7話
宜しくお願い致します。
「始まり」
街を歩き続け、僕とヴィヴィアンさんは知り合いに会っていた。
会った人の中にはまだ混乱している人もいたので落ち着かせ、その場で話をしたりしていた。
落着いた後は知り合いを探すのを提案してみたが、中にはこんなことを教えてくれた人もいた。
「頭の中や声に出して「コール」と言うと、頭の中で電話相手を選べたり、今の時間が分かったりできるんだ。他にもできるかもしれないから、その時は教えてくれや。」
「わかりました。しかしなんですかねコレ?運営は何がしたいのでしょうか?」
「俺に聞かれてもわかんねぇよ。今のところ、運営の誘拐事件説と大型アップデートの修正結果と新しいイベントの説があるけどさ。」
「そうですよね。」
「んじゃ、また会ったらよろしくな。」
「はい、またよろしくお願いします。」
そう、今までゲーム内でしていたようにフレンドコールができたのだ。
なぜか隣にいるヴィヴィアンさんとここであった人しか繋がらないが。
他のフレンドの人は繋がらないので、ベレトさんやアリスさんにも連絡がつかないから安否確認ができない。
「なんで繋がらないんですかね。アリスさんやベレトさんとも連絡取りたいんですけど。」
「そうですねぇ。なんででしょうか?なぜか連絡はとれると分かるのですが。」
「そうなんですよねぇ。なんか頭の中に電話帳が入っているような感じっていえばいいんですかねぇ。」
「そうそう、そんな感じです。もしかして電波が届かないとか?」
「…あー、なんかそんな感じがしますねぇ。なんとなく。」
「自分で言ってて変な感じですこれ。」
そんな感じで、アイテムボックスの存在や使い方を発見したり、何か体の中にあるのを感じとったり、身体の動かし方とか、感触、匂い、体感温度など、様々なことを感じるようになったことや、発見をしたりしていた。
「いやー、本当ビックリしましたよ。急にヴィヴィアンさんが小さくなって、綺麗な羽根を生やして飛ぶんですから。」
「いや、私もびっくりしました。身体の中に何かあるのを感じて、それを出すって言うんですか?こう本当の自分をさらけ出すような感じで何かをしたらあんなことになっちゃったんですよ。」
「確かヴィヴィアンさんの幻想種は「妖精女王」でしたよね。前のイベント「人魔大戦」でしか見たことがありませんが。」
「はい、その姿です。ユグさんは確かドラゴンでしたよね?」
「そうですよ。ドラゴン系の準最終進化先の一つの「テューポーン」の、その先の「惑星樹龍」です。」
「確か緑色の龍でしたよね?なんか「人魔大戦」の最初の頃に敵側のNPC軍をビームで薙ぎ払ってMVPを取っちゃって有名になった。」
「いやーあの時は楽しかったです。みんなと協力プレイして砲台コンボ決めて撃っちゃったやつですね。その後は修正が入ってしまってできなくなりましたが。」
「一時期掲示板が荒れましたよね、アレ。チートコード使ったんじゃないのかって。」
「そんなこともありましたね。まぁ、あれは皆さんの協力があって出来たことですから。
僕一人じゃ敵軍32%なんて倒せませんよ。」
「そうですよね。私もバフ掛けましたし。」
「またあんなことやりたいですね。」
「そうですねぇ。」
「そういえば、もう二時間くらいは経ってないですか?」
「そう、ですね。多分、夜中の2時半くらいだと。」
「…一度広場へ行ってみますか?あっちの方からもう騒ぎの声は聞こえませんし。」
「はい。行ってみましょう。」
と話をすると、この都市の中央にあるゲート兼モニュメントがある広場へと向かった。
広場へ着くと、辺りは静かになっていた。
あの異常な雰囲気は消え、今度は自分の呼吸する声が聞こえるくらい静まり返っていた。
しかし人は多くいた。何人かはふらふらと歩き回っているが、ほとんどは俯いたまま座り込んでいる。
また、ある一角を見ると何やら話し合っているようであった。
そちらへ近づこうとしたが、遠くからでも聞こえた汚い言葉の応酬がその気を無くさせた。
ヴィヴィアンさんも、その言い争いに気づいたのか、眉を潜ませ、そちらを見ないようにしていた。
知り合いを探してみたが、どうやらいないようだった。
「こちらにも居ないようですね。ヴィヴィアンさんはどうですか?」
