103話 新たな決意と遺したもの
そして、再び皇帝陛下の執務室。
一通りの話を聞き終えた後。
「陛下。これから冒険者ギルドに向かっていいでしょうか?」
「レウスの遺品を受け取りに行くのか?」
「はい。」
「一人で行くのか?」
「はい。今日は一人で行きたいと思います。同じ冒険者として伯父様が見ていた帝都を一人で歩いて見たいんです。」
「なら私達もついて行かない方がいいな。」
「ごめんね。」
「いいさ。悲観してるわけじゃないんだろ?」
「うん。」
「ならいいぞ。もうすぐ夕方だから早めに帰ってこいよ。」
「はい。分かりました。」
そして私は真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。
夕方前とはいえ、徐々に冒険者が帰ってくる時間帯のため、それなりに人が集まっていた。
そんな中でもカウンターに近づくとこの数日対応してくれていた受付嬢が私に気付き、声を掛けてくれた。
「あら?マリン様?今日はどうされたのですか?」
「先日の私が浄化した方々の中に、私の伯父がいたと陛下に伺いまして。親族代表として遺品を受け取りに。」
「そうなのですか?お名前は?」
「伯父の名前はレウス・フォン・アドニスです。」
「レウス・フォン・アドニス様ですね。探して参りますのでお待ち下さい。」
「はい。」
そしてカウンターを離れると、数名の冒険者が近づいてきて、その内の一人が話し掛けてきた。
「なあ、嬢ちゃん。今話が聞こえたんだが、レウスさんの姪っ子なのか?」
「え?はい。」
私が答えると周りの冒険者も何人かざわついた。
「そうか!俺達、レウスさんにお世話になってたんだ。だから大規模討伐にも参加したかったんだが、年齢もランクも足りなくてな‥‥参加できなかったんだ。」
「そうなんですか?」
「ああ‥‥‥その内、アンデッドになったって話を聞いた時もやるせない気分だったよ。でも嬢ちゃんが浄化してくれたんだよな?」
「はい。その時は陛下から詳しく話を聞いてなかったのでまさか伯父様がいらっしゃるとは思いませんでしたが‥‥。ただ装備とかを見て冒険者の先輩達かな?ぐらいで。伯父ということは先程聞かせて頂いて‥‥驚きました。」
「え?陛下?嬢ちゃん、何者だ?」
「あ。すみません。名乗ってませんでしたね。私はマリン・フォン・クローバーと申します。皇帝陛下に毎年ご招待頂いているセレスティン王国の辺境伯の娘です。一応、皆さんの後輩冒険者でもあります。」
「え!?辺境伯の娘!?‥‥冒険者ランクも聞いていいか?」
「はい。‥‥Bランクです。」
『‥‥‥‥』
「さ、さすがレウスさんの姪っ子だな‥‥もうBランクとは‥‥。ちなみにレウスさんは自分のこと何も話してくれなかったんだが、何者だったんだ?」
「伯父様は王国の伯爵家の次男ですよ。」
『伯爵家!?』
「はい。ちなみに私は伯父様の妹の娘ですよ。」
「なるほどな‥‥。あ、辺境伯の娘さんならこの喋り方じゃまずいのか‥‥?」
「いえ。私自身、冒険者でもありますからそのままで大丈夫ですよ。呼び捨てでも構いません。」
「そうか‥‥?じゃあマリン。恐らくだが、まだ学生だよな?」
「はい。王国の学園に通ってますが、今は夏休みでこちらに来てるだけです。」
「そうか。じゃあまた帝国に来た時にでもこうしてギルドに顔出してくれ。」
「はい!」
と話していると、受け付けの方が戻ってきた。
「マリン様。お待たせしました。レウス様の遺品はこちらで全てです。」
「ありがとうございます。‥‥‥あれ?‥‥あの、大規模討伐前に遺書は書かれてなかったのですか?」
「ええ‥‥本来は書いて頂いてますが、あの時は時間が取れなかったそうで、誰も遺書を書けなかったそうです‥‥」
「そうですか‥‥分かりました。ありがとうございます。」
「いえ。申し訳ありません。」
「いいえ。陛下に話を聞かせて頂いた限り、時間が取れなかったのも頷けます。その旨も王国に戻ったら伯父様の兄妹であるもう一人の伯父と母に伝えます。」
「はい。よろしくお願いします。」
「では、失礼しますね。」
「マリン、またな!」
「はい。また!」
そして、私は冒険者ギルドを出てまた城に戻るべく歩きだした。
伯父様‥‥面倒見良かったんだな。
‥‥‥確かに話やすい人だったみたいだし‥‥‥少し似てたな‥‥おじさんに‥‥名前を呼ぶ時の雰囲気とか。
伯父様も転生者だったらしいし‥‥‥いや、まさかね。
そんな都合よく前世も今世も親戚なわけないか。
それより本をくれるって言ってたけど‥‥‥あのマジックバッグの中かな?
