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嵐の大海原

 ファルホークとアルテミスを抱え、ヴィーナスは戦線を離脱していった。それを見送り、安堵の息を漏らす。


「余所見とは随分と余裕だな、導きの双星!」


 冷たい一言と共に、鍔迫り合いの大剣が重くのしかかる。もう片手の剣を突き立て、なんとか堪えるも、力を込められた途端……再び押し込まれる。


 どんなパワーをしてるんだ化け物め……!!


 次第に俺の二振りはぐらつき、堪えの限界を迎える。


「お前こそ……どう言う心境の変化だ!」


 叫ぶと同時に、剣を滑り落とし後方に後退する。


 しかし────。


「はあああああああああ!!」


 大剣を振り下ろすと同時に、落雷でも落ちたよな音が鳴り響きく。地面が砕け亀裂が走り、砂煙が舞い上がる。


 両腕で視界を覆い、煙を遮るも口や目に入り込む。


「冗談だろ……どれだけふざけたパワーをしている!」


 獣化の神託があったロッカを凌駕する程の力は常軌を逸し、恐怖を与えるほどに鋭く突き刺さる。


 俺が踏み込もうとした瞬間……砂煙を突き破り、鋭い眼光のカイトが姿を表す。


「演舞海ノ舞──断流(だんりゅう)(さざなみ)!」


 構えた大剣に海流が渦を巻いていく。僅かに濁り、それを力任せに振り翳す。


「演舞日ノ舞──華炎(かえん)!」


 対抗するように俺も闘気を練り上げる。刀身から炎が吹き出し、咲き乱れる炎で迎え撃つ。


 ────刀身が触れ合い、耳を(つんざ)く爆発が起こり、俺たちは吹き飛ばされる。


 何が起きた……鼓膜(こまく)は……。


 俺は頭痛に耐えながら、姿勢を正す。水蒸気爆発……失念していたとはいえ、厄介な事だ。


「ったく、戦い辛い相手だな──」


 俺が悪態を吐くと、音が両耳に響き渡る……痛みはあるものの、無事のようだ。霧が晴れると、カイトはぎりっと歯を擦り鳴らし、口を開いた。


「……どうして裏切った」


 身に覚えが無い、だがその眼は真剣そのものだ。


「一体何の話だ? 俺がお前に────」


「────黙れ!」


 俺の言葉を途中で遮ると、神託が黒ずみ、闘気が濁って行く。


「俺はお前となら……やれると思った。それなのに、どうして奴を庇う!!」


 剥き出しの“敵意”を俺に叩きつけ、見ていたであろう未来を(うらや)む……その感情に不意にカグラの姿がチラついた。


 失念の瞬間をカイトは見逃さない、一瞬生まれた隙に眼の前に現れ、構えた剣事弾き飛ばされた。


「くそ、俺は何をやってるんだ────!」


 流れる視界の中、地に足をつけ、引き摺りながら体制を立て直す。視線を向けると、カイトが闘気が渦巻く大剣を大きく振り上げた。


「演舞海ノ舞──螺旋(らせん)高波(たかなみ)!」


 振り下ろすと同時に、渦を巻く波が押し寄せる。それに対し、刀身に淡い輝きを宿す。


「演舞月ノ舞──月虹!」


 軌道が七色に輝き、波が二つに裂ける。水飛沫が七色を写し、乱反射する。


「ヴィーナスは仲間だ! ()らせはしない」


 そのまま地面を蹴り上げ、カイトに飛び掛かる。刀身が赤く燃え上がり、大気を焦がす。


「甘さは何も救わない……お前がやろうとしているのは、俺と同じ鉄を踏む事だ!!」


 怒号と共に、闘気がもう一段階上昇する。


「演舞海ノ舞──渦潮波狼(うずしおはろう)!」


 大剣を振り斬り、海流の渦が荒々しく押し寄せる。


 暴走する感情に、様々な意思が入り乱れる。カイトの過去に何があったのか、そこに心を開くヒントがあるのかもしれない。


