそう見えたみたいだよ?」
「うっ‥‥確かに無茶はしたな‥‥。俺、3人が羨ましかったんだよ‥‥」
「「「羨ましい?」」」
「ああ。ほぼ魔法だけの俺とは違って3人共、剣術もすごいだろ?いざという時、大切な人を守れるのは3人の方だ。」
「でもシリウスは王子なんだよ?守ってもらう方だよね?」
「それはレグルスも同じだろ?」
「まあ、そうだね。」
「その3人より強いのがマリンだが、いつまでもマリンに守ってもらうのは王子とか以前に男として不甲斐ないなと思ったんだ。」
「「「確かに。」」」
「帝国に来る間も、来てからも。マリンは色々あったのに俺達への態度は全く変わらない。‥‥有り難いが、このままじゃ駄目だなとも思ってたんだ。せめてマリンに頼ってもらえるぐらいじゃないと、マリンに選んでもらう資格がない。だからまず、一番苦手な剣術からかなって思ったんだが、見事に失敗したようだ。」
「そっか‥‥‥そんなこと考えてたんだ。シリウス。」
「今回は私もシリウスと同じだな。」
「ああ。俺も。」
「俺はマリンに選んで欲しいわけじゃないが、俺も大体同じだな。マリンには誰か頼れるやついるのかな?ってたまに心配になる。」
「みんなもなんだ‥‥。でも私、みんなに救われてることもあるよ?」
「「「「え?」」」」
「例えば‥‥今回家族に初めて怒った時はレグルスが側にいてくれたし、私が浄化から帰ってきた時も4人共いてくれたでしょ?それに昨日もね、お風呂の中で色々考え込んでたの。それをシリウス達3人が来てくれたから、それ以上考え込まずに済んだの。だから4人だけじゃないけど、みんなが知らない内に私の心を救ってくれてるの。そんなみんなだからこそ、私が守りたいから守るし、強くなりたいなら協力するの。‥‥だからシリウス。不甲斐なくないよ。」
「!‥‥‥俺はマリンに救われてばかりだがな。」
「いいんだよ。それで。王子なんだし。無理する必要はないんだからゆっくり強くなったらいいでしょ?‥‥でも‥‥」
「でも?」
「ふふっ。「あの」シリウスから不甲斐ないとか、大切な人を守るとか、そういう言葉を聞く日がくるとはねぇ‥‥しかも強くなりたいって努力し始めるんだもんね。‥‥2年前とは大違い。」
「ああ。俺も思った。3年前からしたら本当に変わった。」
「リゲルもですよね?」
「ああ。そうだな。あの我が儘と自己中の塊だった2人が今じゃ別人だ。」
「「‥‥‥」」
「「ぷっ!た、確かに。」」
「簡潔に言うとそんな感じでしたね。ベネトさん。」
「「笑わなくてもいいだろ‥‥」」
「っと。ここじゃないのか?」
和やかに話している間にシリウスとリゲルが泊まってる部屋に着いた。
「「あ。」」
「じゃあ私もシリウスの治療したら自分の部屋に戻ってから食堂に行くね。」
「ああ。分かった。‥‥‥シリウス、リゲル。マリンを襲うなよ?」
「「襲うか!」」
「大丈夫!レグルス。私なら逃げれる!」
「そうだな。」
「「‥‥‥」」
「「冗談だよ。」」
「冗談に聞こえない‥‥」
そしてレグルスとベネトさんは去っていった。
つまり部屋にシリウスとリゲルと3人だけになった。
「とりあえずリゲル。シリウスを座らせて。」
「ああ。」
リゲルがシリウスをソファーに座らせると私はシリウスの前にしゃがむ。
「シリウス。多分ひねってるのは足首だと思うけど、他に痛いところある?」
「いや。多分足首だけだ。」
「じゃあとりあえず。【ヒール】う~んディスペルもかな?
