ファルホーク・レイ・ブレイバード
急降下する赤き翼は、俺に照準を合わせる。剣を構えると、刹那に高い金属音が鳴り響き猛禽の爪と鍔迫り合いになる。
そこに言葉は無い、鋭い眼光が俺を捉えもう片方の爪を振り下ろす。それも剣で受け止める。
燃えるような闘気とその体色を見間違えるはずもない。
「ユウセイ注意してほしいですわ、その獣人はファルホーク・レイ・ブレイバード」
「知っている────」
俺は即座に返す……素っ気無く、感情の宿らない一言にヴィーナスは首を傾げる。
舌打ちのような音が聞こえると、金属を弾き合うような音が鳴りファルホークが後退し、乱暴に口を開いた。
「俺様は後悔してるんだぜ? お前を見逃したことをよ」
「俺は感謝している」
「冗談を許したつもりはねえんだがな?」
肌に突き刺さるような空気を感じる。無論戦場なら当然だが、そのレベルが桁違いだ。
「ファルホーク……俺は俺の正しいと思う事をやっている。だからお前の期待には応えられても、寄り添う事は出来ない」
獣化を解き、地上に降り立つ。その表情は険しくとても話を聞く様子には見えない。
「どう違う? 遠回しに言うんじゃねえよ────交渉は決裂だろうが!!」
羽を広げ蹴り上げると同時に羽ばたき常軌を逸した速度を出す。
「演舞翼ノ舞──閃空!」
その一撃は音速を越え、視界から消えたのでは無いかと錯覚する。すかさず闘気を練り上げ、剣を振り上げる。
「おせーんだよ! 欠伸が出るぜ!!」
そう言うとここで更に加速する。剣が間に合わず腹部に強烈な衝撃が走った──。
「ユウセイーー!!」
ヴィーナスの叫びと共に、俺の体は宙を舞い転がり弾け飛ぶと、足で地面を弾き引き摺られながら体制を立て直す。
「随分仲が良いみたいじゃねえか? 初めからこれが狙いだったのか?」
そう見えるなら苦労はしない。あの戦いを知らなければ、当然と言えなくも無いがな。
「俺は導きの双星だからな……これくらい当然だろ」
強いのは良いとして、少し感情的になり過ぎている様にも思う。ファルホークはもっと冷静な男だった。隷属印では無く、先程の悪趣味の影響だと考えるのが妥当だ。
「そう思ってるのはお前くらいだぜ!」
手を獣化させ、喉元に爪を突き立てる。俺はそれを剣で弾き、腹部へと蹴りを叩き込み、突き飛ばすと今度は俺がその後を追う。
踏み込み切っ先が燃え上がり、その刃を突き出す。
「演舞日ノ舞──烈火!」
ファルホークは眼を見開き、爪を突き立てると口元を吊り上げ狂ったような笑みを浮かべる。
「演舞翼ノ舞──閃爪!」
超速で突き出した爪と炎の刺突が轟音を立てぶつかり合う。やがて弾き合い、互いに間合いから一歩の距離を保つ。
驚く事にその力強さは勇者に届くのでは無いかと錯覚するほどだ。
「結局そうだろ! 戦いねじ伏せることでしか証明出来ねえ、双星といっても結局は世界には逆らえねえのさ」
気が高揚しているのか、言葉に強さが宿る。負の気が強い獣人特有の血の気の多さ、闘争心が刺激されているようだった。
隷属印の破壊が有効なのだろうが、骨が折れる──狂乱とでも言うべきか?
「耳が痛い言葉ではあるが、あんたに付き合っている時間は無い」
「つれねえじゃねえか、俺様は楽しみにしてたってのによぉ?」
ファルホークは身を低く構え、飛翔の体勢を取る。鋭い眼をぎらつかせ、獣化が進行していく。
先手を取られるのは好ましく無い……先に仕掛けるか?
