10話 初めての外。そして冒険者ギルド
翌日。
教会以外で屋敷からやっと出れることになった。
先生2人が一緒なのが条件だが。
今までは訓練の時、髪はポニーテールでシャツの上に薄手の防刃ジャケット。ホットパンツにニーハイソックスにショートブーツで完全に動き安さ重視だった。そこに今日から少し装備を足すことになった。胸当てをして、木刀がショートソードに変わっただけだが。
準備が終わり、見送りしてくれるというシャーリーと一緒に屋敷の玄関から出ると既に先生達は待っていた。
「ミラ先生、リサ先生。お待たせしました!」
「そこまで待ってないよ。じゃあ行こうか。」
「はい!じゃあ、シャーリー行ってきます!」
「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
そして屋敷の門を出て、歩き出した頃。
「マリン。街から出る前にギルドに寄るけどいい?」
「はい。何か用事ですか?」
「うん。今何が出てくるかとか見とこうと思って。」
「私もギルド行ってみたいです!」
「じゃあ行こうか。」
「はい!」
そしてギルドに向かうため街を歩いていると、やっぱり馬車から見た景色と違うので、私は先生達に付いて行きながらキョロキョロしていた。
うわ~当たり前だけど電柱がない。異世界だな~やっぱり。それに街に活気があって見てるだけでも楽しすぎる!
「マリン。あんまりキョロキョロしてると危ないよ。」
「あっ!すみません。洗礼以外で屋敷から出たことがなかったのでつい‥‥。」
「これからは私達と一緒なら見れるでしょ。領主様のご令嬢なんだからしっかりしてないと。」
「今の私を見たところで領民の方々は分かりませんよ。街を歩くの初めてですし。だからキョロキョロできるのは今の内なのです!」
「それはそうだろうけど‥‥あ、着いたわよ。ギルド。」
おぉ~。マンガとかと一緒だ!依頼ボードもカウンターも食事処併設も!こういうのも実際見ると嬉しいよね~やっぱり。異世界来た!って感じるわ~!
と内心の歓喜を押さえつつカウンターに直行する2人についていくと。
「シシリア、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「あれ?ミラじゃない。どうしたの?」
「これから外に狩りに行こうかと思うんだけど、魔物とかいる?」
「それなら、今は兎とかしか出てないわね。他には特に情報はないわ。ところで一緒にいる子、誰?」
「ん?この子は私達が家庭教師の依頼を受けた領主様のご令嬢だよ。この子の訓練に外に狩りに行こうとしてたの。」
「え?ご令嬢とは知らず失礼しました!こちらで受付をしております、シシリアと申します。」
わざわざ立ってまで挨拶してくれた。
「はじめまして。マリン・フォン・クローバーと申します。12歳になったら冒険者に登録しようと思ってます。その時は学生ですが、こちらに帰ってきた時に来ることになると思います。その時は宜しくお願いしますね。」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します。私のことは気軽にシシリアとお呼びくださいね。」
「はい。」
「じゃあ行ってくるわね。」
やっと外に出れる!