‥‥‥‥まだ痛い?」
「‥‥‥‥‥いや。立ってみていいか?」
「うん。」
私も様子をみる為一緒に立つ。
「‥‥‥‥‥‥大丈夫そうだな。」
「痛くない?歩けそう?」
ゆっくり歩き出したシリウスの横に寄り添って歩いていると、
「うん。大丈夫みたいだ。ありがとな。マリン。」
「どういたしまして。ちゃんと治しとかないと、午後から歩く時にまた痛み出したりするかもしれないからね。また痛くなったら無理せず言っていいからね。リゲルが背負ってくれるから。」
「俺なのか!?」
「ん?女の子の私に背負わせたい?」
「「いいえ!」」
「ふふっ。じゃあ私も戻るね。」
「マリン。その前に聞いていいか?」
「ん?なに?」
「本当に平気なのか?」
「なにが?」
「今、この部屋に俺とリゲルしかいないんだぞ?」
「だから?」
「一緒にいて、本当に平気なのか?」
「うん。大丈夫だよ?」
「抱きしめてもか?」
「うん。大丈夫だと思うよ?」
「試してもいいか?」
「え?今?」
「ああ。駄目か?」
「えっと‥‥お互いに汗かいた後だから‥‥汗流してからの方がいいな‥‥と。」
「そうか。俺は気にしないから、試すな。」
「え!?‥‥シリウス!?」
ふわっとあまり力を入れずに抱きしめられた。
「‥‥‥‥‥嫌な感じは?」
「‥‥‥‥‥無いね。シリウスを嫌がる気持ちはないね。」
「そうか。さっきはレグルスに襲わないと言ったが‥‥」
「え?‥‥‥んっ!?」
「あ!」
シリウスが私に口付けてきた。
数秒後、ようやく放してくれた。口だけ。
「っ!‥‥‥な、なに!?いきなり。」
「‥‥‥すまないな。マリンが側にいるのに何もしないのは無理だったみたいだ。折角こうして抱きしめても逃げられなくなったしな。‥‥嫌だったか?」
「‥‥‥‥前にも言ったでしょ。嫌じゃないよ。」
「そうか。‥‥マリン。もう少し抱きしめてていいか?」
「え?‥‥‥‥はぁ。少しだけだよ?」
「ああ。」
今度はギュッと私が痛くない程度の力を入れて抱きしめてきた。
「‥‥‥今ならレグルスの言った意味が分かるな。」
「え?」
「マリンは抱きしめてると‥‥癒される。」
「はぁ‥‥レグルスもシリウスも癒されるって何にそんなに疲れるのよ?」
「特に疲れることはない。だが‥‥癒されるのは本当だが、一番はホッとする。だな。「あぁ~マリンがいてくれてる」って安心する。」
私もシリウスの背中に腕を回してみる。
「そうなの?」
「ああ。」
「‥‥シリウス。いつまでマリンを抱きしめてるんだ?」
「あ。‥‥‥リゲルに交代した方がいいのか?」
「そうじゃないでしょ!?今、朝食前なんですけど?汗流したいって言いましたけど?‥‥そういうことだよね?リゲル。」
「ごめん。マリン。正直、交代して欲しい方だった。」
「え~。‥‥朝食後でいい?」
「え?いいのか?」
「なにが?」
「朝食後なら俺も抱きしめていいのか?」
「あ。‥‥‥はぁ。いいよ。」
「やった!」
「それで、シリウス。放してくれないの?」
「あ。‥‥‥‥確かに名残惜しいな‥‥」
「時間無くなるんだけど?私、髪長いんですけど?」
「‥‥‥‥分かった。」
「はぁ‥‥‥全く。やっと放してくれた‥‥じゃあ私、戻るね。」
「「ああ。」」
そして私は自分の部屋に戻り、お風呂に入りながら思った。
はぁ‥‥どうしたもんかなぁ‥‥あんなに平気になるとはね‥‥‥
自分の変化が一番怖い‥‥‥