「いえ、こっちも見ませんでした。もしかして他の都市にいるんじゃないんですか?」
「…そうかもしれないですね。ちょっと行ってみましょうか。」
「はい。」
僕らはそう言ってゲートの前に行くが、ゲートは起動しなかった。
いつもならゲートの前に立つとゲートは光だし、行き先を案内してくれるのだが、その滝のように流れている水には、僕らの姿が映っているだけだった。
「あれ?どうしたんだろう?」
「うーん、もしかしてバグかなにか、いや意図的に使えないようにしているのか?」
「本当、運営は何がしたいのでしょうか?」
「うーん、もしかして本当に誘拐なんですかね?この中に閉じ込めるためにやっているとか。」
「えー、それじゃ何もできないじゃないですか!」
「うん、どうしましょうか?」
「うーん。」
と僕らは悩んでいた。
するとその時、誰かの声が聞こえてきた。
「おーい、みんな、こっち来てくれ!すげえことになっているぞ!」
あの音が死んだように静かであった広場に、ざわめきの声が満たされていく。
しかし、次の言葉で、皆立ち上がった。
「都市の外側に、新しいフィールドがあるぞ!!」
その言葉を言い終えるとともに、その声の主は来た道を戻っていった。
広場にいる人たちは我先にと、その声の主を追いかけて行った。
もちろん、僕らも続いて走り出した。
しばらく走ると、この都市に存在する三つの大門の内、東門にみんな集まっていた。
ある者は壁を走り、またある者は空を飛んで大門の上へと上がり、その先を見た。
「…す、すっげぇ!!フィールドがあるぞ!しかも森だ!」
「本当だ!ってことはやっぱり誘拐じゃなくって大型アップデートの結果だったんだ!」
「いやっほぉぉぉ!?新しい冒険の始まりだぁ!」
と、皆思い思いの言葉を発し、その大門の先へと足を踏み入れていった。
僕とヴィヴィアンさんも大門の上へと上がり、その光景を見た。
「本当だ。今までなかったフィールドが追加されている。でもどうしてログアウトができないの?」
「…あぁヴィヴィアンさん。これはそろそろ、現実を見ないといけないみたいです。」
「ユグさん?何を言っているんですか?これはゲーム…。」
「いや違います。これはきっと現実なんです。」
「…えっ?」
「最初からおかしかったんですよ。ログインするときからいつもとは違う感じだったし、なにより、この感覚が僕にこれは現実だということを教えてくれています。ヴィヴィアンさんも同じでしょう?」
「…はい、なんとなくこれは現実なような気がしていました。ユグさんが言うように、五感が今までにないほど研ぎ澄まされていますし、それによって色々なことが感じられます。」
僕はヴィヴィアンさんに確認するように言った。やはりこれは現実なのだと。
この身体で感じる全てが僕に現実を教えてくれている。風の匂いやその冷たさ、身に着けている全身鎧の重量感、今大門の壁を踏みしめている足の裏から感じるその硬さ、そして、この身体自身のことを理解させようとしているし、理解していっている。
僕はそのとき、小さな不安と共に心の底から大きな喜びを感じていた。
このよくわからない現象と今の現状、そしてこれからの未知についてへの期待で胸がいっぱいだった。
「…ヴィヴィアンさん、一つ提案があるのですが。」
「…はい、何でしょう?」
ヴィヴィアンさんは、これからのことに不安を抱いているのか、それとも何かを期待しているのか、身体を震わせながら僕の言葉を待った。
「…とりあえず、どっかで朝を迎えませんか?ちょっと疲れましたし。」
「…はい、そうですね。ちょっと頭を冷やしたいですし。」
と言うと、どこか残念そうな笑顔で了承してくれた。
「はい、今ちょっと興奮しすぎているような気がするので、朝改めて話をしましょう。」
「それじゃあそれまでどうしましょうか?」
「んじゃ、広場に戻って軽食でも食べましょう。僕のアイテムボックスの中にある菓子をあげますよ。」
「うわぁ、ありがとうございます!それじゃ、行きましょう!」
と、重苦しい雰囲気を霧散させ、現実化したこの世界のお菓子に胸を膨らませながら、広場へと戻っていった。
呼んでくださり、ありがとうございました。