3人で門を出て街道を魔物の森がある方に向かって一時間程歩いたところで、森の入口手前にある草原についた。
すると、早速側の草がガサガサと揺れて、兎の魔物が姿を表した。
「まずは私がお手本を見せるから見ててね。」
「はい。リサ先生。」
すると先生は詠唱を始めて
「【水槍】」
見事に一撃で即死させていた。
「今みたいに火属性以外の水魔法とかで倒す方がいいわ。」
「燃えちゃうからですか?」
「そうよ。素材になるから燃えると勿体ないでしょ?」
「なるほど。分かりました。ところでリサ先生。今の水の槍は水球の応用ですか?」
「そうよ。水の形を変えて攻撃力を上げたの。」
「ちょうどそこに的になる岩があるし、ちょっと魔法の訓練にもなるから試してみたら?」
「いくら魔法がイメージ力が重要と言っても今見たのをすぐには‥‥」
「はい!やってみますね!【水槍】」
「「‥‥できちゃったね。」」
「‥‥できましたね。目の前でいいお手本を見れたからですね。きっと。」
「‥‥本当にいるのね、天才って。一回見ただけで再現出来るなんてね‥‥しかも無詠唱だし。」
苦笑いしか出来なかった‥‥。
「それなら今度はマリンがやってみなよ。リサ、周辺に魔物はいる?」
「ちょっと待ってね。」
再びリサ先生が詠唱を始める。
「【探知】‥‥えっと、200メートル先ぐらいに数匹いるみたいね。」
「リサ先生、今の魔法はなんですか?」
「索敵魔法。魔力を薄く伸ばして気配を探る魔法よ。私ぐらいだと区別は付けられないけど、慣れれば人が何人いて、魔物が何匹いるって分かる様になるらしいけどね。」
「そうなんですね!」
えっと魔力を薄く伸ばす感じで‥‥。
「【探知】」
おぉ~。こんな風に見えるんだ。この反応が魔物の反応なんだ‥‥えっとこれは‥‥3匹かな。
「私も見えました!3匹いました。」
「‥‥これもなのね‥‥。」
「とりあえず3匹なら一人1匹ずつ倒す?」
「‥‥そうしましょうか。」
ちょっと歩くと本当に兎の魔物が3匹いた。
予定通り一人1匹ずつ。私とリサ先生はさっきの水槍の魔法で、ミラ先生は剣であっさり兎の首をチョンパしていた。
最初の1匹も合わせてその場でやり方を教わりながら血抜きをやり終えた。
「リサ先生。サーチの魔法を試したとき、私のはリサ先生のと比べてやっぱりまだ未完成でした。集中してないと、あっさり魔法解けましたし。これからも魔法教えてくださいね。」
「ええ。勿論よ。それよりマリン。自分で倒した分ぐらい、せっかくだから持って帰る?」
「いいんですか?じゃあ持って帰りますね。」
とストレージの中に入れると。
「「‥‥ストレージも使えるの?」」
「え?‥‥あ。」
しまった‥‥この2ヶ月である程度使い方覚えて嬉しかったからつい‥‥家族は知ってたから油断して他の人に見られない方がいいの忘れてた‥‥。
「‥‥使えます。」
「‥‥いいなぁ。私はストレージ使えないからマジックバック買うしかないけど、必要なお金にまだ手が届かないんだよね‥‥。」
「父様に聞いたことがあります。一番小さくて安いって言っても金貨2枚はするんですよね?」
「そうなのよ。だからこの兎の魔物もそのまま手で持って行くしかないのよ。」
「ギルドに持って行くなら私がストレージで持って行きましょうか?出来ればあまりストレージを使ってるところを他の人に見られたくないので、ちょっと手前で出してお返しすることになると思いますが。それでも良ければ。」
「じゃあお願いしようかな。最初の1匹と合わせて私達2人の3匹分。」
「はい。では、早速。」
先生達の3匹もストレージに入れて、合計4匹回収完了。
「そろそろ帰ろうか。ギルドに寄らないといけなくなったし。」
「そうですね。」
そうして、帰る準備を終えてから来た道を戻って門の前に着くと。
「ここで本来はギルドカードか、他に身分証明になるものを提示してから入るのよ。私達だったらギルドカードね。」
「私、身分を証明できる物持ってないですよ?」
「さっきここを出る時に領主様のご令嬢だって言ってあるから大丈夫よ。」
「それなら良かったです。」
「じゃあギルドに行きましょうか。」
「はい。」
そしてギルドの手前までくると、少し路地に入って通りの人に見えない位置まで移動してストレージから先生2人の分3匹を出して渡した。
改めてギルドに向かい、到着すると先生達が
「買い取りカウンターにまとめて出してくるからちょっと待ってて。」
「分かりました。」
そう言うと先生達は解体場所があるという奥に係の人と向かって行った。
そして私が一人で椅子に座って先生達を待ってると、食事処で飲んでいる冒険者達から声が掛かった。
「おい、ガキがいるぞ。」
「本当だな。おめぇまだ冒険者になる歳じゃねぇだろ?何してやがる。迷子か?」
「いや、迷子でも来るところじゃねぇぞ?」
私か?‥‥私に言ってるんだよね?これ。
どう答えようかな。
と考えていると、無視したと判断したのか
「おい、ガキ。無視してんじゃねぇぞ!」
と言って胸ぐらを掴もうと思ったのか、手が延びてきたのでサッと立ち上がりつつ避けた。
それで更にイラつかせたらしく。
「何避けてんだ?」
「普通避けるかと。」
「ああ!?」
うわ~面倒くさいな。酔っ払い‥‥。
「ちょっと、痛い目に遭いたいらしいな。」
何故そうなる!?