城に戻ったら確認してみよ。
とか考えながら歩いていると、城の門まで着いた。
そして、門の向こう。城への入り口にレグルス達が待っていた。
「あれ?レグルス達、どうしたの?」
「マリンを待ってたんだ。」
「なんで?まだ暗くなってないから危なくないよ?」
「そうだろうし、マリンを害せる者がいないのも分かるが、私達の心配は別だ。」
「‥‥‥‥勝手にいなくなったりしないよ。伯父様の遺品をちゃんと母様やアポロ伯父様に渡さないといけないしね。」
「それも分かってる。俺達が勝手に心配しただけだ。」
「そっか。‥‥‥じゃあとりあえず、ただいま。」
「「「おかえり。」」」
「中に入ろう?」
「ああ。」
伯父様の時間は終わってしまったけど、私の時間はまだまだ続く。
一旦立ち止まった私は空を見上げた。
帝国を守った伯父様の分も頑張るよ。届いてるか分からないけど、今度は私が伯父様の代わりに王国も守ってみせるよ。
そう心の中で呟いたあと、マリンは城の中に入っていった。
夕食後。
「そういえばマリン。レウスの遺書とかなかったのか?」
「はい‥‥本来は書くのが決まりなのですが、あの時は時間が取れなかったそうで、誰も書けなかったそうです。」
「そうか‥‥。」
「なのでアポロ伯父様、母様、父様にも正直にその事も話すつもりです。」
「ああ。そうしてくれ。」
「それで、陛下。リジアもレウス伯父様の姪ですので一緒に話してもいいでしょうか?」
「ああ。その判断はマリン達に任せるよ。」
「分かりました。‥‥‥‥そういえば、レウス伯父様は結婚してなかったのですか?」
「ああ。何故か生涯結婚する気はないって昔から言ってたな。現に独身のまま逝っちまった。」
「そうですか‥‥。ではやっぱりレウス伯父様の遺品はアポロ伯父様か母様に渡すことになりますね。」
「そうだな。マリンも何かもらったりしないのか?」
「えっと‥‥本があるらしくて、それをくれるそうです。」
「本?そんなの持ってたかな‥‥‥?」
「伯父様の遺品の中にマジックバッグがありましたので、その中に入ってるんじゃないかと。」
「ああ~。確かにマジックバッグは持ってたな。まあ、浄化の礼だろうな。」
「はい。」
そして、解散になり部屋に戻って早速ストレージに入れていた遺品の中からマジックバッグを取り出し、魔力を流して中身を見てみる。
すると、中には伯父様の服や夜営用のテント、食料なども入っていた。そして、その中に確かに本があったので出してみると、「日記」と日本語で書かれていた。
これのことだよね?
日本語だし‥‥本らしき物は他に無かったし‥‥
‥‥‥日記か‥‥読んでいいのかな?でも「あげる」って言ってくれたってことは読んでいいんだよね?
そう思って表紙を捲った瞬間、目に飛び込んで来た文字に衝撃を受けて私は固まってしまった。
表紙の裏にはこう書かれていた。
ーこの世界にいるかどうかは分からないが、いつか前世の娘、雪奈と柚蘭に会えることを願って。ー
え‥‥‥雪奈?‥‥柚蘭?‥‥まさか‥‥本当におじさん?確かに前世で私より先に亡くなったけど‥‥。
そして、その下に記載されていた名前に涙が溢れた。
白石雪夜
改め レウス・フォン・アドニス
私はそこで一旦閉じてストレージに戻してからお風呂に向かった。
そして、お風呂に浸かりながら泣いていた。
おじさんだ‥‥本当に雪夜おじさんだった‥‥
じゃあ、やっぱりあそこに書かれた名前‥‥前世でいとこだった雪奈姉と柚蘭なんだ‥‥。まさか本当に前世も今世もおじさんなんて‥‥。
おじさんがこっちで結婚しなかったのも冒険者になったのも雪奈姉と柚蘭を探すため‥‥?