俺は体の中で闘気を練り上げ、地面を蹴り上げた。同時にファルホークも飛び立ちカウンターを仕掛けるが如く、距離を詰める。
「演舞月ノ舞──新月!」
月明かりの中、放たれた刀身が闇に隠れるように消えて行く。
「演舞翼ノ舞──閃翔!」
瞬きの間に羽ばたき、刃が届くよりも速く弾き飛ばされる。驚くべき速度に、舌打ちのしたい気持ちになりながら地を蹴り上げた。
「そう毎度毎度、食らう訳にはいかない」
すぐさま切り返し、無防備な懐に飛び込む。
「くくく、そうだ! 分かってるじゃねえか!!」
爪を突き立て、瞬時に対応する。金属音が鳴り響くと、左手の魔力を解放した。
「燃やせ──ファイアーボール!」
炎弾が次々とファルホークを直撃し、逃げるように飛び出す。
「ぐう……小賢しい真似しやがる」
右手を差し出し、掴みかかってくる。それを左足を蹴り上げ弾く。右手で捕まれ、振り回そうとする直前に右の刀身を振り下ろし、すかさず放した。そのまま頭にかかとを振り下ろす。
直撃した事により、ファルホークはふらつき体勢を崩した。
俺はそれを見逃さない、闘気を練り上げ刀身が実態を失う。
「演舞月ノ舞──映し出すは確固たる幻、何人たりとも触れる事叶わず、鏡花水月!」
振り下ろした一撃をなんとか食い止めようと爪を挟むも、それをすり抜ける。
「な、何が起こっている!?」
咄嗟に後退するも、胸部を引き裂いた。
「どう言う原理だ──俺様の眼でも視覚出来なかったぜ?」
腹部を押さえながら頬に汗が流れる。戦況はこちらに傾き、攻撃の手が緩んだ。
さっきから思うに、鳥眼を感じさせない動きだ。眼で追う動きからも、常人と同等と見ていいな……。
「もう一度食らえば見えてくるかもな」
「は──笑えねえ冗談だ」
闘気を練り上げ刀身が大きく燃え上がる。最後の衝突とし、最も勝率の高い演舞を準備する。
「ユウセイ──後方からかなりの兵士が迫って来ていますわ……時間は有りませんのよ!」
牽制の効果が切れた軍勢が一気に押し寄せる。
俺は心を落ち着かせた。攻撃の余波はなるべく大きく広げる。一度に多くの開放を狙う。
「大丈夫だ……並以下の隷属印ならなんとか出来る」
「おしゃべりする程余裕とは舐められたもんだぜ……なあ?」
ファルホークも一気に闘気を練り上げる。正真正銘の最後の衝突──。
「余裕とかそんなじゃ無い絶対に勝つ……それだけだ」
互いに睨み合い硬直状態になる。時間がないのは俺だ……このままだと必然に動く事となる。
だが先に動いたのはファルホークだった。空高く飛び上がり、月を背に完全な獣化を果たす。
「演舞翼ノ舞──空駆ける翼の王よ、音速越えしその翼翻し、光の速さで敵を撃て! 閃光連鷹!」
瞬きの間にその姿は消える。しかし関係ない……全てを真っ向から討ち破る。
俺は強く刀を握る。あえて眼を閉じ、不要な情報全てを削ぎ落とす。必要なのは手の感覚だけ、他は投げ捨て、この一撃に全てを賭ける。
「演舞日ノ神楽──廻り導く日ノ神楽、神をも喰らう雌伏の刃!!薄刃陽炎“天照”!!」
眼を開くと神託が光輝き、昼間のような明るさに包まれる。踏み込み斬り払うと同時に、一筋の光が拡散した。
硬直したファルホークは停止し、隷属印が真っ二つになり、砕けていく。
「マジかよ──これ程とはな」
ファルホークは倒れ、押し寄せる軍勢も8割に及ぶ人数が倒れた。余波により次々に隷属印が砕けて行き、戦いは終わりを迎える────。