「ガキが。今度は避けられると思うなよ!」
と言って殴り掛かってきた。
うわっ。酔ってるからって普通女の子に殴りかかるか!?
しかも動き遅っ!スローモーションに見える。
私を殴ろうとした右腕を横にスッと避けて、空振りした勢いを生かすように冒険者のお腹に拳を叩き込んだ。
「ぐおっ。」
と呻いて冒険者は膝をついたが、まだ意識を刈り取る程ではなかったらしい。
さて、どうするかな‥‥
と思っていると、もう一人が
「よくもやってくれたな。覚悟しろよ。」
といかにもなセリフを吐いて、しかも剣まで抜いて襲ってきた。が。
この人も遅いな。やっぱり酔ってるからかな。
上から振り下ろされた剣をまた避けて、手に手刀を食らわせて剣を落としたあと、今度は懐に入って一本背負いで投げ飛ばしてあげた。
「ぐぇっ。」
と呻いたが、こっちも意識を刈り取るまではできてない。
う~ん。このままだとまた襲ってくるよね?
動きを封じられればいいんだけど‥‥‥あ。
こういう時ってやっぱりスタンガン?でも現物があるはずないし‥‥
と考えられてるのは多分、相手が酔っ払ってる状態でふらついてしっかり立てなくなってるからだと思う。
ふむ。スタンガンがないなら再現するしかないか。
微弱な電気だよね?確か。動けなくできればいいから麻痺目的でやればいいか。
という訳で。
未だに酔っ払い状態+私からの一撃で呻いてる二人に念のためと使うことにした。
二人にそれぞれ触れて
「【麻痺】」
「「ぐあっ。」」
「お。成功?」
と、ここで奥の解体場にいた先生達と騒ぎを聞き付けたのか一人のおじさんがきた。
「マリン!大丈夫!?」
「あ、先生達。大丈夫ですよ。そこにいる2人に絡まれたので返り討ちにして差し上げたところです。」
「え?マリンが?」
「はい。何故か殴り掛かって来られたので、私が2人共返り討ちにしました。一人は剣まで抜いてきたので驚きましたが。」
すると先生達の後ろで話を聞いていたおじさんが、
「ほぉ。君がこれをやったのか。やるじゃねぇか。俺はギルドマスターのレックスだ。初めましてだよな?」
「え?‥‥あ、はい。ギルドマスターだったのですね。初めまして。私はマリン・フォン・クローバーと申します。」
「クローバーってことは領主の娘か。こりゃ冒険者になるなら将来有望だな。頑張れば上を目指せるぞ。それとコイツらは俺達に任せな。」
私の頭を撫でながらそう言った。
「はい。よろしくお願いします。」
「おう!誰かこいつら地下牢に入れといてくれ!」
私の頭を撫でる手を放してそう言いながらギルドマスターは去って行った。
「マリン様すみません。うちのギルドマスター、誰に対してもあんな感じで。」
「いえ。撫で方が優しかったので痛くなかったですし、気にしてないですよ。気さくで話し易かったですし。」
「とりあえず魔物の換金も終わったし、マリンも大丈夫みたいだから、2人共帰ろうか?」
「はい。」
3人で領主邸に帰りながら‥‥
「それにしてもさっきの奴ら、どうやって倒したの?」
「最終的には麻痺して頂きましたが、お腹に一撃ともう一人は背負い投げしました。日頃から女性ではありますが、兵士さんに教わってたのが生かせたので良かったです。剣を持つより先に護身術を教えてくれてたので身についてたみたいです。それにあの2人酔ってて動きが遅かったですし。」
「「へ~!」」
「あ。‥‥着いたわね。」
「え?あ、本当ですね。今日はありがとうございました!」
「こちらこそ。明日はお休みだから、またね。」
「はい。またよろしくお願いします!では失礼します。」
そして屋敷の部屋に入り、ステータスを確認してみる。
魔物といっても兎一匹狩ったくらいでレベル上がったりしないかな‥‥と思いつつステータスを見た私は固まった。
‥‥‥何でレベルが5まで上がっているんだろうか‥‥?
※2021,9,4 改稿しました。