だから私にあの日記を託したの‥‥?
おじさん‥‥私に代わりに雪奈姉と柚蘭を探してってことかな?
‥‥‥‥でもこの世界にいるかも分からないんだよね?
おじさん‥‥‥どうやって見つけるつもりだったの‥‥?
私、どうやって見つけたらいいの‥‥?
と悶々と考えていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。
気配を探ると、レグルス達だったのでお風呂場から顔だけ出して閉じたままの扉に向かって答えた。
「レグルスとシリウスとリゲルだよね?」
「「「ああ。」」」
「ごめん。今お風呂にいるからさすがに出れない。用事なら明日でもいい?」
「「「!!」」」
「わ、分かった!明日で問題ない!すまなかったな。‥‥‥おやすみ!」
「おやすみ。」
そして3人が去っていった後。
ふぅ‥‥ある意味助かったかな。
あのままだと考え込んじゃうところだっただろうし。
でも今日はもう開けないかな‥‥
明日以降だな。‥‥もう上がって寝よ。
そして、私は伯父様の日記の先を開かないまま眠りについた。
翌朝。
いつも通りの時間に起きて、兵士さん相手に朝の剣の訓練をしていると、4人も来た。
「あ、4人共おはようございます。」
「「「「おはよう。」」」」
「お、マリン。また兵士達を倒してたのか?」
「またってなんですか。1対複数名対応の訓練ですよ。手伝ってもらったんです!」
「はいはい。結局兵士達が倒れるまでやってるじゃねぇか。」
「うっ‥‥そ、そうですけど‥‥。それならベネトさんもやってみたらいいじゃないですか。」
『え!?』
「兵士達は休憩したいみたいだぞ。」
「あ‥‥そうですよね。リカバリー‥‥すぐ掛けます?」
『お気になさらず。』
「ではゆっくり休憩して下さい。皆さんありがとうございました。」
「いえ。我々もいい訓練になりますから。」
「そう言って頂けると嬉しいです。‥‥じゃあ次、どうしようかな。」
「マリンはまだ動けるのか?」
「うん。今の兵士さん達とやってたのをもう一回でも大丈夫だよ。」
『え!?』
「兵士さん達には申し訳ありませんが、最小限の動きで攻撃を避けたりしてましたので、体力の温存は出来てたんですよ。」
「相変わらず考えることがすげぇな。」
「そうですか?‥‥‥あ。そういえば、シリウス、リゲル、レグルス。昨日の用事、なんだったの?」
「「「え!?」」」
「え?なに?昨日のこと聞いただけでしょ?」
「あ、ああ。そうだな。‥‥‥今日の予定を聞こうと思っただけだ。」
「シリウスとリゲルも?」
「「ああ。」」
「う~ん。今は日課の訓練してるだけだからな‥‥。この後は何も決まってないよ。」
「そうか。なら慰霊碑のところに行ってみないか?」
「慰霊碑?」
「ああ。大規模討伐の犠牲者を悼む慰霊碑があるんだ。大規模討伐に参加したと分かる人の名前は何人か既に刻まれているんだが、まだ刻まれてない人の方が多い。だが今回、マリンが遺品を持ち帰ってくれたお陰でまた刻める名前が増えると思うんだ。それに伯父が参加してたなら祈りたいかなと思ったんだが‥‥」
「そっか‥‥。それなら行こうかな。伯父様とは話せたけど、仲間がいたみたいだし。それに他の人達も全員冒険者の先輩だからね。」
「じゃあわりと近いところにあるから、昼食を食べてから行ってみるか?」
「うん。」
「シリウス達も来るか?」
「え?俺達関係ないのに行っていいのか?」
「ああ。構わないよ。」
「シリウス、リゲル。人の死を悼むのに国とかは関係ないよ。気持ちの問題だよ。」
「そういうことだ。それで、どうする?」
「そう言ってくれるなら行かせてくれ。」
「俺も。」
「分かった。」
私達は最後に慰霊碑に向かうことが決まった。