 だからこそ……今は、迷いを捨て────本気でぶつかり合う。


「演舞日ノ神楽──火輪(かりん)飛輪(ひりん)!」


 火の粉を散らし、炎の輪が飛び立ち、再び炸裂(さくれつ)する。


「お前の過去に何が有ったかは、“まだ”分からない」


 俺は蒸気を突き破り、カイトの眼前に飛び込む。


「だから俺もお前の土俵で……武で語り尽くす!!」


 剣を強く握りしめ、刀身が月明かりを吸い込む。


「演舞月ノ舞──月光花(げっこうか)!」


 斬り払う瞬間、カイトは後ろに大きく飛び退いた。


「だが遅い────月の花弁は切っ先に咲き誇る!!」


 カイトの腹部から、少量の血が噴き出す。顔を歪ませると、僅かによろめいた。


「カイトが使っていた技だな……」


 敵意が和らぎ、深く息を吸い込む。次の瞬間……全身から溢れるばかりの闘気が溢れ出した。


「止めておけ、力めば傷口が広がるぞ」


 俺が言葉を吐き捨てると同時に、言葉を失うことになった。


 闘気に包まれた傷口が止血され、カイトは笑みを浮かべる。まるで何事もなかったかのように構え、そのまま踏み込んできた。

 

「どうした……こんな物で驚いていては、俺と武で語り尽くせんぞ!」


 反応が完全に遅れる。カイトの切っ先が、容赦なく喉元を捉える。


「演舞日ノ舞──陽炎(かげろう)!」


 太刀筋が空を斬る。揺らめく俺の影を見つめ、刀身を振り回した。


「何度見ても奇怪な技だな……」


 振り返ると同時に俺を見つめる。居場所がばれ、息を吐き捨てると同時に幻影が消えた。


「ここまではっきりと知覚されたのは初めてだな」


 アースラが打ち破った時は、必中効果による力技だった。反撃さえないものの、見抜かれた事はない。


「そうか……それは悪いことをした」


 経過態勢を取り、じわりと進んで行く。お互いに大きくは動かず、出方を探る。


「少しずつ饒舌(じょうぜつ)になって来たな」


 気付いていなかったのか、少しだけ呆けた顔をする。


「そうかも知れない……俺が話せる相手はもういないからな」


 少しだけ寂しそうに笑うと、表情を再び引き締める。


「だが、それとこれは別の話だ! 戦いには一切関係な無い!」


 踏み込んだ後高く飛び上がった。月を背に、海流が渦を巻いていく。


「演舞海ノ舞──天空流(てんくうりゅう)荒波!」


 空中で縦に回転しながら、その速度を上昇させて行く。荒々しさを纏い、重さを乗せた一撃が振り下ろされる。


 俺は心を落ち着かせ、刀身を後方へと構える。


「演舞月ノ舞──月華絢爛(げっかけんらん)!」


 刀身に蓄えられた闘気が、淡い光を放つ。月夜に導かれるように光が満ち、緩やかな景色の中で、調を奏でるように刻は移ろう────。


「咲き誇れ月の華────闇を彩り、咲き狂え!!」


 刀身を振り上げ、カイトの渾身の一撃を真っ向から受け止める。重い一撃に、体が(きし)む音がした。


 だがどうした……心の奥底から溢れる勇気が、俺を後押しする。奇跡がそれを可能にし、可能性を掴み取る。


 鍔迫り合いで、刀身から火花が散る。不退の覚悟に、俺たちはそれぞれの思いを闘気を乗せる。


「殺せ導きの双星……お前にはその覚悟が足らん!!」


「違う……必要なのは、守り抜く覚悟だ────!!」


 譲れないものを胸に勇者は戦う……お互いに譲れぬのなら、それは屈服させる事でのみ得るしか無いのだろうか……。

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